転生者の小石投げと、少年の〇〇投げ
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ようやくリアルが落ち着きそうなので、また週一くらいのペースに戻れるかと…
というか書き溜めてますので近いうちにドドンと更新します!
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「よそ見ばっかりでいけない魔物さんねぇ。お仕置きよぉ。」
楽しそうに微笑みながら宙に浮いた槍を掴むと、彼女は躊躇いなく引き抜く。
何もない空間からビシャッとパルメさんの左頬に血飛沫が飛び散った。
見えなくても分かる、これはグロい奴や。
咄嗟に私ができたことはただひとつだけ。
「見ちゃいけません!」
「きゃー!!」
きゃっきゃっと楽しんでいるエミリーちゃんの目を塞ぐこと。
この状況で笑顔とか、メンタル鋼かよ。
エミリーちゃん庇うことに必死でばっちりと血飛沫をガン見してしまった私は、想像力が仇となり嫌な映像が脳内で作り上げられる。
(あんなに血が出て…え…ってことは…内臓……うわグッッッッロ………!?)
見えないからこそ考えてしまう、無限の負のループ。
自分で自分を追い込んだことで震えてしまった足腰では身体を支えきれず、エミリーちゃんを巻き込んでズルズルと地面に座り込んだ。
「モブちゃんどうしたの?」
「ち、力が…」
「あらぁ腰が抜けちゃったのぉ?大丈夫かしらぁ?」
この事態を作り出した元凶であるパルメさんが意気揚々と私に手を振る姿に、私は我慢の限界を迎えた。
「このっ…いたいけな子供にとんでもないもん見せつけてくれましたね…!!1人でトイレ行けなくなったらどうしてくれるんですか!」
「じゃあエミリーがついて行ってあげる!!」
「え、女神?」
「アナタって本当変わってるわねぇ。」
苦笑したパルメさんは一度咳払いをした後に慣れたように槍を回し血を払う。
「さぁ、そこにお友達がいるのでしょう?早いところ治療してあげた方がいいんじゃなぁい?」
「…白玉!」
その言葉を聞き、エミリーちゃんから離れて勢いよく足に力を込めて立ち上が……れなかった。
まだ足腰ガクガクだった私は情けないことにその場にベシャリと倒れこんで、見事に顔面を強打。
勝手に心身ともに致命傷を負い静かに悶える。
「安心して。シラタマは君の近くで眠ってる。今手当てしてみるから。」
「この蛇さんはモブちゃんのお友達なの?」
「はい。これは…その…色白くんですよ。」
「色白くんか!ならエミリーも手伝う!」
「ありがとうございます。」
倒れ込んだ私の頭を撫でた後、エミリーちゃんとともにムーンさんが膝をつく。
そして更に私たちを隠すように剣を構えたダンテさんとキッドさんは、ゆっくりとパルメさんと間合いを詰めた。
「脱走したかと思えば戦場に現れるなんて、なにを考えているんだ。」
「あと俺が準備した武器だからあんまり乱暴に使わないでもらっていい?備品だからさ。」
「今そういう話する場合じゃないだろうキッド…」
「だって壊されたら俺が始末書じゃん!?」
ダンテさん達の様子を見て、悲しそうに大げさによろめきながら続ける。
「このパーティーは私が主役でしょうぉ?是非とも参加したくて頑張ってここまで来たのよぉ。」
「お前のせいでこんなことになってるんだぞ……パーティーなんてそんな生易しいもんじゃない。」
「………ふふ、知ってるわぁ。だから責任を取りに来たんじゃないのぉ。すぐに終わらせてあげる。」
槍を下ろしてしまい、さらに諦めたような声のトーンから不穏な雰囲気を感じとった2人が走り出した。
パルメさんは目を閉じたがそんな彼女には目を向けず、剣を振り下ろす。
「「っ。」」
ガツンとなにかを剣で受け止め苦しげに表情を歪ませると、ダンテさんが明後日の方向へ吹っ飛ばされる。
キッドさんはザックリと肩に切り傷をつけられて、うめき声をあげながら地面に倒れこむ。
そしてパルメさんが急に地面に叩きつけられ、上から何かに押さえつけられているかのように苦しげに呼吸を繰り返した。
「あぁ、目障りでしかナイ。」
「……う…ぐ…の…声…アルファ………よ…ねぇ?」
「馴れ馴れシイ。貴様ニ呼ばれる筋合いはないワ、コノ罪深き契約の魔女メ。」
ガツンと地面に頭を叩きつけられたパルメさんは、すでに息も絶え絶えだ。
何が起こってる。私は何をすればいい。
「ふ……ふふ…こ…して…くれ…るのぉ…?」
「ゆっくりと切リ刻ンで、地獄の苦しミを与エてから、そノ首、我らが主人に献上させてもラウ。」
そうだ、とりあえず意識を逸らして時間を稼ごう。
「!?モブちゃん!」
頬を叩き気合いを入れ、震える足腰に鞭打って白玉を治療しているエミリーちゃんたちからも距離を取る。
後ろから引き止めてくれる声が聞こえるがごめん、私はやるぜ。
「てぇえええええええい!!!」
身近にあった石ころを投げつけると、ピシッとぶつかった音が響く。
「ア"?」
いやぁあああああああ!!当たっちゃったぁあああああああ!!!
自分でやったことなのに大絶叫。
張り詰めた緊張感が一瞬でこちらに向き、さっき決めた覚悟がいとも簡単に脆く崩れそうになる。
だがそうだ、定期的に意識を他の人に逸らせばいいのだ。
そうすれば必殺技は使ってこない。
少なくとも一撃死はない。
「わ、わはははは!!魔法も使えない雑魚でクズのただの一般市民レイ・モブロードに石をぶつけられるなんて、ついてないですね!!!可哀想!!」
可哀想なのは私だ。すごく帰りたい。
「…………………レイ?」
「ぐっ……はぁ、はぁ、はぁ!」
しかし何故か私の名前に反応を示し、パルメさんの拘束を解いてくれたようだ。
「レイ、レイと、そう言いましたね?」
しかもなんだか嫌な予感がする。
ジリジリと突き刺さる視線に狼狽ながらもパルメさんの様子を探ると、ムーンさんが彼女を回収してくれていた。
ナイスアシスト感謝感激。
「アナタ、ビリーという人間はご存知ですか?」
「え、はい。ビリーね。うん。」
「そうですか。では、彼の主人は?」
「うんうんダニーね、知ってる知って……ない。」
「そうですか、アナタがレイ。」
「ま、魔物さんが考えてるレイさんとは別人だと思うなー。」
「ダニエル様をあのような姿にした原因を探していたのです。それはもう傷だらけで、さらに特定期間の記憶まで失われておりました。我が主人は相当お心を痛めておられます。」
「話聞いてないですね!!そしてそれは心配ですね!!」
「ダニエル様になにがあったのか、唯一の手がかりは眷属ビリーが繰り返し呟く、レイと言う言葉のみ。」
何してくれてんのビリィイイイ!!
あれか!?ブランコまた押してあげるって言ったのに出来なかったから根に持ってんのか!?
「それはびっくり奇遇ですねー!まぁよくある名前ですからねー!」
「それでもビリーやダニエル様のお名前を知っている者は、そういないと思いますよ。ねぇレイ、アナタには色々お話を聞かせてもらいたいですね。」
「もう無理!!」
「拘束魔法!!」
「ぐっ…」
バキバキと骨が軋む音に恐怖を感じて涙目になると、エミリーちゃんが両手をかざして魔法を唱える。
「逃げてモブちゃん!!」
『イイゾー!エミリー!!』
『ソーレ!ミーたちも加勢ダー!!』
「…ぐっ…聖女と似通った魔法を持つアナタも目障りですね……!!妖精を使役するとは!!」
『キャーーー!!』
▽標的が、エミリーに移動しました。
「ちょ、ちょ!?エミリーちゃんはダメ!!か弱い女の子に乱暴は良くないから!!」
「あ"?」
▽標的が、レイ・モブロードへ移動しました。
「子供達に手出しはさせない……!田舎兵をナメるなっ……!!」
「雑魚のくせに生意気な口を」
▽標的が、ダンテに移動しました。
「いや死んじゃうって!!ダンテさん瀕死だからやめたげて!!」
「……大体なぜアナタの申し出を私が飲まなければならないのですか。」
「た、確かに。…あ、さては実は結構いい人」
「ぶっ殺しますよ。」
「すみませんでしたっ!!」
華麗なる土下座を決め、地面に額を擦り付ける。
プライド?そんなものないね。
「そうです。全員どうせ死ぬ運命なのですから誰から殺しても文句はありませんね。」
バキンッと割れる音が響くと、エミリーちゃんが軽く尻餅をつく。
「……ならばやはり、目障りなお前からにしましょうか。」
「目障りなのはテメェだこのクソ煙野郎が!!」
魔物さんの言葉に被せて聞こえた幼馴染の声。
そして合わせて何かが私の頭上を通り過ぎる。
「グァアアッ!!!」
青白い閃光が走り抜け、感電したように目の前がチカチカと点滅した。
悲鳴の終わりとともにカランと地面に落ちたそれは、いつもは我らが騎士団長の腰にあるもの。
「よし、結構飛んだな。」
「…………。」
悪びれもなく呟く幼馴染の横で絶句しているクラウスさんの表情から全てを悟る。
「危ないでしょうが!!」
聖剣を放り投げた悪い子に、人に小石を投げた私が叫んだ。