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転生者は、濃霧の中を駆け巡る

いつもありがとうございます!!


日にちがあいてしまいすみませんでした…!

今月中にこの騒動を終わらせたいのに時間が足りないっ!!


そしてブックマーク登録いただきありがとうございます!!

大変励みになっております!


いよいよアルファ到来!!

今後もよろしければブックマーク登録、評価、感想などお待ちしております!


鉄の匂いとどんよりとした重たい空気が辺りを包む。

至る所からビシバシと視線が突き刺さる感覚に身震いした。


「新手か?嫌な霧だ。」


「ッチ、クソだりぃ。」


2人は警戒して数歩下がる。

そのままアルは私を地面に下ろし、隠れているように視線で訴えてきたので全力で頷いて近場の物影に身を潜めた。

そして尋常じゃない冷気を纏った微風が通り抜けると、再度声が聞こえてくる。


「お初にお目にかかります。私は魔王軍幹部ガンマ様の眷属、アルファと申します。」


「お目にかかれてねぇよクソが。挨拶する時は姿を見せるのが礼儀だろ。」


「思わぬ手厚い歓迎を受けましたため御身の前にお見苦しい姿を晒すわけにもと、無礼を承知でこのような濃霧の姿をとらせていただきました。改めましてお詫びを申し上げます。」


「うざってぇ!!グズグズ言ってねぇでこのクソ煙をなんとかしやがれ!」


「恐れ入りますが致しかねます。ご不便をおかけいたしますが、しばらくはこの濃霧の中でお待ちいただければ幸いでございます。」


「あ"!?ふざけんじゃねぇ!!こんなところにオレを閉じ込められると思ってんなら舐め腐ってやがるな!!一気にぶっ飛ばして…っ。」


言葉を止めたアルは鬱陶しそうに何かを払う。

すると再度アルファが淡々と言葉を続けた。


「その血のように映える赤髪は、魔力を豊潤に蓄えることができる素質を持つ者の証。産まれながらにして強者である貴方様を、私の濃霧如きで捕らえることが出来るとは思ってもございません。ですがこの通り、この中では他者を区別することは不可能でございます。」


「…おいクラウス、聞こえねぇのかクソ真面目。」


へーなるほど、そういう霧が視界を遮ってるんだね。

…………へー。


案の定私の目の前は恐ろしいほど澄んでおり、周辺を睨みつけるアルの姿も、さりげなく剣を抜こうとしていたクラウスさんの姿も丸見えである。

そして不思議なことに、クラウスさんはアルの声に反応する素振りも見せない。

とても近くに2人とも立っているのに、厚い壁に遮られているような感じがした。


「僭越ながら候補者様、今やこの濃霧は周辺一帯を包んでおり、声も全て遮断させていただきました。誰1人として貴方様の声に反応することはできません。魔法を乱発すれば、貴方様であればここから抜け出すことが出来るでしょう。ですが他者を…お仲間の安全を考慮されるのであればこのまま留まられた方がよろしいかと存じます。」


「テメェ……!!」


「ご心配の必要はございません。貴方様は我らが主人、ガンマ様の選定基準を満たした貴重な御方。他の人間につきましてはそれ相応に、丁重にお相手をさせていただきますので。」


言外に含まれた不穏な空気に冷や汗が流れると、アルの金色の瞳に赤い閃光が走ったのが見えた。


不味い、怒ってる。


私の焦りなど露知らず、喜色を滲ませた声で言葉を締めくくる。


「なにかございましたら、なんなりとこのアルファにまでお申し付けくださいませ。」


その言葉を聞き届けると、ふと地面が小刻みに振動していることに気がついた。

足元の石が跳ね上がり、ドタドタと足を踏み鳴らすような音が遠くから聞こえてくるのは気のせいではない。


「起きなさいベータ。仕事はまだ残っていますよ。」


「うぅ……痛いよぉ…アルファ…もう人間さん…嫌だぁ…」


「…聖剣使いと真正面から殺し合おうとするからそうなるのです。あの脳筋駄蛇のせいで数は減ってしまいましたが、それでもこの状態で数千の下級魔物が襲いかかればひとたまりもない。これで足止めしましょう。」


「うん…あれ…理…想個体…さんは?」


「私の濃霧の中に捉えていますから心配は無用です。アナタはあの緑髪の人間を始末しておいてください。それくらいは出来ますね?」


「そ…んな…いたっ…け?」


「あの人間、どこか嫌な感覚が拭えませんので下級魔物に襲わせる前に殺しておいた方が良いでしょう。ここ周辺は覆っていますから他の雑魚は放っておいて結構ですので。いいですね?」


「は…ぁい……アルファ…は?」


「私は目的の首を取りに行きます。」


「…し…ろ…へび…は?」


「…………もう行きなさい。」


ビシャビシャと血が地面に色を付け、ゆっくりと動き出す。

これはまずい、完全にまずい。

アルとクラウスさんには何も聞こえていないのか反応はないし、着々と魔物の大群は攻めてくる。

しかもエミリーちゃんも危険とはどうしたものか。


『レイちゃん逃げよウ!危ないヨ!』


『真っ暗マックラ!』


「私にはいつも通りの風景なんですけどね…!!」


ん?待てよ?と顎に触れる。

魔物にバレないようにみんなに近づいて助ければ、いけるんじゃないか?


「ねぇ、どうやったら霧を振り払えると思う?」


『ンートネ、エミリーなら出来ると思うヨ!』


『エミリーなら問題ナシ!』


なるほど、ならばエミリーちゃんの救出が先。


幸いベータと呼ばれた魔物の位置は血の跡で分かるから問題ない。

注意すべきはアルファという魔物の位置だ。


「どこにいるか分かる?」


『真っ暗でミエナーイ!』


ですよね。

これは一か八か、私には霧が効いていないことがバレないように祈るしかない。


ベータの位置を確認しながらゆっくりと歩くと、ふと神々しく妖精の粉を纏ったエミリーちゃんの姿が見えた。

どうやら混乱誘発とやらは無事に解けているらしい。

妖精ほんとグッジョブ。


不安そうに辺りを見回すエミリーちゃんに近づいていくと、すぐ近くから声が聞こえた。


「あれ…人間さん……見え…てるの?」


まじヤバい。


ドキドキと自分の心臓の鼓動を感じながら全速力で走り抜け、エミリーちゃんの腕を掴む。


「きゃあ!」


「エ、エミリーちゃんごめん!私!レイ!!」


「えーい!!離してー!」


「いたっ!?ちょ!?そうか声聞こえてないのか!」


嘘だろおい。


話が違うだろうと彼らに意識を向けると、陽気な可愛らしい声が周囲にこだまする。


『エミリー!エミリー!レイちゃんだから大丈夫!!』


『ホラホラ!』


妖精たちによって、エミリーちゃんの頭にさらに妖精の粉がかけられる。

するとエミリーちゃんの瞳が紫色に美しく煌めいた。


「あ。」


「緑……みーっけ……!!」


エミリーちゃんが小さく言葉を漏らすと同時に、荒い息で嬉しそうに呟く声が聞こえた。

ヒュンっと空気を切る鋭い音が近づき、思わずエミリーちゃんを抱きしめて目を瞑る。


「愛しのエミリーに、勇者リュードの加護を。」


バチバチッと電気が流れるような音と合わせて響く悲鳴。

ボトッと嫌な音が聞こえ恐る恐る横を見ると、焦げた黒い塊がすぐ隣に落ちていることに気がつく。


「……霧払い。」


そしてブワッと強風が下から巻き上げると確かに空気が澄んだような感覚がした。


「わぁ!モブちゃんだー!」


「う、うん……というか今の…お爺様の声じゃ……」


「え?お爺様はここにはいないよ?勘違いじゃない?それよりごめんねモブちゃん。思いっきり叩いちゃった。」


大丈夫だと微笑むと背後から怒りの塊が声を上げた。


「あ、アア………嫌……ボクの…翼が…!!あああああああああ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返セ返セ返セ返セ返セカエセカエセカエセカエセカエセカエセ!!!」


「ちょ、ちょ、ちょ!?」


「モブちゃん!」


尋常じゃない殺気に震えながら必死にエミリーちゃんを背中に庇うと、今度は可愛らしい救世主の声が頭上から降ってくる。


「アタシの友達に触るな!!覚悟っ!!」


「ウガッ……!」


大剣を振り回しベータを怯ませ、華麗に着地したのは。


「リリーちゃんとマリーちゃん!!」


「最高だよエミリー!アンタのお陰でうざったかった霧が晴れてさ!これで大暴れできる!それにこのキラキラした粉のおかげか身体が軽いんだ!」


「わぁ!本当?よかった!じゃあエミリーから更に贈り物!状態異常不可と自動回復、それに急所狙い率上昇もどうぞ!」


「……なにそれやばくない?」


「リリー、あの魔物翼が片方ないよ?弱点は彼処だね?」


「よしネェさん!!あの時の悔しさから特訓したアタシたちの強さ、見せつけてやろうよ!」


「グルゥウウアウ………!!!」


エミリーちゃんの祈りを受け妖精の粉のようなキラキラとした輝きを身に纏った2人は、人間の動きとは思えない速さで攻撃を繰り出している。

ヤベェ、強い。カッコいい。


「よーしモブちゃん!みんなのところまでエミリーを連れてって!」


「あ、う、うん!」


神々しく光るエミリーちゃんのお手てを繋ぎ、アルたちの元へ戻ろうとすると少し離れた場所にダンテさんたち3人組がいるのが見えた。

そしてその近くには異様な血溜まりがあり、彼らは偶然にもその血溜まりを囲うように震えながら武器を構えている。


「くっそ!なんだこれ!これじゃ治療ができない!」


「ダンテ、キッド…そこにいるか?聞こえてないのか?」


「なぁ生きてるよな…!?返事をしてくれよシラタマ!」


シラタマ?………白玉?


「エミリーちゃんあそこ!!あそこに行こう!私の手を離さないでね!」


「うん!わかった!」


エミリーちゃんを連れて駆け足で向かう。

最短距離で道を通り抜け、暴れまくるリリーちゃんたちの邪魔をしないようにダンテさんたちに近づくと嫌に低い声が目の前から聞こえた。


「なにを、されているのですか。」


そりゃバレますよね!

しかも前から絶対回り込まれてる!


思わず足を止めるとアルファは私の様子を見て淡々と言葉を続けた。


「私の濃霧を無効化し、さらにその実力を持ちながらご自身の魔力を存在しない程度まで隠すことができるなど聞いたことがございません。」


目の前の地面がボコッと凹んだことからそこに魔物がいることを察した私は、出来うる限り最大限の笑みを引きつりながら浮かべてエミリーちゃんの手を強く握る。


「アナタ、一体何者ですか。」


「霧払い!!」


それを合図にエミリーちゃんが魔法を使う。

先ほどよりも強烈な風が吹き抜けると、苛立ちを隠さずアルファは舌打ちした。


「わぁ!今度は魔物さんが目の前にいるね!」


「やはり聖女の力を持っていましたか…あぁ忌々しい。」


「それはこっちの台詞ッス!!」


ガチンッと噛み付く音が響き、小さくうめき声が聞こえる。


「ぐっ…!!」


シューっと威嚇音が真上から聞こえ、私とエミリーちゃんを囲うように地面には何かが這ったような跡がつく。

そしてところどころから赤黒い血が吹き出すと地面を濡らした。


「まだ動けるとは驚きましたよ白蛇。ただいくらアナタでもこの数年魂を喰らっていない状態では私に勝つことは不可能です。」


「うるさいッス…!」


「それにアナタが守るということはその人間の娘、やはり只者ではありませんね。」


「この人にっ…手ェ出したら……アンタ終わりっすよアルファ……」


ドシンッと倒れ込む音と砂埃が舞い上がり、苦しそうな呼吸が響く。


「私との戦いで逃げ出したかと思えば、ボロボロな姿で一丁前に警告ですか。」


「だ…んな…との……約束を…守っただけっス………!」


「死に損ないがっ…!?」


「きゃあ!ぶっ刺さり!」


グサっと槍が空中に突き刺さる。

小さな悲鳴がエミリーちゃんから上がると、槍が飛んできた方向から予想外の人物の声が聞こえてきた。


「あらぁ?ごめんなさいねぇ、直撃かしらぁ?」


重装備に身を包んだパルメさんが挑戦的に微笑んだ。



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