転生者たちと、小さな村の最終関門④
いつもありがとうございます!
また感想いただきましてありがとうございます!
有難き幸せ…!!
今後もよろしければブックマーク登録、評価、感想などお待ちしております!
シャキンと鳴り響く金属音とあわせてクラウスさんが一度身を屈め、力を溜める。
移動しようにもどこにいけばいいか分からずあたふたしていると、クラウスさんが刀に力を込めた。
え、ちょっと待って。
私まだどうすればいいか分かってないんですが。
「クラウスさん?」
「そのまま。」
なんで?
強烈に嫌な予感を感じさせる言葉を言い放ったクラウスさんはグワァっと風に乗って近づいて、一瞬で私の前に到着する。
スラリと引き抜かれた刀は迷いなくこちらに向けられた。
「いぎゃぁああああああああ!!死ぬぅううううう!!」
「え、」
あまりの私の勢いにクラウスさんが戸惑ったようにたじろながらも剣を向ける。
「モブロード嬢、大丈夫だ。落ち着いてくれ。」
「どこらへんがですか!?剣先が私の方向いてるのは気のせいじゃないですよね!?おろして!それをおろして!」
「一撃で仕留めるから安心してほしい。」
「なにを!?私の息の根!?」
「違う。私が狙っているのは、」
言葉の途中でクラウスさんが剣を振りあげると、私の真横を強風が吹き抜ける。
「がっ!?」
バシュッと引き裂かれるような歪な音と小さな悲鳴が上がる。
声が聞こえた方向へ顔を向けようとすると、やんわりと肩を掴まれた。
「ク、クラウスさん?」
「……私が狙っていたのは魔物であって間違っても貴方ではない。」
「何事もなかったように話を続けるその心意気が恐ろしい。」
首を可愛らしく傾げて、払うように剣を振るう。
その際に地面に少しばかり赤がついたのが見えて肝が冷えた。
「いっった……いなぁ!!」
「どこに行くつもりなのかは知らんが、女性の後ろに隠れてコソコソするとは感心しないな。」
「っボクは忙しいの!いてて…!あーもう!こっちのことは気にせずにその人間さんを口説いててよ!!」
「そんな死に急ぐことはしない。」
「どういう意味ですかそれ。」
訝しげに睨み付けると、困ったように肩をすくめるクラウスさん。
それでも決して私の肩から手を離さず、後ろを振り返ることを許さない。
「ここからは私が相手になろう。」
「いやだよーーーっだ!!」
背後から迫る殺気に身がすくむと同時に力強く引き寄せられ、クラウスさんに米俵のように抱え込まれ宙を浮く。
先ほどまで私たちが立っていた場所は土埃があがり、腹の底に響く爆発音が鼓膜を振るわせた。
「脇を締めて、顎を引く。お腹に力を入れてみるんだ。」
「???」
意味のわからない指示を受け、その通りに態勢を整える。
するとクラウスさんはなんのためらいもなく、空を飛んでいる状態から私を地面に向かって放り投げた。
「なぁあああああああ!?」
「気を楽に。貴方の騎士が必ず受け止める。」
あんのイケメンサイコパス、この状態で気を楽にできるわけないだろうが。
迫り来る地面、体内をかき混ぜる浮遊感に目を固く閉じる。
死ぬ、絶対死ぬ。
神様仏様、いるのであれば私の騎士様。
(助けて!!)
ボフッ。と着地。
ちょい待ち、ボフッてなに?
一向に痛みは襲ってこないいし浮遊感もないし、先ほどより安定してる気がするのはなぜ。
「おい、おい!」
恐る恐る目を開けると、ホッとした様子でこちらを見つめるアルと目があった。
先ほどよりも元気そうだと安心するとともに、涙がこぼれ落ちる。
「っアルゥウウウウウウ!!!」
「あ"?お、おい」
「あのイケメンがグボォッゴホッ!!」
「落ち着けよ。」
泣き叫ぶ私をあやしてくれるアルの首元にしがみついて甘えると、苦笑しながらも慰めるようにこめかみにキスされる。
彼は空から落ちてきた私をちゃんと受け止めてくれたようだった。
しかもクラウスさんとは違って横抱き、一般的に言うお姫様抱っこで。
自分から彼の首元に抱きついておいてアレだが、軽く羞恥心で死にそうになる。
(実際にイケメンにされると心臓に悪い!!)
途端に恥ずかしくなって静かになった私を抱え直したアルは、宙に浮いたまま剣を振り回すクラウスさんを見る。
「おぉ、かっこいいぞ騎士様。」
「は、はぁ!?だだだ誰がっ!?」
真っ赤になってクラウスさんの言葉に噛み付いたが、すぐに焦ったように身体を捻りなにかを交わす。
その後静かにクラウスさんを睨みつけた。
「おい…テメェの攻撃の余波が飛んできたのは気のせいか?」
「びっくりだな、妖精の粉で威力が上がったようだ。」
「「なに淡々と分析してるんですかクラウスさんの馬鹿!!/ふざけんなクソがテメェ後で絶対ぶっ殺してやる!!」」
聞こえてきたその言葉に思わず顔を上げてアルとともに怒鳴るが、地面に降り立ったクラウスさんは少し気恥ずかしそうにしながらこちらに頭を下げた。
しょうがない、可愛いから許す。
そしてクラウスさんが降り立ったってからすぐ、何かが降ってきた。
「はぁ……はぁ…ぐっ!!」
「翼を犠牲にすればあの攻撃は避けられたはずだが?」
「へ、へへ……翼はボクの誇り…だからね…。羽根なしの人間さんには、分からないと思うけど!」
「そうだな、貴様たちと分かりあう日は来ない。」
「あぁぐぅ!」
短い悲鳴が断続的に聞こえる。
クラウスさんは私たちを守るために戦ってくれているのに、耳を塞ぎたくなってしまうのは私が弱いからなのか。
それでもちゃんと向き合わなければならない。
私たちが生き残るために、その魔物を倒そうとしているのだから。
「魔力封じを受けてここまで持てば大したものだ。」
「はぁ、はぁ……うぅ…」
「せめて安らかに眠れ。」
クラウスさんが祈るように剣を天にかざし、狙いを定めたその時。
脳味噌が切り裂かれるような痛みが襲う。
黒い霧が立ち込める不気味な城。
そのなかで次の戦いに備えて準備をしていると、燕尾服を着た少年が楽しげに話しかけてきた。
「ねーねー〇〇様?〇〇様もボクの翼は嫌い?ガンマ様からの贈り物だから素晴らしいものなのに、人間さんは全く理解してくれないんだ。」
その翼は私にとっては力強く誇りの象徴に見えた。
だからその通りに選択をすれば嬉しそうに頬を綻ばせる。
「へへ、照れちゃうなぁー!流石〇〇様!!ボク、羽根なしの人間さんはあんまり好きじゃないけど〇〇様は好きだよ!!お堅いことしか言わないアルファも〇〇様のこと信用してるしね!」
「ベータ、なにをしているのですか。〇〇様、申し訳ありません。再度教育をし直しますので。」
「……ねぇ知ってる〇〇様?ボクとアルファ、そしてガンマ様はみんなでひとつ!!強い絆で繋がってるからなに考えてるかすぐに分かるんだよ?こーんなこと言ってるけど、本当は〇〇様ともっと仲良くなりたいって嘆いてるんだ!」
「ぶっ殺しますよ。」
〇〇ルートでは家族のように暖かい会話が繰り広げられるのかと、そのギャップに萌え苦しんだのは誰だったか。
ギュッとアルの首元にしがみついたのは、それこそ無意識だった。
「………なんのつもりだアルフレッド。」
ハッと顔を上げるとクラウスさんの聖剣が不思議な形で動きを止めている。
意味が分からず幼馴染を見れば、なんとでもない風に言葉を続けた。
「殺すべきじゃねぇと判断したからだ。」
「なにを言っている?コレは生かしておけない。私たちは村を守らなければならない。」
「私たち?オレが戦ってんのは村のためじゃねぇ。そもそもがテメェとは違うんだ。勘違いすんな。」
「………そうか。」
一瞬にして不穏な空気になり冷や汗が出る。
そしてこちらの視線に気がついたアルは私を安心させるように目を細めたことで気づいた。
彼が、ここまで暴れた魔物を倒さない選択をしたのは何故なのかを。
「っ、アル」
「私の弟分を可愛がってくれたようですね。」
静かな怒りを滲ませた声に両断され、言葉を続けることは出来なかった。