転生者たちと、小さな村の最終関門③
いつもありがとうございます!
今回も長くなってしまいました…
もう少し短くした方が読みやすいですよね…
以後気をつけます!
またブックマーク登録いただきましてありがとうございます!
大変励みになっておりますっ!
いよいよこの騒動もあと少し…!
今しばらくお付き合いくださいませ!
今後ともよろしければブックマーク登録、評価、感想などお待ちしております^_^
ドタドタッと人が倒れる音に驚き、目を開ける。
気がつけば契約の魔女を見張っていたはずの兵士たちが、全員胸元を抑えて床に転がっていた。
ゆっくりと身体を起こし、苦しそうに目を閉じている1人の顔を覗き込む。
「これって、混乱誘発かしらぁ……?」
混乱誘発は超音波により魔力が上手く体内で循環出来なくさせる状態異常。
魔力を大量に保持している生き物ほど混乱度数は高くなり、呼吸困難や手足などの身体の痺れをもたらす。
(混乱誘発は魔法ではなく魔物の幼体が使用する特技だから、あんまりお見かけすることはなかったけれどねぇ。)
親がいない間に身を守るため、幼体が声帯を震わせて天敵の動きを止める特技。
それでも遠く離れた敵まで混乱させるということは、成体になった魔物で未だに使える個体がいるということなのだろう。
「私を確実に仕留めるためにそういう個体を魔物側が連れてきたのかしらぁ?最悪ねぇ…考えるだけでゾッとするわぁ…」
まぁ、魔力を扱えなくなった今のパルメには効果はないのだが。
自身の導き出した結論に頷いているとふと思う。
(あらぁ?だったらどうして、私はここにいるのかしらぁ?)
逃げないための見張りなのだから、魔物が近づいてきた時点で私を明け渡すための手筈を整えるため関所へ運ぶはず。
(もし魔物の到着が早かったとしても、私を渡すと言えば少なくとも混乱誘発を使用することはないはずよねぇ?魔物側も私を捕まえていることを知れば大げさに手は出さないはず…)
そこまで考えて、冷や汗が背中を伝った。
(まさか、私を引き渡すつもりはない?)
村を守るためには契約の魔女を生贄に差し出すのが一番良いはずだ。
だがもし、もし彼らが撃退という無謀な策を選んだとしたら?
あり得る、なんたって私を殺さなかったアイリーンの息子がこの村にはいる。
そしてなによりあの子は赤髪で、この兵士たちよりも遥かに多くの魔力を保持している。
そもそもそれを隠すためにアイリーンは私と契約を結んだのだから当然だ。
魔物があの子と対峙したらどんな策を打つか。
(あの子今、どうなってるのぉ?)
そこからは早かった。
急いで兵士の腰に下げられていた剣で手首を縛っていた縄を切り、立ち上がる。
ふらりと視界が揺らぐのは、魔力が循環していない身体にまだ慣れていないからか。
それでも急いた気持ちが足を懸命に前へと運ぶ。
魔物にワザと自分の居場所を教え、王都から応援が来ないように根回ししたのも私。
頼りになる騎士様の状態異常耐性を失くしたのも私。
この騒動の責任は私にある。
間違っても他の誰かが私よりも先に犠牲になるべきではない。
目指すは関所。
息を切らせながら道を進んでいくと、聞いたことのある声が聞こえてきた。
(あの声は…レイちゃん?)
不思議な雰囲気を醸し出す幼い女の子。
状況を確認するために物陰に隠れ、声が聞こえてきた辺りを伺う。
(あぁやっぱり!)
倒れ込んでいる騎士様やエミリーちゃん、そして苦しそうに眉をひそめるアルフレッド。
一歩踏み出そうとしたその時、決闘にも似たような殺伐とした雰囲気を感じ取った。
…姿が見えなくても分かる。
ここには魔物が、いる。
急いで物陰に身をひそめると、そこには兵士たちが用意したのであろう武器が大量に用意されていた。
いくつか装備して目を凝らせば、アルフレッドを守るように立ちはだかり肩で息をしながらギラついた視線で目の前に置いてある木の枝と鍋の蓋を見つめるレイちゃんの姿があった。
(どうしてあの子が?混乱誘発にも負けずに1人で立ち向かっているとでも言うの?)
「くっ……まだまだ!!」
「ええ…まさかここまでいい勝負になるとは思いませんでしたが、これで終わりです!」
思いっきり右手を後ろに引き、なにかの力を込めるように唸るレイちゃんに唾を飲み込む。
その真剣な表情は猛獣にも引けを取らないほど獰猛で、かつ他者を圧倒する存在感があった。
あの構えはもしかすると、なにかの格闘家の流派なのかもしれない。
(ま、まさかレイちゃんって実は相当な実力者なのかしらぁ…!?)
「うぉおおおおおおおお!!!いきますよぉおおおおおお!!」
「ボクだって負けないんだからっ!!」
魔物も呼応するように唸り、彼らの声が村中に響き渡った。
「「はい!せーーの!!叩いて!?被って!?ジャンケンポォォオオン!!!!」」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
時は少し遡り、場面は関所。
『チガウチガウ!レイちゃんもっと左だヨ!魔物はもっと左にいるっテ!』
はいどうもこんにちは。
魔物に喧嘩を売ってしまった愚かな女、レイ・モブロードとは私のことです。
『オーライ!オーライ!もうちょっと左へ来てネ!』
『いいよイイヨ!そのままゆっくりネ!』
と声をかけてくれる妖精たちに導かれながら、ゆっくりとちょっとずつ人差し指の方向調整を行なっている真っ最中。
チラリと視線をアルに向ければ、胸元を抑えながら何か言いたげにこちらを睨みつけてくる彼と目が合う。
(なにしてやがるこのクソ雑魚モブって思ってるだろうなぁ…。)
魔物が既に結界を破って村に侵入したと分かった時点で、アルは私に口酸っぱく言い聞かせた。
間違っても魔物を刺激するようなことはするな。と。
でもしょうがないだろう。
そんなに苦しんでいる姿を見たら、黙って隠れているわけにはいかない。
本当は駆け寄って背中をさすってあげたいのだが、ごめんね。
『バッチリバッチリ!今ちょうどレイちゃんの先に魔物がいるヨ!!』
恐らく私の周りを飛んでくれているであろう妖精たちに感謝を込めながら頷くと、キラキラと輝く光の玉が辺りに浮遊し始めた。
妖精の粉。
妖精たちが喜んだり興奮した時に彼らの羽根から舞い上がるこの粉は、ただのポーションの材料になるだけではない。
この粉単体でも多少ではあるが状態異常や傷を治す効力がある。
つまり。
(この妖精の粉でみんなを回復させるしかない!)
「な、なんで?確かに他の人間さんには効果があるのに…」
どきり、と心臓が嫌な音を立てる。
計画通りとはいえ魔物が私の存在を認識し、威嚇するように低く唸るこの現状に控えめにいって気絶したい。
しかし魔物の声に確かな動揺と、恐怖を感じた私はひきつる頬を無理やりあげて微笑んだ。
「残念ながらこの私に、その混乱誘発?とやらは効かないんですよ!」
なんたって魔力そのものが皆無だからね。
「はっ!そ、そうか!人間さんには混乱誘発を無効化できる特技が使える…そういうことなんだね!」
「……ご想像にお任せします!!」
まさかコバエすら仕留められない残念な戦闘力の小娘が自分に立ち向かって来ているとは夢にも思うまい。
現に魔物も未知の相手を前にして、必要がない最大限の警戒を払っている。
勝手に勘違いしてくれる分には一向に構わない。
『レイちゃんを守るゾ!魔物を近寄らせるナー!』
『『オー!!』』
だが困ったことに、妖精の粉を手に入れるには妖精たちを愉しませなくてはならない。
足腰も恐怖で震える中、何かいい方法はないかと辺りを見回すと、壊れた鍋の蓋とちょうどいい大きさの木の枝を見つけた。
『レイちゃん何するノ!?』
『レイちゃんダメー!』
必死に体当たりしてくる妖精さんたちを放って置いて木の枝と鍋の蓋を手に持つと、一瞬で目の前の視界が歪み何かが強く私の手を握った。
「アル!?」
「はぁっ、はぁ、さが…れ!」
「その状態で転送魔法を使ったの!?そんなの自殺行為だよ!?」
「ざっけんな…このっ!!」
息が切れて辛いだろうに、それでもなんとか私を庇おうと身体を起こすその姿に胸が痛くなった。
「待って待って!?キミには死なれちゃ困るのにー!!」
「うるせっ…!?」
ほとんど無意識だった。
戦うため私に背中を向けたアルの前に回り込み、抱き着く。
小刻みに震えている身体をさすりながら、おでこをくっつけて瞳を閉じた。
「はい、ゆっくり息吐いて。ふぅー…」
「はぁっ!?」
「大丈夫。息吐いて?ふぅーー…」
無理やり真似させると、アルは少しだけ呼吸が楽になったように深く息を吐いた。
「何やってるの?」
「うるさいですよ。アルに死んでほしくないならちょっとそこで待っててください。」
「はーい…」
意外と聞き分けのいい魔物にお願いをした後、目を開けると潤んだ瞳でこちらを見つめてくる幼馴染の姿があった。
「アル、私に考えがあるんだけど。」
「あ"…!?」
「おぉ…そんなに睨まないで。大丈夫、危険なことはしないよ。」
「んなもん信じられるわけ…」
私の言葉に顔を歪ませる彼の頬に許しを乞うように擦り寄る。
「信じてくれないの?」
「っ………………ずりぃぞ…!」
「うーん確かに。アルが信じてくれてるって分かってて聞いちゃった。ごめんね。」
謝罪を込めて再度頬に口付けると、小さなうなり声とともにアルの身体から力が抜けていった。
「クソがッ…たち悪りぃ……!」
「本当にね!全く私の仲間たちになんつー状態異常かけてんですか!!」
「え?え?ボク?」
「そうです!これで、完膚なきまでに叩きのめしてやりますよ!」
アルを横たわらせて、手にしていた木の枝と鍋の蓋を床に置きドヤ顔で決める。
「この、叩いて被ってじゃんけんぽんでね!」
「じゃんけ…?」
「説明しよう!!この勝負は対面に座り、じゃんけんと呼ばれる三種類の指の出し方で勝敗を決める手段を用いて攻撃権を取得し、相手が防御を行う前に相手の頭を叩くことを目的としたものである!!!その他暴力行使、魔法一切不可の超真剣勝負!!」
「な、なんだって…!?」
思った以上にノリがいい魔物にじゃんけんがどういうものかを説明し、この勝負の肝を伝える。
「あとですね、この勝負じゃんけんで勝った方が今後の目標を宣言してから攻撃に転ずる必要があるんです!」
「え?どうして?」
「シッ!そういう制限があるんです。」
嘘です。そんなものはありません。
だが私にとって最大の難所はじゃんけんの結果を見ることができないことにあった。
相手が名乗りを上げればその時に守りに入り、相手が鍋を取れば適当に名乗りを上げて攻撃。
あくまで私の目的は時間稼ぎと妖精の粉。
勝つ必要はない、負けなければ良い。
(でもいくらなんでも無理があるかな…)
「分かった!人間の世界って面倒なんだねー!」
魔物も案外チョロくて心配になる。
「ならば!いざ尋常に勝負!」
こうして戦いの火蓋が切って落とされた。
「「はい!せーーの!!叩いて!?被って!?ジャンケンポォォオオン!!!!」」
じゃんけんを出して数秒、ハッとしたように息を飲んだ魔物に私は勝敗を察した。
「私の勝ちですね!このレイ・モブロードの一撃を喰らいなさい!」
「ふっ!これまで通り防御を…ってあれ!?」
驚いた声とともに鍋の蓋が中途半端な位置で止まる。
なぜ途中で止まったのか不思議だが、この絶好のチャンスを無駄にするわけにはいかない。
「け、契約のま」
「討ち取ったりぃいいいいい!!!」
『『ワァア!レイちゃんカッコイイ!』』
なにかを呟いていた魔物をガン無視して、確かな手応えとともに木の枝を振り下ろした。
妖精の粉が大量に舞い上がり、むせそうなほどキラキラと光る玉が宙へ浮かんでいく。
「うぐぇ……痛ぁい…」
どうやら私の全力スイングは魔物さんに直撃したようだ。
痛そうな声に若干の申し訳なさを覚えていると後ろから待ち望んだ声が聞こえてくる。
「助かったモブロード嬢。あとは任せてくれ。」
あぁ、助かった。と笑みがこぼれた。