表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/194

転生者たちと、小さな村の最終関門②

いつもありがとうございます!

間が空いて申し訳ありません…

今回は区切る箇所が見当たらず、長めでお届けします!


またブックマーク登録いただきましてありがとうございます!

大変励みになっております…!


今後もよろしければブックマーク登録、評価、感想などお待ちしております!


場所は変わって、関所。


「出来るだけ早めに来てくださいよ隊長……!」


魔法石を手にしたキッドは前方に突如発生した黒い竜巻を睨みつける。

シラタマを通して魔物の情報を得て武器を用意していたのだが、突如彼からの通信が途絶えたかと思えばこの異常事態。

木々が、建物が、村が黒い風に引っ張られ、まるで地面ごと巻き取られていくような感覚に膝をついた。


「あー?あー?聞こえてるー?」


拡声魔法の魔法陣が大きく展開され、この暴風の中でもはっきりと声が届く。


「あのねー、その結界を正攻法で相手にするとボク疲れちゃうんだ!アルファも忙しいし!だからちょーっと荒っぽく結界ごと引き寄せちゃうけど、怒らないでねー!」


黒い竜巻の中心部から翼を生やした魔物が姿を現した。

まだ少し遠くて顔までは確認できないが、人間のような見かけの肉体と、不気味な黒い翼ははっきりと見える。

そしてその魔物が超加速で空中を旋回すると、さらにもう一つ大きな竜巻が発生した。


「ふぅー!いい出来!それじゃ、ちょいちょいっとこっちまでよろしく!」


左右前方で唸りを上げる竜巻が互いに共鳴しあい地面を抉っていく。


「これで補助特化とか冗談だよな?」


やはり一端の兵士である自分たちの手に負える奴ではない。

だが、なんとかしてクラウス隊長が来るまで持ちこたえなくてはならない。


そう気合いを入れたその時、シラタマの声が脳裏に過った。


「群れの長はアルファとベータ、オレや先輩と同じ上級魔物っす。二体まとめて相手するのは自殺行為っすから、オレが一体引きつけておくっすよ。感謝するっす」


暴風によろめきながらも腰につけていた小刀を手にして、自身を引っ張る謎の引力に向けて振り下ろした。


「今から言うことをよく聞いておくっすよ?アルファは攻撃に特化、ベータは補助に特化してるっす。オレが足止めするとなると十中八九ベータが風魔法を使って超加速でそっちに向かうはずっすけど、戦闘力は大したことないっすから、くれぐれも旦那の足を引っ張らないように始末するっよ。あ、ちなみにメスがアルファでオスがベータっす。」


正直言ってこの魔物がオスかメスかなんてことは距離がありすぎて分からない。


(だがシラタマの言う通りベータとかいう風魔法の使い手なら、コレが効くはず!)


「よっこらせ!!」


ぶつん。と紐が千切れるような音が響き、身体に自由が戻った。


「おぉやっぱり!これ効くぞお前ら!」


「「おぉ!」」


自身の魔力を込めて刀を振るうことで風魔法を相殺できる魔法。

自分の身を守るため、寝ずに仲間たちと頭を絞って考え出した一つの可能性。


(訓練中飛んでくるアルフレッドの爆発魔法から身を守るために考えた技が、まさかこんなところで役に立つなんて!)


キッドは特に魔法の扱いに不慣れのため、自身の剣に魔法を纏わせることができない。

そのため初任給で魔力を通しやすいそこそこ高級の小刀を購入してまで、この魔法習得に時間を割いた。

アルフレッドに披露する前に使うとは夢にも思わなかったが、まぁいいだろう。


仲間たちも各々で特訓を重ねていたおかげで、見事全員が魔法の呪縛から解き放たれた。

そして再度自身の刀に魔力を込めて立ち上がり、結界に向けて横一列に並ぶ。

阿吽の呼吸で仲間たちと結界に向けて振り下ろすと、各々の斬撃が重なり合ってひとつ刃となる。

そして一直線に結界をすり抜け、取り巻いていた不穏な風を引き裂いた。


強風に引っ張られていた結界はなんとか持ち堪えて動きを止めた。

歓喜に沸くのもつかの間、再度聞こえて来た魔物の声は明るいものだった。


「あらら?壊されちゃった。ま、いいや!ここまで来てくれれば充分!助かったよ!」


今、真上から聞こえたような。


視線を戻すが先ほどの位置に魔物は既にいない。

恐る恐る真上を見上げれば結界スレスレに顔を近づけて、ニヤニヤと笑う少年の姿があった。

幼さが残る可愛らしい顔つきに不健康な白い肌、執事のような燕尾服を着こなした姿に不釣り合いな黒い翼。

どう考えても、明らかに人間ではない。


「はいはーい!死にたくない人は下がってねー!」


「え、」


魔物は大きく翼を広げると先ほどとは桁違いの速さで上昇し、急降下する。

そして同時に自分たちの頭上に巨大な魔法陣が生成された。


「それじゃあ!お邪魔しまーーす!」


ちょっとそれは聞いてない。


「さ、散開!!」


バチバチと閃光と走り、爆風とともに身体が吹っ飛ばされる。

辛うじて身を斬りつけてくる風は相殺できたものの、地面に思いっきり叩きつけられた。


「わーい!やーっと入れた!」


パラパラと土煙を払うように翼をばたつかせて大きく伸びをする魔物。


「あの結界を破るなんて…」


「すごいねアレ!ボクが全力出したのにあんなちょびっとしか穴開かなかったよ!あ、しかも真上に穴開けちゃった。………まぁいいか!ボク頑張ったし!アルファもあそこから入ればいいよね!」


こちらに近づいて来た魔物になんとか小刀を向けるが、あっという間に風魔法で取り上げられて遠くに投げ捨てられる。


「ねぇ人間さん?邪魔だからサクッと殺す予定だけど、死ぬ前に契約の魔女の居場所を教えてほしいな!なんかよく分からないけど、魔力反応がなくてどこにいるか分からないんだ!」


「知らないし、そもそも殺されるって分かってていう奴はいないだろ…!」


「えぇ!?そんなー…じゃあいいよ!直接、脳みそに聞いてあげるから!」


そんな狂気じみたことを言いながらにこやかにこちらに手を伸ばしてきた魔物に恐怖していると、グサリと何かが突き刺さる音が聞こえた。

違和感を覚えたらしい魔物が首を傾げながら自身の翼に視線を落とすと、真っ赤な炎が燃え上がり牙を剥く。


「あぐぅううう!?」


「ピーピーうるせぇ害獣が。その不釣り合いな翼を仕舞いやがれ。邪魔だ。」


「は、はぁ…は!?赤髪!?いつのまにそこに…ボ、ボクの翼になにしたの!?」


魔物の右翼中央に突き刺さっているのは、先ほど投げ捨てられたキッドの小刀。

アルが指を鳴らせばそこから炎が溢れ出し魔物を蝕み続ける。

逃れようと空へ羽ばたいたとしても、その小刀が突き刺さっている限りアルからの攻撃魔法が追尾してきているようなものである。


あの小刀、そんな使い方できるんだすげぇ。


呆然とその様子を見つめていると、いつのまにかクラウス隊長に担がれて魔物から引き離されていた。

そして運ばれたその場には。


「「キッド!!」」


「こ、心の友ぉおお!」


ムーンとダンテの姿があった。


「よく耐えたな。」


「グスッ!た、隊長ぉお!」


かっこよすぎて辛いです隊長。


あわせてエミリー様が結界に開いた穴に向けて掌をかざし魔法を唱え始め、それを守るように女盗賊一派の2人組が大剣を構えた。


「はぁ、はぁ、ひ、ひどい!ひどいよっ!ボクの大切なっ、大切な翼に!人でなし!鬼!」


「は?魔物には言われたくねぇよ。」


そしてオレが無事に回収されたことを確認したアルフレッドは大きめにパチンと指を鳴らし、火力を上げる。


「がぐぅうう!?」


赤い炎が黒い翼を蝕むこと数秒。

魔物が悲鳴をあげながらも、深々と刺さっていた元凶をようやく引き抜いた。

すると魔物の魔力に反応した小刀が融解し、魔物の翼にまとわりつくように魔法陣を描く。

溶岩のように赤黒く記された陣の一部を確認した魔物は驚きを隠せずに呟いた。


「は、え?魔力封じ……?」


「オレもいけ好かねぇ騎士殿にかけられたことがあるから今のテメェの気持ちはよく分かるぜ。それだけでかい魔法陣で抑え込めまれちまったら、しばらくは飛んで逃げることもできねぇよな?」


「嘘……」


自身の翼を抱えながら小刻みに震える。

そして顔を上げたその表情は喜びに満ち溢れていた。


「っすごい!!すごいね!容赦ない殺意に、圧倒的な強さ!キミまだまだ幼体でしょう!?それなのにもうボクの魔力を抑え込めるなんて!逸材、そう逸材だよ!こんな()()()()を目の前に逃げるだなんてとんでもない!」


「っ?何言って」


「目つきは悪いけど問題なし!身体も健康体そのもの!…あれ、あとなにを確認しなきゃいけないんだっけ?んー、ボクじゃよく分からないなぁ。」


興奮したように翼を羽ばたかせる魔物にクラウス隊長は眼を見開き、アルフレッドのもとへ駆け足で戻っていく。


「まぁいいや!キミはガンマ様のお土産けってーーーい!」


聖剣を引き抜いた隊長が剣を振り下ろすと同時に、魔物は鼓膜を破るくらいの声量で不協和音を響かせた。

その音が身体の内側から魔力の流れをかき乱すように暴れまわり、立つことすらまたならない。


(な、なんだこれ!?)


エミリー様を含め、その場にいた全ての人間が苦痛に顔を歪める。


「ふぅ…ちょっと危なかったなぁ……」


汗を拭う魔物からツゥっと赤い血が滴り落ちる。

その傷をつけたクラウス隊長も胸を押さえ荒い呼吸を繰り返していた。

不思議そうに隊長に顔を近づけた魔物は、合点がいったように声をあげる。


「少しだけ黒蛇の匂いがする…!もしかして黒蛇の毒を食らったの?はは!なーんだ!聖剣使いさんって状態異常に弱かったんだね!知らなかったなぁ!……あれ、でもなんで解毒出来たの?黒蛇の毒はメディ様の血清がないとダメなはずなのに………まぁいいか!アルファに聞いてみようっと!」


ちょっとごめんね!っと隊長を退かした魔物は、目の前で咆哮を食らったアルフレッドに向けられる。


「っテメェ……!」


「えぇ!?まだ言葉が発せられるの!?赤髪は魔力が豊富だから効果は抜群なはずなのにすごいね!ますます期待しちゃうよ!でも無理しないほうがいいよ?確かに魔力は押さえ込まれたのは痛いけど、この混乱誘発があれば魔力を持つ生き物はみーんなしばらくは動けない!残念でした!」


頭を抱えて唸るアルフレッドを楽しそうに見つめていた魔物は、ふと気がついたように言葉を漏らす。


「あ、でもボクも攻撃できないから何にもできないんだった。んー……とりあえず聖剣使いさんと赤髮くんだけ縛っといたほうがいいかな…?」


周りに視線を向けた魔物はある一点を見て驚きで目を見開いた。

なんとかして自身もその方向へ視線を向けると、衝撃な光景が広がっていた。


苦しむエミリー様の横で、腕を組んで仁王立ちする一人の少女。

その近くでは妖精たちが彼女の立ち方を真似て、怒った表情で羽根を羽ばたかせている。


「な、なんで!?ボクの混乱誘発を受けて立ってられるの!?魔力がかき乱されるはずなのに…!!」


「けっ、魔力魔力うるさいですね…なめてるんですか?そもそも!」


ビシッと人差し指を突きつけた少女、レイちゃんは勇ましく吼える。


「私の幼馴染に手ェ出そうとするなんてふざけんじゃねぇですよ!」


















……………そこ、魔物いないよ?


トンチンカンな方向に威嚇しているレイちゃんに、魔物は唖然としていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ