魔物の、到来
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少し先に目的地の村が見えた。
岩の上によじ登って大きく息を吸う。
そしてそのまま自身の身体より大きな羽根を広げ、空に向かって叫ぶ。
「遠いーーーーーーーー!!!」
「やめなさい。」
アルファの翼で顔面を塞がれ、呼吸が出来ない。
必死に悶えてなんとか逃れると、呆れた顔をしたアルファが羽根を毛繕いするように梳かして口を開く。
「駄々をこねても仕方ないでしょう。」
「でもでも、こんな遠いなんて聞いてないよアルファ。ボクもう疲れちゃった。」
「こんなことで疲れていたらガンマ様の護衛は務まりません。それにアナタの場合、疲れたではなく飽きたでしょう。」
「あちゃーバレた?」
とぼけるように肩を竦めてみたが、アルファは冷たく視線を向けるのみ。
だってしょうがないじゃないか。
ここ数日通り過ぎた村々の襲撃や退屈しのぎに下級魔物をイジメることも許されず、ずっと飛び続けるだけなんて退屈だ。
「しかもガンマ様のためならまだしも、メディ様のためでしょう?契約の魔女と契約したのはメディ様なんだから、そういうのは黒蛇と白蛇に任せておけばいいと思う!」
「あの脳筋の2匹、特に黒蛇に下級魔物を預けたらどうなるか分かるでしょう。人間どもと全面戦争になりますよ。それにメディシアナ様はかつての魔王様ために行動されていらっしゃいました。この代償をあの魔女に償わせることは我らが主人のガンマ様のためにもなるということです。」
「うーん、まぁガンマ様ってメディ様とダニー様が大好きだもんね。メディ様にとって太陽の光が猛毒となるほどの代償を払ったのに、肝心な聖女の身代わりを摑まされたと知った時はそれはもう怒ってたもん。」
「えぇそうです。だからあの魔女の首は必ず持ち帰りますよ。あと、メディシアナ様とダニエル様とお呼びしなさい。何度も言いますが不敬にあたります。」
「もう!お堅いなアルファは!そんなんだと彼氏に逃げられちゃうよ?あ、もう逃げられたか!」
「ぶっ殺しますよ。」
いつもの通りの掛け合いをして大きく伸びをする。
ガンマ様は寂しがりやだからしょうがない。
ボク達眷属が彼の願いや疲れを癒してあげなくては、生まれた意味がないのだと思い直すとふと気がつく。
「あれ?じゃあここで休憩なんて挟まず、ドーンっと村を襲った方が早いよ?すぐそこだし、契約の魔女も逃げちゃうかも。」
「えぇ、そうですねベータ。ですが、不安要素は早めに取り除いておくに限ります。」
アルファが警戒するようにあたりを見回す。
それに習ってボクも真似をすると、ヌルリとまとわりつくような不愉快な視線を感じ取った。
「あれ?だれかこっちを見てる?」
「えぇ。随分と熱心に観察をしているようでしたので、話し合いの機会を設けてみようかと一度ここで休息を入れてみました。思えば彼と言葉を交わしたのは数年前が最後ですから、念のための確認を含めて。」
「確認?」
アルファに問いかけると、彼女が見つめていた草むらがザワザワと蠢く。
「あー、やっぱりコソコソするのは向いてないっス。アンタが来るとは予想外っすよアルファ。」
「そちらこそ、ここ数年で随分と雰囲気が変わりましたね。敬愛する主人でも代わりましたか?………白蛇。」
白い身体をうねらせながら、凛々しい顔つきの白蛇が姿を現した。
記憶にある白蛇はいつも気怠げで、やる気という言葉が似合わない魔物だったのに。
今はどこか使命感を持って、ボク達に対峙しているようだった。
「酷い言い様っすネ。オレは今でもメディサマのこと好きっすヨ?」
「そうだよアルファ。白蛇がメディ様を裏切るわけないよ。」
ベータもシラタマに賛同するが、訝しげにこちらを見つめるアルファは黒く光る羽根をちらつかせながら彼の様子を観察している。
一瞬の隙も見せず警戒するアルファに何故だと激しく詰め寄りたい。
白蛇は確かにやる気はないけど、メディ様の眷属だ。
本能のままに主人を決め、残虐性に惹かれる魔物の中の魔物。
人間の肩を持つはずがない、そんなこと分かるはずである。
「えぇ、分かっていますよ。だからこそ分からないのです。」
苦しげに顔を歪ませるアルファに言葉を飲み込んだ。
アルファはガンマ様の眷属として、かなり強い主従関係が結ばれている。
その想いの強さはかつての魔王サマが健在していた時も、ガンマ様の安全を第一に行動していたほどだ。
だから何かを察しているのかもしれない。
見かけだけじゃなく、白蛇の何かしらの変化を。
「ガンマ様の命令はアナタと黒蛇と協力して契約の魔女を仕留めろというものですから、互いを理解していないと支障が出ます。」
「やっぱりそうっスカ。あの魔女を殺すという点については文句はないっス。メディサマに逆らったから死んで当然。でもそれだけじゃないっすよネ?」
「えぇ。邪魔する者は皆殺しにせよ、と。」
その言葉を聞き、白蛇はやはりと頭を緩く振った。
そして彼は、驚くべき言葉を口にした。
「どうすっカ?オレがあの魔女をここまで引っ張って来るっス。だからあの村を襲うのはやめるっていうのは?」
「………え?なに言ってるの白蛇。」
「なるほど。襲わせたくない理由があるのですね。」
襲わせたくない理由?
まさか、彼は白蛇だ。黒蛇ほどまでではないにしても戦闘に飢え、暴力で全てを解決する。
なのに襲わせないように立ち回るとは、どういうことなのか。
アルファは先ほどよりも強い口調で白蛇に声をかけた。
「もちろん魔女は始末します。ですが不思議ですね。何故そこまで拘るのですか?アナタのような本能で生きる魔物が最も嫌う、遠回しなやりかたですよ。村ごと潰してしまえば、あっという間に決着がつきます。」
「そうっすね。でもさせないっス。」
「へぇ、させない……ですか。」
アルファが翼に力を込める。
彼女の羽根一枚一枚が刃物のように変化するのを目の当たりにして、彼女の決断を察した。
「メディシアナ様をも凌駕する、何かがそこにあると言うのですね。そしてアナタはその何かを守るためであれば、我々にすら牙を剥く。」
「アンタのことは嫌いっス。でも、できれば戦わずに終わらせたいのも本音っス。」
「えぇ、ワタシもです白蛇。アナタのことは嫌いですが、家族だと思っています。手のかかる弟だと。………だからこそ残念です。」
静かに瞳を閉じたアルファから殺気が漏れ出す。
魔物は自身の想いに正直に生きる。
噛み合わないというのであれば、邪魔をするのであれば、相手を殺す他に方法はないのだ。
「アナタをそこまで変えた危険要素があると分かっていて、おずおずと引き下がるはずがありません。」
「そりゃそうっすよネ。なら、もう手加減はしないっスヨ。」
アルファと白蛇が互いに牙を剥いた瞬間に、ボクは翼を広げて空へと飛び立った。
眠っていた下級魔物達を魔法で無理やり起こして急いで村へと進ませようとするが、彼らは体が痺れたように痙攣させて言うことを聞かない。
「痺れ毒…!」
「本気で邪魔するつもりですね。」
ガチンッと鈍い音が響き渡り、爆風で動けなくなった下級魔物が埃のように吹き飛ばされていく。
「行きなさいベータ。」
しばらく下級魔物は使い物にならない。
アルファの言葉に大きく頷き、ボクは全力で村へと羽ばたいた。