転生者たちは、第二関門を突破する
いつもありがとうございます!
そしてブックマーク登録、評価いただきありがとうございます!
やる気が……みなぎってくるぜ…!!
いよいよ契約の魔女との決着の時!
今後ともよろしければブックマーク登録、評価、感想などお待ちしております!
「アナタがパルメでしょ?」
緑髪の幼い女の子が私に声をかけてきた。
彼女はエミラ、とっても変わり者の不思議な子。
魔女としてかなり有望な存在だと周りの大人たちはコソコソと話していたから、きっとすごい子なんだと思う。
そんな子が私に、何の用だろう。
「え、えと、なに、エミラちゃ」
「エミラでいいよ。ねぇ!契約で魔法を操るって本当?」
「は、え、えと、分からない…」
「えー?分からないの?自分のことなのに?」
「私、出来損ないで、上手く魔法、その、使えない…から、約束をしてくれないと……怖くて…」
「ふーん、それでそういう魔法の使い方をするんだ。でも本当の出来損ないにはそんな高度な魔法は使えないと思うけど!」
「え…」
「例えばワタシの妹とか。あの子は魔力だけ見ればすごいけど、考えなしだから繊細な魔力操作なんてぜーんぜん。宝の持ち腐れなの。それに比べてアナタは誰かと約束さえ交わせば大抵のことは魔法で叶えられるんでしょ?それってすごいよね!」
「え、え、え?」
「ふふ!怖がらずにもっともっと魔力を使えばいいのに!」
他人と一線を引いているあのエミラが、私を励ましてくれた。
そのことを糧に勇気を出して魔法を使うようにしていると、気がつけば契約の魔女と呼ばれるようになった。
願いを叶えて欲しいと近寄ってくる人たちが増えた。
私を恐れながらも、必要として会いに来る。
誰も私を傷つけようとしない。
そのことが安心に繋がり、さらに魔法の精度が増していく。
エミラは私の人生を変えてくれた。
だから彼女の願いを叶えるのは私でありたい。
魔法道具の破片を掴み取ろうと震える手を伸ばしながら、エミラの言葉を思い出す。
「ねぇパルメ、貴方に生まれ変わりの魔力特訓を任せてもいいかな?ちょっと居心地が悪くて困ってるんだ。」
前回の妖精の夜渡りの前日、例年通り生まれ変わりに憑依したエミラから魔法石に連絡が入った。
その不安げな声色に横にしていた身体を起こし、安心させてあげようと言葉を選ぶ。
「構わないけどぉ、そんなに焦らなくてもいいんじゃなぁい?エミリーちゃんはまだまだ幼いから、安定していないだけだと思うけどぉ……。」
「うーんそれだけならいいんだけどね、ちょーっと過保護な奴がいて。聖女としての成長が遅れてる可能性があるの。今もこうしてパルメに連絡取るのも一苦労なんだ。このままだとワタシの願いが叶わないかもしれないの。」
悲しげに呟いたその言葉に衝撃を受けた。
そんなことあってはならない。
大切なエミラには願いを叶えて欲しい、その綺麗な笑顔を見せて欲しい。
私を、必要として欲しい。
「大丈夫よぉエミラァ。そんなこと有り得ない、私が助けるわぁ。」
「ふふ!流石パルメ!!すっごく嬉しいよ!」
「もちろんよぉ、私はアナタの味方だものぉ。なんだってするわぁ。」
「わぁありがとう!!今日が過ぎたらまた一年先になっちゃうから、詳細はテオくんに伝えておくよ!話は彼から聞いてね!
パルメならきっと上手くいくから心強いわ。」
今更ながら、エミラの真意を悟る。
生まれ変わりに憑依していたエミラが、お爺様の正体に気がつかないわけがない。
勇者リュードとエミラの間にはエミロアの死によってできた、決定的な溝がある。
魔王を封印し聖剣を手放したリュードが加護となって生まれ変わりを本気で護ろうとすれば、エミラは自由に動くことができないだろう。
邪魔な存在であるリュードを、あのエミラが放っておくわけがない。
私にリュードの加護のことを伝えなかったのは、エミラの意図を彼に悟られないようにするため。
エミロアを売った張本人を目の前にしたリュードは我を失って牙を剥くと、予想していたのだろう。
私を殺せば加護としての存在を保てず、魂ごと消滅する。
(私は餌だったってことねぇ…)
そして悲しいことに、彼女が私を必要としていないことにも気がついてしまった。
「どうした。」
どうやら長く考え込んでしまったらしい。
目の前の少年の声で我に返った私は、気を取り直して破片を握りしめる。
これがエミラにしてあげられる最後の手助けだからこそ、この機会を逃すわけにはいかない。
ゆっくりと顔を上げれば静かにこちらを見つめる鮮烈な赤に金色の瞳。
どちらも魔力に恵まれた人間が持つ特徴。
ナメた勝負を吹っかけて芳醇な魔力をみすみす敵に渡すなど、まだまだ幼い。
そうだ、この少年さえなんとかすれば、エミラは喜ぶ。
エミラのための生贄にしてしまえ。
「パルメ、私の宝物は可愛いでしょう。」
勢いよく腕を振り上げた瞬間、少年の顔がアイリーンに重なって見えた。
「少しずつだけど魔力だって安定してきた。このまま練習すれば上手く制御できるようになるわ。……本当に感謝してるわ。私の願いを叶えてくれて、私たちに時間をくれてありがとう。貴方に出会えて、よかった。」
「ほん……と…邪魔……」
気がつけば、凶器を手放して全身から力が抜けていた。
そんな私を目を細めて見つめていた少年は一気に間合いを詰める。
「……オレの勝ちだ。魔力、貰ってくぜ。」
喉元に少年の手が伸び、魔女にとっては命より大切な魔力を全て、持っていかれた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
手が離れたかと思ったら、一瞬だった。
緊迫としていた空気の中でカラン、と破片が落ちる音が響く。
そして次にパルメさんの身体が再度地面に倒れこみそうになったところを、アルがその身体を支えている。
なにが起きているのかわからない。
けど何かの決着がついたのだと理解した。
「モブ。」
「っ!はいっっはがはごほっおっっえぇ!!」
久々に声を出したことで肺に蓄えていた空気が一気に吐き出され、その結果盛大に噎せた。
涙目になりながらもアルを見つめると、苦笑を浮かべながら緊張したように口を開く。
「悪りぃが1つ、コイツにポーションを譲ってくれ。」
「ごほっ…え?」
「……やっぱり嫌か?」
「っまさか!」
急いで駆け寄ると、パルメさんはまだ辛うじて息がある。
ポーションを飲むほどの体力はないようなので、身体に液体を振りかけて馴染ませる。
その過程ずっと無言なアルに視線を向ければ、私の隣でじっと掌を眺めている姿があった。
「番犬くん…なにしたの…?」
「あ"?なにって…」
エミリーちゃんが涙を拭いながら私たちの元に近づくと、アルは数秒迷った後に口を開く。
「魔力の精製と蓄えを担う臓器、魔巣をぶっ壊した。ソイツが魔法を二度と使わねぇように。」
「それって…」
「契約の魔女は死んだも同然だ。文句言うなよ。」
腰を上げて私たちに背を向けたアルは少し離れた木に寄りかかって、ずるりと脱力するように下に座り込む。
横顔からは疲労が見て取れてすぐにでも駆け寄りたかったが、まだ完全にポーションを馴染ませきれてない。
ただでさえ飲ませることができてないのに、このままではパルメさんが死んでしまうかもしれず離れることが出来ない。
「モブちゃん、代わるよ。」
「え、でも」
「聖女の祈りなら、ポーションの効果を引き上げることが出来るはず。……実践は初めてで不安だけど、リチャードもクラウスもみんな頑張ってる。エミリーだってやれる、やれるよ。エミリーを信じて?」
真剣な表情で私に訴えかけるエミリーちゃんは力強く、まさしく聖女のような気高さが感じられた。
「うん…どうかお願いします。エミリー様。」
「ふふ、任せて。モブちゃんありがとう。番犬くんにも伝えてね。」
私は何もしていないけど、伝言は承った。
大きく頷き、立ち上がってアルに駆け寄る。
彼の目の前に立つとゆっくりと目を開いたアルと、目があった。
真横に座ってアルの言葉を待っていると、彼は重々しく口を開いた。
「………もしかしたら、母さんがコイツに誑かせれたんじゃねぇかって思ってた。」
「うん。」
「あの魔女が自分の目的のために、利用価値のあった母さんに近づいて。無理やり、契約を結んだんじゃねぇかって。アイリーン・フォスフォールがそんな簡単に騙されるような人じゃねぇって知ってるのに、ちょっと期待してた。オレが遠慮なくアイツを殺していい理由を、探してた。」
「…うん。」
「でも当の本人は……オレを倒すのを諦めた。やってらんねぇよ。なんで情が残ってんだよ。魔女として致命的じゃねぇか。母さんの願いを叶えた魔力で、反発してくればよかったのに。そうすればオレだって、心置きなく」
「アルはパルメさんを殺さなかったと思うよ。」
我慢出来ず、アルの言葉を遮って続ける。
「パルメさんが最後の力を振り絞ってアルに攻撃してきても、殺さなかったと思う。」
「…どうしてそう思う。」
「だっておじいさんを見る目と一緒だもの。どういう経緯にしろお母さんと一緒に穏やかな時間を過ごせたのは、彼女の力もあってからこそって分かってるから。そうでしょう?」
少しツンツン度合いがひかめえになった髪を撫でて、まだまだ幼い少年を労わる。
「辛い過去に立ち向かってすごいよ。しかも心の傷の象徴のパルメさんを助けようとするアルは、誰よりも強くてカッコいい。みんな見習うべきだね。」
「っ……。」
顔をイチゴのように赤らめて視線を逸らすアルに微笑み、エミリーちゃんの方へ視線を向ける。
祈る姿は様になっており、彼女の未来の姿を予想させた。
「聖女の祈り…か?」
「うん、よく分からないけどきっと助かるよ。」
「…別に契約の魔女が死ねば、本体がどうなろうと知ったこっちゃねぇ。」
「へへ、そっか。エミリーちゃん、ありがとうって言ってたよ。よかったね。」
「はぁ?それこそどうでもいい。」
「恥ずかしがり屋さんめ。……もう大丈夫?」
数秒考えたアルは撫でていた私の手を取り自身の頬へ持っていき、甘えるように口を開く。
「あと5分。」
「っ…ご、5分と言わず何時間でも…!」
「……ばーか。」
せっかく手の疼きは消えたのにおかしいな。
今度はムズムズし出した胸のあたりを誤魔化すように掴み、延長5分で存分に頑張ったアルを愛でた。