転生者たちと、小さな村の第二関門③
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後ろを振り返ると、息を切らしながらこちらを静かに見つめるパルメさんの姿があった。
黒いローブを失ったパルメさんの素顔が想像していたよりも幼くて、そして悲しげな表情を浮かべていることに驚く。
もっと明るい人かと思っていたけど、実際はそんなことないのかもしれない。
アルが短く息を吐いて私を解放したのでさりげなく横顔を盗み見ると、躊躇いがちに声をかけられた。
「なぁ。」
「ん?」
「どうしてもアイツのことで確認しなきゃならねぇことがある。だが、その、オレが思いついた確認方法だとお前は怒る……と思う。けど」
私が怒ることってなんだろう。
事前に言ってくるってことは相当なことをやらかそうとしてるのでは?
顔をしかめるが、アルは綺麗な金色の瞳で私を見つめ返す。
「オレはこれから前を向いて生きるために決めた。信じてくれ。」
そのまっすぐな瞳に陰りは見当たらなかった。
「何するの?」
「………。」
「危ないこと?どうなんですかアルくん。」
「…時と場合による……かも。」
若干低めに声を出すと観念したように小さい声で白状したアルに少し笑う。
正直に答えたのは評価に値する。
いいよ、分かったよ。
無理をしないことを約束して欲しかったのだけど、しょうがない。
前向きに生きるために必要なことだというのなら、それは避けてはいけないと思うから。
疼きが収まった右手を数回握りしめた後にアルと手を繋ぎなおす。
「横に雑魚がいること、忘れないでね。」
「…あぁ。」
手を引かれたままパルメさんの前へと向かう。
パルメさんは私たちの様子を何も言わずにまっすぐと見つめるだけだった。
荒い息遣いがはっきりと聞こえる距離になって、苦しそうに彼女は言葉を呟く。
「……やっ…ぱり……に…て…るわ…ね…」
傷が痛むのか、それとも心が痛むのか。
この騒動の発端はパルメさんのはずなのに、彼女が被害者のようにも見えてしまうのは何故なのだろう。
アルはそんなパルメさんの言葉にも動じることなく彼女の近くでしゃがみこむ。
つられて私も横並びでしゃがむと、何かに気がついたアルが彼女の首元を掴みあげた。
その後数回揺さぶった後に何かを引き千切り、そのまま地面に叩き伏せたことに衝撃を受けた我が脳細胞が活動を停止する。
「……はーい、早速手荒なことでびっくりなんですけどなにしてるの?」
「魔法道具を取っただけだ。」
何かをもぎ取ったアルが私に見せてくれたのは、赤黒い蜘蛛のような形をしたなんとも悪趣味なネックレスだった。
「うわ気持ち悪っ!着けてるだけで具合悪くなりそう……」
「さっき攻撃魔法を放出した魔法道具な。発動させてからずっと嫌な熱を持ってやがる。明らかに所有者の安全を考慮されてねぇ代物だ。こんなもんずっと身につけてたらいつ死ぬか分かったもんじゃねぇ。話の途中でぽっくり逝かれたら困るんだよ。」
「そ、そうなんだ…いやにしても他の方法が…ん?じゃあそんな危険な魔法道具ならアルも触らない方がいいんじゃないの!?危ないじゃん!!ポイしなさい!元の場所に捨ててきなさい!!」
「それもそうだな。おら喰らえクソ魔女。」
やっべ、元の場所ってパルメさんの所じゃん。
とても良い返事をしたアルは近距離で倒れているパルメさんに容赦なくネックレスを叩きつけた。
ガツンといい音が響き渡るとその衝撃でネックレスは大きく2つに割れ、破片があたりに飛び散る。
小さい声で痛いと呟くパルメさんが地味に可哀想。
「はっ、ざまぁみろばーか。」
「痛そう……」
「ッチ、この程度でなに言ってんだ。コッチは色々と堪えて………いや待て、違う。そうじゃねぇ。大丈夫だから今は抱きつこうとすんな。」
「……そう?」
アルの辛い過去を思い出し、心が痛んだ私は励ましの意味を込めて(9割は衝動的に)愛でようと中腰になると、先手を打たれて断られた。
……うん、まぁ大丈夫ならそれに越したことはない。
そう思っていると、苦笑したアルは私の髪の毛がグシャグシャになるように撫でた。
すると呼吸音を漏らしながら顔を上げたパルメさんが、ゆっくり口を開く。
「なん…なのよ…」
先ほどより息苦しさは軽くなったのか(それでも魔法を喰らってボロボロだが)、アルを睨みつけたまま言葉を続ける。
「……ど…して…笑って…られるの…!」
「あ?」
「…こん…な…はず…じゃ…!」
息も絶え絶えになりながら唇を噛み締めたパルメさんを無言で見つめた後、アルは近くにあったネックレスの破片を掴みパルメさんに声をかける。
「そんなに悔しいなら…なぁ契約の魔女、オレと勝負しようぜ。」
「え…」
人差し指を立てて、金色の瞳を静かに煌めかせた。
「一度だけ、お前からの反撃を受けてやるよ。刺すでも引っ掻くでも魔法使うでも……なんでもいい、オレに少しでも傷をつけられたらお前の勝ち。出来なければオレの勝ち。」
「そんな……」
決意を固めた表情でパルメさんを見つめるアルに思わず言葉を飲み込む。
アルはこの勝負で、パルメさんの何を確認したいのだろうか。
一方のパルメさんは震えた声で問いかける。
「……かっ……たら…?」
「そうだな……あぁ、オレの魔力をやるよ。そうすりゃ多少は動けるようになるだろ。もちろんオレは邪魔できねぇし、こっから逃げるなりエセ聖女を攫うなり後は任せる。」
「……もし……まけ…た……ら……?」
「アイリーン・フォスフォールと同じ運命を辿ってもらう。お前もよく知っている通り魔力を全部、根こそぎ、奪い取るからな。あぁ、ちなみに言っておくと」
アルは躊躇いもなく、その破片で自身の頬を傷つけた。
頬からゆっくりと血が流れるのも気にせず、彼は言葉を続ける。
「この通り防御結界は張らねぇ。オレとお前の勝負だ。もしオレ以外を狙ったその時は勝負は無効。問答無用で、お前を殺す。どう見ても絶体絶命のお前に圧倒的有利な、最後の挽回の機会だぜ。」
「ふ…ふふ…そんな…勝負……な…められ…た…ものね!」
アルの言葉を聞いたパルメさんは破片に手を伸ばした。