転生者たちと、小さな村の第二関門②
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お爺様を止めなくては。
その一心でリチャードの腕の中で身を捩り抜け出そうとするが、すぐに息がつまるほどの熱風が吹きつけた。
高濃度の魔力が鋭い刃となって、すぐ真横を通り過ぎる。
そして砂埃が舞いあがり静寂が訪れると、リチャードが静かに口を開いた。
「…エミリー様、お怪我はありませんか?」
「っリチャード…!!」
未来の聖女を庇うため自身の防衛をおざなりにしたリチャードは、見える箇所だけでも悲惨な火傷の跡が残っていた。
まるで死の烙印のような不気味な影がリチャードを蝕んでいるようで、思わず彼の頬に向けて手を伸ばす。
「そんな…!死なないで!!」
「はは…この程度では死にませんよ。とにかくご無事でよかった……。」
エミリーを心配させないよう言葉を発したリチャードだったが、護衛対象が無事なことを確認すると膝から崩れ落ちた。
「リチャード!!」
急いで大きな身体を揺すって顔を覗き込むと、意識を失っていることが確認できた。
頬に触れてみれば火傷するように熱い。
傷のせいで発熱しているのかもしれない。
早く治療をした方がいいのは分かるが、エミリーの身体では安全な場所に移動させるなんてできるわけがない。
助けを求めるように周囲に視線を向ければ、砂埃の向こうで静かに佇むお爺様の姿を見つけた。
「助けてお爺様…」
涙ながらに小さく呟く。
聞こえていないかと思ったがお爺様はすぐにエミリーの異変に気付き、足早にこちらへ近寄ってきた。
「お爺様…リチャードが……!!」
「……火傷がひどいのぉ。家の中で治療をした方がいいじゃろう。」
「どうしよう…!どうしよう…!」
焦ったエミリーを落ち着かせようと困り顔のまま頭を撫でようと手を伸ばしてきた。
その瞬間、ミイラのようになったお爺様の右手が視界に入る。
普段のお爺様の手だってしわくちゃだ。
だけどこんな、こんな、生気を吸い取られたような手なんてしていなかった。
エミリーの驚いた視線に気がついたお爺様は照れたように右手を隠し、優しく微笑む。
「お、お爺様…どうしたの…?まさか、さっきの魔法で…?」
「エミリー。危ないから家の中に隠れていなさい。」
有無を言わせない声で呟いたお爺様は、エミリーに視線を向けたまま左手を真横に向けて魔法を放つ。
「ぐっ……」
か細い声が聞こえそちらに視線をやれば、地面に倒れこんだ契約の魔女が必死に顔を上げてこちらを睨みつけていた。
「リュー…ド……!」
「さぁ、エミリー。家の中に入りなさい。」
「でも…」
「…ま…ちな……さ…」
「しつこいね貴方も。まだやるっていうのなら容赦しないよ。」
さぁ、とお爺様がエミリーに魔法を使って無理やり身体を動かす。
先ほどよりも大きめな魔法陣が魔女さんに向かって形成されると、お爺様の左手が同じくミイラのように干からびていく。
「お爺様!待って!」
必死に動かそうとするが自分の身体が別の生き物のように勝手に動いてしまう。
このままでは、お爺様と一緒に居られなくなる。
漠然とそう感じて、力の限り叫んだ。
「もうやめてよ!!」
「おい、なにはしゃいでんだクソジジイ。入れ歯飛んでも知らねぇぞ。」
その声に身体の自由が戻る。
タタラを踏みながら急いで振り返ると、鮮烈な赤がお爺様と契約の魔女の間に立ち塞がっていた。
「あぁ…アルフレッドくんじゃないか。」
「はっ、ようやく尻尾を出しやがったな。変にジジイのフリをしてるよりそっちの方がいいと思うぜ。」
「それより何故契約の魔女を庇うんだい?」
「庇っちゃいねぇよ。オレはこのクソローブには用があるだけだ。」
「そうかい。キミだって彼女とは因縁があるんだろう?魔力が恐怖で震えているよ。」
「あ"?テメェには関係ねぇだろ。」
お爺様が苛立ちげに番犬くんを煽る。
実際に番犬くんの魔力は確かに不安定に震えていた。
彼の鋭く金色の瞳が光る。
今にも戦闘になりそうな不穏な雰囲気に固唾を飲んでいると、小さい手が番犬くんの背中から姿を現した。
「ちょ、お話中ほんとごめん……」
「出てくんな。今はお前に構ってる暇はねぇ。」
「いやほんと…ちょっと…」
「は?」
数秒の沈黙の後、何かを感じ取ったのかそろりと後ろを振り返った。
エミリーもつられて目を凝らすと、顔面蒼白のモブちゃんが顔を出し発狂した。
「すみません!!もう右手限界なんですけど!?!?」
「今かよ!!空気読めクソモブが!!」
「無理無理!!会話がまるで入ってこない!」
「オレもだわ!テメェのせいでなんの話してたか忘れちまったっつの!!」
「ツライ!キツい!もう無理!!我慢の限界!!助けてアルゥウウウウ!」
「……はぁ……お前は本当に……あぁもう面倒くせぇ。待ってろ。」
緊迫して居た雰囲気を一瞬で破壊したモブちゃんを番犬くんが背中から下ろしたかとおもえば、彼は見たこともないくらい優しくモブちゃんを抱きしめた。
「ん…どうだ。」
「あー良き良き。有難や、これでやっと集中できそう……というかあったかくて眠くな」
「この状況で寝たら蹴り飛ばすからな。」
「イヤダナー。眠クナンテナイデスヨ。」
苛立ちげな口調とは裏腹に、目を細めて優しげにモブちゃんを見つめているこの人は、一体誰。
そして震えていたはずの番犬くんの魔力は嘘のように安定を取り戻したことで、お爺様をさらに動揺させた。
「で、テメェは何者だ。」
「え、このまま続けるの?」
「あ"?文句あんのか。」
「いや……えっと、僕はエミリーのお爺様だよ。」
「え!?お爺様!?どこに!?ご挨拶を!」
「落ち着け。」
キョロキョロと視線を彷徨わせるモブちゃんに首を傾げる。
目の前にお爺様がいるのになぜ分からないのか、それが分からなかった。
しかし番犬くんはモブちゃんの反応から何かを察したようで、探し続けるモブちゃんに手刀を繰り出し、再度腕の中に閉じ込め呟く。
「なるほど、テメェがエセ聖女の加護の本体か。」
「加護……?」
意味が分からずお爺様を見ると、困ったように眉を寄せるだけ。
その表情に番犬くんの話がまちがっていないことを悟った。
「あんな攻撃魔法をこんなど田舎でぶっ放しやがって。頭沸いてるとしか思えねぇよ。」
「それは僕じゃないよ。契約の魔女が放った魔法を跳ね返しただけさ。」
「魔力上乗せして弾き飛ばしたくせによく言うじゃねぇか。その手が何よりの証拠だ。護る存在である加護が人を殺めてみろ、消えてなくなんだぞ。エミリーを置いていくつもりか。」
ぐっとおし黙るお爺様に戦慄した。
急いで駆け寄り、お爺様に詰め寄る。
「お爺様、エミリーを置いていこうとしたの?」
「エミリー……」
「エミリー嫌だよ…もっとお爺様と一緒に居たいよ……」
お爺様と離れるなんて考えただけで心が引き裂かれそうなのに、お爺様はそうじゃないの?
堪え切れない涙が頬を伝うと、初めてお爺様の表情に後悔が浮かんだ。
「っうぇえええん!!」
「あぁそんな…エミリー。泣かないで。」
「お爺様の馬鹿ぁ!!」
怒りと悲しみに任せてお爺様を叩くと、力強く抱き締められる。
「ごめん、僕が悪かったよ。もう絶対こんなことしないから、だから嫌いにならないでエミリー。」
見上げた顔は金髪と金色の瞳。
いつものお爺様と離れる全くの別人だが、それでもどこかで見たことのあるその表情に心から安堵した。
「嫌いになんてならないもん!!うぇえええん!!」
「エ、エミリーちゃん……グスッ!!よかったね!!!」
「だからなんでお前が泣くんだよ。」
「こういうの弱いんだよぉおお!意味分かんないけど!何が起こってるか分かんないけどぉお!」
「……知ってる。ほらあのエセ聖女より先に泣き止めよ。まだ仕事が残ってんだ。」
そう言って2人が振り返った先には、最大の難関が待ち構えていた。