転生者たちと、小さな村の第二関門
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無心で剣を振り続けていると、腰に下げた魔法石が振動していたことに気がつく。
自分と連絡を取ろうとする物好きなんていただろうかと考えてみると、やけに重苦しいローブを被った女が脳裏に浮かんだ。
仕方なしに汗で濡れた上半身をタオルで拭いながら、魔法石に魔力を込めた。
「なんです?」
「あらぁつれないわねぇ。お取り込み中だったかしらぁ?」
「魔女と連絡を取っているなんて知れたら面倒なんですよ。そんなことに構っている時間があれば他のことをします。」
「さすがねぇ、天下のテオ・モルドーラ様ぁ?」
「はっ、思ってもいないことを。」
適当に羽織るものを見つけ周りに聞かれないように結界を張る。
長く伸びた自身の髪が汗で張り付かないように気をつけながら、再度魔法石へと声をかけた。
「それで本当に何の用ですか?くだらないことだったら許しませんよ。」
「酷いわねぇ……今日、仕掛けることにしたのよぉ。一応伝えておこうと思ってねぇ。」
決意を固めた声を聞いて一瞬動きを止めるが、ゆっくりと前髪を掻き上げる。
「それはそれは。準備に抜かりはないでしょうね?」
「えぇ。いよいよ魔物たちも到着する頃合いだものぉ。今日が1番いいわぁ。」
「私を見事に巻き込んだのですから失敗したら火あぶりにしますよ。」
「怖いわぁ。分かってるわよぉ。」
村への襲撃を確実に成功させるため、王都民を守るという大義名分でゲートを閉めさせる。
そしてクラウスへの情報源を絶つために、王を唆してあの面倒な弟を召集した。
仮にも奴は王都指定調剤師、王命とあれば逆らうことはできまい。
自分の仕事ぶりに溜息を吐きながらも、頬が喜びに緩むのを抑えられなかった。
これでクラウスを潰せればあの村はほぼ壊滅となり、ついにエミリー様が王都へとやってくる手筈が整う。
「でも本当に大丈夫なのぉ?魔物なんておびき寄せて、エミリーちゃんが殺されたりしないかしらぁ…。」
「そこは心配無用ですよ。彼女にはなんとも素晴らしい加護がありますからね。…とにかく貴方はクラウスの動きを封じて、そのお爺様とやらを始末すればいい。」
「…まぁ、エミラの信者であるアナタが言うなら間違いないでしょうけどぉ。」
「そこは信用してくれて構いません。あ、そうそう…私が渡したものは持っていますか?」
「えぇ、切り札でしょうぉ?持ってるわぁ。」
「よろしい。覚悟が決まるのであれば、どうぞ使ってください。私からのささやかな餞別ですよ。」
「……そうねぇ。使わないことを祈るわぁ。」
「ではもういいですか?私には仕事がありますので。」
「はぁいそれじゃあねぇ。また会いま」
ぶつりと魔力を切り、結界を解く。
するとコンマ数秒の差で部下が息を切らして私へと近づいてきた。
「テオ副隊長、お耳に入れたいことが。」
「なんですか。」
「死の森を抜けた大群が王都にまもなく近づいてきます。……本当に何もせずによろしいのですか?」
「えぇ、やり過ごせるならそれが一番です。無駄な犠牲を出すのは得策ではありませんから。」
「は、はぁ…あと女盗賊一派の数名の行方も分からないままです。この間起こった暴動で確認できた人物をまとめてありますが、お読みになりますか?」
「拝見します。」
手渡されたリストを数枚めくり、流れ作業でゴミ箱へと投下する。
しかしその中で一枚、大きな大剣を振りかざすピンク色の髪の少女を確認した私は訝しげに眉を寄せる。
「この少女が暴動に参加を?」
「なにか?」
「………もう頭角を現したか。」
「は?」
「いえなんでもありません。…とにかく今は警戒を緩めないように。私は王に状況を報告してきます。」
「はっ!!いってらっしゃいませ!」
服を着なおし、先ほどまで魔女とやりとりしていた魔法石を握りつぶす。
驚いたように目を見開いた部下に笑いを堪える。
「あぁ、もう必要ないのですよ。連絡を取る相手もこれでいなくなるので。」
不思議そうに首を傾げた部下の肩を叩き、先を急ぐ。
元から君のような脇役に理解できるとは思っていない。
そんな想いを込めながら足を運んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
失敗するわけにはいかないのに。
必死に足を動かして剣先を交わす。
なんとかしてこの状況を打開できないかと思考を巡らせるが、自身の肺はすでに限界を迎え息が上がってきた。
だから思わず心からの舌打ちをかましてしまったのは不可抗力である。
「諦めたか?」
「っそんなわけないでしょうぉ。今の私を殺せないなんてやっぱり田舎兵ねぇ?騎士の名が泣くわよぉ?」
「煽っても無駄だ。圧倒的に情報が足りないなか、問答無用で切り捨てるわけにはいかない。それに…魔女とはいえ戦う術がない者を斬るのは出来るだけ避けたい。」
顔をしかめて剣を構える甘い兵士さんを鼻で笑って一蹴する。
確かにあの魔物が成仏をしてしまったせいで、せっかく手に入れた攻撃手段も灰となって消えた。
もはや突破するためには切り札を使うのみだが、この兵士さんに使うわけにはいかない。
ああなんて忌々しい。
私は契約をしなければ魔法を使えない特異体質。
魔女なのに相手の攻撃を交わすことしか出来ないだなんて。
「……はぁ。」
息が続かない。
足が動かない。
こんなことではエミラの役に立てない。
ついに地面にへたり込んでしまった私は苛立ちげに兵士さんを見つめた。
「聖女エミラ様の知人とはいえ、貴様の行いは看過できない。大人しくしろ。」
剣先を首元に向けられ、冷たい感触が肌に触れた。
チラリと兵士さんの後ろへ視線を向けると、なんとも悲痛な面持ちでエミリーちゃんがこちらを見ているのが分かる。
「ねぇ魔女さん、エミリーはちゃんとお話しできるよ?こんなことやめて、なにを求めているのか教えて?」
「なにを求めているのか…ですってぇ?」
エミラの笑顔か、幸せか。
はたまたエミラのために生贄にした彼女の妹、エミロアの許しか。
どうせ魔物の大群がやって来たら無傷ではいられない。
覚悟が決まるのであれば、どうぞ使ってください。
テオの言葉が脳裏によぎった。
「そんなもの決まってるでしょうぉ?その聖女としての膨大な魔力をより純度の高いものにする…ただ、ただそのためにどうしても犠牲は必要なのよぉ!!」
黒いローブを脱ぎ捨てると兵士さんの目が見開かれていくのが分かった。
左半分が石のように固められた醜い顔面を晒したのは実に何十年ぶりだろうか。
祈るように胸元で手を組み、ただひたすら魔力を込めれば赤黒い光が私を包んだ。
「この魔法道具は魔力を与えるだけで大地を抉るほどの攻撃魔法を放てるのですよ。使用した衝撃で命を落とす魔法使いも多く製造は中止されたのですが、威力はお墨付きです。魔力を込めるだけなら貴方でもできるでしょう。まぁ、覚悟があればの話ですがね。」
「っ!エミリー様!」
魔法陣の色でなにかを見抜いた兵士さんは、エミリーちゃんを守るように覆い被さる。
一方のエミリーちゃんは淡い紫色の瞳を動揺で震わせて、私へと手を伸ばした。
「魔女さんやめて!!」
エミリーという人物は聖女になるために生まれた。
聖女エミラが望み、人間の王も民の幸せのために望んだから生まれてきたのだ。
それなのになんの価値もない老人が聖女としての成長を遅らせている。
聖女は孤高でなければならない。
エミラの邪魔をするのであれば刺し違えてでも仕留めてやる。
魔力を込めた右手を大きな洋館へと翳し、思いのままに吐き捨てた。
「出てこないというのなら、隠れ蓑ごと破壊してあげるわぁ!!」
「ダメ!魔女さん!!
逃げて!!」
「やぁ、契約の魔女。」
聞き覚えのある青年の声に耳を疑った。
忘れもしないその声色は杖をついた老人から発せられたようである。
床まで伸びた長いヒゲを梳かしながら歩いて来た人物は、閉じていた目を開き金色の瞳を輝かせた。
「僕の愛しいエミロアを犠牲にしただけでなく、エミリーの話し合いという優しさを撥ねつけるなんて許されることではないよ。僕はすぐにでも貴方を魔物の餌にしたかったのに。」
走馬灯のようにテオ・モルドーラの言葉が蘇る。
彼女にはなんとも素晴らしい加護がありますからね。
「ま、まさか勇者リュード…生きて…」
魔法道具から放たれた攻撃魔法はいとも簡単に弾き飛ばされ、魔力をほとんど使い果たした私へと襲いかかった。