転生者は、可能性を垣間見る
「ああ!逃げた!」
「捕まえろ!逃すんじゃないぞ!」
「「おおー!」」
断片的に記憶が蘇る。
これは……なんの風景だろう。
大勢の人に囲まれて痛めつけられている少年。それを私はどこか遠くから見ている。
「悪魔の子め!」
「お前が村に来たせいで、この村は終わりだ!!」
「よくも!よくもよくも!!」
悪意、悪意、悪意。
その少年の周りには悪意しかない。
けれども少年にはそんなこと、どうでもよかった。彼の家族はもういない。辛うじて、彼を繋ぎとめていたあの存在は、もういないのだ。
「はっ……ありがたく思えよカスども。散々世話になった礼だ……。」
「な、なんだ……この魔法は!」
村一面に巨大な魔法陣が広がり、村人から悲鳴が上がる。
「テメェらは死にたくねぇんだろう?安心しろよ…不死の魔法を掛けてやった。これで魔物に喰われても、例え首が胴体から離れても死にやしねぇよ。まぁ……痛みについては知らねぇけどな。」
少年が指を鳴らすと、あっという間に村人全員の首が飛んだ。
「お前らの望む通り!!!この俺が!!〇〇になって!世界を破滅に追いやる様を!!特等席で見せてやるさ!」
転がる首を蹴りながら、少年は狂ったように笑みを浮かべた。
その光景を見ながら私は呟く。
「うっわ……〇〇ルート、エグいわぁ…」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(な、なんだ今の……!)
頭が割れるように痛い。情報が頭の中に入ってくる。体内がかき乱されるようで、気持ちが悪い。
「なんだこいつ?動かなくなったぞ?」
「今のうちに追い出そうぜ!」
そう言った男の子の1人が、私を掴もうと手を伸ばす。
「おい、何してんだお前。」
空気が凍って、周りにいた子供達が恐怖で震えているのを感じる。頭蓋骨が割れそうな痛みに耐えながら、この空気を作り出した本人に目をやると……案の定。
(あ、アル………。)
赤髪は逆立ち、金色の瞳は今まで見たことがないほど鋭く、明確な殺意が込められている。そんな視線を普通の子に浴びせれば、子供達は恐怖で動けなくなってしまった。
「あ…お、お前……」
「何してんだって聞いてんだよ。」
一歩アルが踏み出すと、比例して子供達の体の震えは激しくなる。
(こ、これはマズイ。なにかは分からないけどマズイ。)
あの光景が蘇り、なんとかこの状況を変えなければと強く思う。
(これ以上、アルがこの子たちを怖がらせるのはマズイ。)
ならばやることはひとつだ。
「す、ストーップ!!!」
「「え?/は?」」
見切り発車でもいいから、この空気を変えること。想像通り、アルに向けられていた視線は私の方へと集まる。あ、でも何にも考えてない。と、とりあえず体調が悪いとだけでも伝えておこうか。
「いいですか皆さん……私は今、すこぶる体調が悪いです……!」
「な、なんだよ!それがどうした!」
(ですよねー!)
私自身なにいってるんだと思ったが、思わぬ人物がこの言葉に反応を示した。
「ぐ、具合悪いの?」
さっきの天使、エミリーちゃんが。アンタさっき私を追い出そうとか言ってなかったか。……ああでもきっと村の教えに従っていただけなのだろう。赤髪は危険だと教え込まれたのを信じているだけ。幼い子供であることには変わりない。なんとかしてこの雰囲気を変えなければ……その一心で言葉を紡ぐ。
頭痛は止まないが、構っている暇はない。
「うんそう!!ものすごく!!体調悪い!このままでは100%悲劇が起こる!」
「ひ、悲劇……?」
「なにが起こるの……?」
もはやアルに注目を向けるものは誰もいない。そのアル自身も訳が分からないという顔つきをしている。
(よし…いいぞ……このまま……)
あれ……悲劇………なににしよう。
やべ、何にも思い浮かばない。
最近起こった悲劇って……アレとアレぐらい。
「ねぇ、大丈夫?エミリーに出来ることある?」
天使エミリーちゃんが私に声をかけてくる。
確か、このエミリーちゃんはこの子供達の中心人物だ。ならばそれを利用しない手はない。
「ト、トイレまで案内して!!じゃないと可憐なエミリーちゃんにぶちまけてしまう!!」
「またそれかお前は!!」
アルは思わずといったように言葉を張り上げたが、周りのお友達はそうではないようだ。
「え、エミリーに!?そんな!だめだ!」
「私たちのエミリーが穢されるなんて!耐えられない!!」
可愛いは正義。
異世界でもそれは変わらない。ならこのまま押し切るしかあるまい。
「そ、そうでしょう!私もエミリーちゃんを穢したくはない!!ここは協力して、可憐なエミリーちゃんのために!!私をトイレまで案内しなさい!!今すぐ!」
「「「は、はい!!」」」
「ここには馬鹿しかいねぇのかよ!」
思わず周りの大人たちも呆れるぐらい、この光景はシュールなものだったという。
これは私が大きくなった後も語り継がれるのだが、この時の私には知る由もなかった。