契約の魔女の、誤算
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さてさて物語が進んできました。
今回はお騒がせ者の彼女に、焦点を当てていきます。
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鼻歌交じりに軽い足取りで歩を進める。
少しばかり石碑広場の方へ意識を向ければ、思った以上に貢献してくれている魔物の魔力を感じ取ることができた。
「ふふ、さすがあのメディシアナの眷属ねぇ。結構やるじゃなぁい?騎士様もタジタジねぇ。」
魔力はあるが考えなし。
よく言えば素直で悪く言えば単純。
感情を制御出来ず、ほぼ無敵と言えた自分に弱点を生み出してしまった彼女にそっくりである。
「探し物があるのねぇ?」
「……はぁ?アンタなに?」
怒りと憎しみ、怨みに震える赤い瞳が私を貫く。
血溜まりに沈む同胞たちが逃げろと生気のない瞳で訴えてきたがどうでもいい。
どうせいつか死ぬのだ。
ならば彼女の役に立って死にたかった。
「ふふ、こんなところを探してても見つからないわぁ。特別な子だものぉ、アナタみたいなお馬鹿さんでは一生見つからないわよぉ。」
「……随分な物言いができる魔女もいたものね。それとも周りにアンタのお仲間が転がっているのが見えてないのかしら!?」
淡いピンク色だった彼女の髪は一瞬で蛇の姿へと変わり、私の態度を叱咤するように威嚇する。
凄まじい魔力で押しつぶされそうになるが一瞬で奪い取れる命で遊び、胡座をかいている強者に私は大きな賭けに出た。
「ねぇ、アナタの呪いを解いた子の居場所を教えてあげるわぁ。そのかわり私を見逃してくれなぁい?」
「……あっはっは!!何かと思えばアンタ!仲間を売るつもり!?」
「だってぇ、死にたくないんだものぉ。」
「最っ高!!作り話にしては傑作だわ!!このメディシアナ様の前で大嘘をついた度胸は認めてあげる!!」
「嘘じゃないわよぉ。」
「信じるわけないでしょ!バッカじゃないの!」
「でもアナタは信じるわぁ。だって私、何でもできてしまうあの子が妬ましいのぉ。」
腹を抱えて笑っていた彼女は私の言葉に反応してゆっくりと視線を向ける。
その瞳は私の嘘を見抜こうと怪しく光る。
だが残念、嘘ではない。
「妬ましい、疎ましい。私はあの子……純潔の魔女が嫌い。」
「……………へぇ。」
「この感情ならアナタは理解してくれるし、信じられるでしょうぉ?」
「………。」
「アナタに任せるわぁ。でも私以外の魔女からあの子のことが聞けると思わないでねぇ?」
ニヤリと笑ったメディシアナは小さな眷属たちを宥め、初めて私と向かい合う。
「どう?私はアナタに純潔の魔女の居場所を教える、そのかわりアナタは私に手を出さない。いい契約だと思わなぁい?」
「本当に純潔の魔女って奴がアタシの呪文を破った魔女なんでしょうね?」
「そうよぉ。あ、ならこうしましょうかぁ。実際に会ってアナタが違うと感じたらこの契約は無効。その時は私を殺すといいわぁ。そのかわり、アナタが納得をした場合に私に手を出そうものなら……相応の覚悟をしてもらうわよぉ?」
「あっははは!!いいわ!!乗ってやろうじゃない!」
そして私は
この賭けに勝った。
「数百年前に犯した主人の過ちを繰り返しちゃうなんて…お間抜けさんよねぇ。」
可哀想なことをしたとは思う。
魔物とはいえ成仏するべき魂を利用した私は、きっと悪者なのだろう。
だが仕方ない。
あの騎士様を足止めする方法は、これしか思いつかなかった。
(エミラ、心配しないでぇ。私はアナタの役に立つわぁ。)
チリっと痛む傷跡を隠すように黒いローブを被り直し、エミリーちゃんの家を目指して歩き出す。
時は来た。
ネックだった騎士様はあの魔物の相手で忙しいし、目的地の前にはガタイのいい騎士ただ一人。
彼は騎士様よりも非情になりきれない、よって私に勝機がある。
そして、
「貴方には何の利益もないと分かった上で頼むわ。お願いパルメ。」
「…覚悟は決めたのねぇ。」
「えぇ。」
「いいわぁ。アナタの魔力を全て貰い受ける、そのかわりその子との最期の時間が平穏に過ごせるように…私が助けてあげるぅ。」
「…ありがとう。」
アイリーンの息子には過酷な現実を、遠回しとはいえ突きつけた。
事実を知ったあとで私と再度顔を合わせる余裕はないだろう。
「止まれ。」
気がつけば大きな洋館の前に辿り着いていた。
一人でその場を守る騎士の、鞘に収めた剣を地面に突きつける音で現実に意識が引き戻される。
「随分と遅い到着だな。」
「ふふ、ごめんなさいねぇ。待ったぁ?」
「そのまま帰ってくれて良かったんだぞ。」
「まぁ酷いわぁ。可憐な乙女の心が傷ついちゃうじゃないのぉ。」
クスクスと笑い声を零せば、面白いぐらいに殺気を強める騎士。
私は契約を結ばないと魔法が使えない特異体質だから、正攻な殺し合いだと分が悪い。
だからこの時のために用意しておいた秘策を披露するため私のローブを少し上に持ち上げれば、ローブの下から小さな蛇が大量にこぼれ落ちた。
驚いたように目を見開いた彼に、私は言葉を続ける。
「ご存知の通り、私とあの魔物は晴れてオトモダチとなったのぉ。この子たちは私の言うことを聞いてくれるお仲間よぉ?アナタの行動次第によってはぁ、村人全員が命を落とすことになるわぁ。」
「っ!」
「時間がないから簡単な話よぉ。そこを退けばいいのぉ。大丈夫よぉ、エミリーちゃんには手を出さないわぁ。」
「……断る。」
「立派な忠誠心は結構だけどぉ、少し横にずれるだけで守れる命を見捨てるつもりぃ?」
拳を握りしめ深く考え込む騎士を見つめながら、ある男の言葉を思い返す。
「あの男は騎士団長よりも甘いですからね、なんの価値もない命ですら見捨てることができないんですよ。エミリー様を守るための騎士である私たちにとって、仇となる優しさです。そこを突けば簡単に突破ができるはずですよ。」
確かに優しすぎる。
どちらを選ぶにしても、もう片一方の魔物がメディシアナに私のことを報告しているはず。
その時点で全滅は決まった運命なのに、必死に頭を巡らせるその頑張りに拍手を送りたい。
悩んだ末に彼が苦しげに眉をひそめたと同時に、洋館の扉が大きく開いた。
「こんにちは!魔女さん!」
「っ、エミリー様!」
エミラと、あの子によく似た少女が私に微笑みかける。
愛おしさと憎らしさと、悲しみと。
その思いを全て込めて私も負けじと微笑み返す。
「あらぁこんにちはぁ、エミリーちゃん。アナタから来てくれるなんて嬉しいわぁ。」
「エミリー様!お下がりください!ここは私が!」
「この魔女さんはエミリーとお爺様に会いに来たんだよ?ちゃんとおもてなししなくっちゃ!」
「エミリー様、お言葉ですがこの魔女は村人を人質にとるような輩です!見過ごすわけにはいきません!」
キョトンと数回瞬きしたエミリーちゃんは、その後可笑しそうに笑い声をあげた。
「うーん、魔女さんの計画は失敗じゃないかなぁ?」
「…どういう意味ぃ?」
「ふふ!ねぇ魔女さん、モブちゃんのこと忘れてるでしょう?」
「それってまさか、レイちゃんのことぉ?」
「そう!あたりー!」
村の中を物色していた際に出会った、魔力をほとんど感じられない少女。
妖精が近くを飛んでいたから少し不思議に思ったものの、両親が妖精牧場の経営者と知り納得した。
なんの取り柄もない、ただの一般人。
そんな彼女の存在が、今この場で話題にあがる理由がわからない。
再度口を開こうとすると背後から凄まじい魔力のぶつかり合いを感じた。
これはあの騎士様の魔力ではない。
そしてしばらくの間、この魔力を隠し続けていたからこそ分かる。
このたった数日で洗練され、力を増しているということに鳥肌がたった。
「どういうこと…?」
なぜアイリーンの息子があの場に立っていられるのだろう。
「あ、分からないって顔だね!えっとねー、つまりねー!」
面白がるように口元に手を当てたエミリーちゃんは、大きな声で叫ぶ。
「うん!愛って偉大なんだよ!」
「愛は偉大なのよ!」
その言葉、前も聞いたわぁ。
記憶の彼方に押し込んでいたあの子の笑顔が蘇ると、足元で待機していた小さな蛇たちは灰となって風に運ばれた。