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転生者たちは、第一関門を突破する

いつもありがとうございます!!


寒い日が続き、ようやく今年が終わるんだなと実感が出てきました。

あとできれば今年中に何回か、更新していきたいと思います!!


今後もよろしければブックマーク登録、評価、感想などお待ちしております^_^




やっぱりこうなるのね。


込み上げてくる酸っぱいものを飲み込もうと必死に耐える。

合わせて周りの戸惑いの視線からも逃れようとアルの腕の中で縮こまると、何かに気がついたように彼は低く呟いた。


「お前まさか………ポーションを。」


え、なんで分かるんですか。


肯定の意味を込めて一度頷くと、小さく「馬鹿」と罵られた。


小瓶に入った、淡い紫色の液体が完成したのはつい先ほど。

リリーちゃんたちが持ってきてくれた材料で使えるものはありったけ使って量産し、毒に侵された兵士さんたちに使うように医療班にいくつか託した。


ただその結果、私の右手は急に与えられた高濃度の魔力に反応して疼きだす。

そしてなんとか引っ張られる身体を押さえるべく、マリーちゃんの背中に張り付いてここまできたというわけである。

覚悟していたとは言え、どう転んでも辛いことしかないこの状況に涙が出てくるぜ畜生。


一言も言葉を発せられないこの状況にため息を吐いたアルは、背中に回した手をゆっくりと一定のリズムで動かして私へ声をかけた。


「…そうやって我慢してるといつまでも治らねぇぞ。」


え、それは…()()()()()ということ?

いや無理だから。

可愛い女の子の前でそんな失態を犯すなど、私のなけなしのプライドが許さないから。

必死に首を振り反論すると、少し強めに抱きしめられた。


「無理に耐えている方が身体に悪りぃ。分かるな?」


「うう…」


「唸っても仕方ねぇぞ。ほら。」


だってでも、え、本気で?


祈る思いで視線をアルに向けると、彼は目を細めながら安心させる声で呟いた。


「心配すんな。側にいてやるよ。」


「…うう……」


そんなこと言われたら陥落せざるを得ないじゃないか。


ポロポロと自身の頬に涙が零れ落ちると同時に、私は抵抗するのを諦めた。

その瞬間をすかさず見極めたアルは、光の速さでリリーちゃんからエチケット袋らしきものをふんだくった。









◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇









「グスッ……うえ…」


「まだ気持ち悪りぃか?」


「う"ん……ヒッグ……」


「そうか。我慢すんな、全部出せ。」


「っなんなのもうぉおおおお!優しいかよぉおおおおぉえぇええええ!」


「おい、叫ぶか吐くかどっちかにしろ。」


アルの言う通りに一通り黒歴史を更新した後、先ほどまでの体調よりも遥かに良くなった。


「なぁ、あの2人ってあんな距離感だったか?」


「俺たちが見てない間になにが…」


「あとでキッドとダンテに伝えよう。」


「彼女欲しいわー…」


『レイちゃん大丈夫?』


さまざまな人の声が聞こえる中、心配してくれている妖精たちの声が聞こえる。

頷きで妖精たちに返事をすると、嬉しそうに喜んだ。


「アル、ありがとうね。」


「…おー。」


少し照れたように返事をするアルに微笑んでいると、今度は背後からリリーちゃんの声が聞こえてきた。

同時に頭を引き寄せられ、アルの腕の中に逆戻り。

離れようとすると苛立ちげな舌打ちが聞こえ、つい身体を硬くした。


「レイ!大丈夫か!?」


「それ以上近づくなクソピンク。……そもそもテメェは誰だ。」


「アンタに名乗る必要性を感じないから嫌だ!!」


「はぁ!?んだとゴラァ!!」


「お、落ち着いてアル…こちらリリーちゃん…私の友達…。」


()()だぁ?」


不穏な雰囲気に頑張って顔を上げ、アルにリリーちゃんを紹介する。

だがそれによってさらに青筋を浮かべたアルに疑問しか湧いてこない。

するとリリーちゃんは小馬鹿にするように言葉を続けた。


「そうだよ!アンタの()()()()ところで、アタシとレイは仲良くなったんだ!ちょっとだけレイと仲良いからって調子に乗るなよ!」


「あ"!?コイツの()()()()すらまともに対応できねぇ分際で息巻いてんじゃねぇぞ!とっとと帰れ!!」


「アンタだってレイの()()()()をなんとか出来たのは、アタシがちょうどいい袋を持ってたからでしょ!自惚れてんのはそっちだ!アンタこそ帰れ!」


「オレはこの村に住んでんだよ!!」


ねぇ、なにこれ。

とにかく「ぶちまけ」を連呼しないでもらっていいですか?

私の大切なにかが粉砕されちゃうんで。

それにしても…


「なんか似てる…同族嫌悪?」


「「誰がコイツと同族だ!!」」


やべ、聞こえてた。

小さく肩をすぼめながら視界をずらすと、離れたところでクラウスさんがうつ伏せで倒れているのが見えた。

必死にクラウスさんに呼びかけているムーンさんたちの姿を見て手の疼きを我慢しながらアルから身体を離し、急いで駆け寄ると疲れた表情のクラウスさんが私を見る。


「…あぁモブロード嬢。気分はどうだ。」


「私の心配よりも大丈夫ですかクラウスさん…!」


「大丈夫だ…だが背中に衝撃を喰らってから動けなくてな。こうやって体力を温存しているんだ。こんな格好ですまない。」


「クラウスさんをここまで追い詰めるなんて、相手がそんなに強かったんですね…」


「いやこれはア」


「安心しろクラウス、害獣はあの通り処理済みだ。」


リリーちゃんと言い争っていたはずのアルが一瞬でこちらに駆け寄り、私とクラウスさんの間に割って入る。


「まだ決着は付いてない!!逃げるな!」


「はっ、テメェと話してても時間の無駄だ。オレは忙しいんだよ!」


「ふん!そんなこと言ってレイの横を陣取るつもりだろ!手に取るように分かるぞ!!でも残念だったな!アンタよりもランディの方がよっぽどレイにお似合いだ!」


「あ"!!!?どういう意味だゴラァ!!!テメェはアイツの回し者か!上等だぶっ殺してやらぁ!!」


「ちょっとアル…あ。」


アルのとんぼ返りを咎めようと口を開くと、少し離れたところの空間が歪んでいるのが見えた。

空中に浮かんでいる剣が多少上下に動いていることから、そこに何かいるのだろう。


『これで安心だネ!』


「安心?」


『ウン!もうあのヘビはほとんど魔力は残ってないヨ!復活の元になった怨みの感情ハ、死への恐怖に塗り替えられたシ!!このまま消えてなくなるヨ!』


それもなんだか、可哀想な話だ。

死への恐怖の感覚は私でもすくみあがるほど。

トラックが目前に迫ったあの瞬間の恐怖は、例えようのないものだ。

それを抱えてゆっくり死んでいくなど、あまりにも救いがない。


数秒迷った私はムーンさんに声をかける。


「ムーンさん、クラウスさんにポーションを渡してあげてください。濃度は薄めてないので、数滴で効くと思うので。」


「分かったよレイちゃん。仲間もこれで助かってるからな、本当ありがとう。」


「は!?おいお前、なに馴れ馴れしくしてんだ!」


「…あと預かってもらってた幸福の花、もらっていいですか?」


本当喧嘩しながらよく見てるよな、こっちのこと。


それでも気にせずムーンさんに声をかけると、彼は一度頷いてカバンの中から綺麗な黄色に輝く大輪の花を取り出した。


幸福の花。

その蜜は蜂蜜のように透き通っており、そこから香る匂いは生き物を幸せな気持ちにさせるという不思議な花。

人間に対しては効果はあまりないため、妖精牧場でも妖精たちがご乱心の時に使う…私にとっては使い慣れた植物である。


「ありがとうございます。」


「どうするんだ?」


「お供えしてきます。」


「お供えって…おい!」


クラウスさんのそばから立ち上がり、空間が歪んでいる場所まで駆け寄る。

するとさっきまで喧嘩していたはずのリリーちゃんとアルが私の前に立ちはだかり、怒ったように続けた。


「なにしてるクソモブ。」


「お、おお…早いな。これをお供えしようと思っただけだよ。」


「魔物に近寄るなんて自殺行為だよ。死にかけとはいえ、コイツは上級魔物だ。レイなんて一瞬でやられちゃうよ。」


「そうだね。じゃあ近くで見守ってて。」


「おい!」


「大丈夫。」


不安そうに瞳を揺らすアルに微笑むと、彼は数秒息を詰まらせる。

その後諦めたように大きくため息を吐いたアルは私へと手を差し出した。


「ちょっと!なにしてんのさ!」


「こうなったら言うこと聞かねぇんだよ。だったら1人で突っ走られるより、こうした方がいい。…ほら来い、モブ。」


「うん。ありがとう。リリーちゃんもありがとう、大丈夫だからね。」


アルの手を取り、リリーちゃんにも微笑みかける。

アルと2人でその場所まで移動すると、腹の底に響く不気味な声が聞こえた。


「…ナニ…しにきた…ワケ…」


「お供え物。」


「フザケ…殺ス…まだ…ヤレル……」


ズルズルと身体を引きずる音が聞こえるが、アルが動く気配はない。


「ねぇアル、顔はどこにある?」


「……そこだ。」


指差した方向へ幸福の花を差し出し、小さく振るわせる。

すると甘く華やかな香りが風に乗って広がっていった。


「……ア……イヤ…」


「大丈夫、そばにいるよ。」


「ドコ…メディサマ…?…メディ…サマ…?」


「ごめんね、メディサマじゃないけど…私はレイ。」


「レイ……?」


「貴方のやったことは悪いことだから反省はして欲しいけど、突然呼び起こされたらびっくりするよね。怖かったと思う。もうゆっくり休んでいいんだよ。」


「イヤ……コワイ…レイ…ワタシ…キエル…」


「…ねぇ知ってる?人生って2度目があるんだって。」


「ホント…?」


「そう。だからあちらで悪いことを償って、今度はいい人になって私たちを助けてね。待ってるから。」


「………フン、気が向いたら、ね。」


宙に浮いていた剣が地面落ちる。

虚しげな金属音が響いたことで、蛇の身体は消えてなくなったことが分かった。


「本当に人生に2回目があると思ってんのか?」


「あるよ。」


「根拠は?」


「………勘、かな。」


まさか私自身がそうだとは言えない。

幸福の花を地面に置いて立ち上がると、アルは小さく呟いた。


「まぁ確かにアイツ、1回死んでるからすでに2回目か。」


「あ"。」


「二度あることは三度あるって言うしな。…待ちてぇなら気長に待っとけ。」


そうだったと頭を抱えていると、優しく髪を撫でられた。

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