転生者たちと、小さな村の第一関門③
いつもありがとうございます!
いやーまた多くのキャラが動き始めました。
新兵三人組の初登場シーン、皆さん覚えてるでしょうか…。
なんだかんだ言ってお気に入りトリオです。
さらに新兵トリオに加えて懐かしい人物が参戦する予感。
ぶっ込んでいきましょう。
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「ま、魔物の大群…?」
怯えたように呟く兵士さんは、信じられないと首を振る。
「この村には狙うものは何にもないよな?」
「まさかエミリー様の存在がバレたんじゃ…」
「そんなわけない…ここには勇者リュード様の加護があるはずだ。」
「でも実際にそんな加護は見たことないぜ?」
よく分からない単語が羅列するなか、存在を忘れて欲しくなくて一度大きく手を叩く。
「逃げるのであれば村人の誘導とか、助けを求めるのであれば王都に連絡を取るとか…とにかくなんとかしてください。」
「清々しいくらい大雑把だなお嬢ちゃん!」
静かに顎に手を当てて考え込んでいた1人の兵士さんは、おずおずと手を上げて私へと問いかける。
「その話、少年…アルフレッドにはしてるんだよね?」
「?はい。」
「で、彼はその魔物の話を信じた…。」
「そうですね。白玉は嘘をつくような悪い子じゃないですから。」
「当たり前っす。失礼なことを言うなら胃液で溶かしてやるっすよ。」
「その言葉に若干不安は残るけど…でも、彼が信じたならきっと本当なんだろう。」
言い切った兵士さんの言葉に数回瞬きをすると、苦笑しながら彼は続けた。
「アルフレッドは一緒に訓練を受けている仲間だろう?俺たちが助けてやらないと。」
「…確かに。」
「いいところばっか持ってかれちゃたまんねぇよな!」
そう言って互いに拳を合わせあう男たちの姿に私は打ち震えた。
なんだよおい、私の説得なんて必要ない。
ちゃんと信頼関係を築けているじゃないか。
私こういう展開に弱いんだよ畜生。
アルのお友達の言葉に目頭が熱くなり、指で押さえながら震える声で呟く。
「グスッ……!兵士さんたち…!どうか今後とも末永く、アルをよろしくお願いします!」
「おお…」
「いいなぁ彼女…俺も欲しい。」
「…あ、自己紹介遅れましたが私はレイ・モブロードです。アルのお母さんではなく、幼馴染やってます。」
いかん、溢れ出る母性本能のせいでまるで母親のような小言を言ってしまった。
気を取り直して私も3人の真似をして拳を突き出すと、すぐに笑った3人組も拳を合わせてくれる。
「よろしくな!俺はキッド!」
笑顔がステキな青年、キッドさん。
「俺はムーン。よろしく。」
控えめに微笑む青年、ムーンさん。
「そういえばお礼を言えてなかった…さっきは手を貸してくれてありがとうな。俺はダンテ。」
優しいお兄さん臭溢れる青年、ダンテさん。
幼馴染の素敵な友人三人組に向けて、私は大きく頷いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「そうと決まれば隊長たちに伝えないと。」
というダンテさんの意見の元、私たちは一斉に立ち上がり気合いを入れるとなにやら関所が騒がしいことに気がついた。
「なんだ?…はっ!もしかしてもう魔物が!?よぉしそれならレイちゃんは俺の背中に隠れてくれ!」
「ネェさんにあんまり馴れ馴れしくするとオレの毒牙がアンタの喉を切り裂くっすよ人間。一体誰のものに手を出そうとしてるか、身の程をわきまえた方がいいっす。」
「ちょ、え、怖…」
「なぁどうしたんだ?」
焦ったように関所入口へ向かう兵士さんたちをダンテさんが引き止めると、その兵士さんは苛立ち気に口を開いた。
「この混乱の最中乗り込んできたんだよ!
女盗賊一派がな!!!」
「な、なんだと!?」
「クラウス騎士団長もリチャードさんもいないが仕方ねぇ!俺たちで追い払うぞ!」
殺気立った兵士さんたちが通り過ぎて行くのを見つめながら、私は三人組に問いかける。
「女盗賊一派?」
「あぁ。王都で出没している悪党でよ、路地裏を縄張りとしているがその強さは折り紙つき!」
「特徴は三つ編みと頬につけた紅、そして身の丈と同じ大剣って聞いた。」
王都、路地裏、三つ編み、頬につけた紅、そして大剣。
キッドさんとムーンさんの言葉から1つ、ある人物が浮かび上がる。
ハイパーグレードポーションを授けたお返しに、私にプレゼントをくれたピンク色の髪の女の子。
ピィーーーッと聞き覚えのある笛の音が聞こえたことでより答えは明確となった。
「誓いの笛だ…!仲間を呼ばれると厄介だからレイちゃんは隠れて…ってあれ!?」
「ネェさんどこ行くっすか!?」
後ろから呼び止められる声が聞こえるが放っておいて足を進める。
「だから!アタシたちはアンタらに喧嘩を売りに来たわけじゃないんだってば!」
「だったら何のためにそんなデカい馬車に乗ってきたんだ!中身を見せろ!」
「嫌だ!これは家族のためのものだ!」
「…リリー、コイツらに説明しても無駄じゃない?片付けちゃったほうが早くない?」
「そうだねネェさん…!もう面倒くさいよ!!」
「ちょ、ちょっと待ってぇええ!?」
一触即発の雰囲気に焦りすぎた私は何もない地面に躓き転ぶ。
さらに若干の傾斜と走っていたスピードが助走となり、この騒動の中心部まで転がっていく。
そして不幸なことに転がってきた私を兵士さんたちが見事に避けたお陰で、2組が対峙する真ん中で仰向けで止まってしまった。
沈黙という名のプレッシャーが幼い6歳児に重くのしかかる。
そんな目でこっちを見るんじゃない。
いいか、一番理解出来ていないのはこの私だ。
苦し紛れに兵士さんたちの視線から逃れようと顔を背けると、対峙していた女盗賊の皆様も唖然とした表情で私を見つめている。
そしてその中には、見覚えのある少女の姿もあった。
兵士さんたちに向け構えられた大剣は、あの頃よりも少し大きくなっている気がする。
「あ、あの、えっと久しぶり…?」
あまりにも微動だにしないので声をかけてみると、その少女の瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
な、なんで泣いちゃう?怖かったの?
突然転がって来た人間が話しかけて来たのが嫌だったの?
やばい、客観的に考えれば確かにトラウマ案件な気がする。
可愛い女の子を泣かしてしまったという罪の意識からもはや立ち上がる気力すらなくなった。
誰でもいい。この私を罰してくれ。
「っレイ!!」
「ぐほぉ!」
そんなことを考えていると、お腹にかなりの衝撃が加わった。
見てみれば少女が大剣を持ったまま、私に覆い被さるように抱きついてきているではないか。
「会いたかった…!」
「い、息が……」
「あれからずっとちゃんとお礼を伝えられなかったことが気になってて…グスッ、このまま一生会えなかったらどうしようって思ってたんだ!」
今まさに別世界に魂が飛んでいってしまいそうだよ。
「ねぇリリー、恩人さんが死にそうじゃない?圧迫死寸前で大変そうだね?」
走馬灯が見えてきたあたりで茶髪の三つ編みお姉さんがお腹に抱きついていた少女を引き剥がしてくれた。
深く息を吸い込み肺に空気を送り込んでいると、反省したように少女は肩をすぼめる。
「ごめんね恩人、リリーは恩人が大好きだからね?殺したいわけじゃないからね?」
「ご、ごめんレイ…」
「いやいや大丈夫。私も会えて嬉しいよ。えっと…リリーちゃん?」
名前を呼ぼうとして自己紹介も出来ていなかったことを思い出す。
あの時はお互い大変な状況だったから仕方ないことだが、なんとも奇妙な縁である。
照れたように頬を赤らめた少女は私に手を差し出し、元気よく口を開く。
その瞬間、鈍い頭痛とともにある映像が浮かび上がった。
先が見えない洞窟内で、ギラリと光る大剣。
暗闇から歩いてくるのは腰あたりまで伸びたピンク髪の三つ編み少女。
左手に持っているのは煌びやかに光る宝石、剣を構える少年はどうやらアレを取り返したいようだ。
その少年の様子を眺めながら宝石を胸元に入れた少女は、挑発するかのように大声をあげた。
「よくここまで来た…褒めてやる!だが!この獲物はアタシのものだ!正義の味方だかなんだか知らないが、やれるもんなら奪い返してみな!!覚悟しろ〇〇!!」
「そう!アタシは女盗賊一派のリリー!よろしくレイ!」
久方にぶり返した頭痛に見舞われながら、その眩しい笑顔を目に焼き付けた。