〇〇は、出陣する
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はてさてどうなることやら。
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全身の細胞が動き出した感覚がする。
ゆっくりと目を開けば、よく分からない黒い羽毛が自分の呼吸に合わせるようにゆっくりと上下運動を繰り返していた。
これは一体なんだろう。
「気分はどうだ?」
羽毛が馴れ馴れしく話しかけてきた。
気分はどうかと言われても、というのが正直な感想である。
試しに動かしてみれば、ずっと長い間横になっていたかのように身体がバキバキと悲鳴をあげた。
「おいおい無理すんなよ?身体そんな丈夫じゃねぇだろ?おじさんによりかかっとけって。な?」
確かにこの羽毛は悪くない。
ふかふかで柔らかくて、何より魔力で満ち溢れている。
枯渇した自身の魔力を補うには…あれ?なんで枯渇してるんだっけ。
「おい大丈夫か?ど、どうしようアルファ…!」
「目覚めたばかりなので記憶が混濁しているのでしょう。魔力指数は安定しておりますので、ご安心くださいませ。」
「そういうもんなの?俺がもっと暖めてやればマシになったりしない?」
「あははー!ガンマ様必死ー!」
がんま…ガンマ…ガンマ?
その名前を聞いて一気に記憶が蘇る。
勢いよく起き上がって黒い羽毛を見直せば案の定。
「なんだ!?あ、トイレか?」
抱き抱えようおこちらに翼を伸ばす黒い魔物の姿があった。
上半身は鷲、下半身はライオン。
ギラリと光る鉤爪を使えばどんな生き物も一瞬で刈り取ることが出来るその姿は、まさしく黒きグリフォン。
「キミがその姿になるなんて珍しいね、ガンマ。」
「というか俺の質問に答えてくんない?トイレなら俺が運んでいくけど」
「その姿嫌いだって言ってたのに。」
「ブレねぇなお前。……まぁ確かにそうだけどよ、ダニエルが元に戻るまで少しの刺激も与えないようにするには俺のこの翼で優しく包み込むのが一番だろ?グリフォンの羽根から得る魔力は効果があるらしいからな。」
「他の奴の魔力がまとわりつくって嫌な感じ。あとでお風呂入ろーっと。」
「俺は汚物か何かなの?」
身体中にくっついている黒い羽根を落とし、大きく伸びをする。
身体の修復はガンマのおかげで無事に成功したようだ。
一度魔力を込めて壁に向かって解き放てば、いつもよりは控えめではあるが立派な風穴が空いた。
「ジョーダンだってば。馬鹿みたいに抜ける羽根だけどちゃんと効果はあるんだねー。助かったよ。」
「お、おう…一応グリフォンの羽根って貴重品だからな?まぁそこまで元気になってくれたなら元の姿に戻った甲斐があったってもんだ。………穴は自分で塞げよ?」
一度赤い瞳を輝かせたガンマは大きく魔力の流れを変換させ、見慣れた長身の人間の男へと姿を変えた。
黒い翼を数回バタつかせて折りたたむと、彼の眷属たちの頭を撫でて褒美を与える。
彼はボクよりよっぽど人間らしい心の持ち主だ。
「起きたばっかりで悪いけどよ、おじさんは色々と聞きたいことがあるんだわ。」
いつのまにか新調されていたソファに腰掛けるガンマに、ダニエルは真正面から向き合う。
「それで?なにがあった?ダニエル。」
「…今ボクが一番答えにくい質問だね。」
記憶の底で目に焼き付いた赤がチラついた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「いや待て待て。」
「なに?」
「確かに俺は覚えていることを言えって言ったけどよ、そういうことじゃなくて。」
「何が言いたいのさ。」
そのボクの言葉を合図に、とうとうガンマは新品のソファを引き裂いた。
「こと細かくお前の皮膚が焼けただれた描写を伝える必要はないって言ってんの。分かる?聞いてるだけでおじさん涙出てくるんだけど。」
「えー?ボクもっとダニー様の話聞きたいなー!」
「まだまだこんなものじゃなかったよ。もっとこう…」
「待て。いいか?俺が知りたいのはお前をそこまで追い詰めた奴のことだよ。」
だからそれが難しいと言っているのに。
期待した眼差しでこちらを見るベータの頭を撫でてやりながら、ボクは深くため息を吐いた。
「さっきも言ったけど断片的にしか本当に思い出せないんだよ。忘却魔法でもかけられたのかもねー。」
「忘却魔法って…おいおい。それなら相手は相当な魔法の使い手ってことだろう?ならメディシアナの呪いを解いたやつもソイツだ。収集の魔女はお前が捕まえてたから手出しは出来ねぇはずだし。」
「あー、そういえばそうだったね。で?あの魔女はどうしたの?」
「…お前から話が聞けると思ったから、煩いメディシアナに任せちまった。」
「あらら、じゃあ死んだね。残念。」
「まさかの旧ギルド本拠地しか手かがりがねぇなんて…。」
真剣に頭を抱えてしまったガンマを尻目に再度自身の記憶を呼び起こす。
思い出せるのは旧ギルド本拠地、青い液体、金色の瞳、そして鮮烈な赤。
また久方に感じた闘いの高揚感が燻る。
「多分そこで闘ったんだろうな。うーん惜しいなー。なかなか刺激的だったことは感覚で分かるんだけど。」
「…ガンマ様、以前メディシアナ様からお伺いしたアレについてはお尋ねになりましたか。」
ガンマに紅茶、ボクにお菓子を持ってきたアルファが無表情のまま言葉を紡ぐ。
メディから聞いたアレとはなんだろうか。
あのお馬鹿な蛇の言うことをいちいち間に受けていたら話が進まないのは、アルファも重々承知しているはずである。
それに何処となく脳がアレを求めている気がした。
「あー、アレな。確かにあったな。」
「なになに?アレって言われても分からないんだけど。」
「お前のオモチャが帰ってきてからずっと同じ単語を繰り返すんだ。あれはお前が唯一連れて行った奴だろう?だからなにか意味があるのかと思ってよ。えっと……なんて言ったかな…。」
「お忘れですか?確か」
一向に思い出す様子のないガンマに痺れを切らしたようにアルファが口を開くと同時に、隣の部屋から大きな破壊音が聞こえてきた。
「メディシアナか。」
「いつものことじゃん。放っておきなよ。」
「…いや、いつもより荒れてんな。ちょっと確認してくる。」
「えー?ちょっとガンマー。」
「すぐ戻るって。」
ガンマはボクの頭を数回撫でた後腰を上げ、隣の部屋へと繋がっている扉を開ける。
すると一瞬で彼の身体は後ろへ吹っ飛ばされた。
「「ガンマ様!」」
彼の忠実な眷属たちが壁に突き刺さり痙攣しているガンマを引っ張る姿を横目で見つつ、アルファが持ってきた黒い魂を口に運ぶ。
「わーお、大暴れじゃん。」
「煩い。」
ギチギチと彼女の髪の毛一本一本が不気味な歯ぎしりをたてながら、鋭くこちらを睨みつけた。
肩を少し上げてとぼけてみせると、さらに耳障りな奇声をあげて威嚇してくる。
「はいはい、もー怒ってるだけじゃ分からないじゃないか。言ってみればー?今なら聞いてあげるよ。」
「怒ってるわけじゃないわ…アタシは、そう。嬉しいのよ。」
「え、嘘でしょ?それ喜んでるの?」
「契約の魔女。」
彼女が淡々と吐き出したその言葉に納得した。
「あー、なるほど。」
「ついに見つけたわ。」
「ねぇメディ、」
「アタシのプライドに傷をつけたあの女をズタズタに引き裂いてやる……!!」
「メディ。」
少し語尾を強めると、虚ろな目が初めてボクを捉えた。
「キミはあの契約の魔女と契約を交わしてるんだ。あの魔女を魔女狩りから見逃す代わりに純潔の魔女の居場所を教えるという契約だよ。いくらお馬鹿なメディでも忘れてないよね?」
「…………。」
「キミが直接手を下したら、太陽の光で身体が蝕まれる程度では済まないよ。それほどあの魔女の力は絶対だ。」
悔しそうに顔を歪めたメディは苛立ちげに壁に風穴を開けた。
なにが嬉しい、だ。
やっぱり怒ってるじゃないか。
癇癪を起こした子供のように当たり散らすメディを復活したガンマが捕まえた。
「よーしよし可愛いメディシアナ。この森にいる魔物どもを使ってその魔女を消してやろうじゃないの。どこにいるんだ?」
「……っあの村!!黒蛇と白蛇がいる村!」
「なんであんなとこにいんだ?」
「知らないわよ!!白蛇が連絡してきたの!!くぅぅうううう!!ムカつくムカつくムカつく!」
「おーおー、そうだ分かんねぇよな。悪かったって。よーしよしよし。」
いつも通り暴れ始めたメディの様子にボクとガンマは少し安堵する。
「アルファ、ベータ。」
「はい。」
「はいはーい!」
ガンマの掛け声に背筋を正した2人は指示を待つ。
そして普段一緒にいるボクでさえ寒気がするほど、絶対零度の声で指令を出した。
「村まで下級魔物を先導しろ。黒蛇と白蛇と合流して村を襲い、契約の魔女の首を必ず持ち帰れ。
邪魔する奴は……
皆殺しだ。」
「仰せのままに。」
「おっまかっせをー!」
前言撤回、彼ほど魔物らしい奴はそういない。
血の海となる村へ合掌しながら、窓から飛び出したアルファとベータを見送った。