転生者は、村へと到着する
のどかな雰囲気だなと思った。
街ほどは人はいないけれど争いもなさそうな、The・田舎の村といった感じだ。うん、この村から出ないようにすれば長生き出来そうだ。…………それなのに。
「なんでそんな離れて歩くんですかね。」
「さっさと歩け!置いてくぞノロマ!」
「いや、ほとんど置いてかれてるって。」
私と一緒に村に来たはずの彼が、3メートルくらい離れて歩くのはなぜなんだ。
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村へ行くと決めたあと、互いの保護者を説得するべく一時解散となった。しかし、私の両親を説得するのは至難の技だった。
特に父親なんて
「男と2人きりなんて許せない!!」
とか言って頭を掻き毟っていた。自分の親ながら狂気しか感じない。母親も私に村へ行くのを諦めさせようと必死だった。流石に幼い子供2人だけでは許可しないか……と心がめげはじめた翌日。奇跡は起きたのである。
「アルが……お嬢さんと!おたくの娘さんのレイちゃんと遊びに行くと!!本当にありがとう!レイちゃん!いや、レイさん!!今まで友達なんてコヤツには居なかったもんで、ワシはどうしようかと思っていたんじゃ!」
なーんておじいさんが泣きながら我が家に突撃して来たのである。なかなかアグレッシブなじいさんだ。ほんとに病気なのかこの人。
その後ろを見るとかなり不本意そうなアルがたっていたが。
「そ、そうでしたか…」
昨日は頭を掻き毟り血走った目で私を村へ行かせまいとしていた父親だったが、その様子を見て断れないと思ったのだろう。半泣きになりながら今日、私を見送ってくれたのだ。
おじいさんなんて鼻水を垂らしながら、
「楽しんで遊んでくるんじゃぞ!」
なんて言って見送られる始末。
アル……どんだけ心配されてんのアナタ。
「ねぇ、おじいさんになんて言ったの?」
「あ?………別に。お前に誘われたから一緒について行くって言っただけだ。」
「え、村に行くとは伝えてないの?大丈夫なの?」
「…………変に伝えるからややこしくなるんだよ。ほら、早く行ってとっとと帰るぞ。」
道中も私がふざけてキレられての平和な感じだったのに。村に来るまでは普通だったのに。
「ちょ、ちょっと待って。」
さっきから何か焦ってるかのようにズンズンと先に進んでしまう。村とは言え人の通りは少なからずあるため、見失わないよう必死だ。
(というかどこ向かってるの。お店とか見たいんだけど。)
そんな思いでふっと視線をお店に向けると、店員が急いで顔を逸らす。おや?なんだ今の反応は?不思議に思い、ほかのところにも目を向けると皆が面白いくらいに散って行く。そういえば村に着いた時、酷く視線を集めていたような。
「ねぇアル…すごい避けられてるんだけど、もしかして私に妖精がめっちゃくっついてたりするの?」
そうやって前を見直すと案の定。
「うわぁ……いないわぁ……」
置いて行かれた。土地勘ゼロの私に一体どうしろと。あ、アルも村に来るのは初めてだっけ。お互い土地勘がないって…詰んだじゃん。
「迷子になった時はその場所から動いてはダメよ。私かエドワードが探しに行くまで、そこでじっとしていること。」
(まぁ村の中だし、そんな危険なこともないだろう。気長に待つか。)
迷子になった時の講義を母親から受けたことを思い出し、近くにあったベンチに腰掛ける。やれやれ、早速逸れてしまうとは。女の子と歩く時は注意するように教えてあげなければ。
「ねぇ!あなた1人?良かったらエミリーたちと遊ばない?」
アルに注意する内容を考えていたその時、鈴の音のような可愛らしい声が聞こえて来た。思わず目を向けると、緑色の髪を2つに束ねたなんとも可愛らしい女の子が私に話しかけてきていた。
(め、女神級のかわいさ!)
「ねぇ?聞いてるの?」
そうやって頬っぺたを膨らませてこちらを見て来る少女。なんだいその目は、睨んでいるのかい?ちっとも怖くないぞ?こっちはあの突き刺すばかりの視線に耐えてるからな。
「ごめん、聞こえてるよ。」
「良かった!エミリーね、一緒に遊んでくれる子を探してたの!あっちで遊ぼうよ!」
「え、あ、でも…」
そう言って強引に私を引っ張ろうとする少女。ああ分かる分かる。このくらいの年齢だと遊び盛りだもんね。どうやって断りを入れようかと思案していると、彼女のお仲間が次々と姿を現した。
「やめなよエミリー。そいつさっき悪魔の子と一緒に村にきてたんだぜ?」
「そうそう!そんな地味な子、一緒に遊んでもつまらないって!」
可愛らしい少女…はエミリーというのか?
その少女のお友達であろう男女含め4、5名が一気に私を取り囲む。
(ん?なんだこの感じ……)
「え、そうなの?エミリー知らないよ?」
「間違いないよ!赤髪と一緒に村に入ってきたもの!」
「きっと悪魔の子を使ってこの村を呪いに来たんだ!」
平和な村だと思っていたけど、どうやらそうでもないらしい。バレないようにちょっとずつ移動して、彼女たちの前から大人しく消えるとしよう。それでアルを見つけてすぐ帰ろう。そう思い動き出すと、目の前から不穏なセリフが聞こえた。
「呪いに来たならしょうがないね…。じゃあこの子を追い出して、村を守らなきゃ!」
「…………え。」
何言ってるのこの天使。いや天使なのか?
さっきまでと何一つ変わらない笑顔。けれど、それが何より子供の純粋な気持ちを表していて恐ろしい。
「最高だね!流石僕らのエミリー!」
「ならさっさと追い出そう!」
「私のお母さんも悪魔の子なんていなくなれって言ってたし!はやく追い出そう!」
ねぇアル、君は今どこに居るの。
レイ・モブロード。
この異世界に来て初めて、明確に恐怖を感じた。