転生者は、お泊まりする
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ようやく暗い話題が終わったのでいつも通りに……おや?アルフレッドの様子が?
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アルの家へと帰ればおじいさんが涙ながらに出迎えてくれた。
「よく帰ってきてくれてた……!」
「…腕…その…。」
「気にするな!こんなものすぐに治るわい!」
今回の件でアルとおじいさんの絆はより強固なものとなっただろう。
その仲直りの光景は涙なしでは語れない。
おじいさんに負けず劣らず鼻をすすりながら場の雰囲気を壊さぬよう一歩下がる。
「おいどこ行くつもりだ。」
「平和に終わったわけですので邪魔者はお暇しようと思いまして。」
「邪魔者なわけあるかレイちゃん!!君には本当に感謝しかないんじゃ!もう日も暮れて来たし泊まったほうがいいじゃろう!」
「お泊り!?いいんですか!?」
お友達の家にお泊り。
それは私が前世で一度も経験しなかったもの。(別に友達がいなかったとかそんなんじゃないし。)
「ぜひと……あ、いやちょっと待ってください…。」
「?どうしたんじゃ?」
お泊りしたい。でも無理かもしれない。
何を隠そうレイ・モブロード、両親に黙って外に出てきている前科者だ。
もう確実にバレているだろうが、これ以上心配をかけると本気で母親に腹パン入れられる可能性がある。
だらだらと冷や汗をかきながらアルの手を離そうとするが、切なそうな表情を浮かべたアルに身動きが取れなくなった。
まさか私が帰ろうとしてるから拗ねてたり…いやそんなわけ
「……そばに居てくれんじゃねぇのかよ。」
そんなわけあったわ!!なんなのこの子!めちゃんこ可愛い!!
噴水のようにドバドバと溢れ出す幼馴染の萌えに葛藤していると、繋いだ手を自身の胸元へ引き寄せたアルは祈るように私を見つめた。
「なぁ、モブ。」
「い、言ったけど…でもお母さんたちに内緒で出て来ちゃったし。」
「また無断で出てきてんのか。…だったらシラタマを使えばいい。」
「白玉?でも近くにいないけど…」
「アイツの脳に直接話かけりゃ問題ねぇ。伝えとく。」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!?いろいろ混乱してるんですが!?脳に話しかけるってなに!?」
「で?他に問題は?」
「う、うん?まぁお母さんたちに伝えられれば特には…」
「よし。」
満足気に頷いたアルは私にぐいっと顔を近づけて、最高にカッコいい微笑みを浮かべて呟いた。
「そもそもあんなこと言われて、オレがお前を帰すと思ってんのか。」
…そんなすごいこと言いましたっけ。
そんな軽口も叩けないほど熱烈な視線を受けて、顔から湯気が立ち上るほど赤くなりクラクラする。
「バカなやつ。」
ショート寸前の私を嬉しそうに見つめたアルは繋いでいない方の手で私の頭を乱暴に撫でると、意気揚々と目の前で玄関の鍵を閉めた。
どうやら本当に帰さないつもりらしい。
困ったものだがアルの可愛いワガママを聞くのはこれが初めてで、なんだか嬉しい気がするのもまた事実。
いいんじゃない?叶えてあげるのも幼馴染の役目なんじゃない?
アルの様子もまだ心配だし、お泊り会やってみたかったし。
誰に言うわけでもない言い訳を頭の中で連ねて気持ちを落ち着かせ、繋がれた手に力を込めた。
「じゃあ…帰るのやーめた。」
私の言葉を聞いたアルが口元を綻ばせ、その端正な顔を近づける。
…ちょっと近すぎない?
息の吸い方も分からなくなってしまうほど心臓が暴れ狂ったその時、冷やかすような口笛が真横から聞こえた。
ピタリとアルが動きを止めて視線だけをゆっくり横に流し、その視線を追って私も横を見れば、ニヤニヤとこちらを見ているおじいさんの姿。
「………あ、どうぞ続けて。」
「続けろだぁ!?そう思ってんならどっか行け!しばき倒すぞ!!」
「おお、じゃあそうするかのぉ。アイリーンよ、ワシはついに赤飯を炊くときがきたようじゃ。今用意するぞい。」
スキップ混じりで立ち去るおじいさんに呆気にとられていると、深くため息を吐いたアルが目を虚ろにして呟く。
「腕じゃなくて頭を潰せばよかったか。」
殺意剥き出しかよ。
そんな軽口を心の中で呟いたが、実際は繋がれたアルの手を握り返すことしか出来なかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
おかしい。絶対おかしい。
食卓は実に素晴らしいものだ。
もともとアルの料理が犯罪級に美味しいのは知っていたが、そんな素敵な料理が私の前にズラリと並んでいる。
生きててよかった。それは思う。だけど。
「……近くない?」
「気のせいだろ。」
なぜに肩と肩が触れ合う距離感で食べねばならない。
「食べにくいよねこれ。」
「そう思った方が負けだ。」
「どういうこと!?」
「うるせぇよ。いいから食え。ほら。」
面倒臭そうにため息を吐いたアルは反論しようと開けた口に出来立ての唐揚げを放り込んだ。
ジューシーな肉汁、香ばしい匂い。
「唐揚げうまっ!!」
結果、思考停止。
先ほどまでの距離感も気にならなくなるほど夢中でご飯を食べていると、嬉しそうにおじいさんが口を開いた。
「そうじゃろ?アルは料理が上手いからのぉ。シラタマくんも間に合えばよかったんじゃが。」
「先食えって言ってんだからいいだろ。」
「…ちなみにどうして分かるの?」
「「脳内会話。」」
「嫌だなにこの家。」
3人で楽しくご飯を囲んで食べるのは家族と食べるご飯とはまた違う楽しさがあって新鮮だ。
そして全部、美味い。
「アルはいいお婿さんになれるね。」
「…んなこと言ってる暇があんなら食え。」
若干頬を赤らめながら吐き捨てるように呟いたアルは、いつも通りというかなんというか。
その一方でここぞとばかりにおじいさんは瞳を輝かせて声をかけた。
「…ちなみにレイちゃんはどんな人と結婚したいんじゃ?」
「結婚するなら…うーんそうですねー。」
まさか安定した職についた家庭的な育メン男子がいいだなんて、きっと目の前のおじいさんは思ってもいないだろう。
(前世では売れ残ったからな…。今世は早めに婚活しとくか。)
なんだか複雑な気持ちになったので口を閉ざすべきだと自己完結した私は口いっぱいにご飯を頬張る。
しかしその後数秒の沈黙に包まれ、その異様な雰囲気に違和感を覚えると突然アルがこちらを睨みつけた。
「…言えよ!」
「ふえ?(え?)」
アルは机に箸を叩きつけ、もはや体ごとこちらに向ける。
触れ合っていた肩が離れた衝撃で身体がよろめくと、さりげなく支えられた。
「ふぇふふぉふぉ(ありがとう)。」
「食うのやめろ!!なに一丁前に勿体ぶってんだクソモブのくせに!」
「……あ、ごめん変なところで終わっちゃった?でも全然面白くないからさ。ご飯うまっ。」
「あ"!?誰も面白ぇことを言えなんて言ってねぇんだよ!飯から離れろ!!没収だこんなもん!」
「えぇ!?私のご飯が!!」
「飯が食いたきゃ正直に答えろ…!……特に興味はねぇがな!!」
「言ってることとやってることがめちゃくちゃだよ!完全にご乱心だよ!おじいさんもなんとか言ってください!」
「ワシのことは気にせず続けて。」
「どうなってるんだ畜生!」
四面楚歌の状態で詰め寄られ、絶体絶命。
そんななか玄関からやって来たのは初めてお目にかかる不思議な男子。
細い身体に赤い瞳、そして透けるような白い肌。
見ただけで誰もが納得、イケメンである。
「ただいまっすよー。」
でもその声は馴染みがあって、さらにこの家の住人となると導き出される答えは一つ。
興奮と感動のあまり身を乗り出した反動でいろんなものに勢いよくぶつかる。
「えぇ!?白玉!?嘘!かなりイケメンじゃないですか痛っっ!!」
「え、ネェさんオレが見えるっすか?…あとなにやってんすか。」
まさに今見えなくなりました。
そして机に小指をぶつけました。
痛いです。
「やると思ったわクソモブが。」
ぐうの音も出ない。
自分の愚かさと痛みで若干テンションが下がって落ち込んでいると、アルは片手で玉子焼きを私の口元へ運んでくる。
「ん、口開けろ。」
「そうやって弄んで!ギリギリで取り上げるんでしょ!知ってるんだから!!」
「はぁ?もう取り上げねぇよ。ほら、お前なら食えば治る。」
どんなポテンシャルを秘めてんだよ私は。
訝しげに目を細めながら口を開けてアルから献上される玉子焼きを体内へ吸収する。
本当に食べさせてくれた衝撃と、ふわりと広がる風味に顔がデロデロに融解する。
「潔いほど美味。」
「ほらな。単純なやつ。」
単純で悪かったな。
そんな思いを込めてジトリとアルを睨みつければ、可笑しそうに笑い声を漏らしてまた玉子焼きを運ばれる。
(……まぁ笑ってくれるならいいか。私も美味しいもの食べれてるし。)
考えることを放棄した私は、痛みが引いた後もただひたすら楽しそうに笑うアルを見ながら玉子焼きを食らった。
「ちょいちょい!?えぇ!?なんすかあの距離感!!オレがいない間になにがあったんすか!?痒い!至る所が痒いっす!」
「シラタマくん。」
「なんすか!!」
「コーヒー飲むかの?砂糖、ミルクなしで。」
「………爺ちゃん最高っす。」