転生者は、発狂する
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「気を確かに持つんだお嬢ちゃん!」
リチャードさんに両頬を押さえつけられ、無理やり目線をあわせられる。
「これ以上は良くない!やめるんだ!」
「やめられるならやめてますよ…!」
ふつふつと体内から血液が沸騰するように燃え上がる感覚はおさまりそうにない。
一方パルメさんは楽しそうに私の様子を眺めながらこちらに手を振っていた。
顔面にパンチをお見舞いしたいレベルで腹が立つが、今はこの激情を押さえることに専念しなくてはならなかった。
「ねぇクラウス?モブちゃんどうしたの?」
「エミリー様、私の後ろへ。」
「??どういうことなの?」
エミリーちゃんを守るように立つクラウスさんの姿に、今の私の状態の異常さを痛感する。
だがナイスだクラウスさん。
そのまま近づけさせないでほしい。
雑魚とはいえ荒ぶった今だと、エミリーちゃんに怪我をさせてしまう可能性がある。
万が一にもそんな事態になれば、切腹でも許されない。
「ぎゃあ!またきたぁああ!」
「ま、待つんだぐほぉ!!」
「無理無理!無理です!!」
頬を押さえていたリチャードさんの手をしゃがむことで振り払い、その後鳩尾に頭突きをかまして黙らせる。
鎧を着ていたがなんのその、頭突きの反動の痛みすら気にならないほどアドレナリンが滾っていた。
そしてそのまま全ての力を込めてパルメさんへ突撃する。
「うぉおおおおお!!前方確認!!
手ェ握り隊突撃ぃいい!!!」
目指すはすらりと伸びたパルメさんの手、ただ一つ。
もはや私の思考は彼女と手を繋ぐという目的を果たすことのみに侵食されていた。
優しく微笑んだパルメさんは手を差し伸べてきて次の瞬間。
「はぁいダメよぉ。」
そのままヒラリと交わされた。
「受け身不可っ!」
繋ぐことばかりに集中しすぎて受け身は取れず、もはや身体中が傷だらけ。
制御の効かない突進は既に10回を超え、体力的にも限界を迎えていた。
「どうレイちゃん、ツライでしょぉ?これが私の約束の効力よぉ。驚いたぁ?」
「も、もう勘弁してくださいよ…なにもしないって言ってたじゃないですか…。」
「あらぁ?私はなにもしてないわよぉ?レイちゃんが勝手に荒ぶっているだけでしょぉ?」
確かに。
汗がダラダラ垂れ流れてすり傷に染みる。
その地味な痛みに耐えているとパルメさんが場の雰囲気を変えるように両手を叩いた。
「さぁエミリーちゃん?レイちゃんをこれ以上傷物にしたくないならぁ、私と仲良く聖女についてお勉強することを約束してちょうだいなぁ。」
「……なるほど、そうやってエミリー様に近く算段か。」
「あらぁいやねぇ、この騒動を止めるために必要なことよぉ。エミリーちゃん?レイちゃんはねぇ、私とアナタが仲良くしない限り元には戻らないのぉ。」
「ずっとこの面白い状態ってこと?」
面白い状態っていうな。
エミリーちゃんの爆弾発言に心の中でツッコミを入れるが、ここまでくれば鈍い私でもよく分かる。
パルメさんは私をダシにしてエミリーちゃんと契約を結ぶ気なのだろう。
(そんなことさせるものか。)
たとえこのまま砂だらけになろうとも、かわいいエミリーちゃんが餌食になるのはなんとか避けねばならない。
「エミリーちゃん、私は大丈夫だから心配しないでね。」
「でもそんな傷だらけで、しかもさっきやめられるならやめたいって……」
「……嫌よ嫌よも好きのうちって言うでしょう?」
「へぇ、レイちゃんって被虐趣味があったんだね!」
「どこでそんな言葉を覚えてきたの!?やめなさい!!大きな誤解だから!」
相変わらずのエミリーちゃん節にズッコケそうになるが、もうそれでいい。
クラウスさん、そのままちゃんとエミリーちゃんを守ってくださいね。
その視線に気がついたクラウスさんは少し頷いて剣に手をかける。
だが彼の動きを止めるように手を突き出したパルメさんは言葉を続けた。
「うーん私を殺してもいいけどぉ、そこのレイちゃんは大変なことになるわよぉ?約束が果たされず私の死体から一生離れられなくなるわぁ。」
それは結構本気で嫌。
クラウスさんも私を不憫に思ったのか少したじろぐ。
その合間を見てパルメさんは悪魔のように囁いた。
「どうエミリーちゃん?大切なお友達が見ず知らずの死体とずっと過ごさなきゃいけなくなったら可哀想よねぇ?」
「うん、なかなか大変だよね!死体を腐らせないようにしないといけないしね!」
「そこじゃない!!かわいい顔でそんなこと言っちゃダメ!もうさっきからどうしたの貴方!お姉さん許しませんよ!」
すかさずエミリーちゃんの失言を叱って立ち上がる。
まだまだこの右手がパルメさんの左手と繋ぎたがって疼くが知ったことか。
そのまま天高く突き上げながら彼女を睨みつける。
「私を甘く見てもらっちゃ困りますよパルメさん。」
「あらぁそんな傷だらけなのにぃ?説得力ないわよぉ?」
「今までのはほんの序章です。私の皮膚が擦り切れるのが先か、パルメさんの手を捉えるのが先か。このレイ・モブロードを適当に人質に選んだことを後悔させて」
「なにやってんだよお前。」
後ろからスパンと頭を叩かれ、思わず振り向くと呆れた顔で立つ幼馴染の姿。
けれど私の顔を確認したその直後、大きく金色の瞳を見開いて私の両頬を押さえる。
「どうしたんだよこの擦り傷!!」
「ぐぶっ!こ、これには深いわけが…」
「深いわけもクソもあるか!女が顔に傷作ってんじゃねぇよ!!」
そのまま頬に暖かい感覚がすると、痛みが徐々に引いていく。
どうやら治してくれているようだ。
突然のアルの登場に驚いていたパルメさんは、思わずといったように小さく呟く。
「アナタ……」
「あ"?誰だお前。」
けれどアルはパルメさんと初対面。
パルメさんが余計なことをする前に声をかけようと口を開こうとすると、またもやあの衝動が突き上げてきた。
「ぐっ!ちょ、ちょっとアル離れて!!」
「あ"!?まだ治しきれてねぇから大人しくしてろ!」
「うぐぐ!そ、それどころじゃないんです!!お願い!!」
まだ病み上がりだと思われる彼を突き飛ばさわけにもいかず、必死に耐える様子に違和感を覚えたアルは何かを小さく呟いて私の額に人差し指を当てた。
「っなんだ…これ。」
「……やっぱり私の魔法陣を読み取れるのねぇ。その歳で大したものだわぁ。」
「テメェ、やりやがったな。」
感心したように呟いたパルメさんの言葉に、私を見つめていたアルの瞳に鈍く光る赤い閃光が走った。
かつてダニーと対峙した時にも見せた、恐ろしい殺気を交えて鋭くパルメさんを睨みつける。
「なるほどこの厄介な結界を張ったのもアナタねぇ。私ちょっとだけビックリしたのよぉ。おかげで残念な兵士さんと不必要な約束を結ぶ羽目になったわぁ。」
ゆるりと姿勢を正したパルメさんからは笑顔が消え、同じくアルに対して語尾を強めて威嚇する。
「テメェみてぇなタチの悪りぃ害虫と約束なんて、頭沸いてるやつもいるもんだ。」
「あらぁ?そんなことないわよぉ?レイちゃんも、そしてアナタがよく知っている人も私のオトモダチだものぉ。」
「は?」
「いやだぁ、なぁんにも知らないのねぇ。…………本当、残念な子。」
なぜそこで盛大に煽る必要がある。
案の定アルの額に盛大に青筋が浮かび上がったのを確認して、静かに息を飲んだ。