転生者と、黒ローブの女
いつもありがとうございます!
6歳になりましてストーリーもまた新たな局面に突入していきます。
そろそろ人も多いし登場人物一覧とか作った方がいいかな…。
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今日私はツイているとかほざいた奴は誰だ。
………私か。
「あらあらぁ?大丈夫かしらぁ?」
盛大に転けた私に驚いていた様子だったがすぐに気を取り直し、笑みを浮かべながら手を差し出してくれる。
払ってしまったのにも関わらず優しく手を差し伸ばしてくれる姿に感動しながら、今度はしっかりとその手を握って立ち上がる。
「だ、大丈夫です。すみません振り払ってしまって。」
「いいのよぉ。突然警告の笛が鳴ったからびっくりしちゃったのよねぇ。分かるわぁ。」
「警告の笛?」
私の手を握ったまま反対の手で黒いローブを掴みさらに目深く被り直すと、お姉さんはどことなく楽しそうに言葉を続けた。
「そうよぉ。招かれざる客がやってきたってことよぉ。」
「じゃ、じゃあ早く離れた方がいいですよね。お家どこですか?送っていきます。」
「あらあらぁ?いいのかしらぁ?優しいのねぇ。」
その言葉に曖昧に笑って手を離そうとするが彼女の細身の腕からは想像が出来ないほどの握力で、ギリギリと握りしめられる。
なんでこんなに手を握られてるのだろうか。
疑問に思いながらチラリと様子を伺うと、先ほどと声のトーンを変えずにおちゃらけた様子で彼女は言葉を続ける。
「ごめんなさいねぇ。緊張しちゃってるのかしらぁ?力の緩め方が分からなくなっちゃってぇ。」
「そ、そうですよね。不安ですよね。なら手を繋いだままいきましょうか。」
「あらあらぁ?本当にぃ?いいのぉ?」
「はい、安心してください。」
掴みどころのない雰囲気はダニーによく似ているが…うん、たまたまだろう。
ろくに知りもしないのに最初の印象で決めつけるのはよくない。
雑念を振り払い心を入れ替えて、改めてお姉さんと手を繋ぎ家はどこにあるのかたずねようとすると遮るように彼女は口を開く。
「それでここで何をしていたのぉ?えっと…」
「私はレイです。おつかいをしていました。」
「そうおつかいねぇ。本当にいい子ねぇレイちゃん。」
そういえば一緒にいたはずの妖精たちの声が先ほどから全く聞こえない。
不思議に思って周辺に視線を向けると、お姉さんはぐいっと私に顔を近づけて言葉を続ける。
「ねぇ優しい優しいレイちゃん。アナタは私を置いて行ったりしなぁい?」
「……へ?」
「この騒動が落ち着くまでぇ、隣で手を握ってくれるぅ?」
グイグイと詰め寄られ言葉に詰まるが、クラウスさんたちもいることだしこの騒動はすぐ収まるだろう。
しかもお買い物品は妖精たちに運んでもらったし、このお姉さんの不安を取り除いてあげられるならと小さく頷く。
「……約束よぉ?」
その言葉を聞き届けると同時にビリっと全身に電気が通る。
その違和感に首を傾げると嬉しそうに彼女は笑った。
「元気が出たわぁ。お礼になんでもひとつ、お願い事を聞いてあげるぅ。」
「えぇ…こんなことでですか?」
「えぇ。こんなことで、よぉ?」
楽しそうにこちらの様子を伺うお姉さんに違和感を覚えながらも、それならばとひとつお願い事を口にする。
「それじゃあお姉さんのお名前は?」
「……もっとなんでもしてあげるわよぉ?」
「いや、私はお姉さんの名前が知りたいので。それとも秘密主義ですか?」
「あらやだぁ。そんなことないわよぉ。いいわぁ、そのお願いを叶えてあげるわねぇ。」
ゆっくりと繋いだ手を口元に持っていったお姉さんは、そのまま小さく呟いた。
「私の名前は、パルメよぉ。」
「……パルメさん。」
その名前に何かが引っかかり動きを止める。
どこかで聞いたことがあるような…そう思うとまたズキズキと痛み出す頭に思わず眉をひそめた。
「これで私たち、立派なオトモダチだわぁ。」
「え?は、はい。」
「それじゃあ行きましょうかぁ。」
「どこに?」
「決まってるわぁ。かっこいい騎士様に会いによぉ。」
かっこいい騎士様。
はたして該当するのが誰なのかは知らないが、それってつまり関所に向かうってことだろうか。
その結論にたどり着いた私は全力で体を後ろへ倒し、引きずられるような形でブレーキをかける。
「あらやだぁ、どうしたのぉ?」
「パルメさん、招かれざる客がやってきたって言ってましたよね?この村に入るには関所を通るしかないんですよ。」
「そうねぇ、村には似合わないほどの立派な結界があるものねぇ。」
「ですよね?で、十中八九そのお客様はまだ関所にいらっしゃると思うんです。危ないと思うんです。」
「あぁ。そういうことねぇ。大丈夫よぉ。レイちゃんは安全だわぁ。約束してあげるぅ。」
「その自信はどこからくるんですか?」
「ナ・イ・ショ…よぉ。でも私の手を離しちゃだめよぉ?」
「?わ、分かりました。」
これはもうなんと言っても聞いてくれなそうな雰囲気だ。
ジリジリと引きずられるのも痛いし、何度も言うがパルメさんの握力がなかなか強いので仕方なく腹をくくって横を歩く。
「それで?かっこいい騎士様にあってどうするんですか?」
「どうしようかしらぁ?愛の告白でもしてみるぅ?」
「え!?なんですかそれ!?その話詳しく!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そのままのらりくらりとパルメさんと手を繋いで歩いていくと、やはり騒がしい様子の関所が目に入る。
中心にはクラウスさんではなくリチャードさんが立ち、何やら忙しげに指示を出していた。
「やっぱり今は行かないほうがいいんじゃ…」
「そんなことないわぁ。きっと歓迎してくれるわよぉ。」
「なかなかの楽観主義ですね。」
「ありがとぉ。」
緩いパルメさんの言葉に脱力し、なるようになるかと思考を放棄する。
しかし楽しそうにパルメさんが関所に一歩踏み入れたその瞬間、弾かれるように兵士さんたち全員がこちらに目を向け鋭く睨みつける。
そして全員が私たちに向かって剣を抜き、戦闘態勢を取った。
久方ぶりに向けられる彼らのさっきに驚いていると、鎧に身を包んだリチャードさんが低く唸るように呟く。
「一体どうやって侵入した。」
「ひどいわぁ。オトモダチに約束を守ってもらっただけよぉ。それにエミラも言っていたでしょう?私が来るってぇ。」
「まさか貴様がエミリー様の…?」
「そうよぉ、私がエミリーちゃんの先生になるのよぉ。だからエミリーちゃんの騎士様にご挨拶がしたいのだけれどぉ?」
「そんなこと容認できる筈がない。このまま大人しく出て行け。」
いまいち状況が読み込めず、リチャードさんとパルメさんの顔を交互に見る。
その様子に笑ったパルメさんが私と手を繋いでいる手を見せびらかすように上へと持ち上げる。
そしてリチャードさんの瞳は驚きで見開かれた。
「っ!!お、お嬢ちゃん!」
「あたりぃ。私のオトモダチよぉ?」
「貴様っ!幼い子を人質に!一体何を契約したんだ!」
契約なんてしないし、そもそもさっきから居たんですが。
はてなマークが大量生産される中、口を開こうとすると言葉が出ないことに気がついた。
驚いてパルメさんを見ると、出会った時と同じように八重歯を覗かせて呟く。
「レイちゃんはねぇ、この騒動が落ち着くまで一緒に手を繋いでくれるって約束してくれたのよぉ?だから貴方がエミリーちゃんの騎士様に会わせてくれないとぉ、レイちゃんはずっと私のオトモダチよぉ。私はそれでもいいんだけどぉ。」
「……分かった。ただ、決してそのお嬢ちゃんに手を出すな。いいな。」
「もちろん、そういう約束よぉ。」
「……。」
そのパルメさんの話を聞いて、私の額から冷や汗が流れ落ちた。
まるでその口ぶりだと、招かれざる客って。
そして兵士さんたちに放たれたリチャードさんの一言で、自分の愚かさを呪う羽目になる。
「騎士団長と連絡を取れ。……契約の魔女がお嬢ちゃんを人質に取り、お前に会いたがっていると。」