転生者は、おつかいを頼まれる
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6歳になって上機嫌なレイ・モブロードは、スキップ混じりで村を目指す。
奇跡的に朝の時間帯に目が覚めることができた私は、この村の中で最もツイている女に違いない。
『レイちゃん嬉しソー!』
『レイちゃん何するノー?イタズラ?』
「ふっふっふっ…よくぞ聞いてくれました特別隊諸君!」
照りつける太陽の下、ドヤ顔で踏ん反り返る私ははたから見ればただの変人。
それでも通行人がいないことをいいことにど真ん中で仁王立ちして右手を高らかに掲げた私は、村中に響き渡るくらいに大声で宣言する。
「さぁやって参りましたぁ!レイちゃんのはじめてのおつかいコーナー!!」
『ワァ!!なにソレーー!』
『ダサーイ!!ヤダー!』
『ヘンナノー!』
「ふっ!そんなことを言ってられるのも今のうち……これを見て慄くがいい!!」
意気揚々とポシェットから出したのは、母親から預かったお買い物リスト。
何も考えてない私にも分かるように一つ一つ丁寧に細かく種類が書き出されている。
『コレがどうしたノ?』
『使いっ走りダヨネー!』
得意げな表情の私とは裏腹に不思議そうな声を漏らす妖精たち。
どうやらこのお買い物リストの素晴らしさを理解できていないようで、思わず頭を抱える。
「いいかい君たち。はじめてのおつかいというのは、人生において岐路のひとつといっても過言ではない。」
『アハハ!読めないカラつまんなーイ!』
『ほら燃やセー!』
「やめてやめて!!」
灰にされそうになったリストを全力で守り、急いでポシェットの中にしまう。
妖精が見えないためジロリと周辺を睨みつけて咳払いした後に、言葉を続ける。
「このたった1度のはじめてのおつかいをこなしたか否かという事実は、今後私の人生の信用度に大きく関わってくるのだよ。」
『そうなノー?』
「そうっ!成功すればしっかり者のレイちゃんとしての地位を確立!!しかし失敗すればその逆…失敗したという事実に永遠に苛まれることにっ!」
『エー?大げさだヨ!』
「そんなことはない。経験談だからこれ。」
前世の私ははじめてのおつかいで、何も考えず持っていたお金を全てう◯い棒に注ぎ込んだという前科がある。
この事実は大人になってからも付き纏い、事あるごとに家族にネタにされ辛かった。
私の黒歴史のひとつである。
『エー?どういうコトー?』
「とにかく!!私は今度こそこのはじめてのおつかいを失敗するわけにはいかない!!それに私が成功すれば君たちにも恩恵があるよ!」
『エー!何ナニ!?』
「しっかり者のレイちゃんとして名を馳せれば……両親は私を信用するよね?」
『ウン!』
『ソウダネ!』
「信用されれば…活動範囲が増えるよね?自由度が増すよね!?さらにお願いをちゃんと聞けた偉い子には、ご褒美が貰えるのが常!!」
『『オオー!』』
「ご褒美にお菓子とか買ってもらって?真夜中に菓子パーティーを開いてやろうじゃないか!!」
『『ワァァァー!お菓子欲しイー!』』
妖精たちの大歓声を浴び大きく頷いた私は彼らを落ち着かせるように両手で制し、もっと妖精たちが食いつくように小さく呟く。
「しかも私は昨日、アルからある契約をもぎ取ってきた………。」
『なにナニ!?』
『もったいぶらないでヨ!』
「それは!」
今度取り出したのは昨日の夜に、アルと交わした契約書(原本)。
そこにある3番の項目を高らかに読み上げる。
「今度遊ぶときは玉子焼きを作ってくること……つまりアルもこの菓子パーティーに誘えば、我が幼馴染のオカン料理もついてくるって寸法さ。」
『ワァー!レイちゃんが美味しかったって自慢シテタ、あの玉子焼きが食べれるノ!?』
『レイちゃんヤルー!!』
やはりチョロい。
レイちゃんコールを一身に受けながらニタリと微笑む。
これで妖精たちは私の手となり足となる。
後はちょちょいっとおつかいを終わらせてご褒美を頂戴し、お見舞いがてらアルに会いにいって……そして元気になったら真夜中のお菓子パーティーwith玉子焼き。
あ、しかもそこにエミリーちゃんも誘えばアルとエミリーちゃんのデートに発展するのでは!?
(…エミリーちゃんか。)
先ほどまでのテンションが嘘のように下り坂になり、小さく溜息を吐く。
やはり大切な友達が聖女とはいえ幽霊に取り憑かれているのは、見て見ぬ振りはできない。
アルは近づかせない方がいいと警告は鳴り響くまま。
(ならば菓子パーティーに誘う口実で、会いにいって確かめるしかあるまい。)
『レイちゃん?どうしたノ?』
そのためにもこのはじめてのおつかいは、意地でも成功させなければ。
一度大きく頬を叩いた私は心配そうに声をかけてきた妖精に向けて、満面の笑みを向ける。
「なんでもない!さぁ!私の欲望を満たすためにみんな頑張ろう!!」
『さっすがレイちゃん図々しいネー!』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「へいじっちゃん!牛乳1本!」
「あ、あいよ。持ってきな。」
「お次は卵!……え?2、2パック?」
「大丈夫か嬢ちゃん…持てるか?穴に落ちるなよ?」
「え?穴?い、いけるいける!あぁそうだ!しまった!鶏肉400g忘れてた!おばさんお願い!」
「わ、分かったよ。あの公衆トイレには近づくんじゃないよ。」
おつかいの最中にトイレなんか行くか。
そんなことを思いながらも忌々しい思い出が残るあの公衆トイレ近くのベンチで、私は軽く燃え尽きていた。
『レイちゃん大変だネ!』
『それ持って帰れるノ?』
「頑張る…。」
『ミーたちも持てるヨ?手伝うヨ?』
「いや…気持ちだけで大丈夫。ありがとう。。」
本当はバリバリに手伝ってもらう予定だったのだが、よくよく考えたら妖精が手伝ってたら周りの人びっくりするんじゃない?下手したら私が妖精の言葉が分かるのバレるんじゃない?という結論に至った。
結局は1人で乗り越えなきゃならないってことだ。
ちくしょう世知辛い世の中だわ。
「あ、地味子だ。」
おばあちゃんもびっくりのうめき声をあげながらベンチから立ち上がると、どこかで聞いたことのある子供達の声が聞こえる。
くるりと振り返ると、ボールを持った子供たちが駆け寄ってくる。
「君たち、久しぶりだね。」
「なにやってるの地味子。またボットンに落ちたの?」
「なぜ数年前のことを覚えてるんだ。今すぐ忘れて。いや忘れてください。」
「無理だよ。お父さんとお母さんにもおばちゃんにも話したから、みんな知ってるよ。」
「井戸端会議で広められたわ絶対!だからやたら穴に落ちるなとかトイレ行くなとか言われたんだ畜生!!」
衝撃な事実に膝から崩れ落ちると同時に、村全体に聞こえるような笛の音が甲高く鳴り響く。
その騒音に思わず両耳を押さえると、子供達は蜘蛛の子を散らしたように立ち去って行った。
あまりの速さに呆然としていると、視界の端で買い物袋が宙に浮いて自宅の方へ飛んで行くのが見えた。
「え?なに?これなに?」
『レイちゃん早く帰ろウ!』
身体が引っ張られるように起き上がったかと思えば、力が抜けてしまったかのようにまた地面に膝をつく。
「可哀想にぃ、逃げ遅れてしまったのねぇ。」
さらりと背中に手を添えてくれた人物にお礼を言おうと振り返ると、そこには黒いローブを目元深く被り八重歯を覗かせた不気味な女性が私を見下ろしていた。
「妖精さんに囲まれて大変ねぇ。大丈夫よぉ、今、助けてあげるわぁ。」
やはり早起きなんてするものじゃない。
反射的に彼女の手を振り払った私は、その拍子に子供たちが置いていったボールに足を取られ盛大に転んだ。