白蛇は、幸せを運ぶ
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窓の外から部屋の中を覗き、近くに誰かいないか確認する。
というのも窓に鍵がかけられていて自宅に入ることができないからだ。
魔物にとって身体に悪い蒼い月明かりが照らす中、ネェさんの元へお使いさせたくせに……全く薄情なものである。
致し方なく窓ガラスに溶解液を吹き掛けて身体が通れるくらいの穴を開け、無理やり身体を通す。
これをやると旦那に半殺しにされるのだが、今回は締め出した方が悪いはずだ。多分。
そして見事家へと帰還し一息吐いた後、少しずつ手足を生やしてあっという間に白髪の美少年へと姿を変える。
最近では随分とニンゲンに化けるのにも慣れたもので、ものの数分で早変わり。
むしろ本来の姿に戻る方が時間がかかる始末なのだから驚きだ。
部屋にある鏡で上手く変化できたことを確認し、足早に可哀想な旦那を看病している爺ちゃんの元へと足を運ぶ。
「はいはい、ただいまっすよー。」
「おお、おかえりシラタマくん。……あれワシ、鍵開けておいたかの?」
「そんなことは置いておいて、ちゃんと旦那のこと伝えてきたっすよ。感謝して欲しいっす。」
「ありがとうな。ほれアル。お主もちゃんと言わんか。」
無言でこちらを見つめる旦那の瞳は熱のせいか潤んでいて、いくら睨みつけてきても全然怖くはない。
「………モブは。」
「高熱出したって言ったら呆れてたっす。」
「……はぁ。」
「そうじゃなくてありがとうじゃろうが!!この馬鹿たれ!」
(別にいいっすよ爺ちゃん。むしろ旦那からありがとうとか言われた日には鳥肌立って失神するっす。)
それになにより先ほど伝えた言葉に、頭にキノコが生えたように激しく落ち込むこの姿でお腹いっぱいだ。
「……。」
「次回以降!また誘うときは気をつければいいんじゃ!もっともっとアピールしていかんとな!」
「アピール……ね…。」
「この程度でめげてどうするんじゃ!ほれ元気を出さんか!!」
「はっ、元気がありゃこんなことになってねぇよ。んだよ熱って…どうして今熱が出んだよ。」
「?旦那が水かぶったせいっす。」
「うるせぇ知ってんだよ。そういうこと聞いてんじゃねぇわ埋めるぞ。」
理不尽である。
蛇である自分的にはこういう湿った雰囲気は嫌いではないから放っておいてもいいのだが、旦那のために最終兵器を取り出した。
これを使えばきっと旦那はいつもの調子を取り戻すはず。
ほとんど死人のように脱力している旦那の前にピラピラとなびかせて見せびらかす。
「旦那旦那。いいものがあるっす。これ、なんだと思うっすか?」
「知らねぇし、いらねぇ。」
「え、いらないんすか?……ネェさんからの手紙。」
「そういうことは早く言えクソ蛇!!」
先ほどのジメジメ感が嘘のように飛び起きた旦那は、素早く手元にあった手紙を奪い取る。
そしてオレの顔面を足蹴りしたかと思えば、魔法を使って天井にしがみつき威嚇するように低く唸った。
「コラなにしてるんじゃアルフレッド!!ちゃんと布団に横にならんか!!安心せい!ワシがちゃーんとレイちゃんに返事を」
「なんでテメェが返事を書くんだよ!意味わかんねぇわ!!どうせロクでもねぇこと書く気だろ!!」
「ジジイはそんなことはしませーん!!いつも可愛い孫のために頑張ってるだけでーす!」
「ムカつくからその喋り方やめろ!そもそもその顔で信用できる訳ねぇだろ!!ニヤニヤすんな!……ってテメェが鬱陶しいから頭が割れそうに痛くなるじゃねぇか!!黙っとけクソジジイ!!」
「ジジイしょんぼり。」
熱のハンデをものともせず爺ちゃんを撃沈させた旦那は、緊張した面持ちで手紙を開き文章に目を通す。
そして一度柔らかく微笑んだかと思うと表情を引き締め、一瞬でネェさんの手紙に何かを書き込みオレへと押し付けた。
「持ってけ。オレは寝る。……中見たら殺す。」
「え!?今からっすか!?」
オレの叫びを完全に無視して、旦那が一瞬で布団へと横になる。
やはり具合が悪かったため普段より警戒せずに眠りについたようだが……なんとなく幸せそうなのが解せない。
「一体なにがこの手紙に書いてあったんじゃ。」
「それは確認すれば分かることっすよ。」
「……………。」
「……………。」
互いに覚悟を決めて見つめ合い、そして旦那から預かった手紙をゆっくり開く。
するとお世辞にも綺麗とは言えない文字でこう記されていた。
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アルへ。
元気ですか。私は元気です。
熱が出たと聞きました。
多分あの量の水を浴びて身体を冷やしたせいだと思います。
今日の約束を楽しみにしていた私の心を弄んだことを反省してください。
……でもこう書くと意外と繊細なアルくんは約束を守れなかったことに責任を感じてしまう気がするので、以下の内容を守ってくれれば許してあげます。
1、身体をしっかり休めてはやく元気になること。
2、アルの頭を撫で回す権利を与えること。
3、今度遊ぶとき卵焼きを作ってくること。
4、もう無理。思いつかない。また誘って。
ちゃんとサインを書いてね。
これは契約書なので、もし破ったら怒ります。
それじゃあまたね。お大事に。
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「なんともまぁ、お気楽な契約があったもんすね。」
確か昔『契約』と称して厄介な魔法を使う魔女がいた気がしたが、こんな緩いものではなかったはずだ。
これは確かに旦那の頬も緩むわけだと納得していると、ネェさんの文字の下に達筆な字で書かれた「アルフレッド・フォスフォール」のサインと書き足されていた言葉を見つける。
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字が汚ねぇ。練習しろ。
来年誘うから予定空けとけ。
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「……………痒っ。」
思わず首のあたりを掻きむしってしまうほどのむず痒さ。
契約書にかこつけて来年の約束を取り付けるなんて、意外と旦那はやり手だった。
(見るべきじゃなかったっすね。)
軽くため息を吐き、先ほど溶かした窓へと足を進めて再度蛇の姿へと戻る。
蒼い月が輝き、日にちが変わった王都のベルが鳴り響いているが関係ない。
大切な主人の想いを盗み見てしまった罪悪感を拭うには、郵便配達ぐらいはしなければなるまい。
爺ちゃんも何かしら感じることがあったのだろう。
「シラタマくんの言う通り、こんなに幸せな『契約』なんてそうそう結べるもんじゃない。お前さんの母親、アイリーンも喜んでおるだろうよ。」
どことなく切なさが混じる爺ちゃんの声を聞きながら、オレは再度夜の村へと飛び出した。