転生者は、やはり一歩進む
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玄関のドアを開けると、若干気まずそうにこちらに視線を向けるアル。そしてその瞳はなぜか驚きで見開かれていた。
「おはよう。」
「お前……!!毛布にくるまったまま出てくるやつがあるか!!汚れるじゃねぇか引っぺがすぞ!」
「うん、結構アルってオカン気質だよね。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「………で?なにやってんだよお前。」
毛布を剥ぎ取られそうになった私は抵抗し、結局は私の部屋へ招待することになってしまった。アルは少し渋っていたが、私は毛布の繭を脱ぐつもりはない。
「サナギになって羽化を」
「殴るぞ」
「ちょっと反省中ですごめんなさい」
その確固たる私の意志を察したのか、彼は軽快に舌打ちをして言葉を区切る。なんとなく気まずい沈黙となり、ここは年上の私がリードをしなければと切り出す。
「あの…来てくれてありがとう。でもポーションのことはほんと気にしないで。事故だし。」
「………ショックだったんだろ…割れちまって。」
「まぁ……多少は。」
「…………ん。」
「なに?」
何も言わずにまた拳を突き出してくるアル。
意味が分からず固まっていると、手ぐらい出せやと脅され少しだけ彼の方へ手を伸ばす。
チャリン。
私の手に乗っけられたのは銀貨3枚。
呆気に取られる私だが、アルは言葉を続けた。
「あのポーションを弁償するとは流石に言えねぇが、それはやる。」
「え……もしかして君のお金?」
「………小遣い」
「うええ……なんでくれるの?」
「あ"あ"!うるせぇ!!なんでもいいだろうが!!」
「いやでも……」
「っ!妖精どもがオレの周りを飛び回ってうぜぇし!飯はマズイし!!お前のせいだこの野郎!!」
顔を真っ赤にして私を怒鳴りつける。
だが私は感動していた。
きっとあの状態の私を見て、罪悪感に苛まれてしまったのだろう。それでお詫びの品として、ポーションを買ったと思い込んでる彼は自身の泣けなしのお小遣いを私にくれようとしているのだ。幼い頃のお小遣いなんて、貴重品の中の貴重品なのに。
「………ありがとう。」
彼の精一杯の誠意を受け取り、涙が出そうだ。なんとなく自分の息子が成長したようなそんな気持ちになる。……もうおばあちゃんみたいな感じだな私。
私も彼へ誠意を見せるため、毛布を脱ぎ彼と向かい合う。
「ありがとう。励ましてくれようとしたんだね。」
「勘違いすんな!!妖精どもがしつこいから!」
「うん、分かった分かった。」
私が毛布を脱いだことで妖精たちが集まってきたのか、レイちゃーんといろんなところから声が聞こえる。
『レイちゃん大丈夫?泣かないデ?』
『ミーたちのことは気にしないデ!!いつもみたいにミーたちにお願いしてくれればイイヨ!』
『いくらでもゴルゴンの肝は持ってこれるカラ!』
『レイちゃん笑っテー!ホラ変な顔ー!』
……ちくしょう。いい奴らめ。
大好きだこの野郎。
「………お前ほんとにソイツらのこと、見えてねぇんだよな。」
「うん、見えてないよ。」
「だったらなんで……妖精がそんなにお前に懐いてんだよ。」
純粋な疑問だ。
私を立ち直させてくれたお礼に教えてあげよう。それにまだ少し気まずそうだから罪悪感を消してあげるため、少しだけ手伝ってもらおうか。
そんなことを思った私はニィッと笑って、告げた。
「私、妖精の声が聞こえるの。」
「…………前も言ってたなそんなこと。」
「あれ、驚かないの?」
「冗談でそんなこと言わねぇだろ。それに、そいつら見てればなんとなく分かる。」
「へぇ、なんか嬉しいな。信じてくれるなんて。」
「うるせぇ黙れ!」
「そしてそんな君にお願いがあるんです。」
「ふざけんな!!オレは帰る!!」
立ち上がろうとしてアルはピタリと動きを止めてしまった。この感じつい昨日も見たぞ。
「テメェ………!また拘束魔法を!」
「妖精さん、ナイスです。」
『アイアイサー!』
青筋を浮かべて私を睨みつける様子に苦笑しながら本題に入る。
「お願いって言ってもアルバイトみたいなもんだよ。」
「ある……なんだそれ」
「あぁ、お仕事みたいなもの。」
そしてさっきもらった銀貨をアルの前に見せて条件を提示する。
「あのポーションね、買ったんじゃなくて作ったの。」
「………はぁ!?でもお前!」
「うん魔力が全くない。そこでね、妖精さんたちの魔力を借りてポーションを作ったんだよ。またあのポーションを作るために、この子達の力を借りなきゃいけない。」
「………他人の魔力なんて使えば」
「うん、前みたいにおそらく体調が悪くなると思う。それに妖精たちと話すのは楽しいけど、独り言言ってるみたいで変な子みたいになっちゃうんだよね。だからそういうときに君がカバーしてくれると助かる。あ、大丈夫!次回こそぶちまけたりしないよ。」
「…………」
「これはちゃんとしたお仕事。だからお給料として銀貨3枚をお渡しします。もちろん先払いで。……どうかな。」
「面倒くせぇ。」
うわっ一蹴された……。
私の重大な秘密を交えた大演説を面倒くせぇの一言で片付けられてしまうとは……。
どうしたものかとため息を吐くと、彼はさらに深くため息を吐いた。
「おい、この拘束魔法解きやがれ。」
『偉そうダー!イヤダー!』
『もっと拘束シテヤルー!』
「物騒な……解いてあげてよ。大丈夫だから。」
『レイちゃんが言うならイイヨー!』
『感謝シロー!』
金縛りが解けたように動けるようになった自分の身体を動かしながら、彼は銀貨3枚を手に取った。
「…………オレは基本的に、金が貰えるなら断わらねぇ。」
「え。」
「どんな事だったとしても、銀貨3枚分の仕事はしてやるよ。」
だから何なりとどうぞ、お嬢さん。
そう言って笑ったアルの表情は、幼い子供とは思えないほど爽やかで。
(素晴らしい目の保養!!)
「……イケメン最高!!」
「イケ…?うぐっ!!!調子乗んじゃねぇ!!離れろクソが!!」
『ワァ!レイちゃん大胆!!ミーたちも!!』
「は!?なんでお前らまで来るんだよ!!気持ち悪りぃ!暑苦しい!!離れろ!」
「これも仕事のうちだと思って!イケメンな君が悪い!」
「どんな仕事だふざけんな!!つかいけめんってなんだ!意味わかんねぇ言葉使ってんじゃねぇぞ!!」
……思わず抱きついてしまったのは、不可抗力である。だが賑やかなこういう雰囲気は悪くないと、確かに思った。