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XCV.当たらなければ(以下略)

※注釈

・自由国

イマヌエル自由国の事。

基本的に他の大陸いざこざには関わりたがらない。

「おかしい!絶対におかしい!」


 あれから数時間が経ち…

 私はずっと考えても仕方がない事に悩み続けていた。


「これ程までにすんなりいって良いはずがないのだ!何か…何か裏があるはずだ!否、あって然るべきだ!」


 先ず、大事なご報告から。

 結論から述べると、会談の結果、我々はエリザベス女王との密約締結に成功。

 我々が事前に用意していた戦後の領土分割案をほんの少し弄っただけで女王は了承した。

 どれ程苦戦するかと様々な策を用意してあったのにとんだ拍子抜けである。


 女王はやろうと思えばもっと利益をむしり取れたはず。

 しかし彼女はそうしなかった。

 これで裏があると思わない方がおかしい。


 会談終了後、我々プラトーク組の議論は専らその事についてだった。


「もしかして、ツァーレの件が片付くまでは協力するフリをして用が済んだらポイッかもしれませんよ」


「それも可能性としては考えられるな」


「いえいえ、あるいは…連邦侵攻段階になって裏切るつもりかも。そうやって我々を混乱させて連邦側の勝率を上げる作戦かもしれません。メーヴェだって勝ち馬に乗りたいでしょうから」


「しかしそれならこのまま我々側に協力した方が勝てる算段があるのでは?」


「うーん…」


「なら、良いトコ取りしたい…とか?」


「と、言うと?」


「上手い具合に色んな国々を戦わせて消耗させ、最後に弱った連中をメーヴェ一国で片付けちゃうんです。そうすればメーヴェは世界征服完了ですよ!」


「無理だろう。同じ事を考える国は多いはずだ。特に自由国とかな」


 エマヌエル自由国という国は東大陸に存在する国家であり、この大陸のゴタゴタとはあまり関わってこない。

 だからこそ、漁夫の利を得られるとすればそういった国だろう。


「報酬を持ち逃げ、とかは?」


「メーヴェにこちらから提示したのは全部領土だ。つまり、戦後の後払い。持ち逃げなど出来るものか」


 考えれば考える程にドツボに嵌る。

 女王の思惑が一体何なのか。


「案外、あの女王の事ですから…特に何も考えてない、とか…?」


「…」


 あり得そうで怖い。

 いや、“特に理由も無く”というのも可能性の一つとしてはあるのだが…まさかそんな…ンな馬鹿な…

 私だってその可能性はあるだろうとは思っていた。

 だがまさかそんなはずがないと敢えて考えないようにしていたのだ。

 だが、現在この説明が一番しっくりきてしまう。


「あり得るが…あり得てしまうが…その様な事を考え出したら負けだ。それは考えない事にしよう」


 それもそうですね、と皆軽く同意する。


「まあ何れにせよ、メーヴェが裏切る可能性も考慮しておくべきなのは確かです。フォーアツァイトとの密約は国家と国家の約束事でした。しかし今回ばかりは違います。エリザベス女王と陛下の個人的な約束という形ですから、信頼性が段違いに低い。もし仮にどちらかがお亡くなりになればそれだけで消え去ってしまう様な危ういものです。その場にいた数人が証人になるとは言え、その場で交わした口約束では惚けられてもどうしようもありません。やけにすんなり受け入れられてしまった事も裏がある可能性があるのならただ警戒するのみ。相手の意図が不明なら、どの様な意図であったとしても対応出来るように対策を予め練っておくべきでしょう。何であれ、我々のするべき事に変わりありません」


 普段余り口をはさんではこない副メイド長が、無表情でその様に述べる。

 これ以上無い程にご尤もな主張であった。


「そうだな、警戒する他出来る事も無いしな」


「そして討伐大同盟参加が決定した以上、そちらの方の準備もしないと」


「問題無い、そちらの方はヴァルトに協力してもらっている。フルシチョフ任せてあるし上手い風にやってくれるさ」



 ✳︎



 〜同時刻 ヴァルト王国首都ニーゼルレーゲン 七番ドックにて〜


「駄目です、やはり砲が旧式過ぎてヴァルトのものは使えません」


「そうか…」


 プラトーク帝国海軍南部第一艦隊司令官たるセルゲイ・フルシチョフは予想通りの残念な報告に肩を落としていた。

 対空戦闘に於いて非常に有用であるヴァルトの特殊な砲弾がプラトークの軍艦に載せてある砲では使用不可能だったからである。

 規格が全く異なるフォーアツァイトの軍艦でも一部の艦では使用可能だったらしい、と耳にしていたために、もしかしたら…と少しでも期待していたのがこのザマだ。


「そもそも、アレは中口径以上の主砲でないと使用出来ないのです。ヴァルトでも小型の船は普通の砲弾を使っているぐらいですから。プラトークの場合、砲の大きさ的にギリギリ足りていたものが数門しか無く、そのどれもが旧式で根本的に仕組みが違っていた…とくればどうしようもありません」


 情けなくうな垂れる部下に慰めの言葉をかけてやりつつ、彼は隣に立つイーゴリ・マセリン少将に話しかける。


「と、なると…攻撃手段は主砲に対空機銃に高射砲…だな」


「いや正しくは、()()()主砲に()()()()()()()機銃、()()()()()()()()()()()()()()高射砲がほんの少し…ってとこでしょう」


 プラトークの軍艦はどれも航空機が登場する以前に建造されたものばかり。

 当然、対空戦闘などという概念がそもそも存在しない時代のものである。

 それでも今まで何とかやってこれたのはそもそも何処ぞの航空機と戦う様な事が無かった事と、既存の砲でもそれなりに仰角が取れるから航空機相手に戦おうと思えば不可能ではないという事、ささやかな自衛手段として対空用の機銃をいくつか増設した事…等々、様々な要因あってのものである。

 数隻の比較的大型の船には一応高角砲も何門か据え付けてあり、それは戦力の足しになりそうだ。


「発射レートが高いとは言え…一般的な榴弾が当たるものだろうか?」


「当たらないでしょうね。そもそもメーヴェも我々にそんな事求めてないだろうし。基本的には囮、良くて弾幕を張るお手伝いって感じかな」


「今から改造するなり何なりして──」


「──無理ですね。時間が無い」


 そう言われてしまうと、もう何も言い返せない。

 彼は溜め息とも嘆きとも呪詛ともつかない声を漏らし、小さく俯く。


「ここにいる全艦を出撃させるとの事だが…それではどれだけ貢献出来るのか怪しいな。仮にも偉大なるプラトーク帝国海軍ともあろう者が囮に徹するなど…認められん」


「仕方ありますまい。逆に我々ですらこうして──どの様な形であっても──祖国のために戦う機会を得られた事を幸運に思うべきです。いつまでも海軍などとは名ばかりで海上のパトロール任務ばかり…なんてのは勘弁ですよ。それと比べりゃ遥かにマシです」


「そうか…ならば精々立派に囮を勤め上げるとしよう…ならば──そうだ!シールドを強化するのなんてどうだ?シールドなら今からでも交換出来るだろう?!」


 いつも冷静な歳上の同僚が、今日はヤケに無茶を言い出す事をイーゴリ・マセリンは不思議に思った。


「いや、シールドを強化しても敵の光学兵器の前では殆ど無力なんでしょう?我々の艦隊は小型艦ばかりです。どんなに高性能なものに交換したって所詮は知れたものですよ。無駄です、無駄」


「なら無理矢理重量オーバーだろうが何だろうが大型で高性能なものを載せれば良い。元々の速力があるから何とかなるだろう?」


「敵の攻撃に一発でも耐えられるシールド発生器を載せるとなると…アレですか…」


 彼の指差す先にはヴァルトの巡洋艦。

 プラトークの軍艦と比べれば遥かに大きい。


「そんな事したらちょっとの波でもひっくり返りますよ?あの船に載せるのがやっとのものを載せるなんて…速力もかなり落ちるし…囮とは言っても、敵を誘導しつつの囮なんですから速力が落ちて艦隊行動が出来なくなれば元の木阿弥ですし」


「じゃあどうしろと?」


「だから、何もしなくて良いんですよ」


 こうまで言われても…フルシチョフ少将はそれでもまだ諦めていなかった。


「ところで、敵の射撃の精度はどれくらいだ?」


 これは近くで苦笑いしつつ話を聞いていたヴァルトの士官に対しての質問である。


「報告では、ほぼ全弾命中だとか」


「距離は?」


「まちまちですが、初弾は水平線の向こうから…正確には不明ですがかなり遠くからだった様です」


「ならば敵はかなり高度をとっていたのでしょうね」


 光学兵器の思わぬ欠点として、曲射が出来ないという点がある。

 光は反射によって曲げる事は出来るが、砲弾の様に重力によって曲がる事はないのである。(厳密には、光は重力の影響を受けて曲がる。ブラックホールなどがその最たる例で、非常に強い重力下だと曲がってしまうのだ。しかし少なくとも生物が生きていける様な環境下ではほぼ曲がらないと考えて良いだろう)

 地球は丸い。

 普段生活する分には余り感じる事は無いかもしれないが球体であるというのは事実であり、ある程度高い位置から地上を見下ろすとはっきりとそう分かるくらいには地球は小さく、そして丸いのだ。


 そのため、光学兵器を使おうと思えば少し苦労する事になる。

 光学兵器の利点は重力の影響を受けず、偏差を考慮しなくて良い事により直接照準が可能である事だが、それはそのまま欠点にもなるのだ。


 地球は丸いから、数キロメートル離れただけで敵に攻撃を当てられなくなってしまう。

 折角の長い射程を活かせないのだ。

 これを解決するには直接照準可能な距離にまで近付くか、ある程度高度をとる必要がある。


「ええ、そうですが…」


「その遠距離からの攻撃なら避ける事は可能だろうか?回避機動で」


「どうでしょうか…分かりません」


 マセリンは彼の意図に気付き、苦々しい顔をする。


「まさか…フルシチョフさん…変な事考えてないですよね?」


「変な事?何の事だ」


「例えば…いっその事防御なんて棄てちゃって、回避に全振りしちゃおう!…とか」


「もしその通りだと言ったら?」


「船員達が不安がります、反対です」


 唯一の防御手段たるシールドを手離すとなれば不安に思わぬ者がいないはずがない。


「当たらなければどうという事もないだろう?主機を使い捨てる覚悟で全力で回し、艦隊の回避盾として働く…これぞ最適解だと思わないか!?」


「そんな無茶な…前代未聞ですよ、そんなの。陛下のお許しが得られるかどうかも怪しいですし」


「じゃあ、陛下にお許し頂ければそれでも良いのだな?」


 フルシチョフがにやりと笑みを浮かべ、マセリンはそれを見て自分のミスに気付く。

 しかしそれも後の祭り。


「まあ…陛下がそんなとんでもない事を認めて下さるとは思えませんけど、そうですね。陛下が認めて…下さるなら…」


「良いだろう。なら今から陛下にこの事をお伝えして来る」


 ──駆けていく同僚の背を後ろから眺めつつ、彼は呟くのだった。


「大丈夫なのかなぁ…」

遂に…!

やっとこさ…!

次回、満を持して戦闘パートに突入する予定です!

予定…です!


初期はこんなに長引かせる気なんて全く無かったツァーレ編…

毎度毎度の事ながら、無駄にダラダラと長引くばかり…

ええい、さっさとケリをつけてしまいましょう!

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