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IX.そして姉は突然に。

※注釈

・オリガ

主人公の姉。

史実ではニコライ2世の長女であり、ロシア革命後に他の家族同様監禁されました。

22歳で死亡しましたが、本作では二十代半ばから後半ぐらいの年齢設定。


・夜会

その名の通り、夜に開く会、つまりパーティー。

華やかなイメージですが、ベルサイユ宮殿の庭は実は糞尿だらけだったりとか…現実って悲しい。

 〜父殺害後十日目〜


「おはよう、ソフィア先生」


 執務室にて、もう既に先に待機していたソフィア医師にいつも通り挨拶をする。


 しかし彼女は私を無視してぷいっと顔を逸らす。


 困ったな…


 彼女に嫌われる事自体はこの際甘んじて受け入れよう。

 しかし、これを放って置くなんて事は流石に出来そうにない。

 ナーシャからの防衛上の不具合も生じるだろうし、このままだと何より私のメンタルが耐え切れないだろう。


「昨日はすまなかった」


 様子を窺いつつ、何とか仲直りのきっかけを掴もうと話し掛ける。


「昨日、とは?何の事でしょうか」


 だが、そう冷たく言い放って彼女は会話を拒む。


 駄目だ、打つ手無しだ。


 そして、その様な事に悩んでいる最中に事件が舞い込んで来た。


「陛下!至急の用件です!」


 執務室に、若い役人が息を切らしながら飛び込んで来る。


「騒々しいな。何かあったのか?」


 全く、私はソフィア医師の件でそれどころではないというのに。

 人の都合などお構い無しに、いつも用件というものは割り込んで来る。


「トルストイ伯ご一家がこちらに向かっておられる、と」


「姉上が、か?」


 我が姉オリガが、こちらに向かっているとの報せ。

 きっと私が父を斬った事を知り、問い詰めに来たのだろう。


 ソフィア医師への対応に苦慮しているというのに…

 ここに来て新たな厄介事か。


「到着は何時(いつ)頃だ?馬ならば、数日後といったところか?」


「いえ、馬車ではなく空路だとの事です。ですから、恐らく…今日中には到着するかと…」


 今日中に?!


 いくら姉とは言えども、彼女も今はトルストイ家の人間。

 更に夫と子を連れている以上、それなりの対応というものが求められる。


 しかし、そのためには準備のための十分な時間が不可欠だ。


 現状を例えるならば一ヶ月の準備期間だけでオリンピックを開催する様なもの。

 つまり…無茶だ。

 少なくとも姉に文句の一つや二つや三つは言いたくなるぐらいには。


「急いで準備を進めてくれ。取り敢えず、必要最低限しなければならない事から済ませていけ」


「使用人がもう既に準備を始めておりますが、到底間に合わないと申しております…」


「ならば、他から応援を寄越してやれ。そうだな…衛兵を幾らか引き抜いてきて手伝わせよ」


「では、その様に」


 彼は命令を受けるや否や、脇目も振らずに部屋を飛び出して行く。


 嗚呼、これは不味い事になったぞ…

 ソフィア医師の件だけですら精一杯だというのに、そこに姉まで乱入して来るとは…



 ✳︎



 結局、姉一家が到着したのはその日の夕方の事だった。


 まだ迎え入れる準備は完全には整っていなかったが辛うじて夜会の準備は出来ており、残りの準備は夜会の間に済ませて何とか誤魔化すらしい。


 こういう突然のアクシデントに対応する能力に関して、プラトークの使用人達は優秀だった様で大変結構。

 しかし、陛下、どうかお願いですから可能な限り夜会を長引かせて下さい、と準備の担当者には必死に頼み込まれたので恐らくは本当にぎりぎりの状況なのだろう。

 私もそれを了解したからには出来るだけ話を長引かせ、引き留め続けねば。

 本当は姉上にとやかく言われるのは避けたいのであまり長々と会話したいとは思わないのだが。


 私は式典用の服装で、玉座の間にて姉とその夫のトルストイ伯、そして息子を迎え入れる。


「トルストイ伯、遠路遥々(はるばる)よく来なさった。歓迎しよう」


殿()()、急な訪問となり、誠に申し訳ありませぬ。どうしても殿下にお会いしたいとオリガが言う事を聞かぬもので」


 トルストイ伯は、いつもの如く立派な髭を数度撫でると、深々とお辞儀した。


 彼は三十代後半で、私より少し歳上程度の姉と比べれば随分歳を食っている。


 しかし聞き及ぶ所に依ると仲良くやっているらしく、まあ結構な事だ。


「私も卿がこちらに向かっていると報せを受けた時には驚いたが、他ならぬ姉上の我が儘(わがまま)が原因ならば致し方無いな。昔から姉上の我が儘には皆困らされておったからな。卿とて例外ではあるまい」


「確かに困らされてはおりますが、愛しい妻の頼みとあればついつい応じてしまうものです」


 ははは、仲睦まじい様で羨ましいですな、と顔に引きつった笑みを浮かべて私は言う。


 冗談ではない。

 姉とその夫の惚気(のろけ)話など聞きたくもない。


 しかしそんな事を私が思っているなどと知らない彼は、嬉しそうにべらべらと聞いてもない事を話し始める。


 彼は如何に我が姉が聡明で美しいか、などという全く興味をそそられない話題を永遠にも思える程長い間、どこからそんなに湧いて出て来るのやら不思議に思えてくる程にし続け、それがやっと終わったかと思えば、今度はまだ幼い息子の愛らしさについて自慢し始める始末。


 愛妻家で尚且つ子煩悩とは…大変結構だが、それを独り身の私にするとは嫌味でしかない。


 更に、更にだ。

 彼は元々妻がいたのだが、身体の弱かった元妻は亡くなり、それで我が姉を新しく妻に迎えたという。

 歳の離れた嫁を貰い、ウハウハしているおっさんと腹違いとは言え姉の惚気話。


 聞きたいと思える方がどうかしている。


 正直、羨ましい。


 次期皇帝ほぼ確実、となった今の状況でも私には(妹とソフィア医師を除き)浮いた話の一つも無い。

 貴族から、どうか私の娘を貰ってやって下さい、だとか是非とも娘を紹介させて下さい、だとか、縁談の一つや二つぐらい来たって構わないはずなのに文字通り全く無いのだ。

 そう、驚くなかれ…文字通りゼロ。


 この前だって、私もそろそろ妻を迎えなければなあ、と年頃の娘がいる貴族連中の目の前でわざとらしく呟いてみたのだが、早く相応しいお方が見つかると良いですねえ、などと彼等は呑気に笑っている始末。


 そう言えば卿にも娘がおったな、と話を振れば、いえいえ私の娘は手が付けらないお転婆でして、陛下に嫁がせるなど全く叶いそうにもありませぬなあ、と返ってくる。


 何故だかは分からんが、恐ろしい程に私はモテないらしい。


 更に、もし仮に嫁を手に入れたとしても妹という最大の難関が待ち受けているのだ。

 嫁を妹に紹介した瞬間、嫁が切り刻まれかねない。


 良い肉が手に入ったから晩ご飯は焼肉にしましょう、みたいな妹との楽しい食事がその後に待っている可能性すらある。

 そうなったら自分が明日の晩ご飯にならないように、私は泣く泣く美味しいお肉を頂く羽目になる。


 しかし逆に言えば、「もしかしたら私が結婚すれば、妹も諦めてくれるのではないか」という淡い希望を私は抱いている。

 兄上も遂に結婚するのですね、私もこれからは普通の妹として接します、とか。


 …ならぬか。


 しかし渋々認めてはくれるかもしれんし、最終手段としては、彼女を無理矢理嫁に出す、というのもある。

 これに関してはそうなってみるまで分からんだろう。


 目の前でべらべらと小一時間も息子の自慢をしてみせたこの男は、急に懐中時計を取り出すと、おや、もうこんな時間ですか、殿下と話すのが楽しくてすっかり時間が経つのを忘れてしまっていました、と言いのけてみせる。


 本当だ、もうこんな時間になってしまった、と白々しく驚きながらも、私からすれば全く楽しくなどなかったと神に誓って断言出来る。

 多分空に浮かぶ雲でも眺めていた方が遥かに楽しかっただろうと思う。


 恐ろしく不快な時間だった。

 今も顔面の筋肉は無理に笑顔の状態で留めようと、ピクピクと痙攣気味だ。

 これが数日続くとなると何とも耐え難い。


 更にこれでもまだご挨拶の段階であって、本題には全く移っていない。

 これならば妹に追い回されていた方が幾分かマシかもしれん。


「それではまた夜会でお会いしよう。私は諸用があって途中からの参加となるが、卿は先に楽しまれておられよ」


「ええ。久し振りに会いたい者も大勢おりますし、こちらはこちらで楽しませて頂きましょう。それでは」


 彼は妻と息子を連れ、そのまま夜会の会場へと直行する。


 はあ…死ぬかと思った…


 それを見送りつつ、私はぐでっと力尽きて壁にもたれ掛かる。


 トルストイ伯の自慢話は一向に止まらんし、姉は私を無言で鋭く睨みつけてきて、この後色々と言われまくるのだろうなあ、という嫌な予感しかしないし、散々だった。

 時間稼ぎは出来たが、その分失うものも大きかったな。


 お利口だったのは彼等の息子だけか。


 まだ幼いのに、愚図ることもなく静かに座っていた。

 一応私の甥に当たるのだし可愛がってやりたいものだ。


 それはさて置き、私はこれから夜会のための準備を始めなければならない。


 準備とは、簡潔に言うと、即ち妹関連だ。


 表に顔を出すに当たって一応形式的には皇太子である私は、妹と共に行動しなければならないのだ。

 これについては規則ですから。仕方無いね。


 という事で夜会にも妹と一緒に出席し、一緒への貴族共の応対をする必要がある。

 そう、()()()()()()()()()


 勿論そんな訳は無いのだが、私は兎も角、妹はそう思うに違いない。


 実際、決まり事だから渋々従いはするが、そうでなければこんな事をしたいとは思えない。


 妹を迎えに行ってエスコートする所からスタート…などと、兄妹にさせるものではない。


 誰がこんなルールを決めたのかは知らんが、兄妹にこんな事をさせて何が楽しいのだろう。

 理解に苦しむ事この上ない。


 しかし止むを得ないので、嫌々ながら私は後宮へと足を運んだ。

 彼女の部屋に足を踏み入れると、ほのかに香水の香りが漂っていた。


「兄上、お待ちしておりました」


 普段は後ろで括っている髪を今日は伸ばしていて、少し雰囲気がいつもとは違う様に見える。


「すまんな。随分と話が長引いてしまったのだ。準備は出来ているのだな?」


「ええ。後は夜会用のドレスに着替えるだけです」


 会場の隣には私と妹共用の衣装室が用意されてあり、彼女はそこで着替えるのだ。

 故に、今の彼女の服装は普段通りのものだ。


 ちなみに、何故私と妹の衣装室が共用かと言うと…これも規則なのだ。


 本当にこの規則を定めた奴には直接会ってクレームを入れてやりたい。

 多分大昔に死んでいるだろうが、ならば末代まで嫌がらせしてやる!


「では直ぐに出発するぞ。着替えるのに時間がかかるだろうからな」


 私は服もこのまま使用するし大して用意に手間がかからないのだが、妹はドレスを着るのだ。

 それも、夜会用のドレスとなれば着るのに時間がかかる事は目に見えている。


 私も彼女と一緒に入場する以上、急いだ方が良い。


 私が手を差し伸べると、彼女はそれをそっと取って微笑む。


「嗚呼、将来的には毎日兄上とこんな風に過ごす事になるのですね」


 ほら、やっぱり。

 懸念していた通り彼女はその様な事を考えているらしい。


「ナーシャ、頼むから夜会ではそういう発言は(つつし)んでくれよ。普段はあまり会わぬ連中も今日は来ているのだ。ただでさえ噂になっているというのに、彼等の目の前で関係をほのめかす様な事を言われては困る」


 そう苦言を呈すものの、妹は何食わぬ顔だ。

 だからどうした、と言わんばかりに肩を(すく)める


「別に良いではありませんか。皆に私達の関係を広く知らしめましょう」


「冗談じゃない。妹と関係を持っているなどとこれ以上思われてなるものか」


 彼女はクスクスと意地悪く笑い、兄上の照れ屋さんには困ったものですね、と意味の分からん事を言う。


 この夜会にはいつもの様なおっさん共だけでなく若い娘さんも多数招待されているので、私としては、何としても妹に大人しくしてもらわねば困る。


 将来の結婚相手候補の女性達に「うわぁ、シスコンとかマジありえねえんデスケドォ〜」とか思われてしまったら取り返しが付かない。

 そんな事になれば、「灰色の未来with妹」という恐ろしいものが私を待ち受けているのだから。


「ところで、ソフィアは一緒ではないのですか?いつもならば蠅の様に兄上にしつこく纏わり付いているのに」


「ソフィア先生は…」


 彼女には、姉一家受け入れ準備の現場指揮、という名目で逃げられた。

 余程嫌われているのか。


 嫁にある日突然逃げられた夫もこんな気分なのかもしれない。


「──彼女には、受け入れ準備を手伝ってもらっている」


 妹は、へえ、と素っ気ない返事をするが、目が笑っている。


 計画通りってか。

 確かに彼女の思い通りにはなっているが。


「兄上、気に病む必要など無いのですよ?あの女などいなくても私がいるのですから」


「そうだな…」


「兄上には私さえいれば良いのです。兄上を本当に幸せに出来るのは私だけですよ」


「かもしれんな…」


「そもそもあれぐらいで逃げ出す様な女、放って置けば良いのです」


 そう簡単に割り切れれば楽なのだがな。


 私はナーシャと手を繋ぎながら、頭の中ではぐちゃぐちゃと様々な事を考えてしまうのだ。



 ✳︎



「お待たせしました!」


 妹はそう言うと、私にドレスを見せるためにくるくると回ってみせる。


 父を殺した時に着ていたドレスの、派手バージョンみたいな見た目の真っ白なドレス。

 まあ彼女の笑顔も相まって、可愛いとは思う。妹だが。


「このドレス、如何(いかが)ですか?」


「まあまあだな」


 私の返事を聞くと、彼女は露骨にがっかりした表情になる。


「兄上ったら…こういう時は、綺麗だ、とか言って褒めるべき所でしょう?」


「別に妹のドレスを褒める気にもなれんな。私には関係無いのだから」


「あら、今晩兄上が脱がすドレスなのに?」


 何を言っているのだ…


「何故私が脱がさねばならないのだ…」


「今晩、兄上は私と寝るからです」


 妄想もここまでいくといっそ清々しいな。

 寝ない。絶対に妹とは。


「そんな事は絶対にしない」


 きっぱりと言い切る。


 だが妹はそれを笑い流すと、ならば兄上の方から私と寝たくなるようにしてあげましょう、と不吉な事を言う。


 嗚呼、我が妹は何をするつもりだ?

 意味深過ぎる。


 一抹の不安を残しつつも、私は再び彼女の手を取る。


 衣装室と会場は扉一つで直通だ。


「夜会の進行状況は?」


 扉の前に立つ使用人に現在の状況を尋ねる。


「概ね問題無く進んでおります。出席予定者も全員入場した事を既に確認しており、後は陛下と殿下の御二方を待つのみ、という状況です」


「宜しい。では、我々も行くとしよう」


 使用人は黙って頷くと、重い扉をゆっくり開く。


 衣装室とて暗い訳ではないのに、扉の隙間から眩しい程の光が漏れ出して来る。


 一体どれ程明るく照らしているのだ、と軽く呆れる程だ。

 灯りとてタダではないというのに。


 既に私と腕を絡ませ、ナーシャは臨戦態勢。


 光の中へと歩みを進める。


 会場に入ると、わーっと歓声と共に出席者達が一斉にこちらに視線を向ける。

 パチパチパチと大きな拍手がそこらから湧き、我々を迎え入れる。


 広い会場内にはテーブルが幾つも置かれていて、その上には料理や酒が山の様に積まれている。


 よくもまあ、一日でこれだけのものを用意出来たものだ。

 会場の準備は兎も角、料理は事前の準備が不可欠。

 相当無理をして準備したのであろうが、そんな血の滲む様な努力の跡はどこにも感じられず、普通の夜会の様にしか見えない。


 携わった人々には後で個人的に礼を言っておこう、と思う次第だ。

 多分姉一家が帰ったら、一部の使用人と衛兵には休暇を与える事になるだろう。


 使用人達の仕事に満足しつつ、私とナーシャは無表情で歩いて行く。


 公衆の面前で妹と腕を組み、ぴったりと身体を寄せ合っての入場。


 大勢に見られながら妹をエスコートなど…今にも逃げ出したいぐらいだ。

 まあ、逃げたりしたら余計に恥ずかしい目に合うので、そんな事は勿論しないが。


 目指すは入った扉から右手に見える、数段高くなっている場所。

 先ずはあそこに上がってちょっとした挨拶をしなければならない。


 出席者達が左右に分かれ、できた道を胸を張って歩き続け、遂に到着。


 段の一番上にまで上がる。


 そこまで来るとやっとナーシャは腕を離し、皆の方を向く。


 私もそちらを向くと、ざわざわとしていた場内が一気に静まり返る。


 皆の視線が自分という一点に集中しているのが分かる。

 嗚呼、まるであの時…父を斬ったあの日の様な…


 何処からともなく湧き出て来る高揚感。

 自分が今、この空間を支配しているという実感。


 全てがあの日と同じ…!


 ふうっと息を吸い込み、声帯を思いっ切り震わせる。


「お集まり頂いた諸君!ようこそ、我が夜会へ!」


 ばっと両腕を広げ、天を仰ぐ。


 オーバーな私の仕草に、くすくすと小さな笑いが漏れる。


 こういう時の挨拶では何故かこんな調子でふざけるのが望ましい、という謎のアドバイスを臣下から受けたため、敢えてこの様に振る舞っているのだが…恥ずかしい…

 誰だ、そんな価値観を生み出した(やから)は?


「急な招待で申し訳なかった。いきなりの事で随分と驚かれた事であろう。しかし理由があるのだ。もう既に知る事だとは思うが、トルストイ伯が遥々帝都までやって来なさったのだ!ようこそ…いや、お帰りなさい!トルストイ伯!」


 人の群れの中に紛れ込んでいた彼の一家に、周りからの視線が集まる。

 拍手が巻き起こり、彼は照れた様に会釈する。


「更に、トルストイ伯に何故帝都に訪れたのか、と先程尋ねたら…彼が何と答えたと思うかね?」


 ほんの少し辺りがざわつく。


「何と、愛しい妻が我が儘を言うので、と答えおった!我が姉上に、彼と言えども頭が上がらんらしい!」


 姉が私を睨むのが見えたが、気にしない、気にしない。


 どうせこの後彼女に色々とガミガミ言われるのは分かり切った事。

 ならば、ここで少しでも恥をかかせてやる。


「つまりこの急な訪問も、全ては我が姉上が原因!妻に振り回される可哀想なトルストイ伯を労ってやろうではないか!さあ、酒と食事は用意した。トルストイ伯、ゆるりと楽しんで行かれよ!」


 そう最後に締め括ると、私は拍手の中、開会を宣言する。


 これで、楽しい楽しい夜会の始まりだ。



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