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LXXXVI.何だかんだで攻撃こそ最大の防御。

ここで再びオガナ君視点へ。


※注釈

・高射砲、高角砲

どちらも同じ意味。

本作では表記揺れが生じる可能性がありますがお許し下さい。

しかし細かく言えば、高射砲とは主に陸軍での呼称、高角砲とは海軍での呼称です。

筆者としては出来れば使い分けしたいと思っておりますが…まあ…出来れば、です。

一応気にかけておきます。


・VT信管

米帝様の秘密兵器。

時限信管でも着発信管でもない…弾が標的に近付くと勝手に爆発してくれます。

何だか当然の事の様に現代人としては思ってしまうかもしれませんが、当時の兵士達からすればまさに魔法の様な技術です。

だって、誘導弾だってまだ技術が未熟で、そのせいで神風やら桜花やら回天やらやらかしていた時代ですもの。

実際、英語ではマジックなんちゃらって名前ですしね。

米軍曰く、こいつのおかげで数分の一の弾数でZEEKのクソ野郎を海の藻屑にする事が出来たそうです。

米軍にとってはまさに守護神。日本にとっては悪魔か死神。

特にゼロセンだかレイセンだかは冗談じゃなくとんでもない紙装甲だったのでこんなの無理ゲーです。

私がパイロットだったら発狂しますね。


・水平/急降下/垂直爆撃

水平爆撃はその名の通り、水平に飛んで行って爆撃する方法。

最もオーソドックスかつ一番最初に生み出された爆撃方法です。まあ、そりゃそうか。

しかし水平爆撃は簡単な分、爆弾の命中率を上げるために投下時に高度を下げると敵の地上からの攻撃に晒されやすいという欠点があります。

…というか、対空砲火の好い鴨です。

だからって高高度から爆撃してるだけじゃ命中率が低くて効果が薄い。

バンバン爆弾を投下しまくる事が可能だったあの巨大なB-29を以てしてさえ高高度からの爆撃では殆ど効果が無かったそうで。(まあ、B-29のこの“高高度”ってのがべらぼうに高いってのも原因ですが)

さあ、どうしよう…という事で編み出されたのが急降下爆撃です。

目標の少し手前で急降下(急降下などとは言いつつも角度は然程ありません)し、一気に高度を下げつつ爆弾を投下する、と。

急降下中に機首を上手い具合に爆撃目標に向けてやれば、投下物にも慣性力がかかっておりますので真上からでなくともしっかり命中するのです。

要はこの急降下爆撃ってのは空戦ゲームなどをやってれば誰でも無意識のうちにやってしまうアレの事です。

しかし実際の飛行機では余り加速し過ぎると機体強度的に空中分解の可能性がありますから、昔はしっかりとしたエアブレーキを付けてある丈夫な飛行機でないとコレが出来なかったのです。

垂直爆撃は急降下爆撃の過激バージョン。

角度がもっと急になりました。

でも、厳密に言えば垂直じゃない。


・複合装甲

一つの素材ではなく色んなものを組み合わせて作る装甲の事。

昔の戦車はアイアンオンリーだったけど今では複合装甲が常識です。


・飽和攻撃

敵の処理能力以上の攻撃を同時に行う事。

敵が迎撃ミサイルを四発撃てるならこちらは五発撃てば良いじゃない、という発想。

元々はソ連邦の叔父様方がアメリキャの恐怖の空母機動艦隊やら空母打撃群やらに対抗するために考案したもので、金にモノを言わせて無茶苦茶強力な戦力をぶつけてくる米帝様と戦うための苦肉の策でした。

旧大ニッポヌ帝国海軍が水雷戦隊による漸減邀撃作戦で米軍の戦艦に対抗しようと考えたのと似てますね。

 〜七月 某日 メーヴェにて〜


「こちらが王立海軍が誇る最新鋭巡洋艦“アルファード”です。戦闘能力自体もさる事ながら、この艦の最大の特徴は圧倒的な防御力!従来のものに比べて遥かに強力なシールドを張る事が出来ます。このボディーに戦艦並みの強力なシールドジェネレーターを積んでおるのです。また、アルファード級はどれも艦隊の中心を担う事が最初から想定されておりましたから、他の艦をサポートする能力に関してもしっかり考慮されております。特筆すべきは対空戦闘能力の高さでしょう。ご存知の通り、我々が現在最も敵に回す可能性の高い相手は連邦です。連邦は頭一つ抜けた驚異的なまでの空軍を擁しておりますから、それを踏まえた結果の対空戦闘能力の向上です。恐らく他国に例を見ない大量かつ強力な対空火器を揃えております。少なくともこの艦の半径数百メートル圏内には何人たりとも近付けません。周囲に味方艦がおらず、単艦の場合でもこの艦が全力で対空戦闘を始めたならば航空機では歯が立たんでしょう。残念ながら今直ぐお見せする訳にはいきませんが、訓練の際に私が見た限りではハリネズミの様でした。この他、姉妹艦四隻が既に就役中。二カ月以内にあと三隻増える予定です。如何でしょうか?この艦で()()()に対抗し得るでしょうか?」


 案内役の某将校に連れられ、私は船を見て回っていた。

 付き添いはもう一人。ローザである。


 私は王国から色々とそれらしい理由をつけられて国外に逃げる事を禁じられていたため、漁船に隠れてのメーヴェへの渡航だった。

 要は密航なのだが、こればっかりは仕方ない。

 例の“アイツ”と海上でばったりと遭遇してしまう事を避けるため、かなり遠回りする事となったが無事密航成功。

 そのおかげでこうして無事に乙女達(軍艦)を悠々と見て回れる訳だ。


 ちなみに、到着後に「実はこの密航での()()()との接触率は確率論的には──あくまで計算上では、だが──半分程度だった」と聞いた時には身震いしたものだ。

 知らぬが仏、という訳である。


 ローザは“以前からメーヴェ王立海軍にツテがあった”らしく、こちらでは何と少佐などという大層なご身分である。

 招かれた身である私もいきなり佐官を頂戴する事となったが、私と彼女を同列に考えてはならない。

 何故なら、私と彼女では今後背負うべき責務が違い過ぎるからだ。


 私は何やらとんでもない重荷を背負わされる事が確定しているが、彼女はその限りではない。

 所詮は私の元部下に過ぎず、今回だってただ単に私をここまで連れて来るのに一役買っただけの事。

 それだけで少佐などという階級は…正直言っておかしい。


 以前も述べた様に、軍隊というものはおいそれと出世出来る様な生温い組織ではない。

 佐官をほいほいと新参者にくれてやる様な太っ腹な連中ではないのである。

 それなのにローザは少佐…これは王立海軍がおかしいのか何か理由があるのかの何れかであろう。


 そして恐らくは後者。

 直接彼女に尋ねた訳ではないものの、これは“ローザが元からメーヴェと繋がっていた”と考えるのが妥当であろう。

 つまり何が言いたいかというと、“ローザは一種のスパイだったのではなかろうか”という事。

 憶測に過ぎないが…それに近いものであるのは間違いない。


 メーヴェが情報を重視する質なのは知っていたが、まさかこんな近くにまで…

 別に直接的な危害を加えられた訳でもないし、ヴァルト王国海軍の情報がメーヴェに漏れようが漏れまいが私にとっては知ったこっちゃないのが正直なところだが…

 やはり複雑な気分である、と言えよう。


 …さて、目の前のものに話を戻そう。


 目の前にあるのはメーヴェの最新の巡洋艦であるアルファード。

 性能に関しては先程案内役が述べた通りだ。

 私はこのアルファード級及びその他様々なメーヴェの艦艇を視察し、例の敵に対して有用であるか、または有用になり得るかを判定し、もしそうでない場合はそうなるための何かしらの案を提示せねばならない。

 のんびり見て回っている様でいて、かなり責任重大である。

 まるで倒産寸前の会社を建て直すべく雇われたやり手経営コンサルタントの気分だ。


 そしてこのアルファード級だが…

 見たところ随分と立派な軍艦だ。


 戦艦相手でもしっかりと張り合えるであろう高威力の主砲。

 これは威力もさる事ながら、すばしっこい小型艦相手の戦闘も考慮して発射のレートも高く、命中率と威力の両方を良い塩梅に両立させている。

 言わば中型の砲としては現状では最適解と言えるものだ。

 従来の対艦戦闘では全く問題無いだろう。


 ただ、ヴァルト王国海軍の様な主砲を使っての対空防御という発想が無いため、その点には不安が残る。

 仰角は十分にとれるから、ヴァルトの砲弾を転用するなり何なりすれば或いは…といったところだろうか。


 そして肝心の対空火器。

 こちらは案内役の男が今誇らしげに語ってみせた様に、かなりしっかりとしている。

 遠距離用の高射砲なり高角砲から、近距離での撃墜のための機銃まで、載せられるだけ載せてある。

 彼の言った()()()()()とはこの後者の方であろう。

 第二次世界大戦の米空母の如く、とても近寄れたものでない凄まじい弾幕をプレゼントしてくれるのだろう。

 VT信管は無い様で残念だが。


 航空機がまだ未熟なこの世界に於いて軍艦にここまで豊富な対空火器を載せているとは、感服する。

 メーヴェの仮想敵国である連邦が如何に空軍国家であるとは言え、これは素直に凄い、と言わざるを得ない。

 例の敵は兎も角、この世界の航空機ならきっと歯が立たない。

 魚雷はどうか分からないが、水平・急降下・垂直の如何を問わず、航空爆撃に関しては封じられたも同然であろう。


 しかし今回は航空機相手ではないから事情が違う。

 敵は光学兵器らしきものを使用するから、射程距離はほぼ無限。

 弾幕を張ってもその外から攻撃されれば意味が無い。


 そして次は防御。

 こちらもちょっとした戦艦並みのものである。

 特筆すべきはこのアルファード級から採用されたメーヴェの独自技術である“複合防御システム”というもの。

 複合装甲みたいなものかと思ったがまたちょっと違うらしい。


 普通、シールドは複数を使用すると互いに干渉し合ってしまうため、基本的には単体で使用しなければならない。

 だから従来の軍艦では一隻にシールドジェネレーターを一つしか積んでいなかった。


 …この常識を覆してみせたのが、複合防御システムというものである。

 実はアルファード級はシールドジェネレーターを二機載せている。

 互いに干渉してしまうなら交互に使えば良いじゃない、という単純な理屈でこの二つを交互に使い分けるのである。

 また、シールドの切り替えにはコンマ数秒レベルの短時間しか要しないので、切り替え時が弱点になる事も考えにくい。(従来のものではこの“切り替え”に時間がかかるため、実現出来ていなかった。要は、複合防御システムの本質とは“極めて短時間でのシールド切り替え技術”なのである)

 無論、二つにする分一つ一つの性能は低くなってしまうのだが、それは適宜切り替えで対処する。


 実は、このシステムを使ったところで純粋な防御力は上がらない。

 何故なら「今までは分厚い壁一つで守っていたものを今度は薄い壁二つを使い分けて守ります」というだけの事に過ぎないからである。

 逆に、一つ一つの壁自体は脆くなってしまうから逆効果であるかもしれない。


 しかしわざわざそうするからには当然理由がある。


 この方式を採用する事による利点とは、すなわち“防御の最適化”である。

 シールド、などと一括りにしてはいるがそれも多種多様。

 シールドジェネレーターによってピンからキリまで様々なものがあり、それぞれに長所や短所がある。

 あるものは貫通に対する防御が優秀で、またあるものは広範囲への同時攻撃に対する防御が優秀である…と、いった風に。


 従来はシールドジェネレーターを一つしか積めなかったため、出来る限り全ての状況に対応出来る汎用的なものが好まれた。

 しかしこの複合防御システムであれば、二種類を使い分ける事が出来る。

 状況に応じて、より適切なものを使用する事によって効率的に守り固める事が可能なのである。


「防御面に関しては概ね問題無いでしょうね。そもそも、どんなにしっかりシールドを張っても例の敵相手では殆ど無駄ですし。この艦が存在する限り相手は迂闊に近寄って来れないというのも良い。問題は主砲ですが…これは対空火器として使えますか?やはり主砲でも使わないと高角砲だけでは火力不足です。いくら近距離ではハリネズミ状態で無敵であっても、遠距離から始末されたんじゃ元の木阿弥ですよ。せめて十キロ先には攻撃出来ないと」


「それは、ヴァルトの使用したという…主砲を対空砲の代用品とせよ、と?」


「そういう事です。可能でしょうか?」


「どうでしょうか…新しく開発する時間などありませんから、もし仮にそういった運用をするにしてもヴァルトのものを使うしかありませんし…うーん…ヴァルトが応じるかどうかも不明ですからね…」


「あの、もし仮に弾が手に入ったとしてそれをメーヴェの砲に転用可能なんですか?」


 ローザがナイスな質問をしてくれる。


「ええ、それは問題ありません。ヴァルトとなら共通の規格を使用していますから」


 良かった、その点での心配は無い様だ。


「そうですか、ならば少しでも勝利を確実にするためにもヴァルトに協力してもらった方が良いでしょうね。今ならヴァルトは大量に船が沈んで弾薬類の使い途に困っているはずです。案外上手くいくのではないでしょうか?」


「やはり必要ですか…?」


「必要というか…絶対条件です。例の敵は数撃ちゃ当たる、なんて考えでは到底倒せません。飽和攻撃…空間を全て埋め尽くす程の弾幕で圧倒せねば命中は難しいでしょう。生半可な攻撃では全て躱されて終わりです」


「…考慮しておくとしましょう」


「ええ、是非ともそうして下さい。大事なのは火力よりも手数です」

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