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LVII.前日。

※ここまでのあらすじ

お魚咥えた猫耳ロリメイドを追っかけて全裸で駆けていたら、異世界に迷い込んでしまったニコライ君。

「勇者様…我々猫耳ロリメイド組は、敵対組織である清純派バニーガール組との長年の抗争によって疲弊しております。既に我々のシマの殆どが乗っ取られ、薬の密輸ルートも潰され、子飼いの詐欺グループもどんどんあちらに寝返っていってしまいました…どうか、どうか我々をお救い下さい…!清純派バニーガール組を潰して下さるなら、報酬として我々の経営する風俗店の女の子を全てあなた様に捧げます!」

「ふふふ…任せてくれ給え。無料で素股放題出来ると思えばこの程度、安いものだ。異世界人特有のオレツエースキルの数々とこの最強装備…伝説のハジキ、伝説のドスで奴等を大◯湾に沈めてやろう!コンクリの用意でもして気楽に待っていてくれ」

ニコライ君と清純派バニーガール組の仁義なき戦いが今、始まるっ!


※本当のあらすじ

妹のナーシャちゃんは遥々フォーアツァイトにまでこっそり追いかけて来ちゃいました。流石ですねヤンデレ妹。

そしてお兄ちゃんがフォーアツァイトの皇女とイチャイチャしている事を知った妹ちゃんは襲撃を敢行。

ニコライさんは捕まっちゃいます。

途中ユリユリとか色々あったけど、どうにかこうにか妹ちゃんを倒し、めでたしめでたし〜…って何か忘れてる様な…?

あ、決闘だ。



※注釈

・ノルアドレナリン

アドレナリンの前駆体。

 〜父殺害より六十九日目〜


「右っ!左っ!上、上、下っ!!」


 言われた方向から、声とほぼ同時に剣撃が嵐の如く襲い掛かってくる。

 何かを考えている余裕など無い。

 ただ、生物が当たり前の生命活動として呼吸をする様に、ひたすらに無心で降り掛かる火の粉を払うのみ。


 そこには一片の感情も無い。

 ただ言われた方向から来る師のサーベルを、我がサーベルの鋼の刀身を以って受け止め、受け流し、時には押し返し、時には退き、ほんの稀に反撃の一太刀(当然、軽く対処される)を浴びせる。

 そういった一種の反復作業であった。


 だが私はそれを苦に感じてはいなかった。

 例え身体の節々が痛み、骨がぎしぎしと悲鳴の声を上げたとしても。


 まるでこの世に生を受けて誕生したその瞬間からこうしていたかの如く、私はそれを当然と捉え、それどころかある種の快感を覚えていたのである。

 この感じ…もし言葉を以って表せ、と求められたならば私はこう答えるだろう。

 これこそが生の歓びである、と。


 ノルアドレナリンが悪さをしているせいだろうか?

 かもしれない。


 これは一種のまやかしなのだろうか?

 かもしれない。


 では、何故それが(わか)っていて…?

 …それに答えなどあるのか?


 …


 少なくとも分かっている事は…

 私に出来る事は、このまま剣を振り続ける事、ただそれだけである。


「上っ!」


 その声と共に大地に稲妻が落ちるかの様な重い一撃が、私の右手に伝わる。

 だがその余韻に浸る間も無く、次の一撃。


 右…?

 いや、そう見せかけての左…!


「左っ!」


 剣を立てる。

 構え終わるのを待たずに、無情にも鋭く空気を斬り裂きながら刃が迫る。


 一瞬、鉄と鉄のぶつかり合う音と共に火花が飛び散る。

 鉄に少し混じった不純物が弾き飛ばされるのである。


 今は実戦でもないので、質の悪いなまくらを使用している。

 故に飛び散る火花もその分多い。


 次の攻撃に備え、刀身の曲線を活かして滑る様にくるりと剣を元の位置へと戻す。

 ハレー卿の剣を押さえ付ける様に。


 …いや、ハレー卿の動作はワンテンポ遅れている。

 これは攻撃のチャンスである。

 機を見るに敏、今こそ見せようぞ特訓の成果。


「コンナミコマンドッ!」


 コンナミコマンド…それすなわち使用者を勝利へと誘う必勝の剣。

 上上下下左右左右の八連撃で敵の防御を砕き、そこにとどめのBA、つまりコンナミスラッシュを叩き込むのである。

 コンナミコマンドとは、最後のコンナミスラッシュを成功させるための技なのだ。


 コンナミスラッシュは強力であるが、その分非常に隙が大きく、単体での使用は致命的な結果に繋がる。

 命の奪い合いをする様な場では特に。


 しかし、コンナミコマンドとて容易く繰り出せるものではないのである。

 諸々の厳しい条件をクリアした理想的な条件下でないと成功確率は極端に下がってしまう。


 そして今…コンナミコマンド発動前提条件のうち、半分程度しか満たされていなかった。


 上からの力いっぱいの振り下ろし。

 これはハレー卿に易々と受けられる。


 そしてすかさず衝突の反動を利用してもう一度剣を振り上げ、もう一度振り下ろし。

 腕の力とサーベルそのものの重みを重力加速度に従って、ニュートン力学の結晶を!


 この間一秒未満。


 ぎぎぎ、と鉄の軋む音がする。


 崩れない…

 この怒涛の連撃にもハレー卿は鉄壁の如き防御を披露してみせる。


 そしてハレー卿が一瞬ニヤリと笑った。

 そして私はようやく気付くのだ…


 これは罠だ…っ!


 ものの見事に誘われた。

 人間というものは、新しく手に入れたものを使ってみたくなる生き物なのである。

 そこを突かれた。


 新しく買ったペン、誰もが試し書きしてみようと思うだろう。

 新しく買った服、誰もが試しに着てみたくなるだろう。

 新しく買った剣、誰もが試し斬りしたくなるだろう。

 新しく覚えた技…誰もが試しに使ってみたくなるだろう…


 その心理を上手く利用された。


 そしてハレー卿こそコンナミコマンドの本家。

 私に技を使わせるためにわざと隙を生んで見せる程度の事、造作もなかろう。

 ハレー卿のあの笑みは、馬鹿な私を嘲ると共に、それを指摘し改善を促すものだったのである。


 私は思い出す。

 ある日の、ハレー卿の言葉を…



「戦闘に於いて最もな大事な事があるとすれば、それはなんじゃと思う?」


「私の思いつく範囲で言えば…技術と、それを実行に移す身体能力…だろうか?」


 その私の回答を聞いて、老人は笑う。


「ふぉっふぉっふぉ、ニコライ君はこう見えて脳筋お馬鹿さんなのかね?」


「やはり大外れだったか?」


「いやあ、悪くはない。悪くはない答えじゃと思う。そもそも絶対の真理など存在せんのじゃからのう。じゃが、それを分かっていて敢えてワシなりの答えを示させてもらおう。数十年の探求の末に行き着いたワシなりの答えじゃよ」


「お聞かせ願えるか?」


「勿論じゃ。それはのぉ…」


 そこで彼は言葉を途切れさせる。

 私を焦らすための演出なのだとすれば、随分と憎いご老人である。


「それは…?」


「今、そなたが行った事じゃよ」


 彼はそれ以上何を聞いても答えてくれなかった。

 まるで、攻略本の“続きは自分の目で確認してみよう!”の文言の様であった。


 私は分からなかった…

 彼が伝えたかった事が。


 だが、今ならば多少なりとも理解出来る気がした。

 言葉では表せずとも、モヤモヤとした何かを掴んでみせる事が出来た様な気がした。

 そしてそれは…



 首元に刃が突き付けられた。


 ハッと気付く。


 いつの間にか私の握る剣はひしゃげ、使い物にならなくなって哀しげに地面に転がっていた。


 ハレー卿の剣は変わらず元と同じ形を維持して私の首元で光っていた。


 同じサーベルを使っていたはずなのに、この有り様。

 彼は上手く力を逃がし、分散させ、サーベルに耐え切れないだけの負荷がかかる事を避けていたのだ。

 この戦闘で、その様な事にまで気を配る余裕があったという事であろう。


 対しての私は力無く立ち尽くし、負けを受け入れていた。

 否、この一瞬に何が起こったのかすら把握出来ずに(ほう)ける他無かったのである。


 それほどまでに一瞬の出来事であった。

 攻勢に出ていたはずが、次の瞬間に私は敗北していたのである。

 それは罠に気付いたのとほぼ同時…あるいはそのほんの少し前から始まっていた。


 蜘蛛の張った網に掛かり、それに気付いた時にはもう食われていた…

 それに近い。


「残念じゃったな、ニコライ君。若いのぉ、簡単に餌に飛びついて来る」


「またもや完敗か…手も足も出んな…」


 降参だ、と両手を上げてみせると、彼は笑いながらサーベルを引いた。

 そして腰の鞘に収める。


 カチンっと小気味良い音を鳴らし、サーベルは吸い込まれる様に彼の帰るべき場所へと帰還した。

 私が使っていたサーベル(敗残兵)は、戦場の屍の如く地に伏し、動かない。

 もう彼は使い物にならないだろう。


 これが実戦であったならば、と思わずにはいられない対照的な様に私は何か得体の知れぬものを感じた。

 言うなれば、初恋の感情の対極に位置する様な部類のものである。

 人によっては恐怖だとか懼れと表現するかもしれない何かだ。

 何を今更、と我ながら呆れる様なものが。


 そしてその感情に埋もれる様にして悔しさが滲み、直ぐに消えた。

 後に残ったのは何故だか面白可笑しさだった。


 その様な心中の私を知ってか知らずか、老人は微笑んだ。


「本気で勝つつもりじゃったのか?」


「そのつもりでやれと言ったのは誰だったかなぁ?」


 私が少しわざとらしくそう言うと、彼はそうじゃった、そうじゃった、とおどけてみせた。

 好々爺(こうこうや)とはこの人の事であろう。


「今日はここまで。明日に本番を控えておるのじゃから十分に休息を取らねばの」


「それもそうだな、明日に差し障りがあっては困る」


 斯くして本日の特訓、すなわち最後の特訓は終了した。

 未熟ながらも、コンナミコマンドも習得した。

 もうここいらが限界だろう。


「お疲れ様でした、兄上」


 終わったと気配で察してか、我が妹ナーシャが駆け付けて来る。

 この素早さたるや、見習いたいぐらいである。


 彼女は私の額に浮かぶ汗を可愛らしいハンカチで拭いてくれる。


 疲れているために私も無駄な抵抗をする事なく黙ってそれを受け入れる。

 彼女はそれが分かっていてこの瞬間を狙ってくるのである。

 悲しい事に、我が妹はこの手の頭の回転だけは非常に良かった。


 遅れてソフィア医師と、彼女に手を引かれてナディアがちょこちょこと必死に追いかけて来る。


「ぜえ…ぜえ…殿下、いやはや速過ぎでしょう…」


 ソフィア医師は半ばナーシャに呆れながら、そんな事をこぼす。

 私個人としては、御尤もです、と言わざるを得ない。


「いえいえ、ソフィア。あなたの兄上への愛が足りぬだけでは?この程度、愛の力を以ってすれば苦にもならないでしょうに」


 多分、愛は関係無いと私は思う。

 実際関係無いし。


 そして今私が思ったのと同様の事をソフィア医師が言い、ナーシャは悪意のこもった笑みを顔に浮かべ、こう返す。

 そうかぁ…肉欲しかない雌豚のあなたに愛などハナっから存在するはずもないものね、ごめん遊ばせ…と。


 そして当然ながらそれによって恒例の馬鹿げた喧嘩が始まるのだった。


 ナディアは慣れたもので、ふたりともケンカはダメ〜っ!と仲裁に入る。

 最近ではソフィア医師もナーシャ相手に必死の反撃を試みるようになったため(これまでは抵抗はしても決定的な反撃に至っていなかった)この様な形でナディアが迷惑を被っていた。

 可哀想なナディアちゃん、といったところである。


 そしてそこへルイーゼが優雅に遅れてやって来て、ナディアに加勢する。

 ヒーローは遅れてやって来る、というか…漁夫の利を得るべくわざと遅れて来た、という感じである。

 勝者の纏うオーラの様なものが見える気がした。

 まあ簡単に言うと、一番余裕そうな表情であったのだ。


 私はもうただそれを横から眺めている他にない。

 止めるだけエネルギーの無駄使いである。


 老人は呵呵(かか)と笑った。


「元気な娘さん達じゃのお」


 “元気な”などというレベルは既に通り越してしまっているのだが、この老人にかかればそういう風に見えてしまうらしい。

 孫の遊ぶ光景をにこにこと見守る祖父の如きご様子。


「おじーちゃん、たすけてー…」


 ナディアの援軍要請にも、微笑みながら頑張れ若人的なエールを送るだけである。

 本気でこれが戯れてる様に見えているならとんだ盲目ジジイだ。

 もし分かっていて敢えてそうしているならば逆に悪どいが…

 彼の表情を観察する分には、前者であるかと思われる。


 そんな煩いわちゃわちゃをBGMに、ハレー卿はむしゃむしゃとホットドッグをどこからか取り出してきて食べ始める。

 よくもまあこの状況で…


「ところで、ニコライ君」


「はい?」


「飴ちゃんは要るかの?」


 見れば、彼の手には可愛らしいキャンディーが。


「要らん…」


「遠慮せんでも良いぞ?ちゃんと人数分あるからの」


「あ、キャンディー!おじーちゃん、わたしもほしいっ!!」


 それを見たナディアの一言により、結局みんなでキャンディーをぺろぺろと舐める羽目になった。

 おかげでケンカは収まったが。


 何故私まで…とか言いつつも案外美味かったので良しとしよう。


 しかし、このキャンディー…まさかこういう事態を想定して、ケンカを止めるためのものか?

 だとすればハレー卿は中々の策士だが…

 恐らく彼の表情を見るに、純粋に子供達にキャンディーを配る感覚なのだろう。


 ホットドッグ(二つ目)を頬張るハレー卿。

 それを囲む様にしてキャンディーを舐める我々。

 非常にシュールである。


「ところでお嬢さん方、ニコライ君は明日のために今夜はゆっくり休まねばならんでの、すまぬが今宵は夜の営みも控えてやってくれんかの?」


 そして彼は唐突にその様な事を言い出す。

 笑顔で。

 笑顔で…!


 何てこった…

 その様な勘違いを…


 私は文字通り凍り付いた。


 当然、この様な発言に彼女達が食い付かぬはずがない。


「仕方ありませんね、毎晩兄上とは愛を確かめ合っておりますが…今日だけは控えておく事にしましょう」


 事実無根ですが!?

 毎晩愛を確かめ合ってなどおりませんが!?


 ソフィア医師もそれを聞いて黙っている程甘くはない。

 対抗意識をメラメラと燃やし、お返しだとばかりに彼女も嘘っぱちをあたかも本当であるかの様にのたまう。


「そうですね、普段の様に朝までずっとでは色々と差し障りが生じますからね。いつも陛下が中々寝かせてくださらないからなぁ…」


 その様な事を勢い余って言ってしまい、後になって彼女は自分の発言の恥ずかしさに気付いて顔を赤らめている。


「じゃあ、ナディアもひかえるね〜」


 絶対に意味が分かっていないであろうナディアも真似してそんな事を言ってみせた。


 ここは何か言わないといけない感じなのかな?

 とばかりに空気を読んだルイーゼも、笑顔で卑猥なワードを連発し、更に私に追撃を与えた。

 この時の発言に関しては想像にお任せするとしよう。


「ニコライ君、毎晩大変なんじゃのぉ…」


「ええ、まあ…」


 否定する気も失せて、私はそう答えるのであった。

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