LIII.坊やだからさ。
※注釈
・赤い彗星
赤いMSのあの人。
別名キャスバル兄さん。
本作でハレー卿にこの二つ名を付けたのは、ただ単にシ◯アのセリフを使いたかっただけで深い意味は無いです。
はい、いつも通りですね。
・いのちだいじに
ガンガンいこうぜの対をなすもの。
びびりの筆者的には最も使用率が高かったコマンド。
・無くはないです
主人公なのに存在感が薄い、出番が無い某王子への手向けの言葉。(プレイヤーキャラのせいで主人公なのかどうかも怪しいんですけど)
ネタにしてたら、本当にがっつり出番ができてしまいました。
でも、筆者はFE原理主義者なので覚醒なんて認めませんぞ!
ちなみにEchoesはBGMだけで泣けた…
聖戦もリメイクおなしゃす!!
…え?大人の事情で出来ない…?
近親婚が何だって言うんだ!?妻が寝取られたって良いじゃん!?
ダメ?そうか、ダメか!
・野球
異世界にもあります。
そりゃあ、野球ですからね。
あって当然(?)ですよ。
・弾性防御
第一次世界大戦に於ける我らが偉大なるドイツ帝国の防御戦術。
それ以前の「絶対にこの先には進ませないぜ!行きたくば俺を倒してからにしろォォォ!」という陣地の前方に全兵力を集中させたカチカチの防御とは違い、“お姉さんのお胸”とでも表現すべきものです。
お姉さんのお胸、とはつまり「優しく僕を包み込んでくれて、奥の方まで侵入させてくれるけど、最後の最後にはそれが罠だと気付くんだ」という感じ。
敵を陣地内に侵入させない事はハナっから諦め、敵が内部にまで入って来る事を前提として陣地を構築し、まんまと敵が奥まで入って来たところで主力部隊によって敵を叩くのです。
ははは、まるで美人局だぜ!
ドイチェ先輩のいじわるっ☆
・コンナミコマンド
上上下下左右左右BA。
訴えられる事を恐れ、お名前を微妙に変えています。ブルブル…
〜父殺害後六十二日目〜
宮殿の中庭。
私はそこに立っていた。
周囲には綺麗な花や人工の池、木々も整えられ…
まるで地上の楽園といった様な光景。
そこで、私は一人の老人と見つめ合っている。
「…」
「…」
お互いに口を割らない。
その老人こそが、ルイーゼ曰く、フォーアツァイトの三宝剣が一人と謳われた剣豪らしい。
彼はやけに長い白いあご髭を伸ばし、頭部はつるっ禿げ。
身長は極端に低く、お世辞にも強そうには見えない。
言うなればただの老人である。
「異国の皇太子よ…そなたがワシの指南を受けたいという者じゃな?」
やっと老人が口を開く。
それを端に、私も社交辞令を交えて挨拶をする。
「ああ、如何にも。私こそがプラトーク帝国皇太子にして次期皇帝、ニコライ・アレクサンドロヴィーチ・ロマナフ。貴殿の名をお聞かせ願いたい」
「残念ながら、ワシには名乗る程の名も無い。かつて剣豪などと呼ばれていただけのただの老いぼれじゃよ。じゃが、敢えて名乗るとすれば…“赤い彗星のハレー”じゃ」
「あ、赤い彗星…?」
突如目の前のご老人から何やらとんでもない言葉が発せられたのだが!?
「ハレー卿は昔、赤い彗星の異名を持っていたそうです。聞き及ぶところによると、赤い鎧を身に纏い、まるで彗星の如き神速の剣を得意としていたからだとか」
背後に控えていたルイーゼが少し興奮気味に解説してくれる。
多少厨二臭い名前なのは兎も角、凄い人らしい。
「お恥ずかしい限りじゃが、昔はヤンチャしていたものでな」
ええ、その様ですね…
「ところで、ワシはそなたをどう呼べば良いのかな?他国の皇太子ともなれば、失礼があっては困る」
「何とでもお好きな様に。短い間ではあるが、私は貴殿に教わる側の立場となるのだからな」
「そうかそうか。では、好きに呼ばせてもらうとしよう。宜しく、ニコライ君」
「どうぞ宜しく、ハレー卿」
「ところで、あちらのお嬢さん達は?見かけない顔じゃが」
彼が言っているのは、ナディアとナーシャの事である。
二人は見学すると言い張って聞かず、少し離れた所からこちらを見ていた。
「ああ、私の妹と…知り合いの女の子だ」
妙な勘違いをされる事を予防すべく、ナディアが一応は私の婚約者であるという事実は伏せておく。
「ほう…遠いところをプラトークから妹さんまで?」
「勝手に付いて来てしまって」
「元気があって良いな。若い者はそうでなくてはのう」
「あり過ぎるのも困りものだが。とんだじゃじゃ馬で、振り回されてばかりだ」
などと、他愛も無い会話をしていると、自分について話していると察知したのか、ナーシャがこちらにやって来る。
彼女は長いドレスのスカートを摘まんで、優雅にお辞儀する。
「ご機嫌よう。此度は主人がお世話になります、ハレー卿。お忙しい中、予定を変更して突然お越し頂く事となり、申し訳ありません」
彼女はサラッと私を夫扱いする。
「構わんよ。どうせ暇な老人じゃ。今日も隠居仲間と孫の自慢話でもして時間を潰す予定だっただけじゃしの」
ご老人の方は、それに気にする素振りも見せない。
「あの、おじーちゃん、こんにちは!」
続いて、ナディアが挨拶。
彼女も礼儀作法はきっちり身に付けているので、ナーシャ同様綺麗なお辞儀をしてみせる。
「おお、こんにちは」
ハレー卿も無自覚にか、思わず顔が綻ぶ。
それぐらい、一挙手一投足が可愛らしいのだ。
完璧な礼をしているはずなのに、どこか可愛げがあるのだから不思議だ。
ナディアの天性の魔性とも言えるかもしれない。
「お嬢ちゃんも、見学に来たのかのう?」
「うん!へーかをみにきたの!」
「はて?へーか…?」
「ああ、私の事だ。どうやら私を見に来てくれたらしいな」
「へーか、がんばってね」
ナディアはそう言うと、私の足下にしがみ付く。
「ああ、観ていても大して面白いものでもないと思うがな」
いつもの如く、その頭をわしわしと豪快に撫でてやる。
それで喜ぶ姿など、子犬とそっくりだ。
「兄上、では練習にしっかりと励んで下さいね」
「ああ」
ナディアを羨ましそうに見るナーシャを無視し、取り敢えずそう答える。
「ニコライさん、すみませんが、私は用事があってこの後出掛けないといけないのですが、特訓の方、宜しく頼みますね。勝って頂かないと困るんですからね!?」
「善処しよう」
「本当に?」
「本当だ」
そして彼女はちゃっかり私に不意を突いてキスを一つ浴びせ、その後去って行った。
ナーシャが少し怖い顔をしていたのは内緒だ。
「ところで、ニコライ君。あのお嬢さんは君の妹さんではなかったのかね?」
「ナーシャの事か?」
やはり聞いてきた。
「勿論妹だ。正真正銘の妹だよ」
それだけ言っておいて、後はこれ以上聞くな、と眼力を飛ばす。
幸い、ハレー卿はそれ以上詮索してこなかった。
複雑な家庭事情に理解のある御仁で良かった。
もしこれがお節介なご婦人などであれば、あれこれと探りを入れられてピンチに陥るところだ。
「さあハレー卿、早速始めてもらっても良いか?」
ナーシャが怒り出す前に。
✳︎
剣を構えると、途端に彼の表情が変わる。
先程までのご老人が、今や戦士の顔立ちである。
「先ずはそなたの腕前が如何程のものか見せてもらうぞ。安心せい、ほんの手馴しじゃ」
「では、お手柔らかに」
私もハレー卿も右手に持つのは、練習用の木刀である。
木刀とは言えども良くできていて、形などはサーベルそっくりだし、持ち手も本物を模してある。
「本気で当てるつもりでおいで」
かなりの余裕が窺えるセリフ。
「いくぞ!」
だが、私とて仮にも皇太子。
フォーアツァイトの皇族と比べればプラトークは武芸を軽視しているが、それでも私とて必要最小限の剣は扱える。
少なくとも、一般的な兵士レベルは能力がある。
私の利き脚は左。
左脚にグッと力を込めて、一気に距離を詰める。
私が習得している王宮剣術は、防御重視である。
王宮剣術は私の様な要人のために存在するものであり、その特性上、安全第一、いのちだいじに!がモットーなのである。
では、攻撃的な技は無いのか…?
いえ、無くはないです。
あるにはある。
故に、私はその数少ない攻撃技術を使用し、この一撃を繰り出す。
着地した右足を軸に、身体ごと木刀をくるりんと一回転させ、自分の腕力に加えてその勢いをも刀身に乗せる。
相手の腹部を狙った右からの回転斬り。
普通に斬るよりも予備動作が多く、相手に準備する隙を与えてしまうという欠点はあるものの、その分威力は抜群。
特に、目の前のご老人の様な力の弱い相手には。
受けられる事は想定内。
いや、前提である。
本当の目的は、全力の一撃を叩き込み、相手の体勢を崩す事にある。
そしてこの後のもう一撃に繋げる…!
たといハレー卿が昔は剣豪であったのだとしても、老いには抗えまい。
技術力は昔のままだとしても、純粋な力では私が有利。
技術面で圧倒的に劣る私にとっては、力でねじ伏せるのが最も現実的な手段だ。
ハレー卿はその場を動かず、受けの姿勢。
自信があるのか、敢えて受けるつもりらしい。
それならば好都合。
我が一撃、とくと味わうが良い!
「とりゃああ!」
…インパクト!
私の振るった木刀はハレー卿の持つ木刀へと打ち付けられる。
しかし、どうにもおかしい。
インパクトの瞬間、来るべき衝撃が両手に全く訪れない。
木刀とは言えども、固い木と木を高速でぶつけるのだから、打ち付ける瞬間にはかなりの衝撃が来る。
野球ボールをバットで打つのですら相当なのだ、当然であろう。
…だが、その当然であるはずの衝撃が来ない。
確かにハレー卿の木刀に打ち付けたはずなのに。
そして、その原因は直ぐに分かった。
ハレー卿の木刀の表面を滑る様にして、私の一撃は受け流されていたのである。
受ける直前に敢えてかなりの角度をつける事により、力を逃したのだ。
「ほう…隙だらけじゃが…良い技じゃのう。マトモに受けておったら危なかったぞ」
彼はぼそりとそう呟くと、足を一歩前に出す。
不味い…ハレー卿の体勢を崩すはずが逆に今私の方が受け流された結果、重心が前に寄り、右手と木刀は遥か前に突き出され、無防備に胴体を晒してしまっている。
それに対してハレー卿は完璧なまでに綺麗な姿勢を保っている。
このチャンスを彼がやすやすと見逃すはずがない。
「ほれ、避けてみい」
流れる様な動作で、まるでエアーホッケーの如き地面に浮かんでいるかの様なステップ。
気付いた時には彼は間合いに入り、木刀を上から振り下ろしていた。
教科書通り、とでも表現すべき美しい一連の動作である。
「おっと…!」
私は重心が前に傾いている事を利用し、右斜め前にそのまま滑り込む様な形で飛び込み回避。
左頬をチュンっと銃弾の様に木刀が掠めていく。
危ない危ない、もしもあと少しでも判断が遅れていたら即ゲームオーバーだった。
着地の瞬間に右肩を入れ、位置エネルギーを出来る限り回転へと振る。
所謂受け身というヤツである。
先程ハレー卿がやってみせたものと似たものであり、着地時の衝撃を和らげる。
中庭は所々土の地面で、所々芝生である。
そして今私がいるのは芝生のエリア。
そのおかげもあって、私は肩を痛める様な事も無く、容易く前転を成功させる。
相手の追撃を避けるべく、くるんと回転した後はその勢いに乗って直ぐ様立ち上がる。
そして素早く後ろ振り返る。
振り返ったその時には、もうハレー卿の第二撃が迫っていた。
振り下ろした木刀をそのまま方向転換させた、振り向きざまの鋭い振り上げ。
私は咄嗟に後ろにステップしつつの防御姿勢。
後ろに退がりながら攻撃を受ける事で、相手の攻撃の威力を低下させる事が目的だ。
こういったテクニックは宮廷剣術の十八番である。
今度はカーンッと大きな音と共に木刀を支える両手に衝撃が走る。
私は半ば吹き飛ばされる様にしてエネルギーを逃がし、その一撃をやり過ごす。
私が吹き飛ばされたせいで、間合いは開始時と同じくらいで木刀四本分程。
この長いハレー卿との距離は、私を守る縦深であると共に、私の攻撃を妨げる縦深でもある。
闇雲に先程の様に攻撃を仕掛けようものならば弾性防御も斯くの如し、と彼は直ぐ様私に逆襲するだろう。
この現状を打開する方策は…無い。
「大体ニコライ君がどの程度の強さなのかは今ので分かったぞ。中の上、といったところかのう」
「ああ、その認識で概ね正しい」
「弱くはないが、強くもない…これでは決闘には負けてしまうのぉ…」
「やはり、エーバーハルトは強いのか?」
「その通り、強い。ヴィルテンベルク公のご子息…エーバーハルト君は幼少期からララナという女性に師事しておってな。彼女の技術の全てを叩き込まれ、レイピアにせよ、フルーレにせよ、刺突剣に関しては帝国内でも三本の指に入る程じゃ」
「ララナ、とは…何故女性に?」
何故剣を学ぶために女性に師事するのだ?
「彼女は、ワシと同様、三宝剣の一人じゃ」
「女性が…?」
「驚くのも無理は無い。実際、当時の人間はワシを含め、皆驚いたものじゃよ。三年に一度の剣術大会に見かけぬ仮面の男が出場したかと思えば、その正体が女だったのじゃからな。彼女の突きはまるで剣が十本あるかの様に錯覚する程の速さじゃった」
「その様な御仁の技を継承しているなら、エーバーハルトが強くても納得だな」
「そうじゃな…ララナは私の母になってくれるかもしれなかった女性じゃ…」
「母…?」
この人、何を言い出すのだ?
「おお、すまぬ、忘れてくれ。個人的な話じゃよ。認めたくないものじゃな、若さ故の過ちというものを…」
ララナとハレー卿の間に一体何があった?!
何だ、その意味深なセリフは!?
「エーバーハルト君がどんなに強くとも、安心せい。勝機はある」
「どういう事だ?」
「必殺の一撃を食らわせるのじゃ。それしか方法は無い。我が秘伝、『流星奥義コンナミコマンド』を授けようぞ。まあ、厳密には一撃ではないがのう」
コンナミコマンドとは一体…!?
次回、その正体が明らかに!?(ならない)