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XLIX.女の子の部屋に匿ってもらおうかと。

※注釈

・三種の神器

八咫鏡、八尺瓊勾玉、草薙剣の事。

はい。勿論ググりました。漢字難しいものね…


・三好三人衆

戦国BASARAのせいで雑魚いイメージしかない…

そして実際のところ、雑魚い。


・ビッグセブン

戦前の七大戦艦の事。

日本の長門、陸奥、英国のNelson、Rodney、米国のColorado、Maryland、West Virginiaの7隻。(英語の綴りが分からなくてグーグル先生に助言を求めたのは秘密)

え?大和は?と思われた方もいらっしゃるやもしれません。

ビッグセブンは第2次世界大戦の約十年前ぐらいまでに建造されたお船を指しますから、大和は含まれておりません。

それに、勘違いされている方が多い様ですが、大和の存在は秘匿されていましたから日本国民も戦時中は大和なんてつゆ知らず、国民の知る日本の戦艦といえば長門型戦艦だったのです。

大和の存在が広く知れるのは、戦後になっての事でした。


・シュネートライベン

Schneetreiben。

フォーアツァイト帝国の首都名。

お判りかと思いますが、ドイツ語です。

確か、吹雪…?みたいな意味だったはず…

この単語は何となくカッコよかったから使っただけで、特に意味はありません。

実はかなり初期からこの名前の設定はあったのですが、ずっと使わずにいて、今更になってやっと初使用です。

初期設定の消化率の低い事、低い事。

 〜父殺害後六十一日目〜


「さあ、兄上!今日が何日か、ご存知ですか!?」


 朝、目覚めるや否や、私の上に跨ってナーシャは肩を揺さぶって起こしてくる。

 こちらに来てからは彼女も私と同じ部屋で寝ているのだ。


 しかし、普段とは少し様子が違う。


 いつもの様に誘惑してくるでもなし。

 セクハラ行為を仕掛けてくるでもなし。

 朝っぱらから何やらいそいそとしているが…一体何だろう。


「今日…?いきなりどうした?十日だろ?六月十日だ」


「ルイーゼ曰く、恐らく結婚式は十九日…九日後だそうですよ、兄上っ!」


「そうか…もう直ぐだな」


「もう、今日を合わせても九日しか無いのですよ!」


「何が言いたいのだ?」


「起きて!朝食!その後特訓ですよ兄上!」


「特訓?」


 何の、だ?


「剣術ですよ、剣術!あのマゾ男(エーバーハルト)に勝たないといけないでしょう?!」


「今更どうした?テキトーにやるから特訓とかいらんぞ」


 今まで特に何も言ってこなかったのに、突然のこの慌て様。

 まあ、ナーシャの事だから深い意味は無いのかもしれんが。


「いるのです!大変な事実が発覚したのです!」


「大変な事実?それは…」


「ええ、驚かないで聞いて下さいよ?何と、ああ見えてあのマゾ野郎、フォーアツァイトでも十指に入る剣豪だとか!」


 な、何だってぇ!?


 …センスの無い冗談だ。


「っははは…ナーシャよ、それは流石に有り得んぞ。あの男の剣が強いはずがあるまい」


「でも、残念ながらそうなのです…フォーアツァイトでは数年に一度、貴族や騎士の剣の腕を競う催しが開かれるそうなのですが、あのマゾ男…前回は八位だったそうです…」


 それは…

 本当なら勝てる気がせんな…


 あの男、本当に強いのか。

 (にわ)かには信じ難いな。


「もう、それは諦めるしかないのではないか?無理!私には勝てん!」


 私も一応剣は扱えるが、剣の腕は並程度。

 勝てる気がしない。


「そもそも、何故それを知っていてルイーゼは決闘などと…!」


 そう、一番不可解なのはルイーゼである。

 彼女はエーバーハルトの剣の強さを知っていたはず。

 それなのに何故?


「ニコライさん、ご安心下さい」


 ばっとカーテンの裏からルイーゼが出て来る。


「いつからそこに?」


「殿下がニコライさんを起こす前に身体をべたべた触ってたぐらいの頃からですかね」


 おい…

 ずっとスタンバッてた訳だ。


「まあ良いでしょう。丁度良いわ、ルイーゼ、兄上に説明して差し上げて」


「はい。何故私がニコライさんとエーバーハルトの決闘を後押ししたか、ですね」


「そうだ。勝算があるのか?」


「はい、勿論ですとも」


 やはりあるのか。


「エーバーハルトには一つだけ弱点があります。それは…彼がとんでもないドMだという事です!」


 いや、待て待て。

 それ、関係あるか?


「もしかして、こちらの攻撃を敢えて受けてくれる、とか?」


「いえ、それは普通にかわしますね」


 あ、そうなんだ。


「では、一体?」


「彼は…女の子に罵ってもらえないと真の力を発揮出来ないのです…!」


 は?

 意味が分からん!


「エーバーハルトの強さの秘訣は、女の子に罵ってもらい、興奮する事によって得られるパワーなのです!」


 エーバーハルトよ…

 思った以上に残念な奴なのだな…


「そして、今まで彼を罵る役目は私が渋々受け持っておりました。つまり…」


「今回はルイーゼが罵らないから勝てる、と?」


 なんて馬鹿げた作戦だ…

 いや、最早作戦ですらない。


「私が罵りさえしなければ、勝つる!」


「ぐふふふ…そして勝利の美酒に酔いしれましょうや!」


 ナーシャは妄想モードに入ったのか、気持ちの悪い笑みを浮かべてヨダレを垂らしている。

 レディーにあるまじき…いや、もう今更か。


「まあ、それは兎も角だ。ならば特訓とやらもいらんのではないか?腑抜け状態のエーバーハルトになら勝てるのかもしれないのだろう?」


「いえいえ。腑抜けてもやはり強敵である事に違いはないのです。そこで、良い指南役を用意致しました」


「指南役だと?」


「ええ。今は引退しておられますが、以前はフォーアツァイトの三宝剣が一人と謳われた方です」


「その三宝剣とは何だ?」


「ああ、三大何チャラとか三種の神器とか三好三人衆とかビッグセブンとかそういう感じのヤツです」


 取り敢えず強い人らしい。

 まあ、修行イベントは主人公には避けては通れぬ道。

 甘んじて受け入れるしかあるまい。


「で、十三日からからアポ取れたので、六日間程修行してもらって下さい」


「ん?ナーシャは今日からと言っておったが?」


「兄上、勿論今日からですよ。今日は私が特訓をお手伝いさせて頂きます」


「ナーシャは剣術など知らぬだろう?」


「甘いですよ兄上!決闘で重要なのは技だけではありませんよ!精神力ですよ、精神力!あと、兄上は残念ながら基礎体力も絶望的ですから!」


 精神力?


「何をするのだ?」


「先ず、兄上には私とお風呂に入ってもら…」


「ああ分かった!拒否だ!全力で拒否する!」


 風呂とかいうワードが出て来るだけでも嫌な予感しかしない。


「兄上、誤解しないで下さい。決してやましい気持ちで言っているのではありません。お風呂というのはただの手段であって、目的ではありません。本質を見極めて下さいませ!」


「ほう、ならば続けてみよ」


「ええっと、兄上と私で入浴し、水中でのトレーニングをします。この宮殿には大きな水風呂があるそうで。まあ、要するにプールですよ。水中での運動は全身の筋肉を使いますからね。で、その後はマッサージをして…」


「はい、質問」


「何か?」


「水中での運動とは?」


「愚問ですね。それは勿論セッ…」


「やっぱりな!拒否!」


 アブノーマルなプレイとか、お断りです!



 ✳︎



「ああ…クソッ…」


 何とか追撃を振り切れた。

 まるで猟犬の如くしつこく追い回して来るのだから堪らない。

 もうヘトヘトだ…


 いつもならば助けてくれるソフィア医師も、現在ギスギスした関係。

 私が寝ているうちに先にナディアを連れて朝食を取りに行っていたらしい。

 無防備な私は命からがら逃げて来た、という訳だ。


 ええい、この肝心な時にエレーナ副メイド長は何処(いずこ)に?

 彼女もソフィア医師同様、私に大層おかんむりだからなぁ…

 見捨てられたか…?


 他に頼りになりそうなのは…アリサ…?

 うぅむ、駄目だな…

 糞の足しにもなりそうにない。


 逃げているうちに、いつの間にやら宮殿の最上階にまで来てしまった様だ。

 窓から見える景色は、シュネートライベンの綺麗に整備された街並み。

 美しい、煉瓦造りの街並みである。


 大通りに面する建築物は大抵二階建てか三階建てで、どれも立派だ。

 裏通りの建物も、それには多少見劣りはするものの、祖国の惨状と比べれば十分だと言える。


 この宮殿を中心として放射状に拡がる十数本の大通りと、それらをそれぞれ結ぶ円状の通り。

 そしてその隙間を血管の如く幾重にも結ぶのは小さな裏通り。

 そして所々に広場が設けられ、水道や下水道は完備。

 区画毎に分けられているのと、町中に流れる水道のおかげで火事などは脅威たり得ないだろう。


 目に見えないものだと、ごみの廃棄システムも整い、公衆衛生には十分に気が配られ、疫病を未然に防ごうとしている。

 警察システムも十分に機能し、治安は維持されている。

 近衛兵だけでなく、この都市の周囲には少し離れて数万人規模の兵が待機しており、有事の際には半日もしないうちに駆け付けて来るらしい。


 この都が入念に都市計画をされた末に現在の形を維持している、という事が一目で分かる。

 以前街の様子を眺めた際には夜だったのも手伝って、こういった点に気が付かなかったが、よくよく見ればこのシュネートライベンという都市は、一つの芸術品だと言っても良い程に整っている。


 対して我が国は…

 今挙げたものの大半は整備されていないか未完全かの何れかである。

 この国から学ぶべきものは多そうだ。


 料理人を今回貸してもらった様に、今後交流を続けていく中で様々な分野の技術者や専門家を派遣してもらったり、こちらから人材を派遣して学ばせたりして、技術を盗んでいく必要性があるだろう。

 我が国は、遅れている。


 窓から、びゅうっと風が入って来る。

 もう既に六月。

 暖かい、という段階は過ぎ、暑くすら感じられる様になってきた。


 心地好い空気の流れが私の首筋を撫で、ぱたぱたと服をはためかせる。


 …


 私がいつか攻める事となる、連邦の首都もそれはそれは綺麗な都だという。

 その時私は…


「陛下」


 風の鳴らす鋭い音に紛れ、彼女は背後に近付いて来ていたらしい。

 朝であっても照明が無いために少し薄暗い廊下の先から、彼女はゆっくりと歩いて来た。


「アリサか」


 横からの風を受け、彼女のツインテールと、それを結ぶリボンが揺れる。


「何故ここに?」


 この宮殿は広過ぎるのか、余り使われていない場所が随分とあるらしい。

 それらは主に最上階だとか端っこだとかで、ここも人がいない。


 現に、ここには私一人しかいなかった。

 宮殿内とは思えない。


 プラトークの冬宮で、私がソフィア医師との話し合いの場に苦慮したのが思い起こされる。

 ここなら幾らでも密会出来そうである。


 しかしそれはそうと、何故ここに彼女がいるのか。

 それこそが最大の疑問である。

 尋ねずにはいられない。


「たまたま、先程殿下とすれ違って、陛下を探すようにとご命令を受けたのです。それで偶然ここに来てみれば、陛下がいらっしゃった、というだけの事です」


「そうか…今、私はナーシャに追われているのだ。勿論君は私のメイドなのだし、私と会った事を報告したりはしないな?」


「勿論です、報告などしませんとも。でも、ここにいてもそのうち見つかってしまうと思いますよ?」


「そうか?」


「ええ。フォーアツァイトの侍女も動員している様で…」


 困った。

 この宮殿の地理に詳しい侍女を追っ手に加えられると、相当厳しいな…


「それは弱ったなぁ」


 面倒は御免被りたいのだが。


「あの、宜しければ…」


「何だ?」


「覚えておられますか?以前の約束」


 彼女は頰を赤らめ、少し俯く。


 風で少し乱れた髪が、まだそよそよと揺れている。

 その風に乗って、何だか良い匂いがした。


「ああ…キス…か?」


 そんな約束もしたな…

 あの時は必死だったから。


「今からか?」


「だって、どうせ陛下はお部屋に戻る事も出来ないのですよね?」


「ああ」


「特にご予定も無いですよね?」


「ああ」


「行く宛も無いのですよね?」


「ああ」


「追われていて、困っているのですよね?」


「ああ」


 分かったよ…

 もう彼女の提案に乗るしかない様だ。


「私のお部屋で暫く身を隠すのも良いかと。ついでにその…キスしたり、とか…」


「では、そうする」


 そういう事に興味が湧くお年頃らしい。

 適当に済ませて満足してもらおう。


 どうせ隠れている以外にする事も無いのだ。

 彼女に匿ってもらうのも悪くはない。


「決まりですね。では、付いて来て下さいね」


「心配するな。逃げたりはしないさ」


 これではまるで、ソフィア医師との密会の時の様。

 彼女が暴発したあの時…


 そうか、もう二ヶ月も前の話になるのか。

 あの時にそっくりである。

 少し違うのは、当時のソフィア医師と違ってアリサは私を露骨に狙ってきている事だが。

 まあ、根本は変わるまい。


「ところで、朝食がまだなのだが」


「朝食ですか…食堂に行く訳にも行きませんし、私はもう済ませてしまったのでもう一度頂いて部屋に持って帰ったりすると怪しまれますし…」


「すまんが、腹が減っては戦も接吻も出来ん。何か良い案は無いか?」


「それならば、あの…非常に恐縮なのですが…作ってきましょうか…?」


「作る?」


「私が、陛下の朝食を、です…」


「え?作れるのか?」


「ええ、まあ。一応…ですけど」


「それが可能ならそれで構わんが」


「一応、使っていない古い厨房があるらしくて、そこならば好きな時に使っても良いとフォーアツァイトの方が仰っておられました。シェフよりも下手ですし、その、期待しないで頂けると嬉しいのですが…」


 確かにな。

 アリサの事だ、言葉を選んで言えば、凄く独創的な料理を作ってくるに違いない。

 まあ、期待せずに、だな。


「分かった。心配はいらんから作ってきてくれ」


「あ、でも先ずは部屋にご案内しますね!陛下はちゃんと隠れてて下さいよ?!」


「言われずとも分かっておる」


「下手でも、自分なりに陛下の胃袋を掴むべく頑張ってきますからね!」


「はいはい、まあ、気楽にな。そう気負わずとも良いから」


 何だか親に褒められた時の子供みたいで、少し微笑ましい。

 ナディアをそのまま大きくした様な…

 いや、ナディアはきっと、もっとしっかりした人間に育つだろうが…


「陛下、見つからないように急ぎ足で行きますよ」


「あ、ああ」


 少なくとも退屈はしなさそうだ、と私はぼんやり思うのであった。

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