XLIII.綺麗な百合には何がある?
※注釈
・ずっと俺のターン
その名の通り、ずっと自分のターンが続く事。
それすなわち、ずっと自分が一方的に攻撃し続ける事である。
火照る頬。
絡む舌。
私は…
私は、今何を見ているのか。
目の前で繰り広げられる光景。
それはまさに、百合…!
百合の花言葉は、純潔だとか無垢だとか、そういったものだったはず。
私の目の前でいちゃいちゃしているお二人も、(無垢ではないが)ぎりぎり処女だけはキープしている純潔の可憐な美少女達である。
まさに、百合。
しかし、これは…何の意味があるのだろうか。
ナーシャは辱めを受けさせる、などと言っていたので、どの様な事を仕出かすのかと内心ビクビクしていたのだが、いざ始まってみれば、ただの百合プレイであった。
やはり、何だかんだ言ってもルイーゼ相手には敬語だし、ナーシャはナーシャなりに立場を弁えているのだろうか。
これは、辱めを受けさせている、という事になるのか?
いや、まだ始まったばかりで、これは軽い様子見程度でしかないのかもしれんが、少なくとも今のところ、幸い…と言って良いのかはよく分からんが、二人は目の前で私に熱いキスを見せつけているだけである。
そう、ただキスをしているだけ。
床に座り、見つめ合い、互いに息を切らせ、頬を染め、ぐちゅぐちゅといやらしい音を立てながら、快感を得ているだけである。
見ているこっちまで変な気分になってくる。
我が下半身の息子君は先程からピクピクと痙攣に似た動作をし、起きて良いのか悪いのか、判断出来ずに困り果てている。
さあ、そのまま耐えてくれ、息子よ!
現在、私は縛られて動けない。
つまり、我が息子がウェイクアップすれば、それを隠す手段は皆無。
文字通り、皆無である。
それをナーシャが見逃すはずがなく、そうなればきっと「兄上は私の姿に興奮してしまったのですね!さあ、そのままの勢いで子作りとしけこみましょう!」などと言い出し、絶対絶命のピンチに陥る事ほぼ間違いない。
更には、ルイーゼとアリサに変な勘違いをされるオマケ付き。
何としても、それを避けるべく下半身の血流コントロールを徹底せねばならない。
さて、役に立たないポンコツメイドのアリサはと言うと…私の側で、きゃあ〜とか言いながら顔を真っ赤にして二人の様子をまじまじと見ている。
やはり、このメイド、玉の輿を連呼する割にはウブである。
実は、プラトークのメイドの採用条件の一つに、何故かは知らんが“生娘である事”などというものがある。
恐らくは皇帝に気に入られる可能性も考慮してのものだろうが、未だにその様な事を一々確認しているらしい。
そう、確認するのだ、膜があるかどうかを。一々。
しかしまあ、確かに、メイドは最初に処女であるかどうかを確認するし、基本的には結婚する前に皆辞めてしまうのだが、勿論、宮殿には私以外にも男は幾らでもいる訳だし、必ずしもメイドならば処女という訳でもない。
職場恋愛を禁止してはいないから、宮殿で男と知り合ってそのままゴールイン、という女性もいるにはいるのだ。
基本的には結婚する前に体を交えるのは宜しくない事、と世間的にはされているが、それは今や古い考えになりつつあり、そんなものを律儀に守っているのは身分の高い人間だけになろうとしている。
故にメイドが処女かどうか、なんて私には分からない訳だ。
実際、エレーナ副メイド長が果たしてどちら側の人間なのか、私は知らない。
まあ、恐らくは処女だろうが。
しかし、アリサは別だ。
このお嬢さんは新入りで、つい最近まで生娘であったと保証されているし、今でも処女だろう。
私には関係無い事だが。
そんな彼女にこれは少し刺激が強かったらしく、機能停止に陥っている。
ええい、役立たずめ!
「流石はビッチ…はあ、はあ…やりますね。どうやら経験豊富なご様子で、大変結構です。期待を裏切らない尻軽具合で安心しました」
突如、ぱっと口を離すと、ナーシャは口から糸を引く唾液を右手の甲でぐいっと拭う。
どうやら、ナーシャは簡単に勝てると踏んでいたらしいが、そう甘くはない。
ルイーゼはエーバーハルトとのキス経験が豊富にあり、非常に上手いのだから。
「あなたも、ね。はあはあ…ニコライさんから上手だとは聞いていたけど、本当ね」
「ほぉ、何故兄上とその様な会話を?もしや…いえ、確実に…」
「まあ、あなたのお兄さんとキスをした時に少しね、そういう話になったの」
「兄上と…やはり…やはりそうですか…!」
「そりゃそうよ、結婚を賭けて決闘なんて事になるぐらいなんだから、それぐらいしてるに決まってるわ」
「本当に手が早い…!私が見ていない、たったの数日でそこまで進んでいるとは…!このぉ、ビッチめぇぇ!」
「それならば、ほら、かかってきなさい。屈服させてご覧なさいよ」
「望むところです!」
ナーシャは勢い良く、ルイーゼの舌に吸い付く様に斜めに飛び込んで行く。
こちらからはナーシャの後ろ姿と、ルイーゼの顔が少しだけ見えるだけである。
故に彼女達の間でどの様な激戦が交えられているのか、私には分からない。
ただ、時々互いに彼女達の身体がびくびくっと激しく震える事から、きっと私には及びもつかない高度な戦いが繰り広げられているのだろう、とは確信出来る。
時々、息継ぎの隙間から漏れる甘い喘ぎ声。
私の理性をこれでもか、という程に揺さぶってくる。
ルイーゼは動けないため、本来ならば、ずっと俺のターン!状態であるはずのナーシャだが、見ている限りではそうでもない様だ。
明らかに、ナーシャは苦戦している。
ルイーゼにちまちまと奇襲を仕掛けては、不利になったら逃げる、という戦術を繰り返しているのである。
優勢、或いは互角ならば、この様な事をする必要もないのだから。
ナーシャはルイーゼの防御を破れず攻めあぐねているばかりか、反撃で相当やり返されているらしい。
そしてやはり、数十回にも及ぶ攻防の末、遂にナーシャは折れる。
「クソッ…ビッチめ…!まさか、ここまでの上手さだとは…!」
ぜえぜえ、と荒い息をしながら、彼女は床に片膝をつく。
その台詞からも、悔しさが滲み出ている。
「いえいえ、これはもう仕方無い事だと思うわ。ナーシャちゃんはほら、まだ舌が小さいし、どうしても大人の私相手では力負けしてしまうから」
ルイーゼから漂うのは勝者の貫禄。
その余裕な口ぶりに、ナーシャはぐぐぐっと歯噛みする。
「子供扱い…しないで下さい…」
「気分を悪くしたならごめんね。でも、可愛らしい小さな舌で頑張るものだから、凄くいじらしかったわよ」
「まあ、素直に負けは認めましょう。しかし余裕ぶっていられるのも、今のうちですよ…当初の予定は狂ってしまいましたが、これからが本番です。卑怯かもしれませんが、ここからは一方的にやらせて頂きます」
彼女は、再び立ち上がる。
「例えば…こんな風にね!!」
彼女はルイーゼのドレスの中に、素早く両手を…を突っ込む…!
「んなっ!!」
そして服で隠れてよく分からんが…揉んでいる…!
その豊かな双丘をねっとりじっくりと揉んでいる…!
「ふはははは!これならば反撃出来まい!ずっと私のターン!!」
高笑いしながら揉むその妹の姿は、非常にシュール。
何と形容して良いのやら。
しかし、そこは流石はナーシャ、と言わざるを得ない。
同じ女性同士だからこそよく分かるのか、明らかにルイーゼの反応が違う。
ルイーゼはくっと歯を食いしばりながらも、抑え切れずに途切れ途切れに声を漏らす。
「すいませんねえ、一方的で!感じてるんですか?感じてるんですよねぇ?」
ルイーゼは黙ったままだ。
いや、そうするしかないのである。
口を開けば盛大に声を上げてしまうから。
「さあ、この状態でさっきの様にキスをしてみたら、どうなるのでしょうねえ?」
「ぐっ…あっ…!止め…んっ…!」
直ぐ様右手で鼻を摘まみ、口が開いた瞬間に舌をねじ込む。
今度は胸を揉まれているせいで、まともにルイーゼが反撃出来ない。
勝ち誇った様にナーシャは息継ぎのたびに笑いながら、ルイーゼを手玉に取る。
「うぁぁ…もう見てられないですぅ…!」
アリサは遂にここでリタイア。
真っ赤になった顔を押さえ、床に倒れて両足をばたばたさせる。
「おい、アリサ。ナーシャを止めろ」
そんな彼女に、こそこそと小声で話し掛ける。
「どうやってですか?!」
何をふざけた事を。
方法など何でも良いのだ。
「割り込め」
「無理無理無理!無理です、無理!」
「ならば、縄を解け」
「無理ですってば!」
「今なら気付かれずにいけるかもしれん。ルイーゼが囮になってくれているうちに…!」
「バレたら私までフォーアツァイトの皇女みたいな事されちゃいますよ!」
「良いじゃないか」
「良くないです!私は縛られてあんな事されて喜ぶ様な趣味はありません!多分!恐らく!」
「駄目か?」
「駄目ですっ!」
うーむ…
ただ頼むだけでは無理か…
ならば。
「もし縄を解く事が出来たら、成功報酬をくれてやる」
「報酬…?」
「何が良い?言ってみろ」
「陛下の妻の座」
「拒否!」
「他に欲しいものなんて…う〜ん…」
「決めるなら早くしろ」
アリサはあれでもない、これでもない、とうんうん唸っている。
大切な時間が…!
「じゃあ、私にも…ス…下さい」
「え?何だ?良く聞こえなかった、もう一度言え」
「私にも、その…キスして下さい…」
「は?」
何を言い出すのだ?
「あんなのを見せつけられては、私も何と言うか…したくなってしまったと言うか…」
ああ、ナーシャに感化されてしまった、と。
「キスだけか?」
「え!?それ以上も良いんですか?」
「勿論駄目だが。まあ、キスまでならば…」
「約束ですよ!?絶対ですからね!」
「ああもう、分かったから」
「一回とかじゃないですよ!?私が飽きるまで、ですからね!」
「はいはい…」
「では、私にお任せ下さい。何とか、隙を見つつ縄を解きますから」
「よし、ならば私は見張りだ。危ない時は知らせる」
「アイアイサー!」
彼女は早速縄を解きに掛かる。
気付かれなければ良いが…
そうなれば二度は無い。
そして、そうこうしているうちにも、ナーシャによるルイーゼへの攻撃は少しずつ激しさを増していた。
もうナーシャのやりたい放題で、ルイーゼは今にも倒れそうなぐらいフラフラ。
もう彼女にはろくに抵抗する気力も無さそうだ、不味いな…
「あらぁ、随分と大人しくなりましたねぇ?私も大分感覚が掴めてきましたよ?」
「ふぁ…」
ルイーゼが何か言い返そうとするが、言葉にならない。
「ははは!すっかり発情しちゃって!ほら、先っぽもこんなに硬くなってますよ!」
ナーシャは追い討ちをかけ続け、遂にはルイーゼを押し倒す。
「きゃっ!」
ルイーゼが倒れ、その上にナーシャがそのまま乗っかる。
もうルイーゼは身体を反らす事すら出来なくなってしまった。
「おや?もう座っている事すら出来ないのですか?まだまだこれからなのに!途中で気でも失われたら興が削がれますし、しっかり耐えてみせて下さいよ、皇女様!」
びりり、とまるで包装紙の如く簡単にルイーゼのドレスはナーシャによって引き裂かれ、その胸が露わになる。
「さて、そろそろ下の方にも取り掛かりますか?」
「そ…それは…ダメ…!」
危険を感じ取り、ルイーゼは最後の力を振り絞って抵抗する。
だが、窮鼠猫を噛むのは余程の時だけ。
ナーシャの前に、彼女は余りにも無力であった。
ナーシャは暴れるルイーゼを無理矢理押さえ付けると、下半身にまで食指を伸ばす。
さあ、メインディッシュだ、とでも言わんばかりに。
「はは、雌豚め、もうべちょべちょですね。少し手を突っ込んだだけで、ほら、こんなに」
「ふぁああ!」
「良いですね、もっと鳴け!」
くそったれ…!
直ぐにでも手を打たないと!
小声でアリサを催促する。
「まだか!?手遅れになるぞ?!」
「い、今やってますぅ!」
「分かっている!そうではなく、いつ終わるのか、と尋ねているのだ!」
「早くとも数分はかかりますよぉ〜」
「それでは間に合わんではないか!」
「だって、これ、入念に何本も縄を使っているので、一気に解く、という訳にはいかないんですよ!今、もう少しで腕の縄を解けるかどうか、というところでして…」
「ならば、腕だけでも良いからさっさとしろ!5、4、3、2…」
「あわわわわわ!はい、解けました!」
腕を締め付けていた縄が遂に緩む。
これは痕が残りそうだなぁ…
「アリサ、私を二人の方へ、正確には、ナーシャに向けて飛ばせ」
「はい…?すいません、意味が計りかねるのですが?」
「つまり、放り投げろという事だ」
「は、はい…?」