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XLII.ライバル排除はヤンデレの基本。

※注釈

・神聖でもローマでも帝国でもない

神聖ローマ帝国を一言で表した言葉。

ネタとしてよく使われますね。

正確に言うと「神聖でありたかったがそうあれず、ローマを名乗ったが認めてもらえず、自称帝国」ってところでしょうか。

ちょっと可哀想ではあります。


・私にとっては小さな一歩ですが、玉の輿という目標にとっては大きな一歩

皆さんご存知、アポロ11号のニール・アームストロング船長の名言、「人間にとっては小さな一歩だが, 人類にとっては大きな一歩だ」のアリサ版パロディー。

船長、私如きがパロって申し訳ありませんっ!

この名言の訳し方に関して色々と議論がありますが、まあそれはここでは置いておきましょう。

実際には、「人間にとっては小さな一歩だが、米国と西側諸国にとっては大きな一歩だ」という結果になったこのアポロ計画の成功ですが、それでもやはり人類にとっては偉大な躍進でした。

話は逸れますが、この時期の人間の言葉からは何とも言えぬ夢や希望が感じられる様な気がしますね。

どんどん新しい世界が切り拓かれていく時代、ニューフロンティアの時代だったからでしょうか。

(ケネディ大統領の打ち出したニューフロンティアは宇宙開発を含む、様々なものを指していましたので、ニューフロンティアとはすなわち政治的、科学的、文化的な複合的開拓だと言えます。故に、筆者は宇宙開発だけを指してこう言っているのではありませんよ!)

ソ連のガガーリン然り、宇宙飛行士とは何とも洒落ておられるのものだなぁ、と感じられるのも、宇宙飛行士だけでなくその時代の全ての人に当てはまる事だったのやもしれません。

でも、現代に生きる我々とて負けてはおりませんよ!

Born too late to explore the earth, born too early to explore space, but born just in time to watch the first episode of Non Non Biyori Repeat. What a time to be alive.

地球を冒険するには遅すぎ、宇宙を冒険するには早すぎる時代に生まれた我々だが、のんのんびより りぴーとの初回というこの瞬間に立ち会うことができた。生きるとはなんと素晴らしきか。

…ってね!

筆者はアニメとか観ないのでよく分かりませんが、生きるって素晴らしいんですって!

「にゃ、にゃ、にゃ!?専属!?専属ですか!?」


「そうだ、私のな」


 私の専属メイドにならないか、とスカウトしてみれば、案の定のこの狼狽具合。

 まるで推しメンの引退宣言を受けた古参のドルオタの如き、今直ぐにでもひっくり返りそうな様子である。


 それも当然である。

 普通ならば、彼女の様な戦力外メイドなど全く以って不要なのだから。

 ドジっ娘メイドなど、実際にいても面倒なだけで、何の得にもならんのだ。


 そんな彼女がいきなりにして次期皇帝の私のお付きになる、という大抜擢。

 高卒、いや、中卒新入社員がいきなり大企業の社長に据えられる様な異例中の異例である。

 彼女からすれば、驚かない訳がない。


 そして一般的に、その様な事が起こる際には、大体パターンが限られている。

 権力者が女性を側に置く場合など、特に。


 故に、彼女もそうだと勘違いしたらしい。


「玉の輿、とかさっきは言ってしまいましたが、半分冗談だったのですが、え、本当ですか?本当に玉の輿!?私を側に置くって事は、つまりそういう事ですよね?わあ、家族に報告しないと!」


 盛大に、勘違いしてらっしゃる。

 まさに勘違いの見本市状態だ。


「残念だが、そうではない」


「はい?」


「他意は無い。ただ純粋に君を専属にする、というだけだ」


 静かに、そう告げる。


「つまり、玉の輿でしょう?今日から私は陛下の(めかけ)的存在に…」


「ならん。誰が妾だ、君を他のメイドと同じ様に専属に任命しただけだぞ?」


 当然の様に彼女は未だに理解していなかったので、呆れ半分にそう言ってみせる。

 すると彼女は、ポカンとする。


「え…?じゃあ、神聖でもローマでも帝国でもなく、妾でも玉の輿でもない、と?」


 はい、ご名答。


 私が黙って頷くと、彼女は何やら勝手にプンスカと怒り始め、恨み言を言う。


「酷いです…!騙しましたね!?」


 騙してません。

 人聞きが悪いな、君が勝手に勘違いしただけだ。


「無知な女性を弄ぶなんて…!」


 弄んでません。

 それにしてもこのお嬢さんが無知過ぎる、というのは事実だが。


「陛下の人でなし!」


 当然ながら、私は人です。

 あと、今の発言は少し不味い。

 他の人間に聞かれたらどやされるぞ。


「ぬか喜びする私を見て、心の中では笑ってたんですね!?」


 違います。


 黙って聞いていれば、随分と酷い言われ様。

 このまま放って置いても良いが、勧誘に乗っかってもらうためにもここは慰めてやらねばならない。

 一々面倒臭いお嬢さんだ。


「まあ落ち着き給え。専属メイドになれば確実に玉の輿、とはいかんが、それでも君の野望への近道だとは思うぞ?ほら、私と話す機会も増えるし、毎日近くにいれば、もしかしたら私が君にハートを射抜かれる様な事とて無きにしもあらず、だ」


「玉の輿、つまり陛下との愛を育むための堅実な第一歩である、と仰りたいのですね?」


 自分にとって都合の良い事だけは理解が早いらしい。

 まあ、手間が省けたので良いが、それにしても能天気な…


「そういう事だ。それならば納得頂けるかな?」


「ええ、それはもう!この一歩は、私にとっては小さな一歩ですが、玉の輿という目標にとっては大きな一歩なのです!」


「では、君は今より私の専属メイドだ。何にも増して私の命令を優先するように。ナーシャの言いなりになっていてもいかんぞ」


「承知しました!」


 彼女はびしっと敬礼する。

 そこはお辞儀でしょうが。


「では、ファーストミッションだ」


「腕がなります!何なりと!」


 良い返事だ。


「縄を解け」


「…それは無理です。殿下にバレたら怖いので…」


 おい、さっきまでの威勢はどうした?!


 やっぱりナーシャが帰って来る前に逃亡するのは無理か…



 ✳︎



「ふう…ふう…兄上ぇ!お待たせしました…!」


 アリサと馬鹿げた会話をしていると、暫くして、ナーシャが帰って来る。

 疲れ切った表情で、やけに重そうな、丁度人間一人が入れそうなぐらいの大きさの袋をずるずると引き摺っている。


 丁度人間一人…?? 

 もしや…その中に…?


「おい、ナーシャ!その袋は何だ?!」


 私が半ば怒鳴る様に尋ねると、その声に反応してか、袋がもこもこと(うごめ)く。


 やはり、中に人間が入っている…

 そして恐らくそれは…ルイーゼだ。


 不味い、非常に不味い…!

 仮にも同盟国の皇女を拉致するなどと、普通ならば外交問題どころか戦争に発展してもおかしくないレベル。

 それも、フォーアツァイトとプラトークは今、来たる戦争に向けて協力を画策する、途轍もなく重要な時期なのだ。


 それなのに我が妹は…

 皇女を拉致る、という暴挙を…!


「ただの雌犬ですよ、そうカッカする事もないでしょう?」


 ナーシャはニタリ、と笑いながら尚もずるずると部屋の中へと引っ張り込み、遂には部屋の中に完全に袋は収まる。


 かちゃりっと鍵のかかる音と連動する様に、更に彼女の笑顔の不気味さが増す。


「これで、もう邪魔も入りませんね。密室で思う存分楽しめます。全く、このビッチときたら、馬鹿みたいに暴れるので、私とした事が、異常な程に手こずってしまいました。そのせいで随分と兄上をお待たせしてしまいましたし、お仕置きしてやらなければ」


 ええい、やんぬるかな…!

 こうなれば、損失を最小限に抑えるべく損切りだ。

 最早損失を少なからず覚悟せねばならん事は確実だが、それでもまだ損失の軽減は可能。

 ならば、やらずにどうする。


 幸い、ポンコツメイドはこちら側に引き入れてある。

 さあ目指せ、機を見るに敏!


「リサ、ちゃんとお利口でお留守番出来てたの?」


 脅しにも似たその質問に、アリサはこくこくと、それはもう大袈裟に首肯してみせる。

 素晴らしい、それを私に対してしてくれさえすればな。


 この様子だと、殆どアテにはならなさそうだが…

 それでも彼女に頼らねばならない可能性は高い。

 どうにかならぬものか…


「ナーシャ!兄を拘束し、挙げ句の果てには他国の皇女を拉致するなどと、見損なったぞ!」


「兄上、違います。他国の皇女などという大層なものではありません。これは、ただの雌犬(ビッチ)です」


 彼女は紐を解き、ぱらりと袋の口を開ける。


 中から現れたのは最初の私同様に目隠し、口枷をされ、縛られたルイーゼ。

 ナーシャが言っていた様に、激しく抵抗したのか身につけているドレスもぼろぼろで、所々破れてしまっている。


 やはり、何も無かった、という事にするのは無理だろうな…


「ルイーゼ、すまん!これは我が妹の仕業なのだ!巻き込んですまない、直ぐに解放するから待っていてくれ!」


 不安を感じているであろう彼女に向け、呼び掛ける様にそう言う。

 すると、露骨に不快感を示し、ナーシャがルイーゼを睨みつける。


「気に入りません…それが気に入らないのです」


「何がだ?」


「随分と仲良さげですね、私がいない間に…兄上に擦り寄って尻尾を振るだけしか能の無い泥棒猫風情が…!私の…私だけの兄上にその様なお声掛けをして頂くなどと、身の程を弁えない様子…腹に据えかねます…!」


「何を嫉妬しているのだ、お門違いにも程がある。怒るならば、私にそうすべきだろうに」


「いいえ、お門違いどころか、この雌こそが諸悪の根源!何故兄上がこのビッチを巡って決闘などと…!野蛮で、下等な争いに参加せねばならないのですか!兄上のお手をその様な馬鹿げた事で煩わせるなど以ての外!今後一生その汚い尻を振れぬよう、ここで徹底的に痛めつけてやらねばなりません!」


「おい、何をする気か知らんが、本当に止めろ!さもないと…」


 慌てて口から出かけた言葉を抑え込む。

 危ない危ない…不必要に妹を刺激するところだった。


「さもないと?」


 言葉を選んで、出来る限り刺激せずに。

 言葉の裏に脅しをちらつかせて。

 笑顔で。


 私は答える。


「いい加減にしないと、お兄ちゃん、ナーシャとは一生口きかないぞ?」


 お兄ちゃん、などという可愛らしい言葉を用いて優しく語り掛ける様に…


 が、私の努力も虚しく、妹の反応は予想されたもの。


 ナーシャは、ぎゅっと両手を握りしめると…

 …泣いた。


 正確には、その直前にまで達した。

 目にうるうると涙が溜まり、泣くまい、と耐えている。


 嗚呼、分かってはいたが…

 だから嫌だったのだ…


 基本的には、私は妹の行動を咎め、厳しく非難しはするが、逆に言えばそこまでなのである。

 つまり、「それをやってはいけない」とか「怒るぞ」とか、彼女を叱りつつも、それは彼女を気に懸けているからこその忠告の言葉だったのだ。


 しかし、今回の私は一歩踏み込んだ。

「口をきかないぞ」とは、すなわち“もう君には失望したから見捨ててやる!”という事。


 彼女からすれば、“いつも叱ってくれる兄に、遂ぞや呆れて見捨てられた”という意味。

 どんなにオブラートに包んでも、我が妹のブラコン具合を(かんが)みれば、そりゃあ泣く。


「くぅぅ…兄上…私を見捨てるのですかぁ…?」


 必死に紡いだその言葉からも、彼女の焦りと不安が垣間見れる。


 ほんの少しだけ、その様な彼女の姿を見て不覚にも、可愛いなぁ、などと思ってしまったが、それも今だけだ。

 これから私を待つのは茨の道。

 呑気に可愛いなどと思っていられるのも今のうち。

 どう転んでも面倒は避けられまい。


「私を見捨てて、この女を選ぶのですか…?」


「そうなりたくなければ、今直ぐ彼女を解放しなさい」


 が、素直に言う事を聞く様なら苦労などしない。


「嫌です!どうせ、解放したってもう遅いのです…!どうせ、兄上はこのビッチを選ぶのですから…私はもう捨てられる運命なのです…!」


「遅くないから、直ぐに…」


「兄上、そこで見ていて下さい。この(アマ)が如何に淫らな下等生物であるか、お教え致しましょう。さすれば兄上もきっとこの雌犬に失望し、正気を取り戻して下さいますよね?ねえ、そうでしょう?」


 クソッ…

 完全に裏目に出た。

 強気でいったのは間違いだったか。


「さあ、では…始めましょうか。兄上の前で、たっぷりと(はずかし)めを受けて頂きますね」


 ナーシャはくるりとルイーゼの方を向くと、するんっと事無げにルイーゼの目隠しと口枷を外す。

 そして、挑戦的に顔を近付け、目を合わせる。


「こんにちは、フォーアツァイトの皇女様。聞いてましたか?」


「ええ。さっきから私をビッチ、ビッチって、心外ね…悪足掻きしたいところだけど、もうその様子だと何を言っても無駄そうだし…ニコライさんも縛られているし、そこのメイドも…うーん…ピンチだわ」


「ルイーゼ…!」


 私は、無意識に叫んでいた。

 それで何かが変わるわけでもなし。

 ただ、無意識に。


 彼女は少々疲れている様子だったが、こちらに微笑み掛ける。


「ニコライさん、随分と妹さんに好かれてるんですね。聞きしにも勝るお兄ちゃん大好きっ子…ってヤツですか」


「本当に申し訳ない、妹が…」


「分かってますよ、言わずとも。あなたのせいでもないですし。ただ、もう少し兄の威厳とかそういったものがあった方が良かったかもしれませんが」


「その通りだな…」


「さあ、元気出して!妹さんによれば、私は今から辱めを受けるそうですが?まあ、気にしないで下さいな」


 気にしないはずがないがなぁ…


「負け犬らしく、威勢だけは良いですね。嫌いではないですよ、そういうの」


「あら、有り難う。あなたとも、もう少し違う形でなら仲良くなれたかもしれないわね」


「かもしれませんね。兄上に色目さえ使わなければ、ですが。では、今度こそ始めますよ、調教を」


 調教…?

 まさか、未婚のルイーゼ相手にとんでもない事を仕出かすつもりではなかろうな…?!

 下手すれば戦争沙汰だ。


「さあ、見ていて下さいね、兄上。雌犬が卑しく(もだ)える無様な姿を!」

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