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XXVIII.今日はひたすら走ってる気がする。

・ハロー効果

人は初見での印象が大事!

初見の時は、相手の事なんてよく分かってないので、見た目だとか学歴だとか職業だとかで判断しますよね。

そのせいで本来のその人物を正しく評価出来なくなる事です。

例えば、「見ろよ、あのおっさん…滅茶苦茶人相悪いぜ…」「きっと893ね!」みたいな。

人相が悪いからヤ◯ザって訳でもないし、本当は優しいかもしれないじゃないですか。


・ネズミーランド

勿論皆さんご存知のはずの、夢の国。

ただし、実態は…ゴホゴホっ!

何で訴えられるか分からないので、皆さんもお気を付け下さい。

 〜父殺害後五十一日目〜


 昨日は一日中かけてヴィルヘルムにプレゼンしていた。


 手描きの地図やら資料やらを持って来て、皇帝相手に『電撃戦による疾風怒濤作戦』、又の名を『Unternehmen Sturm und Drang mit Blitzkrieg』を解説。

 ヴィートゲンシュテインと話し合った事をそのまま転用するだけなのだが、それがまた難しい。

 私の説明の粗を突いて、疑問を刺し挟んでくるのだ。


 お陰で細かな改善すべき点なども見つかったが、非常に長引いた。


 しかし最終的には彼から合格、と一言だけ告げられ、密約を結ぶ事が決定したので良かった。

 努力が実を結ぶ様を見るのは嬉しいものだ。


 後はベンクェンドルフ伯爵率いる外交チームが上手くやってくれるのに任せるのみ。

 つまり、私はもう用無し。


 ならば存分にダラけようではないか!

 という発想で、朝からゴロゴロしていたのだが、そこに来客。


 アーデルベルト君だった。


「やあ、ナディアを迎えに来たのか?」


「はい。それと…」


 彼は私の耳元で囁く。


「皇太子殿の結婚相手の紹介の件ですが、粗方候補を決め終えました。今夜にでも会う事も可能ですが、如何なさいますか?」


 え?もう?


「ならば今夜だ。早い方が良いからな」


「では、今夜で。いやあ、皇太子殿の存在は極秘なので集めるのは大変でした」


「苦労をかけたな。もし上手くいけば、それ相応のお礼も用意しよう」


「ええ、期待しておりますよ」


 彼は私にウインクすると、何事も無かったかの様にナディアの方へと向かう。


 う〜ん、イケメンだ。

 七歳児だけど。



 ✳︎



 候補の女性はアーデルベルト君選りすぐりの五人。

 五人とも、彼曰く“絶対に皇太子殿にご満足頂けます!”との事。

 彼のあの自信満々の様子を見せられては、期待せずにはいられない。


 今回はパーティー形式らしい。

 ええ、婚活パーティーですね。


 私がいない間、ナディアとソフィア医師については彼が引き受けてくれるらしいし、安心して婚活に集中出来る。


 さあ、どんな美女が待っているのやら。

 本当なら十人以上の女性とでも可能だったらしいが、機密保持の観点から、出来る限り人数は少ない方が良いとの事で、五人に絞り込んだらしい。

 その分質には期待出来るというものだ。


 指定された部屋の前までやって来た。


 既に相手方は先に着いているそうなので、入って直ぐが勝負だ。

 ハロー効果を侮ってはならない。


 いざ、扉を開け、部屋に入…


 …ん?


「失礼、部屋を間違えた」


 そのまま扉を閉じる。


 嘘だろ?

 何かの間違いだろう?


 扉の上を確認するも、やはりこの部屋だ。


 もう一度ゆっくりドアを開け、そろりと中を覗く。


 やはり先程と同じ光景。


 アーデルベルトめ…失望したぞ…


 中にいた一人の女性と目が合う。


「失礼ですが、もしや、ニコライ殿下ですか?」


「ああ」


 確かに、女性ではある。


 しかし…


 何故にロリなのだ…


「どうぞ、お入り下さいませ。この部屋で間違いありませんよ」


 そう言って微笑む彼女は…

 ナディアと変わらぬぐらいのロリっ娘だった。


 いや、まだだ!

 まだ希望を捨ててはならない。


「君は、何故ここに?案内か何かかな?」


「勿論、殿下とお会いするためです」


「何のために?」


「お戯れを。婚約のためですわ」


 嗚呼…やっぱり…!


「すまんが、大事な用があるので、今日は中止だ」


「え?でも…」


「すまんな!」


 彼女の制止を振り切り、全力で駆ける。


 目指すは…


「アーデルベルトォォォ!!」


 ばーんっとドアを勢い良く開け、部屋に乗り込む。


 中には、目をまん丸にして驚くアーデルベルト、ナディア、ソフィア医師の三人。


「ど、どうしました…?」


「どうしたもへったくれもあるか!」


「へっ…?」


 がしっと彼の首根っこを掴み、外へと引きずり出す。

 七歳児を引きずるくらい、容易い。


 決して子供に対する暴力とかではないぞ!


「陛下!如何なされたのですか?!」


「ソフィア先生、ここからは男同士の大事なお話なのだ。すまんが事情は後だ」


 それだけ言って、ずるずるとアーデルベルトを隣の部屋まで連れ去る。

 そして、入るなり直ぐ様鍵をかける。


「皇太子殿…何をそんなに怒ってらっしゃるのです?」


「当ててみ給え」


「女の子達が可愛くなかった…?」


「違う!」


「可愛いかった?」


「可愛いかった!」


「では、何ですか?」


「年齢だ!」


「年齢…?」


「年齢だ!」


「誰の…?」


「相手側の!」


 彼はまだぽかーんとしている。


 ここまで言っても分からんのか?


「皇太子殿のお好みに合わせたつもりだったのですが…もしや、“五歳以上はババア”と仰られたいのですか…?」


「は?」


「え?」


 何を言ってるの?

 え…もしかして…


「アーデルベルト…正直に言え。お前、私をロリコンだと思っていたな…?」


「…」


 沈黙。


 彼の額には冷や汗が滲んでいる。


「もう一度言うぞ。私をロリコンだと…思っていたな!?」


「すいません!!思ってました!ロリコンって!」


「最初からか?」


「最初からです!」


 何とまあ…

 そこまで本気でロリコンだと思っていたのか…


「私はロリコンではない…私が紹介してもらいたかったのは…ロリっ娘ではなく、大人の女性だ!」


「じゃあ、ナディアは…?」


「勿論恋愛対象外だ」


「じゃあ何故婚約してるんですか!?僕に譲って下さいよ!」


 物凄く問題発言だ。

 しかし、彼は今自分が口にした事の重大性に気付いていない。


「アーデルベルト…もしや、ナディアが好きなのか?」


 もう彼が私をロリコン扱いしていた事とかどうでも良い。

 これははっきりさせる価値がある。


「え…?え、ちょっと…その…」


 焦り始める彼の両肩をぐっと掴み、目をじっと見据える。


「どうなんだ…?」


「好きというか…その…ちょっと…気になるかなぁって…可愛いし…」


「つまり、好きなんだな?」


「そうですね…」


 そう認めると、彼はぽっと頰を赤らめて俯く。


「以前、私はナディアと結婚するつもりはないと言ったな?」


「はい、確かにそう仰られました」


「だから、私とナディアの婚約については、無いものと考えてくれて良い」


「それは…」


「ナディアに幾らでもアタックしてくれて構わん。と言うか、その方が私も都合が良い」


「本気で言ってるんですか…?」


「勿論だ」


 彼は初めてネズミーランドに行った時の子供の様な、ぱあーっと明るい表情になる。


「本当に良いんですね?」


「そう言っているだろう。応援しているぞ」


 緩みそうになる口元を何とか抑え、彼は真面目な表情になる。


「皇太子殿、あなたに謝らないといけない事があるのです」


「何だ?」


「実はあなたの事を今まで、幼女に結婚する気も無いのに手を出す最低男だと思っていました…」


「そんな勘違いをしていたのか」


 全く…失礼しちゃうな。

 まあ、説明が足りなかったから仕方無い部分もあるのだが。


「それで…ここからが重要なのですが…」


 彼はそこで口籠もる。


「言ってみろ」


 促すと、彼は様子を窺う様にして話し始める。


「そのせいで…色々と工作を…」


「工作?何だ、それは?」


「こうも皇太子殿が簡単にナディアと仲良くなる事を許して下さるとは思ってもいなかったので…」


「ので?」


「皇太子殿とナディアの仲を裂こうと…」


 ん?

 仲を裂く…?

 何だか物騒な事を言い始めたのだが…


「それについて、詳しく説明してもらおうか」


「はい…ナディアと皇太子殿が相互に不信感を募らせ、仲違いするように仕向けようとしていたのです」


「具体的にはどうやって、だ?」


「例えば、皇太子殿が如何に最低な人間か、さり気なく気付かせるべくナディアに色々したり、だとか…」


 ちょっと…何だよそれ。


「まさか、本当に実行はしていないだろうな?」


「ええ、()()()()()()()


 この言い草…

 凄く嫌な予感がするのだが…


「それ以外も、当然あるのだな?」


「あります」


「それらについても実行はしていないのだよな?」


「残念ながら…」


 彼はそこで口をつぐむ。


「怒らないから言ってみろ」


「いえ…絶対怒ると思います…」


「怒らないっ!からっ!言ってみろ!!」


 ぽきぽきと右手の骨を鳴らし、威嚇しつつ、尚且つ笑顔でそう言ってみる。

 うん、もう怒ってるから問題無いな?


「計画の半分くらいは…既に実行済みです…」


「その半分とは?何だ?」


「そのうちの一つは…ナディアのいる部屋に戻ればお分かりになるかと…」


 もう既に手遅れなのか…?


「アーデルベルト、後で私と()()()()お話でもしようではないか。覚えてろよ?」


「は、はい…」


 楽しみだなぁ。

 この後のお話が凄く楽しみだ。


 アーデルベルトめ、七歳児のクセに何と狡猾なのだ…


 ドスの効いた声で、色々と脅し文句をひと通り吐き捨て、私は隣部屋へと戻る。


 大人げない?

 ははは、冗談だろう?

 子供相手でも容赦などするものか。


 アーデルベルトの言う通りなら、何かが起こっているはずだ。

 知りたくない…だが、知らずにもいられない。


 逃げられない状況下では、自ら突っ込むのがベストだったりする。

 ならば、当たって砕ける、ただそれだけの事。

 例え何が待っていようとも、私は堂々とぶつかっていくのだ。


 部屋に足を踏み入れた瞬間…

 がしっと両脚に何かがへばり付く。


「殿下!みんな殿下を待っておりますのよ、早くお戻りになって下さい」


 足元で私を見上げているのは…

 さっきの少女。


「今日は中止だと言ったはず…」


 待てよ?

 さっきの少女…?


 では、ナディアは何処に?


 後ろから私の脚に何かが飛び掛かってくる。

 まさか…


「へーか!!」


 …ナディアだ。


 入って即、前後から幼女。

 こんな事を考えたのは何処のどいつだ?


 うん、アーデルベルトだ。


「クララちゃんたちとけっこんするの…?ナディアがいるのに…?」


 もう既に泣きそうな声なのだが…

 やめて!泣かないで!


「クララちゃん…?」


「私の事ですわ、殿下。パーティーの事を、ナディアちゃんにもお話し致しましたの」


 取り敢えず、君の名前がクララだという事は分かった。

 しかし、そんな事はどうでも良いから一言だけ言わせてくれ…


 …ナディアにバラさないでくれ、と!


 この少女、大人しくお家に帰れば良いものを、まさかここまで来るとは。

 更に、ベラベラと言う必要性の無い事をナディアに話しおって!


「何故、ナディアに話した…?」


「当然です。ナディアちゃんは私のライバルですから、知る権利がありますわ」


 は?ライバル?


「だって、私とナディアちゃんは殿下を奪い合う関係なのですから!勝負はフェアでないと!」


 誰がそこでスポーツマンシップを発揮せよと…?

 感心な子だが、今はそんな崇高な意志とか発揮して欲しくなかった。


 そもそも、“奪い合う”とか言ってるけど、そんな関係ですらないからな!

 ナディアもこの少女もそもそも土俵にすら立ってないから!


「へーかのうそつき!ちいさいおんなのこには、きょうみないっていってたのに!」


「いや、それは本当だ。私はロリコンではない」


「じゃあ、なんでクララちゃんとあってたの!?」


「それは全てアーデルベルトが悪い」


「アーデルベルトくんはかんけーないでしょう?ひとのせいにしちゃいけないんだよ!」


 幼女に叱られる私とは…?


「ナディア、聞いてくれ。クララが言っている事はただの勘違いだ」


「勘違いなどではありませんことよ」


 やかましい!君は黙ってなさい!


 …と、心の中で叫ぶ。

 実際に口にする程の勇気は残念ながら無い。


「実は、アーデルベルトに女性を紹介してくれるように頼んだのだ。その結果、こうなった!」


「なんで!?」


「アーデルベルトが私を…ロリコンだと思っていたからだ!」


「え!?殿下が私を選んで下さったのではなかったのですか?」


「君を選んだ事など一度も無いぞ」


「では、何故アーデルベルト様はそう仰ったのかしら…」


「アーデルベルトの罠だ!」


「でも、けっきょくナディアにないしょで、ほかのおんなのことあおうとしていたのはじじつなんだよね?」


「ああ…うん…まあ、そうだが」


 ナディアの反応を見るに、凄く怒っている…

 これは後で面倒臭そうだぞ…


「あ…ところで、クララよ。何故ここが分かったのだ?この部屋に我々がいる事はトップシークレットなのだが」


「アーデルベルト様が事前に教えて下さっていたので」


「何故だ?」


「“ここに皇太子殿の婚約者がいるから挨拶でも”と」


「つまり、君がここにいるのはアーデルベルトのせいなのだな?」


「ええ、まあ…」


 やはりアーデルベルトか。


「アーデルベルト君の事なんて今はどうでも良いのです!」


 そう言いつつ現れたのは、ソフィア医師だ。


「どうでも良くないだろ」


「どうでも良いです!それよりも、又もや陛下が婚約者を増やそうと画策していた事の方が問題です!」


 いや、別にソフィア医師にそれについて文句を言われる筋合いはないのだが…

 形式上にせよ、ナディアは婚約者なので文句の一つも言える。

 しかし、ソフィア医師は私とは全く何の繋がりも無いのだ。


 故に、私がどうしようが彼女には関係無い。


「ソフィア先生、何をそんなに…」


「陛下の浮気者!ついこの前、互いに愛を囁き合ったばかりだというのに…あれは嘘だったのですか?」


「愛を囁き…!?ああ〜…アレか…アレかな…」


 いや、別に愛を囁き合ったりはしてませんよ?


「へーか?ナディアがしらないうちに…!?」


「違う!断じて違う!」


「でも、抱きしめ合って…!陛下はあの時、結婚もほのめかしておられたではありませんか!」


「陛下、相変わらずクソ野郎ですね。その調子で頑張って下さいね」


 ソフィア医師の後ろからひょこりと顔を出して、副メイド長がほくそ笑む。


 駄目だ…もうこれはどうしようもない…!

 三十六計逃げるに如かず!


 足元の二人を振り払い、部屋から飛び出す。


 最後に少しだけ叫ばせてくれ!


「アーデルベルトォォォォォォ!!!!!覚えてろよぉぉ!!」


 この瞬間、アーデルベルト少年の運命は決まってしまったのだった。

 主に悪い方向に。

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