III.お仕事もちゃんとやりますよ?
※注釈
・不凍港
帝国は工業があまり発達していなかったため、主に作物を輸出して糊口をしのいでいた。
しかし帝国領内の港の殆どは北部にあり、冬になると海が凍るため、夏の一部の時期を除いて使用出来なかった。
そのため帝国は冬も凍らない港を求め、南下政策を採用。
争いの末、数十年前に帝国はそれを獲得するに至ったが、その後軍が軽視される様になった。
ん?まるでロ◯アだって?
ははは、ご冗談を。
ロ◯アは不凍港を手に入れようとも軍を軽視して平和主義になったりはしませんよ!
・継承戦争
どこかの王家が途絶えたりすると起こる。
要は跡継ぎ争い。
特にフランスとかフランスとかがしゃしゃり出た末に勃発する。
・翼騎兵
一応異世界なので、ファンタジーな兵科も存在します。
分かりやすく言えばワイバーンナイト。
まだ航空機など存在しなかった時代には、制空権を巡って大活躍した。
しかし、現在では隅に追いやられつつある。
・プラトーク帝国
主人公達のいる国。
北の方にある広大な帝国。
ロ◯アに似ているが、異世界なので勿論別物。
・フォーアツァイト帝国
簡単に言うと、もう一個の方の帝国。
農業国の彼等にとって、領土の拡大とはすなわち富の増大であり、常に拡大政策をとっている。
そのため皇帝に直属の、フォーアツァイト神聖黒翼軍は機械化があまり進んでいない時代遅れの軍隊だが、その規模においては圧倒的であり、大陸最強を謳う。
軍の名の黒翼とは、翼騎兵を表しているが、一般には正式名称ではなく帝国軍と呼ばれている。
しかし、陸戦力とは対照的に海上戦力は貧弱で、お情け程度でしかない。
実際、海軍として独立して存在しておらず、陸軍の傘下として艦隊が所属する形。
航空機もほぼ所有しておらず、航空戦力は翼騎兵で補っている。
海以外の全てを他国によって囲まれており、現在は帝国と隣接、又は脅威に晒される危険性のある国々が同盟を組む事によって侵略を回避している。
それらの国々は帝国軍に対抗するために軍事技術の開発が盛んで、軍の規模が小さい事が多いものの、兵装でそれを補っている。
それに対して帝国は内部で古い軍からの脱却及び近代化を唱える声が上がっているが、未だにそれは進まずにいるのが現状。
領土の六割が農耕地であり、その他は居住地及び山地、未開地域である。
典型的な中世的身分制度を採用しており、少数の聖職者、皇族、貴族が圧倒的大多数の平民(殆どが農民)を支配している。
農民の反乱などは過去に小規模なものがいくつか起こったが、それもすぐに軍に鎮圧された。
戦争以外何もやってない様で結構色々やってる国でもある。
今の皇帝の治世よりは案外善政を敷いているらしく、反乱も起こっていない。
やっと、やっと解放された…!
もう頭を抱えるしかない。
いつの間にあんな娘に育っていたのやら。
ハアと大きな溜め息を1つ吐き、足下に目をやる。
父の死体だ。
もう既に血も固まり始め、自分の右手と頰に付いた血もカピカピになっている。
どうしたものか、と。
妹が去ってからは広い玉座の間にも静寂が訪れ、一向に去りそうにない。
相当数の人間がいるが、誰も彼もが黙ってこちらを見るのみ。
私が次に何をするか窺っているのだろう。
この沈黙は待っていても破られないに違いない。
こちらから切り出すしかないか。
そう決意するや否や、父の死体を蹴り飛ばし、玉座に腰を下ろす。
そして小さく深呼吸をすると、声を張り上げる。
「諸君、傾聴!」
ぴりっと空気が変わるのが感じられた。
これが玉座からの光景なのか。
王の見る光景とはどれもこの様なものなのか。
「私はそこに横たわる我が父にして前皇帝、アレクサンドルが息子、ニコライ・アレクサンドロヴィーチ・ロマナフである!」
確かに今、自分の言葉が目の前の人々に伝わっていると。
彼等が私に最大限の注意を向けていると感じられた。
私はそのまま言葉を紡ぎ続ける。
「アレクサンドルは間違っていた!彼の者は軟弱な臆病者で、偉大なる我が帝国の恥晒しだった。民の有り様を見よ。ここにいる貴様等貴族には分からんだろうが、民は飢えている。それもこれも全ては愚かなアレクサンドルによるものだ。奴は現状に満足するだけの無能な豚だった。念願の不凍港を手に入れ、そこで満足してしまった。未だに民は飢えているというのに」
静寂。
誰一人として音を立てようとはしない。
「我が帝国の貧しい国土では民を養う事が出来ないというのに奴はこの豪華な宮殿で贅沢な生活を送り、その現状に甘んじたのだ。その結果が昨年の飢饉。正確な数は分からんが、大勢の民が死んだ。我が臣民が大勢死んだ!」
「故に私は父を討ち倒した。最も、先程の我が妹の発言は無しにして頂きたいが」
最後の一言で少し笑いもとれた。
うん、良いぞ。掴みは順調だ。
周りの連中からすれば私はただの親殺しの息子であり、元上司の息子でしかない。
彼等は自分の父親に忠義を誓ったのであり、私に誓ったのではない。
つまり父が死んだ今、彼等には本来私に従う義理など無いのだ。と言うか皆無!
しかし彼等無しでやっていける程世の中甘くない以上、彼等には私に従ってもらわねばならない。
幸い、皇太子として公の場に出る事は幾らかあったので、見知った顔もちらほらと散見される。
彼等が従ってくれさえすれば一先ずはこの場を収めて帝位を引き継げるのだが。
継承戦争とは言わずとも内部での跡継ぎ争いとか堪ったもんじゃない。
私は父の一人息子ではあるが、従兄とかその辺りを探れば誰も出てこない訳ではない。
そこら辺から適当な誰かを引っ張り出されて対立候補にされては敵わん。
だって、負ける気しかしないんだもん!
スムーズな帝位継承のためにもこちらの正当性を主張し、認めてもらわねばならない。
幸いにして先程の我が妹との会話にて私が妹に唆された可哀想な兄でしかない事は皆も承知の事実となっている。
今や殺害当初に見られた侮蔑の表情は誰からも見受けられない。
もしくは馬鹿にされてるだけかもしれんが、何でも良いから反抗してこないで下さいお願いします。
彼等に新しい皇帝と認めてもらう事こそが今の自分の最大の任務だ。
「諸君は我が父アレクサンドルに仕えていた身だ。私が父を殺したのを見て思う事もあっただろう。だが、それももう忘れてもらいたい。アレクサンドルは死んだ。これより後は私が皇帝となる。異議のある者は申し立てよ!殺しはしない。そのままここを去るが良い。しかし、しかしだ…もし仮に諸君が私に新たに忠誠を誓うのであればここに残り給え。以上だ」
そう言い終えると、私はそのまま玉座にもたれ込んだ。
多分自分にしては最大限イけてる感じで言えたハズ。
私の様な親のお陰で坊ちゃんでいられるボンボンが貴族とは言えども優秀な皆様に偉そうにして大変申し訳ないが、仕方が無い。
だって私は坊ちゃんなんだもん!
世の中は平等にはできていない。
私の存在こそがその証拠。
ならば思う存分生まれながらの特権とやらを利用してやろうではないか。
疲れた。
これ程に心身共に疲労したのは初めてだ。
温室育ちの坊にこの様な高ストレスな活動は耐え難いな。
更にこの後妹の下へと向かわねばならないとなると気が滅入る。
本来なら誰もが羨む可愛い妹とは言えども…あのヤンデレ加減はもう無理です、マジで。
正直、骨身に堪えるのだ。
妹は結婚する気満々の様だがそれは何としても避けなければならない。
少なくとも今夜既成事実を作られる事は避けねば。
妹の誘惑に鋼の心で打ち勝ち、我が貞操を守らねばならない。
大丈夫!もう20代にもなろうというのに私は未だにDTのチェリーBOYなのだから!
(皇族だから)年齢=彼女いない歴だしな!
同年代の友人とか親戚はどんどん結婚とかいう人生の墓場に直行し、帰らぬ人となっているが、私には結婚とか婚約とかそういう類いの浮ついた話は一切入って来ないっ!!
その様な私の崇高なる貞操観念を以ってすれば妹の誘惑などというありふれた(?)ものなど最早敵ではない!
しかしいっそのこと、彼女が男であれば良かったのに、と思わんでもない。
いつも似た様な事を言っていた周りの気心も知れるものだ。
ちなみに皆の様子は、と言うと、ざわざわと隣の者と互いに話し合っている。
まあ、概ね良好といったところか。
これ以上自分に出来る事も無い以上黙って様子を見守るしかない。
彼等の話す内容が私の暗殺計画とかでなければ良いのだが。
少なくとも今のところ、ここを出て行こうとする者はいない。
それだけは幸いだ。
その様な事を考えていると、こちらに向かって来る者が見えた。
他の者の視線も彼に集まっている。
あの顔には見覚えがあった。
父の側近の一人、アレクセイ・ペトロヴィーチ・ボラトゥージェフ=フリューミンだ。
彼は床に転がっている父の死体を横目に見ると、険しい顔をする。
玉座の前まで来ると一応の礼をするも、それは臣下が君主にする類のものではない。
自然と警戒してしまう。
「殿下、父君の下で仕えておりました、アレクセイ・ペトロヴィーチ・ボラトゥージェフ=フリューミンでございます」
「存じている」
そう応えると、光栄にございます、と彼は儀礼的返答をする。
「卿の態度を見るに私を認めたのではないのだろうな。そうだろう?正直なところを申してみよ」
彼は急に無表情になる。
嗚呼…嫌な予感しかしない。
「僭越ながら、お尋ねしたく。殿下は、陛下を現状に甘んじる愚か者と仰られましたが、それはつまり陛下の非拡張主義を指して仰られたものでございましょうか?」
「そうだ」
「なれば、殿下が皇帝に即位した暁には直ぐにでも国土拡張を図ると?」
「それが何か?」
彼は私の知る限り、言いたい事ははっきりと言うし、したい事は何でもする脳筋野郎だ。
この遠回しな物言い…彼の性格を知るからこそ、不気味ですらある。
処刑台に送られる様な気分だ。
或いは実際に処刑台は近いのかもやしれんが。
「侵略戦争は確かに手っ取り早い手段ではあります。帝国の国土は冬には凍り付き、海さえも凍る。故に帝国は古来から南下政策を推し進め、遂には不凍港を得るに至りました。帝国の歴史とは侵略の歴史でもありますし、殿下の仰る事も最もではあります」
彼は静かに語り出し、次第に語調を強めていく。
「しかし、殿下は一つ忘れておられる。…その侵略戦争が帝国にとって如何に高くついたか、という事です。戦争を続けていた頃は今以上に民は疲弊し、戦場でも、村でも、多くの民が死んだのです。あなたは戦争を知らない世代だ。…それ故知らないのでしょう、あれが如何に酷いものか…」
「しかし、戦争をせずとも民は死ぬではないか!それならば将来のためを想い、豊かな土地を獲得すべきだとは思わんか?何もせずに民が野垂れ死ぬよりも遥かにマシだとは!?」
「思いませぬな。僅かな資源のために多くの民を犠牲にするなど愚の骨頂!そもそも戦争自体が生産力の浪費に等しいのですから、改善どころか下手すれば悪化さえしますぞ?殿下が考えを改められないと言うのならば私はお暇させて頂きます。先先代より帝国に仕えてきたこの身ですが丁度隠居を考えていた時分です。陛下がお隠れになり、これもまた良い機会です。」
彼はわざとらしく溜め息を吐くと、皮肉のこもったお別れの挨拶とやらをしてくれる。
「もう会う事も無いでしょうな。では、これでお別れと致しましょう」
「…ああ、卿の今日までの精勤、誠に大儀であった。これよりは御老体を休められよ」
御老体、と強調して私もささやかな仕返しを図る。
「はっ。殿下、最後に老いぼれから一つご忠告がございます。宜しいでしょうか?」
又苦言を呈されるのか…
しかし聞かぬ訳にもいかない。
「赦す」
「戦をするにせよ、目的と手段を混同なさらぬよう願います。あくまで民草のための戦である、という大前提を忘れられぬよう…」
「卿の忠告、心中痛み入る。心得ておこう」
彼はもう一度礼をすると部屋から出て行った。
彼につられて一部の古参の者達は部屋から去って行く。
他の者達も元皇帝の側近であった彼の態度を受け、一度は私を認める決意をしたらしき者達も又もや悩み始めたらしい。
困ったものだ。
一気に空気が変わってしまった。
彼が先程言った通りに大人しく隠居していてくれるのならば良いのだが…
もし私に抗して立ち上がろうものなら、私は確実に負ける。
良くて軟禁、悪ければ処刑台送りだ。
嗚呼、難儀なものよ。
妹を追い出してしまったのが早くも悔やまれる。
彼女がいれば少しは結果も変わったのかもしれない。
…何せ彼女には美貌と行動力という強力な武器があるのだから。
しかしいつまでもくよくよしてはいられない。
又もや一人、こちらへと歩いて来る。
今度は顔を知らない。
私が言うのも何だが…随分と若いな。
彼は玉座の下へとやって来ると、想像だにしなかった行為を為してみせる。
…父の死体を蹴った!
皆が息を呑むのが分かる。
仮にも元皇帝だぞ?!と目で語っている。
さっき父をこの手で殺して、私も彼と同じ様に骸を蹴った。うん、確かに蹴ったとも。
しかし、息子がするのと他人がするのでは意味が違うのでは?(いや、違わないのかもしれないが)
しかし当の本人は素知らぬ顔で私の前で臣下の礼をとる。
若いが故の怖いもの知らずか。
「お初お目に掛かります。私めは、ピョートル・フロスティアーラヴィチ・ヴィートゲンシュテイン。帝国の軍事を司る者でございます。陛下におきましては、誠にご機嫌麗しゅうございます」
成る程、軍の関係者か。
父の御代では戦争も無く、軍部の地位は地の底に堕ちたと聞く。
彼も先代に不満を持っていたのであろう。
彼からすれば私は願ってもない救いの手にすら思えるに違いない。
そして、父は憎き仇…か。
更に私をさり気なく陛下と呼んだのもポイントだ。
つまり私をもう既に新たな皇帝として認めているという事なのだから。
「うむ、卿の名は覚えておこう」
「光栄にございます」
そういう背景があるからには、この男は信用して良いだろう。
この男にとって私に従うメリットは有れども、デメリットは皆無。
裏切る利点が無いのだから。
こういった分かりやすい利益があると、逆に信頼出来て良い。
更に彼が私に従う限りに於いて、軍も私の手中に収まる事となる。
対外戦争を公約とする私にとって無くてはならない存在だ。
「卿は陸、海、空のどれを管轄しているのか?」
「陛下、恐れながら全て、であります」
は?今何と?
この様な若造が帝国の全軍を率いていると?
堕ちぶれたとは言え…ここまでとは。
「その若さで全軍を?」
「はい、仰る通りです」
つまりこの男一人で軍事部門に関しては全て解決、と。
「それはつまり、だ。卿が今ここに忠を示しに来たという事は…全帝国軍が私に賛同していると…考えて良いのだな?」
「勿論です。我等プラトーク帝国軍一同、陛下に従うべく護国の盾となり、戦場にて果てる事すら辞さない所存。一兵卒に至るまで御身を祝福しましょう。御下命とあればどの様な命でも即座に実行致します。何なりとご命令下さいませ」
これは頼もしい。
よくもまあ、こうもすらすらと勇ましい台詞が出て来るものだ。
現状では最大の味方だと言える。
武力を制する者は権力をも制するのだから。
「宜しい。では、早速だが聞きたい。我が軍の状況はどうなっている?直ぐにでも侵攻に移れるのか?」
「誠に残念ながら、陛下。装備は数十年間に及び変わっておりません。軍は長い間軽視され続け、未だに化石の様な古代の遺物で武装しているのが現状であります。唯一の例外は海軍でしょうか。交易に於ける船舶防衛の必要性に駆られ、海軍だけはまともに機能致します。しかし非常に小規模なのが現状ですが…」
想像以上に不味いな。
これでは軍の不満が溜まるのも仕方が無い。
直ぐにでも行動に移し、国内に私の方針を示し、反対派を黙らせる予定だったのだが…
これは一筋縄ではいかなそうだ。
「それはまた…困ったな…」
「ええ。しかしご安心下さい。不幸中の幸いと言える事も幾らかあります。先ず陸軍ですが、辛うじて最盛期と同じだけの人員は保っております。どうやら、前任者達は人員だけは死守してきた様で」
「前任者の苦労が感じられるな。もし叶うならば私からも労ってやりたいものだ」
「もう亡くなっておいでですが、そのお気持ち、あの世まで伝わっておりましょう。そして陸軍の士気は高く、練度も非常に熟達しております。戦争は無くとも最盛期と同様に訓練は今まで続けてきておりました。装備さえ新式に置換すれば、直ぐにでも栄光ある帝国軍の力を世界に斯くや、と示せるでしょう」
それは…素晴らしい…!
これはかなりの朗報だ。
本当に前任者と現場には感謝する他に無いな。
「それは誠に喜ばしいな。で、海軍は先程卿が述べた様に規模こそ小さくとも、質は問題無いのだな?」
「ええ、海軍は。しかし問題は空軍です」
「何だ?言ってみよ」
「正直に言いましょう…空軍は存在しません…」
存在しない…?
もしや、想定し得る最悪のケースではないのか?
「どういう事か。続けよ」
「はい…帝国が戦をしなくなったのは数十年前…その頃は航空機など存在しませんでした。故にプラトーク帝国軍には航空機など一機たりとも存在しないのです。唯一の航空戦力と呼べるのは、陸軍に所属する翼騎兵のみ、というお粗末な有り様でして…」
「それでは…まるで…フォーアツァイト帝国ではないか…」
時代遅れのフォーアツァイト帝国と同列とはお笑い種だ。
実際には、数だけに頼って人海戦術をする、奴等と比べても劣るのだろう。
南にあるもう一つの帝国──フォーアツァイト帝国──はその武勇を世界中に轟かす巨大な軍事国家だ。
しかし、誰も彼等を止められなかったのも今は昔。
現状に驕り、進歩を軽んじた彼等は他国に技術力で先んじられ、今では旧式の軍隊を数に頼ってぶつけるだけの脳筋馬鹿と化している。
そして…我がプラトーク帝国軍は、そのフォーアツァイト未満だと?
数十年という年月は非常に長い。
我が帝国軍が強かったのも遥か昔、戦場にて騎兵が跳梁跋扈していた時代。
今も騎兵を使わぬ訳ではないが、エンジンで動く鉄の塊の方がポピュラー。
騎兵の使用出来る状況は限られてきている。
それに陸軍とて、新式の兵器を持たせれば、とは言うがそんな物は帝国内に存在しない以上、何処かから仕入れて来るしかない。
しかし最新の兵器など手に入るものか。
人数分揃えようと思えば、今よりはマシにせよ型落ちの中古だろう。
更に、それもタダではない。
それでは勝てる戦にも勝てはしない。
「やはり現状には嘆くしかないな…」
私が溜め息を一つ吐くと、彼は申し訳無さそうに言葉を紡ぐ。
「陛下。私めに半年…半年だけ頂けませんか?」
「半年?それで何が変わると言うのだ?」
「実は、予算が少なく、実際に配備する事は不可能ではありましたが軍事研究は水面下で進められていたのです。帝国中の全労働力を直ぐ様軍備に回し、兵器を全軍に配備します。半年あればそれが可能です。空軍に関しても半年で何とか促成栽培してご覧にいれます」
何と、我が軍はフォーアツァイトほど無能ではなかったらしいな。
少なくとも、限られたリソースを最大限に活用するだけの能はあったらしい。
「ほう…そうか…それが本当に可能なのであれば、ではあるが素晴らしいな」
「そのためにも、軍に予算を回して頂きたい」
「いくら掛かる?」
「国庫に納められている全てです」
「何?」
この男は国庫にどれ程の大金が眠っているのか知っているのか?
遥か昔より、コツコツと貯められてきた大事な資金だ。
それを全て、今切り崩せ、と?
「陛下のお気持ちもご最もです。しかし、嘘偽りはありませぬ。本当にそれだけ必要なのです」
何と…!
これこそが悪魔との契約か…!
帝国軍の復活にはそれだけの代償を支払わなければならないのか…
先程の翁の言葉が思い出される。
彼が言いたかったのはこういう事だろう。
だが、ここまで来ればもう後には引けないのだ。
ならば行動あるのみだ。
ガンガンいこうぜ、行け行けどんどん、だ。
「ふふふふふ…相分かった…!その条件、呑もうではないか!失敗は許されぬぞ?」
これこそが、私の皇帝としての第一歩であった。