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XXV.初恋は斯くも暴走気味。

※注釈

・ホーエンツォリルン家

勿論、ホーエンツォレルン家とは別物です。

厨二病には堪らない、我らがライヒのご主人様。

Gott unt mit…だったっけ…?

あ、違う。Gott mit uns ですね。(調べた)

でも、ドイツ語って発音難しいですね…

英語読みして、unsの事をアンズと読んでいたのですが、気になって調べてみれば、実際にはウンスだそうで…

ラテン系言語みたいに全部ローマ字読みだと楽なんですけどねー。

まあ、発音という点では英語が一番面倒ですが。

以前、店でピザを注文する際、“Whole Pizza”をフールピザと言ってしまいまして…

知人に呆れられましたよ…そんな簡単な英語すらも読めないの?と。

だって、発音記号とか気にしない派なんですもん…そのツケです…

正しくはホールピザですね。

英会話行ってたんですけど…あれ、あまり効果無いですね、正直。

ただ、その店に一つだけ物申したい事は…アメリカンスタイルのピザをピッツァと呼ぶな!


・性悪説、性善説

さあ、人間の本性とはは本来は善なのか悪なのか…?

「生まれたばかりの赤子は無邪気だし、善!」というのが性善説。

「いや、人間なんて元から悪なんだ!」というのが性悪説。

どちらにせよ、後天的な経験によって人間性の大半は決まるので、教育って大事ですね。

 列車から降りて直ぐに出てきた感想は、


「これは何とまあ…凄いな…」


「ですね…」


 というものだった。


 ナメていた…

 正直この国をナメていた。

 ここに来るまでの殺風景な景色のせいで、フォーアツァイトを軽く見ていた。


 所詮、領土が広いだけの時代遅れ国家だと。

 どうせプラトークと大して変わらんだろう、と。


 その認識は間違いだったと言わざるを得ない。

 我々を迎え入れたフォーアツァイトは、帝都は…プラトークとは比べ物にならなかった。


 恐ろしい程のその規模。

 そして建造物。

 更には世界中から掻き集めてきたのではないか、と思える程の人の数。


 通りという通りが行き交う人々で溢れている。

 これをプラトークと比べるなど、とてもではないが出来たものではない。


 私を含め、プラトークの多くの者は他国を知らない。

 やはり広い世界を見るのは大事なのだなぁ、と思う。


「ようこそお出で下さいました」


 呆けている私に、横から声が掛かる。


 そちらを見ると、少年が背をぴんっと張り、立っていた。


 姿からして、高貴な身分である事は分かるが、それにしても幼い。

 丁度ナディアと同じぐらいの年頃だろうか。

 少年は大人の様にキビキビと動くが、やはり傍から見ていると、どこか可愛らしい。


「君は?」


「アーデルベルトと申します!三男です!」


 三男…?もしや…


「君は、フォーアツァイト皇帝のご子息か…?」


「はい!」


 まさかの皇帝一家の三男坊自らお出迎え。


 こんな少年に任せる様な事か…?

 流石はホーエンツォリルン家。

 身内にもこの厳しさとは。

 普通ならこの歳の少年にそんな事はさせないのだが…

 少なくともウチはしません。


 普通、息子が出迎えるにしても、せめて長男とかだろうに。


「驚かれるのも無理はありませんね。実は、ネイディーン様が僕と同年代との事で…」


「成る程な。それで君が抜擢された訳だ」


「ええ。あ、これが父上からの書簡です」


 彼は思い出したかの様にいそいそと手紙を取り出す。


 ポケットから出てきたのは、小さな紙切れだった。


「正式なものではなく、個人的に伝えたい事、だそうです」


「ほう、では拝見しよう」


 確かに、例の印も押されていない。


 個人的に伝えたい事、とは…

 一体何が書かれてあるのだろうか。


「えーっと、読むぞ…?“ニコライ殿、ようこそ我がライヒへ。お忍びだとの事で、大したもてなしも出来ないが、歓迎しよう。ところで、目の前に出来損ないの我が息子が立っているだろうが、そいつは好きにこき使ってくれて構わない。丁度婚約者殿と同年代らしいので、息子を帝都滞在中の世話役として付ける。ごゆるりと楽しまれていかれよ”」


 私が読み上げた手紙の内容を聞いて、彼は又もやこれ以上無い程にびしっと背筋を伸ばし、こちらを見る。


「という事で、これから宜しくお願いします!」


「ああ、そういう事なら宜しく頼む。ところで、ナディア?」


 私の脚にしがみ付く彼女に声を掛ける。


「へーか、なに?」


「アーデルベルト君はナディアと同年代だそうだぞ。ご挨拶なさい」


 ナディアはそろりと私の後ろから彼を覗き込むと、じーっと品定めするかの様に見つめる。


 彼は、今まで私の後ろに隠れていたナディアの存在に気付いていなかった様で、彼女がひょっこりと顔を出すと、ちょっと驚く。

 しかし、それも一瞬の事で、彼はナディアにも丁寧に挨拶する。


「あなたがネイディーン様でしょうか?アーデルベルトと申し…」


「それはもうききましたよ?」


「あ、そうですね」


 ちょっとツンとした態度のナディアと、そのご機嫌を窺おうと苦心するアーデルベルト君。

 今の彼は、殿下と呼ばれる立場には到底見えない。


 どちらかと言うと、妻の尻に敷かれた夫みたいだ。

 いや、それそのもの。


 ナディアは少し男性相手に人見知りの嫌いがあり、彼もその対象になってしまった様だ。

 彼女は深窓の令嬢として育てられてきたため、あまり男と面識が無かったらしい。


 それ故、男性相手だと彼女は露骨に嫌がる。

 私と最初に会った時は例外中の例外だったらしい。


 仲良くやってくれれば良いのだが…


 ついでに、これを機にナディアにも友人ができれば良いなあ、と思う。

 友人の存在は、人間が成長していく過程では存在する方が望ましい。

 ついでに男性に対する免疫もつけていってくれれば言う事は無い。

 だから、アーデルベルト君には悪いが、ナディアの相手を暫くしてもらうのも良いかもしれん。


「わたしは、ネイディーン。まあ、ごぞんじでしょうが」


「ええ、存じております。ネイディーン様に関しては事前にある程度聞いておりましたので」


 ナディアのツンツン攻撃にもめげずに、彼は会話を進める。


 中々芯の強い男だ。


「では挨拶も済んだ事ですし、早速宮殿に向かいましょう」


 彼はにこりとナディアに微笑み掛けると、そう言う。

 相変わらずナディアはツンツンしているが。


 仲良くしてくれないかなぁ…

 と、切実に願うばかりだ。

 アーデルベルト君の方は仲良くしようと必死なのに、ナディアからは全くそんな様子が見えないのだ。


 今は子供だから許されるが、将来的にはそうはいかない。

 彼女とて大人になれば異性(勿論、私ではない)と結婚するのだ。

 将来のためにも、彼女にはここでアーデルベルト君という前例を作ってもらわねばならない。


 と言うか、いっその事、彼と婚約でもすれば良いのに。

 ナディアにとっても、おっさんの私より、同年代で尚且つしっかりしている彼の方が良いだろう。


 まあ、そんな事は叶わんだろうが。


 それでも、運良くそうなればナディア関連の問題は全て解決するのになあ、と思う。

 アーデルベルト君には是非とも頑張っていただきたいな。


「ナディア、頼むぞ…仲良くしてやってくれよ?一応彼はフォーアツァイトの…」


 皇帝の息子に失礼があっては困る、と伝えようとするも、彼女はそれを分かっている、と遮る。


「わかってるもん。でも…」


 彼女はそう一息置くと、にやりと笑う。


「ナディアはへーかのこんやくしゃだもんね!」


「だから…?」


「しょーらいのへーかのおよめさんだから!」


 未来の皇后…故にフォーアツァイトの三男坊よりも偉い、と…?

 だから相手と無理に仲良くする必要も無い?


 そんな発想では……大丈夫かなぁ…?


「でも、ナディアは今のところ皇族でも何でもないからな…」


「アーデルベルトのほうが…?」


「偉い」


 彼女は、がくんと肩を落とし、やれやれといった感じでアーデルベルト君の方へと駆け寄って行く。


 悲しい事に、子供の中でも身分というものは単純明快な服従・非服従の指標として存在しているらしい。

 出来れば子供には無邪気に育って頂きたいものだが、現実にはそうはいかないらしい。

 幼児でも、互いに騙し合い、嫉妬し合う事すらあるのだから、人間ってのはそういう生き物なのだろう。


 私は性善説は信じない派だ。

 性悪説万歳!

 故に教育が大事なのだ。


 私からもナディアに、道を違えないように道徳教育を…でも、私は実の父を殺してるしなぁ…

 私は倫理的観点では悪いお手本でしかないのだ。


 ソフィア医師にでも任せるかな。



 ✳︎



 彼女は…可憐だ。

 彼女がその可愛いらしい姿を僕の前に見せた時、僕は息を呑んだ。


 彼女が僕をちらりと一瞬見て、目が合った瞬間…

 …僕は恋に落ちた。


 初恋だった。


 他の同年代の女の子達は皆、僕に愛想が良い。

 何故なら僕は皇帝の息子だから。


 だから僕にわざとらしく笑顔を振り撒くのだ。


 僕はそんな女の子達が嫌いだった。

 正直どれも同じ様な反応で、うんざりしていた。


 同じ様な仕草、同じ様な言葉遣い、同じ様な挨拶、同じ様な笑顔、同じ様な髪型。

 どれも同じに見えた。

 まるでどんぐりが背を比べっこしているかの様に。


 しかし、彼女は違った。

 ネイディーンという名のあの娘は。


 あの娘は、無感情な目で僕を見ると、直ぐに又隠れてしまった。

 その時は、一瞬の事だったので、彼女の事をよく見れなかった。


 もう一度、もう一度見たい。


 そう思っていた時、彼女はプラトークの皇太子に促されて、渋々その姿をはっきりと見せる。


 何と可愛いのだろう…


 ふわりと揺れるその髪は、まるで天使の翼の様。

 そして、僕に対してもご機嫌をとろうとしない態度。

 言葉を交わした時の彼女の突き放す様な物言いなんて、まさしく僕が望んできたものだった。


 そして彼女は今、僕の隣に座っていて、この部屋には僕と彼女の二人だけ。


 もし彼女と仲良く出来たらなぁ…


 しかし、彼女はプラトークの皇太子の婚約者。

 僕には手が出せない存在。

 僕には手が届かない…高嶺の花だ。

 僕ですら届かない程に、高い高い所にある花だ。


 彼女のリボンを褒めたって、彼女が僕と結婚する未来など無い。

 永遠に、来ないのだ。そんな未来は。


 それでも、必死に彼女の気を惹こうとしている自分がいる。


 その向かう先にあるものが何かは分からない。

 でも、恐らくバッドエンドだろう。


 そう分かっていても、僕は自分を止められない。

 それぐらい、彼女は僕の理想通りだったから。


「ネイディーンさん」


「なに?」


「あの、その…他の人の様に…君の事をナディアと呼ばせてもらっても良いかな?」


 彼女は最初、ちょっとだけ嫌そうな顔をしたが、直ぐに元の無表情に戻り、いいよ、と短く答える。


 それだけ。


 それだけなのに、平静を装いつつ、心の中ではガッツポーズをしている自分がいた。


 明日の事も、明後日の事も考えられない。

 今の僕の頭の中の全て、それが彼女だ。


 嗚呼、僕は何をしているんだ…!

 彼女の婚約相手である皇太子がいないからと言って、こんな風に…


 僕は何がしたいんだ…?

 彼女とどうなりたい?


 彼女を横取りするのか?

 他国の皇太子の婚約者を?

 外交問題、いや…下手を打てば戦争だ。

 多くの犠牲を払って、この少女を奪うのか?


 僕はただの三男。

 兄達と比べれば重要度は低い。

 そんな僕のために戦争…?


 冗談じゃない。


 そうだ、諦めよう。


 僕は彼女に何の感情も持ち合わせていないし、彼女もそう。

 彼女は僕にはこれっぽっちも好意を寄せてはいない。


 僕もそうだ。

 そうなんだ。


 …


 でも…


 もし仮に僕が彼女に付け入る隙があるとすれば…


 もし仮に、だが…

 少しでも彼女が僕に好意を持ってくれれば…

 可能性は無くはない。


 平和的に、必要最小限の犠牲で…


 彼女と皇太子はあまりにも年齢が離れ過ぎている。

 そこを突けば…


 もしかしたら…

 もしかしたら、彼女と皇太子の関係に小さな傷を付けられるかもしれない。


 その小さな傷を、少しずつ、少しずつ広げていけば…?

 そして最高のタイミングで、僕がそこに転がり込んで来れば…?


 可能なのではないか?

 鳶が油揚げを攫う様に、一瞬にして、華麗に、彼女を連れ去れるのでは?


 僕には…僕にはそれが可能だ。

 ならば、やる以外に道は無い。


 僅かなチャンスすらも率先して手に入れられない様では、僕に存在価値など無い。


 やろう…!

 僕はやるぞ!

 やってやる…


「あ、あの、ナディアちゃん?」


「ちゃんづけするな。きもちわるい…」


 彼女は露骨に気持ち悪がる。


 不味い!彼女の機嫌を損ねるのだけは御法度だ。


「ごめん!えーっと…それじゃあ…ナディア、さん?」


「べつに…よびすてでいいです」


「へ?」


 彼女はぷいっと違う方向を向きながらそう言う。


 もしかして…

 もしかして彼女は…


「ナディア…でいいの?」


「べつにそれでいい」


 彼女の髪を搔き上げる仕草、そのほのかに赤味がかった頰。


 間違い無い…


 彼女は…


 彼女は…


 …ツンデレだ!!


 その冷たい言動も何もかもが、全てツンデレだ!


 彼女は僕を嫌ってなどいない。

 ただ、少し人見知りなだけ。


 ついつい初対面の人にはそういう風に接してしまうだけなのでは?

 僕以外の侍女には冷たく接していなかったから、僕だけが嫌われているのかと勘違いしてしまったが、記憶が確かなら、僕以外の男性にも冷たく接していた気がする…


 もしかしたら、彼女は初対面の男性には同様にそういう風に接してしまうのでは?


 彼女の性格が悪いのではなく、彼女がただ単に男性に慣れていないが故にそうなのだとしたら…

 僕にも十分に可能性がある…!

 成功確率が一気に急上昇する。


 嗚呼、やはり神は我等と共にあるらしい。

 神よ、我等がライヒとカイザー、その血族を守り給え!


「なら、僕の事も呼び捨てにしてくれて良いからね」


「いわれずとも」


 その時、僕は誓った。

 必ずや、この娘を奪い取る、と。


 例え倫理的に正しい行いでなくとも、僕は誓った。


 背に腹はかえられぬ。

 この少女のためならば、全てを捧げる事とて厭わない。


 ロリコン皇太子に婚約などという首輪で繋がれた彼女を救うのだ。

 これは自分のためでもあり、結果的には彼女のためでもある。


 狭い鳥籠の中から、大空へと…

 彼女を解き放つ。


 そのためにも、僕は何とかして彼女と皇太子の仲を切り裂かねばならない。


 策は幾つかある。

 ナディアだけでなく、皇太子にも同時に策を講じる。

 相互に不信を生じさせ、疑いを次第に大きくさせる。


 そこに第三者の存在が割り込めば…

 疑いは、恨みへと変わる。


 そして恨みは何とも言えぬ哀しみへと取って代わる。


 そこに僕はさり気なく滑り込むだけで良い。

 それで僕の幸せと、彼女の幸せが同時に手に入る。


 嗚呼、素晴らしい…

 僕は本当に性格が悪いらしいな。

 これから苦しむだろう皇太子の表情を想像するだけでゾクゾクしてくる。


 苦しめ…!

 僕に婚約者を奪われて思う存分苦しめ!

 音も無く忍び寄り、知らぬうちに苦痛の底へと落としてやる。


 個人的には何の恨みも無いが、彼女の婚約者、というだけで苦しませるには十分過ぎる理由だ。

 僕のナディアを籠の中に閉じ込める悪い存在には後悔してもらわないとね。

 白蟻の様に、ゆっくりと蝕んでやる。


「ナディア、それじゃあ取り敢えずお茶にでもしないかい?僕、君と是非とも仲良くなりたいんだ」


「おちゃ…?」


「うん。甘いミルクティーでも淹れよう。美味しいお茶っ葉があるんだ」


 彼女はそれを聞くと、必死に何気無い風を装って、へぇ〜と応える。

 行動の端々から興味津々なのは筒抜けだが。


 可愛いなあ…


「きっとここにはプラトークには無い珍しいものもいっぱいあるはずだよ。後で一緒にこの宮殿を探検しようよ」


「うん」


「僕もこの宮殿の全てを知っている訳じゃないんだ。まだ入った事のない部屋もいっぱいある」


「このきゅーでん、ひろいもんね」


「まあ、広さはプラトークと大して変わらないだろうけど…構造が複雑だからね」


「ふーん」


「きっと父上と皇太子殿のお話が纏まるのも結構時間がかかるだろうし、ここに滞在する間は僕と遊ぼう」


 そう、その間に…傷を広げていってやる…


 こうして、アーデルベルト少年の計画は始まるのだった。

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