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XXIV.F列車で行こう。

※ここまでの大まかなあらすじ

お嬢様学校である聖プラトーク学園に唯一の男子生徒として転入したニコライ君(永遠の十七歳)。←オイオイ(笑)

しかし、ヤンデレ妹のナーシャのせいで女の子にはモテず、クラスメートのソフィアちゃんにセクハラをした事によって転入早々生徒会長のエレーナに目を付けられてしまう!

更に、ついムラムラして合法じゃないロリのナディアちゃんに手を出し、拐かしている現場を生徒会長に見られ…

果たしてニコライは警察に通報されてしまうのか!?


※本当のあらすじ

父を殺しちゃった主人公。

すると、何という事でしょう…!

妹のヤンデレが花開き、素敵なヤンデレ臭をプンプンさせてきたではありませんか!

そこで、妹対策にソフィア医師を登用。

が、ソフィア医師まで主人公に想いを寄せるようになり…

目が怖いエレーナ副メイド長が出現し、姉が現れ、何か色々戦闘があり、ロリ少女のナディアと婚約。

そして今度はロリ婚約者(略してロリコン)と楽しくバカンス…のフリをしてフォーアツァイトにお仕事しに行きます。

まあ、要約するとこんなもんでしょう…



※注釈

・ナオミ

女医さん。

壮絶な過去を経験していたり、スパイ容疑で拘束されたりする。

遺伝子だとか意識だとか、小難しい事について語ってくれるお方。

ちなみにこの方もナーシャと同様にちょっとヤンデレ気味なブラコンです。

しかし筆者はどちらかと言うとパラメディック派。


…何!?今度はパラメディックが分からないだって?!


・パラメディック

1936年生まれの女医さん。

ナオミなんかよりももっと色々やらかす小悪魔ちゃん。

当時は二十代後半だった。当時は…

「スネーク!食べちゃダメよ!?」

僕、こんなカエルじゃなくて、本当はキミが食べたいんだ!


・パーソナルスペース

他人に近付かれると不快に感じてしまう空間の事。

誰だって、知らないおっさんにベタベタ触られるのは嫌でしょうが…

しかし、知らないおっさんでなくとも嫌な距離感というものがあるのです。

人によって違います。

 〜父殺害後四十九日目〜


「頭がおかしくなりそうだ…」


「陛下…?今、何と?」


「では、もう一度言おう。頭が狂いそうな程暇だ!!」


 暇だ!

 暇過ぎる!


 出立より既に十七日経ち、フォーアツァイトの連中曰く今日中に帝都に到着するらしい。


 出発後影武者と入れ替わり、船に乗ってフォーアツァイトまで。

 そこからは鉄道の旅。


 プラトークには鉄道が無いので最初のうちこそ物珍しかったが、五分で飽きた。

 だって、どれだけ進めど変わり映えのしない景色。

 見渡す限りの畑or荒地or木。

 誰がそんなものを楽しめると言うのだ?


 一ヶ月ぐらいかかるかなぁ〜と思っていたのが鉄道のおかげで大幅に短縮出来たのは良いとして、それでも暇だ。

 暇なものは暇なのだ。


 読者諸君も、一気に時間が進んで驚かれたかもしれんが、それぐらい何も無かったのだ。

 乗ってる船が海賊に襲われたり…とかそういう事件は一切無かった!

 フィクションのクセに事件性ゼロ!

 結構な事に、海上の治安は保たれております!


 嵐に巻き込まれ、大変な事に…もならなかった!

 天気はずっと穏やかでした!


 北部の港は未だに凍っていて、南部の港を使用する事になったのだが、何と南部の平和な事か…!

 北の海の厳しさが、ここには全く存在しないのだ。


 まるで事件性など無い。

 そして今日も私はつれづれなるままにひぐらし、窓ガラスに向かいて思考停止していたのだが、遂に限界が来た。

 自我が崩壊するレベルにまで徒然度が達してしまったのだ。


 自我とは何だ?ナオミ!教えてくれ!


「陛下、耐えて下さい。私も暇で暇で死にそうなんです…」


 ソフィア医師もそう言いつつ、私と同様に死んだ目をしている。

 私が暇ならば彼女とて暇なのだろう。


「そう言えば、副メイド長は…?ここのところ全く見かけないが…」


「エレーナさんは、何故かは分かりませんが一人で列車の旅を満喫してらっしゃる様です…昨日見かけた時にも、見た事が無いぐらいの笑顔でしたね…」


「どうやってこんなものを満喫すると言うのだ…?」


「分かりませんが…要は心の持ち様でしょうね。エレーナさんはサングラスをかけて片手にカクテルでした…」


「もしや、テラスで日光浴…?」


「してました…」


 南国気分かよ!


 確かにフォーアツァイトはプラトークと比べれば南だ。

 そして季節は春。

 祖国に比べれば暖かい事は間違いない。


 しかし、当然ながらサングラスとカクテルの出番が来る程に暖かい訳ではない。

 フォーアツァイトの気候帯はただの温帯。

 ちょっと緯度が下がるだけでシベ◯アからワイハに様変わりするはずがないのだ。


 しかし哀しきプラトーク人の性か、十分暖かく感じてしまう。

 故に副メイド長は「自分は南国にバカンスに来ている」と自己暗示をかける事によってこの暇な列車の旅を乗り切っているのだ。


「何て奴だ…副メイド長の底力は計り知れんな」


「私達もやってみます…?」


「テラスに行って、サングラスをかけ、カクテル片手に横になるのか…?」


「ええ」


「周りの景色はエメラルドグリーンの海でも椰子の木でもなく、乾いた土とただの広葉樹だが?青い空、白い雲どころか空一面灰色だが…?」


 ちなみに、今日のお天気は曇り。

 曇りでも日光浴など出来るものなのか?

 エレーナ副メイド長にしか出来ない気がする…


 彼女も暫し考えた後、どう考えても馬鹿らしい、という正しい答えに辿り着いた様だ。


「そうですね…止めておきましょう…」


 うん、そうすべきだ。

 しかし何か代案でもあれば良いのだが…


「では、ナディアは?まさか今日も飽きずに走り回っているのか?」


「そのまさかです。この列車に乗って一週間…未だに飽きずに車両間を行ったり来たりしている様です」


「羨ましいな…子供は…」


「ですね…」


 これが、大人が何処かに置いてきてしまったものの典型例。

 “大人になる”とは、何かを捨てる事によって他の何かを手に入れる行為でしかないのだ。


 幼い子供は大人になる事を夢見、どんどん何かを捨てて成長していく。

 そしてその果てにあるのは…虚無だ。

 手に入れられるものの代償は、あまりにも大きい。


 しかし、それに気付く頃にはもう遅く、今度は大きな代償と共に手に入れたものさえも捨てる、終点…

 すなわち死へと向かう。


 正直なところ、私には生きる事の意味が分からない。

 ただ、生存本能に従って今まで生きてきただけなのだから。


 …おっと、気持ちまでネガティヴになってきているな…

 暇だからあれこれとそういう事を考えてしまうのだ。


 やはり、先の事など考える暇も無いぐらいに忙しくしている時が一番幸せなのかもしれない。


「では、伯爵とその部下は?」


「作戦会議中です。いよいよですからね」


「そうだな。連中にとってはこれからが本番だからなぁ」


 最終的に密約を結べるかどうかは私に懸かっているのだが、それ以外の細かい諸事項に関しては伯爵率いる外交部門の管轄だ。

 今こそ腕の見せ所、とばかりに彼等は事前準備に張り切っている。

 そういう意味では彼等も暇を持て余してなどいず、羨ましい。


「つまり…こうしてだらけているのは私と先生だけか」


「そうですね、私と陛下の二人っ切りです」


 私と彼女以外には誰もいず、邪魔する者もいない。

 そんな事実が否応無しに私に彼女を意識させる。


 彼女も何気無く言った自分の言葉の意味に今更になって気付き、急にもじもじとし始める。


 紅色に染まる頬、微かに湿ったその唇。

 彼女が不意に俯くその瞬間、私は彼女を目で追っていた。


「嬉しかったんです…」


「え?」


 彼女は、私を窺う様にそーっと顔を上げる。


「いつもは殿下がいらっしゃいますから陛下とこんな風に二人だけになれる機会も大してありませんし、フォーアツァイトに同行出来る事になった時、凄く嬉しかったのです」


「そうか…それは良かった」


「でも、今は少し悲しいです…折角殿下がいらっしゃらないのに、陛下が何もして下さらないから…」


 確かに、二十日近く一緒にいるのに文字通り彼女とは全く何の進展も無い。

 普段通りに他愛無い会話を交わす程度でしかなかった。


 そうか…私が何かしてくるのを彼女は待っていたのか…

 健気だなあ、とそうさせた当事者なのに思ってしまう。


 これでその待つ対象が私でなければ、その恋を存分に応援してやるところなのだが…

 残念ながら、それを求められているのは私だ。

 どんなに彼女が健気だろうとそうでなかろうと、私は頑として何もしないぞ。


「悪いがこれ以降も何もする気は無いな」


「では、残りの数時間もこれまでの様に何もせずに過ごすのですか?暇を持て余して?」


「それは…望むところではないが…仕方あるまい」


 暇だからソフィア医師に手を出す…?

 そんな最低な事をするものか。


 ナディアの件で私はもう改心したのだ。

 前回の教訓は生かされねばならない。


「陛下、出発前の殿下の発言を覚えておられますか?」


「ナーシャの発言…?」


「殿下は二ヶ月分キスをする、と仰っておられました。その時殿下はこうも仰られました、ソフィアにされる分も上乗せして、と」


「上乗せ…?そんな事言ってたか?」


 よく覚えてないが、そんな事を言っていた気がしないでもない。


「ええ!つまり、殿下は私と陛下が二ヶ月間恋人の様に過ごす前提で考えておられたのです!それなのに陛下は…!何だか、殿下に負けてしまった気分です…!陛下、もう私は我慢の限界です!」


 彼女は勢い良く立ち上がり、私に顔を近付ける。


「陛下、覚悟を決めて下さい!」


 ソフィア医師からここまで積極的に迫ってきた事は今までも殆ど無い。

 これは相当本気だな。


 数十日間お預けを喰らい、更にこの途轍もない暇さ加減。

 私同様限界状態に陥り、破れかぶれになっている彼女をもう止める事など出来ない。

 普段大人しいソフィア医師だからこそ、ここまで本気になると余程の事が無い限り彼女は止まらないのだ。


「覚悟…か。分かったよ、好きにし給え。やりたいようにやれば良い」


 ならば、ここで適度にストレスを発散させるに限る。

 ベストではなくともベターな選択を。

 暴発されるよりはこういう時にガス抜きする方が望ましい。


「本当ですか!?」


 私の返答が意外だったと見え、彼女は露骨に驚く。


 一応普段の私は彼女に対してそれなりに自制している。

 ナーシャと違って血が繋がっていない以上、それなりに意識して自分を制止する必要があるのだ。


 それ故、随分と彼女には冷たく接している、という自覚があった。

 彼女にとっても、私は“つれない男”なのだろう。


「ああ。勿論、最低限の節度は守ってもらうがな」


「具体的には?」


「ナーシャですらしない様な事はするな。それだけだ」


「ならば殆ど何でも出来てしまいますね!」


 うん、まあ…その通りかもしれんな…


「あのぉ…それでは、何処か他の邪魔が入らなそうな所に移動しませんか?」


「では、私の車両しかないな」


 この列車の最後尾は私専用の客車となっている。

 内側から鍵も掛けられるし、邪魔の入らない場所となるとそこしかない。

 現在我々がいるのは後ろから三番目の車両だし、直ぐそこだ。


「何だか、いつも陛下と私は密室に籠っている様な気がしますね」


「まあ、君はナーシャの様に堂々とそういう事をしないからな。どちらかと言うとナーシャが異常なだけで、これが普通だ」


「じゃあ、私が健全な恋愛というものを教えて差し上げます!」


 健全…ねえ…



 ✳︎



 ベッドの上で、私とソフィア医師は互いにくっ付いて寝転んでいた。


 腕を互いに回し、脚を絡め合う。


 彼女の長い髪がふわりと顔にかかっている。

 私がそれを指で掬うと、彼女が小さく笑う。


 微笑む彼女の先には私。

 どういう表情をすれば良いのかさっぱり分からずに、何とも言えぬ表情の私の目の前には彼女。

 彼女のその少し細められた瞳の先には私。


 そう、我々はただ見つめ合っていた。


 互いに触れ、抱き合い、近付き、パーソナルスペースを侵し合う。

 ただそれだけの事。


 本来、“抱き合う”という行為は、互いに相手の身体的領域に侵入し、それを維持するというだけの行為に過ぎない。

 しかし、それは物理的には物体と物体の接近でしかなくとも、生物的には非常に大きな意味合いを持つ。


 生物にとって、別個体が自分に接近しているという状況は本来望ましいものではないばかりか、自身の生命を脅かす事態であり、進んでその様な状況下に陥るものではない。


 だが、親しい間柄の人間はしばしば敢えてそうする。


 互いに接近する、という危険を敢えて冒し、「自分はあなたに危害を加える存在ではない」、「自分は他人であるあなたに接触する事を許す程にあなたを信頼している」と、アピールし合うのだ。


 つまり、“抱き合う”というシンプルな行為には字面以上の深い信頼が込められており、親愛を確かめ合う手段なのだ。


 異性間でそうする時も、そこには生殖は伴わない。

 性的な欲求を越えた互いの何かの下に行われるもの。

 本当の愛、とはまさに抱き合うという行為に集約された何かの事だと言える。


 故に恋愛関係になくとも人間は抱擁し合い、互いに愛を確かめうのだ。

「恋は下心、愛は真心」とは、よく言ったものだ。


「意外でしたか?」


 彼女は楽しそうに笑うと、私の首元へと輪郭をなぞる様にゆっくりと手を動かす。


 その笑顔には、何者も逆らえない。

 その魔力に魅せられ、全てのものは脆くも崩れ去るのだから。


 それは、私に抱いてはならない感情を何処かから提供し、(そそのか)すのだ。

 彼女を自分のものにしてしまえ、と。


「ああ、少し驚いた。あの様子だと、部屋に着いて直ぐに襲われかねんとすら思っていたからな」


「まさか!そんな事はしませんよ。殿下に毒され過ぎでは?」


「否定は出来んな。ナーシャは少し…いや、かなりアグレッシブだから」


 私の使っている車両にしけ込んで、分かった事は、“ソフィア医師はどんな状況でもやはりソフィア医師”という事だった。


 彼女は抱きつくのみで、他には軽いちょっとしたキスが少々。


 もしこれが妹ならば、間違い無く私は無事では済まないだろう。

 しかし、現に私は襲われてなどいない。


 やはりソフィア医師は慎み深い女性だったのだ!


「殿下はちょっと激し過ぎるので…せめて私ぐらいは陛下の癒しとなりたいのです。旅人のオアシスの様に」


 今の言葉、妹にも聞かせてやりたいものだ。


「そうしてくれるのなら非常に有り難いな。正直、ナーシャと一緒では落ち着かんのだ。せめてソフィア先生だけでもそういうスタンスでいてくれると助かる」


「勿論です!私とて、陛下を苦しめてしまう様では本末転倒と理解しておりますから」


 彼女はやはり、少なくとも我が妹よりも遥かに私の事を理解している。


 そして、私は…

 やはり彼女が一番一緒にいて居心地が良いし…


 もしソフィア医師と結婚出来るなら、今のところ、それがベストなのだが。


「何か…何か無いのかなぁ…」


「何か、とは?」


「君と結婚出来る方法だ」


 彼女はそれを聴くなり、へっ!?っと素っ頓狂な声を上げ、私を見る。


「陛下…それはどういう意味ですか…?」


「別に深い意味は無いが?」


「いえ、ありまくりです!物っ凄く意味深な発言でした!」


「そうかな…?」


「そうです!」


 確かに、今のはちょっと失敗だったかもな。


「結婚…と仰られましたよね?それも私と!」


「落ち着け。別に結婚するとは言っていないだろう?」


「でも、それに近い事を仰られましたよ!?」


「ただ、君と結婚出来れば全て解決するのにな、と思っただけだ」


 そう言った瞬間、彼女は全力でぎゅう〜っと私を抱きしめる。


「陛下ぁぁ!」


「な、何だ…?」


「その発言、殆どプロポーズですよ!?」


「いや、そういう意味ではないぞ?今のところ、結婚するなら君が一番というだけだ」


「それがプロポーズなんです…!」


 小さな悲鳴を上げながら、彼女はじたばたとベッドの上を転がり回る。


「まあ、実際には不可能だからな。この事は忘れてくれ」


「いっその事、二人で駆け落ちでもしたい気分です…」


「それは勘弁だがなぁ…」


「では、私の最終目標は陛下と駆け落ちですね。まあ、別に愛人でも構いませんが」


 やっぱり失言だったかなぁ…

 ソフィア医師が異様に張り切ってしまった…

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