XXIII.ロリとはつまり、正義である。
※注釈
・広場
以前馬とワイバーンによる特攻作戦を繰り広げたあそこ。
「おいおい、宮殿広場であんな壮大な戦闘が出来るかよ!」と十二話ぐらいでツッコまれたあなたへ言っておきましょう。
ええ、きっとあなたは物知りで、現実世界の宮殿広場をご存知なのでしょうね。
もしかしたら現地に旅行で訪れた事もあるのかも。
あんな狭い所で大規模戦闘など無理だとご存知なのでしょう。
しかし、ここは異世界です。
プラトーク帝国とロ◯ア帝国は全くの別物です。
この世界の宮殿広場は、現実に存在する例の広場よりも遥かに広いのです。
だから全く問題ありませんね!
冬宮の直ぐ目の前にある事以外は現実のものとは全く違います。
作中で主人公は広場に民衆が集まるのを見てビビりますが、それも仕方がありません。
だって、現実のロ◯アでは冬宮目の前の宮殿広場にて、かの有名な血の日曜日事件が起こったのですから、異世界に於いても同様の事が起こらないはずがないのです。
宮殿広場も血の日曜日事件も知らない!?
そんなあなたはググりましょう。
・双頭の鷲™
ロ◯ア皇帝の象徴。
…否、ローマの象徴と言った方が正しいのかもしれません。
厨二病には堪らない独特の雰囲気を醸し出しています。
西の方はワイバーンやらドラゴンばっかりでどこも似たり寄ったりですが、やはりこれも同様で、双頭の鷲はロ◯ア以外にも色んな所、主にドイツやそれよりも東で使用されました。
〜父殺害後二十五日目〜
「にゃんにゃんにゃーん♪にゃんにゃんにゃにゃにゃ〜ん♪」
「随分と上機嫌だな…それは兎も角、私の膝の上で暴れないでくれないか…?」
「にゃ〜んにゃにゃにゃ♪」
駄目だ…聴いてない…
ナディアが宮殿に住み着いてから既に数日。
この少女、下手するとナーシャ並みに恐ろしい。
別にナディアはナーシャの様に襲おうとしてくる訳でもなければ、私に際どい交換条件を突き付けてくる訳でもない。
そういう意味では彼女は非常に安心安全だ。
大体、彼女が何をしてこようが私の腕力を前にすれば無力な七歳女児でしかないのだ。
故に彼女は今まで私が晒されてきた脅威のベクトル的には無害。
それどころか、就寝時に私とナーシャの間に滑り込み、クッションの役割を果たす事により、ちゃっかり私の童貞絶対防衛線の一部として組み込まれてすらいる。
今や彼女は私の安全保障上無くてはならない存在。
しかし、そんな彼女には一つだけ問題点があったのだ。
その一つの要素が、未だかつてない速度で私の社会的名誉を蝕みつつあるのだ。
そう、その要素とは…言うまでもなく彼女がロリだという事…!
もう既に私が七歳女児と婚約した事は国内では上から下に至るまで知れ渡っている。
つい昨日などここの目の前の広場に臣民達が大勢集い、勝手に私の婚約祝いの催しを始めやがった…!
「皇太子殿下とネイディーン様のご婚約祝い」などという名目で!
広場に人々が集まっている、と報告を受けた時は社会主義者の連中が攻めて来たのかと思い、社会的不適合者の奴等に一発ブチかましてやろうと自ら新式ライフル(帝国軍への配備の真っ最中)片手に近衛師団を引き連れて宮殿から飛び出したのだが、私を待ち構えていたのは罪無き小市民達。
社会主義者どころか、国家の礎たる人民諸君だったのだ。
血気盛んに飛び出したは良いものの、私を見た瞬間に全員恭しくその場で土下座をし始め、
「皇太子殿下をこの目で拝見する事が叶うとは…もうワシは死んでも良い…!」
とか言い出す始末。
健気に私を崇拝する臣民諸君を追い払うなど、私には出来そうにもなかった。
結局、その日は一日中広場で臣民相手に楽しく談笑。
まあ、私を尊敬しまくってる人々と過ごすのは結構楽しかった。
きっと彼等は純粋に私を祝おうとしてくれたのだろうし、途中でナディアを連れて来てもそれ程驚かなかったし。
ただ、問題は民草ではなくそれ以外。
宮殿内でも貴族諸君からはロリコン扱いされるし、侍女からも生温かい目で見られる。
更に今朝には他国からのお祝いメッセージが届き、遂に諸外国にもバレバレのご様子。
ナディア自体は悪くない。
ナディアの年齢が悪いのだ。
ナディアも既に宮殿での生活に慣れ、今では私の仕事中は彼女が膝の上を占拠している。
仕事中も膝の上に女児を載っけている私…
第三者目線ではただのロリコンでしかないだろう。
実際に今も私の膝の上でにゃんにゃんにゃんにゃん歌っている。
非常に仕事の邪魔だが、可愛いから許してしまう…
罪深い女とは彼女の事を言うのだろう。
彼女はいつの間にやら私に敬語も使わなくなってしまい、本当に私の娘みたいな状態だ。
「へーか、おなかすいた」
彼女は唐突にそう呟き、私の方を見上げる。
「ああ、もう昼か。もう少しで昼食にするか」
「おなかすいた…ナディア、いまがいいな…」
本当はこういう時、我が儘を言ってはいけないよ、と嗜めるべきなのだろう。
しかし、残念ながら彼女の可愛いさに簡単に敗北してしまう私は、
「よし!ならばこんな仕事など放って、食堂に行くぞ!」
と言ってしまうのだった。
別に親でも何でもないのに親バカになりつつある私。
渋々彼女がここに住む事を許可したはずなのに、今では楽しく彼女に世話を焼いている私。
ナーシャがお姉ちゃん枠を手に入れて陥落したのと同様に、本丸目前までキテる私。
な?この娘、凄く恐ろしいだろう?
だが、概ね問題無く日々を過ごしているのでそれで良しとしようではないか。
しかし、ここに一つの重要な出来事が舞い込んで来る。
それは私が昼食を食べ終わり、ナーシャとソフィア医師の恒例となった争いをぼけーっと眺めていた時に起こった。
「陛下、コンスタンチン・フリストフォーヴィチ・ベンクェンドルフ伯爵がお見えです」
「ん?誰だ、そいつは?」
「フォーアツァイト帝国との外交を担ってらっしゃる方です」
ほお、とだけ反応し、私は直ぐに彼を食堂に連れて来るように命じる。
フォーアツァイトとの外交だと…?
それはつまり、例のあの件か!
読者の皆様、覚えておられるだろうか?
我々は連邦を攻めるべくフォーアツァイトと秘密同盟を結ぶ事を模索していた。
きっと彼はそれに関する用件で訪れたに違いない。
「へーか、だれがきたの?」
「外交官だ。大事な話をするから、大人しくしてくれよ」
彼女は、はーいと返事すると、私の膝の上にぴょんっと座る。
彼女は私の仕事中は膝の上に座らなければならない、という強迫観念じみたものにでも囚われているのか?
まあ、可愛いから許すんだけど。
どんなおじさんかなぁ、とか楽しげに話すナディアは滅茶苦茶可愛いのだ。
ナディアに対抗して妹とソフィア医師も喧嘩を止めて脇に座る。
「邪魔になるから来なくて良いぞ」
「いえ、兄上の未来の妻として、大事だからこそ聞かぬ訳にはいかないのです」
「大事な話ならば、殿下に邪魔されないように私が付いていないといけませんので!」
まあ、それらしい理由を考え付くものだ。
それ以上何か言うのも面倒なので、そのまま放置する事にしておく。
数分程待つと、ベンクェンドルフがやって来る。
ちょっと前髪部分が禿げた中年の男だ。
「よく来たな。密約の件か?」
「ええ。フォーアツァイトの方から手紙を預かっております」
彼が差し出す手紙には鷲の印が押されている。
これはフォーアツァイト帝国の紋章で、これが押されているという事はフォーアツァイトの皇帝からの手紙だという事を意味する。
ちなみに我がプラトーク帝国では、皆さんお馴染みの双頭の鷲™️だ。
フォーアツァイトの方々には失礼だが言わせてもらうと、ウチの方がかっこいい。
丁寧に封を解くと中には綺麗な紙が一枚。
内容は非常に単純で、一言で表すならば、「お話したいから遊びにおいでよ(噂のロリ婚約者同伴で)」というもの。
婚約者同伴、というのはあちらの皇帝の耳にまで私がロリコンとかいう根も葉もない噂が届いているという事だろう。
連邦を挟んでかなりの距離が離れているのだが…
もう既にフォーアツァイトにまで知られているとなると、大半の国々には知られているのだろうな。
まあ、良い機会ではある。
この際、実際にナディアを連れて行き、ロリコンじゃないよアピールをしてやれば良い。
うん、それに決定だ。
「あちらから、私とナディアへの招待だ」
「兄上!私もですよね?」
「いや、ナーシャはお呼ばれでないな」
「そんな…」
しょぼんと肩を落とす彼女。
私としては妹と一緒に行く事にならなくて一安心だが。
「陛下!私は!?」
「そうだな…ソフィア先生はついて来る事になりそうだな」
嬉しそうにソフィア医師がはしゃぎ、それを見てナーシャが悪態を吐く。
「仕方がありませんね…エレーナに私の分まで監視を頼むしかありませんね、ビッチが兄上を誘惑しないかどうか」
「じゃあ、ナーシャ以外は一緒にフォーアツァイト行きだな」
「りょこうだねー!」
「おいおい、一応国の未来が懸かった交渉だぞ?」
「うん!ナディア、おりこうにするからだいじょうぶ!」
本当かなぁ…?
まあ、七歳児だからある程度はあちらも大目に見てくれるだろうが。
ソフィア医師も心配無い。
問題は、副メイド長か…
私に対してのあの態度をフォーアツァイトの人にとらないようにしてもらわないと…
「伯爵、どうやってフォーアツァイトまで?」
「他国に勘付かれては困りますから、上手く偽装しなければなりません。陛下にはネイディーン様とバカンスに行く、という名目で出発して頂き、途中で影武者と交代。その後、船を利用してフォーアツァイトまでです。港から帝都まではあちらの迎えを寄越してくださるそうなので、どれくらいかかるかは分かりませんが」
「どれくらいかかる予定だ?」
「大体、船に乗るまでに半日、その後船の上で十日程度ですね」
この様子だと随分時間がかかりそうだ。
往復だけで二ヶ月は食うと見て良いだろう。
「兄上…!そんなにも長い間兄上と離れ離れなんて…!私、耐えられません!」
「いや、耐えてくれ。私が留守の間、ナーシャにしかここを任せられんのだからな。姉上に助けを請うのも一つの手段ではあるがな」
「その様な細かい事に関しては行くまでに何とかしよう」
「では、出発はいつ頃に致しましょうか?」
「そうだな…一週間後だ」
✳︎
〜父殺害後三十二日目〜
今日は出発予定の日。
既に私は準備を済ませ、後は出発予定時刻までここで待機するのみ。
出来る限り少人数で行動するのが望ましいため、私の周囲の人間で供をするのはソフィア医師とエレーナ副メイド長、ナディアの三人だけ。
その他には外交官であるベンクェンドルフ伯爵やその他数人といったところ。他国に赴くにしては非常に少数だ。
まあ一応名目上はバカンスなので宮殿から出る際には大勢引き連れて行くのだが、途中で影武者と入れ替わった後に私と共に行動するのはこの数人だけなのだ。
私と入れ替わった後、影武者君は私の分までバカンスを楽しむらしい。
羨ましい限りだ。
どうせなら私の分まで影武者君にも働いてもらいたいところだが…
それは流石によそう。
「兄上!最低でも二ヶ月は会えないなんて…!あんまりです!」
「また同じ事を言って…もうそれについては納得したのではなかったのか?」
「いえ、昨日も結局一ヶ月分程度しかキス出来ませんでした。あと半分足りません!」
私がいない間の分を先にキスしておく、とかいう名目で昨夜は一晩中彼女に濃厚なキスをされ続け、全く眠れなかった。
あれでもまだ足りんと言い張るつもりか…
彼女の言う二ヶ月分とは一体どれほどのものなのやら…
「兄上兄上兄上兄上兄上兄上兄上!」
「何だ…?」
まるでバグったノベルゲーの様に兄上を連呼しやがる。
「寂しいですぅ!やっぱり私も行きます!」
「殿下、駄目です」
「嫌だああ!!」
ナーシャがあまりにもしつこいので、最終的に副メイド長によって何処かに連れ去られていった。
戻って来た際の副メイド長の笑顔が非常に清々しいものだったのは言うまでもない。
「陛下、そろそろお時間です。どうぞお乗り下さい」
「ああ、分かった」
馬車に乗り、出発。
我が愛しの帝都とは暫しの別れだ。
これにて、数ヶ月に及ぶフォーアツァイト帝国訪問が始まるのだった。
さあ行かう 一家をあげて 南帝へ!