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XX.残念ながら不良が捨て猫を拾っても好感度が上がるとは限らない。

※注釈

・A long time ago in a galaxy far far away

遠い昔、遥か彼方の銀河系で。

お馴染み某有名SF映画のアレ。

ちなみに筆者はこの映画が大好きです。

ルーカス、愛してる!

「な、ナディア!知っているだろうが、私には姉もいるのだ。お姉様などと妹の事を呼ぶとこんがらがるから止めておけ!な?殿下のままでも良いと思うな〜!絶対そっちの方が良いと思う!」


「なるほど」


「いえ、ならば姉上の事をお姉様と呼び、私を…そうね…お姉ちゃん、とでも呼べば良いわ」


 お姉ちゃん!?

 姉妹にでもなるつもりかね?!


「いいんですか?」


「良いわよ」


「ありがとうございます!」


 ナディアは目を輝かせ、憧れの姉の誕生を喜ぶ。


「あ、それともう家族も同然なのだから、私には敬語を使わなくても良いわ。一応あなたは兄嫁だし。本当なら義姉だもの。普通とは逆ね」


「え…でも…」


「遠慮はいらないから」


「はい…えっと、うん!おねーちゃん!」


 ナーシャよ、何故その様な事を…?


 まさか、おねーちゃんやめて!と泣き叫ぶ少女を惨殺するつもりか?

 趣味が悪い…悪過ぎるぞ!


 そして彼女はすかさずナディアから色々と情報を引き出そうとする。


「ナディアは何故兄上と婚約する事になったのかな?お姉ちゃんに聞かせて欲しいな」


 普段とは違う猫撫で声。

 ナーシャの本性を知らぬ人からすれば全く違和感を覚えないのだろうが、兄である私からすれば違和感の塊である。

 残念ながら不良が猫を拾った時の「あいつ…案外良いヤツじゃん…」みたいな感想はちっとも湧かん。


「えーっと、メイドさんがね、きのうのパーティーでさそってくれたの!」


「メイドさん…?もしかして、黒髪で怖い女の人?」


「うん。ちょっと怖い人だった!」


「チッ…やはりエレーナが関係してたか」


 そう吐き捨て、忌々しそうに天井を睨む。


 副メイド長、バレましたよ!

 逃げて!出来るだけ遠くへ!

 A long time ago in a galaxy far far awayへ!


 時が来るまで名を偽って隠れ棲んで下さいっ!

 双子の太陽の下で友人の息子を見守ってあげて下さいっ!


「では、ナディアは…」


「失礼…グスッ…殿下がナディアに優しく接して下さるのを見て、娘が嫁に行く、とやっと実感が湧いて来て…」


 いや、本当に申し訳ないのだけど、もうそろそろ婚約破棄するからそういうのは止めて?ね?

 もう私が泣きたくなってきたよ。


「それで、ナーシャ。…あー、ここに来たからには何か用件があったのでは?」


「ああ、ただ単に兄上のご婚約成立のお祝いに伺っただけです」


 嘘吐け!!


 おかしい…先程から何かおかしい…

 ナーシャは落ち着き過ぎている。


 本来、私の婚約など、ナーシャが発狂するレベルの一大事。

 地球が三度焼かれても不思議でない。

 それにも関わらず、この落ち着き様。


 更に、婚約破棄を直ぐにでも迫ってくるに違いない、と予測していたのにそんな素振りは一切無し。


 仕方無く誘導しようと試みてみたものの、婚約を今直ぐ無かった事にしろ、と言うどころかむしろ婚約成立を祝福しに来た、だと?


 おかしい。


 妹は何か企んでいるのか…?

 もし仮に彼女に何らかの策があったとして、それは何なのだ…?


 読めぬ…全く読めん。

 これ程恐ろしく不気味な事は無い。

 未知とは心躍るものである以前に人間にとって恐怖である。


「兄上」


 ぽんっと肩を叩かれて、はっと我に返る。


「どうした…?」


「兄上はどうやらあまり事態が呑み込めていない様ですね。可哀想に…混乱してらっしゃる。兄上は私が婚約に反対すると思ってらっしゃったのでしょう?」


「そうだ。だからどうした?」


「でも、予想に反して私は反対しなかった。それで不思議に思っておられるのでしょう?不安ですか?」


「何を言うか。それどころか安堵しているぞ、無事に婚約が済んで」


 彼女はにたりと笑うと、くるりと後ろを向く。


「失礼、兄上を少し借りても良いかしら?大事なお話があるの」


「ええ、構いませんよ」


 大公に有り難う、と礼を言い、彼女は私に手招きする。


 恐らくナーシャがしようとしているのは大公やナディアに聴かれては困る話なので、大人しく後ろを付いて行く。

 ここで抵抗する程私も馬鹿ではない。


 部屋から出てドアをがしゃんと閉めると、部屋から漏れる光が無くなり、急に廊下は暗くなる。

 どうやら副メイド長は既に逃げ出した様で、どこにも姿が見えない。

 もう彼女とも会う事はないだろう…


 いくつか燭台の火があるだけで、直ぐ目の前のナーシャの顔もはっきりとは見えない程。


「答え合わせをしましょうか。何故私が婚約に反対しないのか」


「ナーシャも遂に私を諦め、真っ当な人生を歩む決心をしたのか?」


「違います」


「この後ナディアを一族もろともこの世から消し去るから?」


「兄上、酷いですっ!私はそんなに残酷な人間ではありません!」


 いえ、どう考えても我が妹はそういう事をやりかねない残酷な人間です。

 多分、他者に対する愛情とかその他諸々のリソースを私に振り過ぎなのだと思う。


「では何故だ?」


「兄上がこの婚約に本気でない事が丸分かりだからです。少なくとも私の知る兄上は幼女趣味ではありません──まあ、もしかしたらいつの間にかロリコンに目覚めていたという可能性も否定は出来ませんが──大方、兄上もこの婚約は直ぐに破棄するつもりだったのでしょう?全く嬉しそうな顔をしていないし、バレバレです」


「そんな事が分かるのか?」


「はい。兄上の考える事など全てお見通しです。婚約破棄を餌に何か私に要求するつもりだったのでしょう?」


 全て勘付かれている…

 やはり妹を騙すのは一筋縄ではいかないか。


「…そうだ」


 ハッタリでもなさそうなので、諦めて認める。


「やっぱり!ならば尚更婚約には反対出来ませんね。進んで兄上の思惑通りに行動するのも(しゃく)ですから」


「いや、それは困る。ナーシャの反対を理由に断るつもりだったのに」


「だからこそ、です。仕返しですよ」


「まあ良いさ。他の言い訳を見つけるから」


 ふうっと溜め息を吐き、もう一度部屋に戻ろうとすると、お待ち下さい、と妹が私を呼び止める。


「どうせ断るにせよ、十年以上猶予があるのでしょう?」


「まあ、七歳だからな…この調子だと私がおっさんになるまで猶予があるな。今直ぐ破棄する必要は無いが…それがどうしたのだ?」


「ならば婚約破棄は少し待って頂きたいのです」


 何故だ?

 さっぱりこの発言の理由が分からん。


「ナディアが言った事を覚えておられますか?“ずっとお姉ちゃんが欲しかった”と」


「覚えている。そう言っていたな」


「実は、私もずっと妹が欲しかったのです。兄上と姉上はいらっしゃったけど、歳下の兄弟はいなかったので…ナディアが私をお姉ちゃんと呼んでくれた時、凄く嬉しかったのです。私はあの娘の姉でいたい…」


 そういう事か。

 案外単純で人間的な理由だったらしい。


 信じ難いが、他にどう説明すれば良いのかも分からん。

 案外本当なのかもしれん。


 でも嫌だ。


「嫌だ」


「良いのかなぁ〜ナディア脅しちゃおっかなぁ〜」


 おう…


「そ、そうか。だがそれは私ではなくナディアが決める事だ」


「どういう事ですか?」


「大公は兎も角、ナディア本人には本当の事を知ってもらおう。いつまでも騙し続ける訳にはいかんし、事情を全て説明する。それを聞いた後でもまだ彼女が婚約継続を望むならば、婚約はそのまま維持する。逆なら婚約破棄という事だ」


「本当の事を告げるのですね…泣かれるかもしれませんよ?」


「それはどうせ避けられん。ならば早いうちに泣かせてしまおう」


 鳴かぬなら鳴かせてみよう、ロリ幼女。


 …あ、駄目だ。

 この“鳴く”だとヤラシイ意味に見えてしまう…


「分かりました。そういう事ならば私もお手伝いさせて頂きます。この後は全部私に任せて下さいませんか?」


「信用しよう。では頼んだ」


「ええ、お任せ下さい」



 ✳︎



「ナディア、良ければ泊まっていかない?私と兄上はいつも一緒に寝ているのだけど、特別にあなたにも許可しましょう。話したい事もいっぱいあるし、どうかしら?」


「おねーちゃんと、へーかといっしょにねれるの!?」


「ええ。もう一人邪魔な女がいるけどね」


「おとーさま!ナディア、ここにとまっていきたいです!」


 やっと泣き止んでいた大公は、それを聞いて又もや涙ぐみ始める。

 この人も一々大袈裟だなぁ…


「そうか、ナディアも婚約したんだものなぁ…未来の夫と寝所を共にする事ぐらい、許可するとも」


「やったあ!」


 ぴょんぴょんと彼女は跳ねると、私に飛び付いて来る。


「へーか、いっぱいおしゃべりしましょうね!」


「ああ、そうだな」


「では、ナディアを宜しくお願い致します」


「娘さんは責任を持ってお預かりしよう。安心なされよ」


「ええ、陛下ならばどんな男よりも安心ですよ。ナディア、お父様とお母様は帰るけど、良い子にしてるんだぞ?くれぐれも陛下と殿下にご迷惑をお掛けしないようにな」


「はい、おとーさま!」


 こうして、ナディアは今夜、宮殿に泊まっていく事になった。


 真実を知った時、この少女は何を思うのだろうか。

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