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II.妹と公衆の面前でえっちい事をするなど、如何なものか。

※注釈

・フレンチ

舌を入れて絡みつかせるあのキスを、お上品に言えばこうなる。

別名、ベロチュー。

「違いますってば。()()と結婚すれば良いのです!」


 妹のその一言に、私の思考は一気に乱される。


「すまん、もう一度言ってくれんか?ちょっと耳がおかしく…」


「あ・に・う・え!と!結婚すれば良いのです!と申し上げました!!」


 …ん?


「ちょちょちょ!ちょっと待て!兄妹でそれはいかん!その様な戯言たわごと…!」


「あら、兄妹とは言えども()()()()でしょう?許容範囲かと思いますよ?」


 何が許容範囲だ…余裕でアウトに決まっている。

 最大で半分が同じ血なのだから、普通に駄目だ。


 余裕で三親等以内ではないか!

 腹違いだからその分マシとは言えども…

 どちらにせよ兄妹である時点で二親等だ。

 十分アウトだ。


 いや、確かにそれはそれで嬉しくない訳でもないが、それは不味い。

 妹だぞ?妹!

 子供の頃からずっと妹として接してきたのだぞ?!


「ナーシャ、それはだな…」


「この程度の近親婚ならば諸王家でも無くはないと聞きます。ならば我々も問題無いのでは?」


「それは必要に応じて仕方無く、だ。あくまで最終手段でしかない。緊急時でも何でもないのにするものではない」


 娘を嫁がせるとなれば必然的にその嫁ぎ先は力を得る事となる。

 それを避けるべく近親婚という選択をする事はあったそうだが、滅多に聞かない。


 昔はそれも許されたのだろうが…

 今、それが許されるとは思えない。

 それに、“無くはない”とはあるにはあるけどスーパーレアって事なのだぞ?


「今がその緊急時ではありませんか?仮にも私達は現皇帝を殺したのですよ?皇太子である兄上がまつりごとを執り行う事になるとは言えども、混乱は避けられぬでしょう。ほら、ご覧下さい。家臣の皆も混乱して、未だに立ってこちらを見ている事しか出来ません。そんな時に私が他家に嫁いでは、政治に混乱を生みます。又、兄上が誰かと結婚するにせよ、それも他家に力を与える事になりましょうや。なれば私達が結婚する事こそ最善手ではありませんか?」


「しかし…」


 彼女の言い分は分からなくもない。

 しかし、理性がそれを拒むのだ。

 それ故に私はまだ首を縦に振れずにいる。


「兄上は…私と結婚するのは嫌なのですか…?そうですよね、先程も私の身体では興奮出来ないと仰ってらしたし…」


 悲しそうな顔でそんな事言われても…!

 逆に、妹の身体で興奮する兄とは…何なのだ…


「いや、別に個人的には構わないのだがな…」


 そう呟くと、彼女の表情がぱあっと明るくなる。


 止めてくれ!一瞬可愛いと思ってしまったではないか!

 しかしそれでもそんな事許す訳にはいかぬ。

 そもそも周りが許す訳がないし。


「だが、周囲も許さぬだろうし…」


「何を仰いますか!()()()()()父上を殺したのですよ!今更反対する者などいましょうか!」


 は?今、何と?

 一応、父上の腐った政治ではこの国の将来が危うい、とかいう理由で殺害計画を練ったのだが…

 結婚のためなどではないはずだが?


 キョトンとする私を見て、彼女も自分が口走ってしまった言葉の意味を察したらしい。

 あ、マズい、とでも言わん表情で彼女は即座に懺悔ざんげモードに突入する。


「兄上…嘘を吐いていた事をお許し下さいませ…実は兄上に言った、この国の政に関する事はあくまで兄上を納得させるための建前でしかないのです。本当は私達の結婚にとって最大の障害である父上を殺すための計画だったのです…」


「は?!つ、つまり…私と結婚するために殺した、と?」


「はい。父上を殺し、兄上が皇帝に即位すれば誰も反対出来ぬかと…兄上が先程から心配なさっておいでのこの服装も実は兄上に色仕掛けしようと着てきたのです。普段からこの様な服装をする程、はしたない女ではありませんことよ?」


 いや、ここでそんなトンデモ告白されても!

 そんな頰を赤らめられても!

 そんなモジモジされても困ります!


「兄上、私と結婚してはくれませんでしょうか?」


 だ、駄目だ…どうすれば良いのかとんと見当が付かぬ…

 何でも良いから薄暗いじめじめした所とかでにゃーにゃー泣いていたい気分だ。


 まさか妹がこんなブラコンで、更にはヤンデレだったとは…!

 もしかしてここで断ったら私も殺されちゃうんではないか?


 断るだけなら兎も角、他の女性と結婚するね、とか言ったら間違い無く殺される!

 良くて監禁か?

 何てこった…!妹がこんなに恐ろしいとは…!


「それは取り敢えず後にしよう!な?先ずは父を殺したのだから後始末をせねば!それが最優先だ!」


「いえ、私達の結婚こそが最優先では?」


 先程までの態度が一転して、今度はこちらをキッと睨んでくる。

 殺られる…!


「それは違うぞ、ナーシャよ。我々の結婚に関する事は非常に重要だからこそ、今ここでするべきではない。後で落ち着いてから話し合うべき事であろう?故に後回しだ」


「成る程、流石は兄上。そこまで考えが及びませんでした」


 必死に弁明した甲斐あって理解して頂けたようだ。

 彼女からの殺気は嘘の様に消え、元の笑顔に戻った。

 私の知る今までの妹はここまで恐ろしくはなかったのだが…?


 ホッと息を吐いたのもつかの間、その後の彼女の言葉に私は身震いする事となる。


「それでは、式の日取り、家族構成等、話し合うべき事は幾らでもありますから後で落ち着いてから、()()()()時間をかけて話し合いましょうね」


 式の日取り?家族構成?それはもう結婚する前提ではないか!?


「ははは…そう()く事もあるまい…まだ結婚すると決まった訳でもないし」


 辛うじて乾いた笑いを顔にこびり付かせて応対するが、どちらかというと恐怖で叫びたくなってきた。

 気のせいか、遠巻きに見ている人々の表情も、困惑から自分に対する同情に変わっている気がする。

 きっとこちらの会話は丸聞こえだろうしな。

 嗚呼可哀想に、とか心中で思われているのだろうか。

 取り敢えず何でも良いから助けてくれ、と切実に思う。


「急ぎ過ぎるに越した事はありません。それに私と兄上は愛し合っているのですから結婚も決まったも同然です」


 愛し合ってる?私はそんな事一言も言ってないぞ?!

 妹と結婚しても構わない、とは言ったが、愛しているとは一言も言ってないぞ!?


 恐るべし…恐るべしヤンデレ妹…彼女の脳内で私の言葉はどの様に変換されているというのか…

 考えるだけでも恐ろしい。


 もしや、他にも都合良く変換される様な事を言ってないよな?

 少しでも勘違いを生む様な発言をすれば終わりだぞ…


「と、兎も角!先ずは後始末だ!」


「ええ。将来に関する話は後程、私の()()()()()()お話ししましょうね」


 寝室で?!夜通し?!

 既成事実を作られそうな予感しかしない!


 前述の通り、一度汚れた身では他家に嫁ぐ事は叶わない。

 故に既成事実を作られてしまえばもう後には引けない。

 妹だろうが何だろうが、何処かで見た事がある様な展開へとまっしぐらだ。


 ええい、もうこれは無視だ、無視!

 取り敢えず、自分に抱きついている妹を引き剝がさねば…ん?


「ナーシャ、すまんが退いてくれないか?動けない」


 妹が離れてくれない…

 普通なら可愛らしい光景なのだが、今の自分にとっては恐怖以外の何物でもない。

 さながら蛇に睨まれた蛙の気分だ。


「ごめんなさい、離れたくありませんの。兄上の温もりを一秒でも多く感じていたくて…」


 誰か!誰か助けて!

 コレ、獲物は逃がさないって言ってるだけなんだからね!

 微笑ましくも何ともないんだからね!


「でも、今はすべき事があるから…どうか離してくれないかな?」


 出来る限り刺激しない様に優し〜く頼むと、妹は渋々離れた。


 ふう、助かった…

 未練がましくこちらを見ているが、無視無視!

 全く後ろ髪など引かれぬわ!


 クルリと踵を返して妹から少しでも距離を稼ごうと歩き出そうと一歩を踏み出す。


「兄上」


 そこに直ぐ様呼び止められる。

 まだ何かあるのか!?


「な、何かね…?」


 そう言いながら振り向いた瞬間、妹が目にも留まらぬ速さで飛び付いてくる。


「む、むぅぅぅ!」


 口の中に何か(多分、というか確実に舌)が飛び込んで来て、口内を荒らし回る。


 これは…フレンチキス…!

 お下品に言えばディープなキスではないか!

 奪われた!初めてだったのに!


 それに彼女の舌遣いはヤケに上手く、こちらは為す術もない。

 従順に彼女に舌を弄ばれるのみ。


 何だこの恐ろしい勢いで絡み付いてくる舌は!

 逃げ場の無い口内で、我が舌はどうやって逃れれば良いと言うのか。


 えも言われぬ快感が波状攻撃を繰り広げる。


 やっと解放された時、もう這々(ほうほう)(てい)で後ずさりしていた。


 不味い…不覚にも凄く気持ち良かった…!

 このままでは不味いっ!!


 充実の三分コースは私にとって未知との遭遇ってヤツだった。

 嗚呼、こんな公衆の面前で未知との遭遇したくなかったよ!


 そんな事を仕出かしたというのに、本人はと言うと…


「今のが私のファーストキスだったのです…初めてを奪ったからには、責任取って下さいね?」


 とか言って照れてる始末。


 もう、泣きたい。

 それに、“奪った”んじゃなくて“奪わされた”のだが。


「うう…」


 もう返事の言葉すらも出て来ない。


「実は、兄上といつ何時キスをする事になっても良いようにずっと一人で練習していたのです…はしたない妹をお許し下さいませ…」


 そんな事実聞きたくなかったよ…

 一人で練習って…想像すると、ちょっと笑えるけども。

 いや、その想定相手が私とか…全然笑えん。


「もう良い…退がれ…後は私に任せてくれ…頼むから…」


「分かりました。それでは、寝室の用意でもして来ますね。今晩()()()使うのですから、いつもより入念に。普段からもいつ兄上が潜り込んで来ても良いようにと綺麗にしていたのですが…兄上、どの様なシチュエーションがお好みですか?服は兄上がいらっしゃるまで脱がない方が宜しいのでしょうか?」


 誰か彼女を止めてくれ…!

 もう、父親を殺してしまった事について後悔しか無い。

 唯一妹を止められる存在だったのに!


「好きにせよ…」


 そしてそう言うしかない自分の情け無さよ…


「はい!それでは、お待ちしております」


 去り際に、さっきのキスの続きがどう、とか最後の最後まで爆弾発言をかまして妹はやっと去った。

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