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XVII.そろそろ本気で結婚でも考えようかなぁ、なんて思っちゃったり。

※注釈

・親父にもぶたれた事ないのに!

某ロボットアニメの有名なセリフ。


・Tウイルス

感染すると、危険なゾンビ的何かになっちゃうウイルス。

ばら撒くと、ヴァイオハザァ〜ドになります。

筆者としては、声を大にしてABC兵器撲滅を主張したいものです。

まあ、この世に米帝様とプー◯ン帝国が健在である限り、不可能なんですけどね。

 取り敢えず、妹に平手打ちをされるぐらいの事は覚悟していたのだが、予想は少し外れた。

 何故なら、私を待ち構えていたのはナーシャではなくエレーナ副メイド長で、盛大に平手打ちをしたのも彼女だったからだ。


 ちなみに、人生初のビンタをくらったので、リアル「親父にもぶたれた事ないのに!」である。


 彼女は容赦無く凄まじいビンタを最低でも十回は私に浴びせかけ、不敬をお許し下さい、殿下のご命令ですから、と澄ました顔で言う。


 いや、絶対個人的な感情がこもっていたぞ!?


「あんなに思いっ切りビンタするように命令されてたのか?それも、何回も?」


「いえ、ビンタの強さや回数は特に指定されていませんでしたが。現場の判断、というヤツです」


 現場の判断!?

 やっぱり個人的な怨みだよね?!


「成る程、君は自分で適切な判断が出来る優秀なメイドって訳だ。わあ、凄い」


 出来る得る限りの皮肉を込めてそう言ってみるもやはり彼女には効かない様で…彼女は何でもない風に、お褒めに預かり光栄でございます、とか優秀なメイドに相応しい返答をしてくる。


「ところで、ナーシャは?」


「殿下に擦り寄って言い訳でもするつもりですか?殿下は只今自室におられます」


「そうか。では…」


「行ってはなりません。伯爵夫人が陛下よりも少し早くに戻って来られたので、今は伯爵夫人と一緒にいらっしゃいます」


 私の言葉を遮る様にそう言う。


 姉がいるのか。

 彼女も騒ぎを聴きつけてきたのだろう。


「何故行ってはいけないのだ…?」


「分かりませんか?」


「うむ。分からん」


 本当に分からん。

 何故だ?


「これ以上殿下を悲しませるのならば会わないで頂きたいからです。殿下は“陛下に見捨てられた”と悲しんで、部屋に篭ってらっしゃるのです。これ以上殿下を(もてあそぶ)ぶ様な真似はしないで下さい」


「弄ぶ…だと?その様な事は…」


「陛下にそのつもりが無くても、殿下にはそうなってしまうのです。変に期待を持たせる様な事は控えて下さい」


 彼女は私の腕を掴むと、ぐいっと捻る。


「陛下、私から一つ提案がございます」


「提案?それは腕を捻りながらでないと話せない様な内容なのか?!」


 痛いから離して頂きたいのだが!

 痛い痛い、と叫びたいのを今この瞬間も堪えているのだが!?


「はい。これも業務の一環ですから、勿論必要な行動です。決して、()()()()()()()()()()()()()とかそういうのではありません」


 いや、絶対そういうのですよね…?


「何でも良いからさっさと言ってみろ…」


「では、時間が惜しいので単刀直入に。結婚して下さい」


「結婚…?結婚…って、ええ!?結婚か?!」


 それは流石に単刀直入過ぎやしないか!?


 もう少しムードとか考慮した方が良いのではないか?

 私…まだ心の準備が…!


「はい。結婚です」


「待て待て!侍女と結婚とか無理だぞ!」


 ソフィア医師とですら無理なのに、侍女とか論外だぞ?

 エレーナ副メイド長め、何を血迷った事を…


「何を勘違いしてらっしゃるのです?」


「勘違いとは?君と結婚とか絶対無理だから!」


「はあ…()()ではありませんよ?」


 へ?


「では、誰と…?」


「だから、私が良いお相手を見つけますからさっさと結婚して下さい。陛下がいつまでも独身でいるから殿下も期待してしまうのです」


 そういう事か…

 確かに、それならば私にとっても願ってもない話だが。


 それならもっと誤解を招かないように言い方を考えて頂きたいものだ。

 何だか私が自意識過剰みたいな感じになってしまったではないか。


「しかし、“良いお相手”などいるのか?自慢ではないが、私は非常にモテないのだ」


 えっへん、とおどけてみせると、彼女は嫌そうな顔をしてぎゅっと私の足を踏む。


 痛い…


「陛下は、実はモテています。お気付きでは様ですが」


「え、本当に?」


「はい。ただ単に様々な要因のせいで縁談などが舞い込んで来ないだけなのです。流石にプラトークの皇太子ともあろう者がモテないはずがないではありませんか」


 でも、事実としてモテないのだがなぁ…


「ですから、私が何とかしてみせましょう」


 おお、頼もしい…!

 エレーナ副メイド長が物凄く頼もしく見える!


「では、宜しく頼む」


「ええ」


 彼女はやっと腕を放し、最後に名残惜しそうにぐりぐりと私の足を踏みにじると、くるりと背を向ける。


「陛下。もう殿下の部屋に行く事を止めはしませんが…ご結婚に関しては頼みますよ?」


「ああ。最大限私も努力する。何かあったら直ぐに教えてくれ」


 彼女は小さく頷くと、そのまま去って行く。


 まさか、エレーナ副メイド長に嫁を紹介してもらう事になるとは…

 人生って何が起こるか分からんものだな…



 ✳︎



「おーい、ナーシャ…?」


 反応無し。


 普段なら兄上兄上とべたべた抱きついてくるであろう状況でも、死んだ目でただ茫然と天井を眺めているだけ。

 私が目の前で何をしようと、彼女はうんともすんとも言わない。


 かなりの重症だ。

 これならまだ怒ってくれていた方がマシだった。


 拗ねたレディー程面倒なものはない。

 更に、拗ねたヤンデレはもっと面倒である。


「ナーシャは…()ねているのですか…?それとも、生ける屍になったのですか…?」


 もしかしたら、妹はTウイルスとかに感染してしまったのかもしれない!


「拗ねてるだけね」


 姉はやれやれ、と首を振る。


 うん、ゾンビになった訳ではない、と。


「どうすれば良いと思いますか?」


 私の救いを求める手を払いのけ、自分で考えたら、と冷たく言い放つと彼女は部屋を出て行く。


 そして部屋には私と妹の二人だけに。

 気不味い…実に気不味い…


「あ〜…ナーシャ、いつまでも拗ねてないで、話をしないか…?」


 返事が無い、ただの屍の様だ。


 もう一度。


「ナーシャ、私は笑ってる君の方が好きなんだけどなぁ〜」


 今度はちょいちょいと彼女の髪を撫で、顔を近付ける。


 が、やはり反応無し。


 これでも駄目となると…

 恥ずかしい事しか思い付かないぞ。


「ナーシャ、私が悪かった。どうか機嫌を──」


「兄上の馬鹿…」


 喋った…!

 やっと喋ってくれた…!


「ああ、私は馬鹿だ。すまなかった」


「絶対反省してません。兄上はいつも口だけです」


 彼女はぷくっと頰を膨らませ、そっぽを向く。


 ちょっと可愛い。

 ヤンデレのくせに。

 ヤンデレのくせに。


「どうすれば機嫌を直してくれるのだ?」


「ほら!そうやって何でも私の言う事を聞けば良いと思ってるんです、兄上は!反省してない証拠です!」


 図星だな…


「すまん、確かにその通りだ…」


「素直に認めるところは高評価です」


 あ、どうも。


「それに…言う事を聞いてもらえれば機嫌が直るというのも本当ですし…」


 だから、と彼女はその後に付け加える。


「私を見捨てた事は水に流しましょう。ただし交換条件です」


「何だ?言ってみろ」


「今日一日、兄上と私は夫婦です!」


 また突拍子も無い事を…

 しかし私に非がある以上、仕方が無いか。


「具体的に…えーっと、何をすれば良いのだ…?」


「まあ、いつかは夫婦になるとは言え、その前に一日夫婦体験といきましょうよ!簡単です、夫婦として過ごすだけです!」


「はい、質問」


「どうぞ、()()()


「夫婦として過ごす、とは対象範囲が広過ぎると思うのだが…」


 その一言に、()()()()やら()()()()まで含まれているかもしれないのだ。

 それは困る。

 非常に困る。


「ご安心下さい。普段よりもイチャイチャするというだけの事です。ちゃんと兄上にも拒否権はありますし、兄上が今想像された様な事にはなりませんよ。あ、兄上がそういう事をしたいと仰るならば大歓迎ですが」


「つまり、ごっこ遊びの延長の様なものだと思って良いのか?」


「ええ、構いません。ただし、やるからには本気で私の旦那様を演じて下さいね」


 それはつまり、人前でも積極的に妹にイチャイチャしにいかねばならんと?


 地獄だな…

 羞恥心で死んでしまうかも…


 こう見えて、私のハートはガラスの様に脆いのである。

 周りからの視線でほんの少しチクチクされただけでも危うい。


 しかし、やらない訳にはいかない。


「分かった。努力しよう」


「頼みますよ、我が君」


「善処しよう」



 ✳︎



「ほら、あれを見て下さい。綺麗なお花ですねー」


「えーと…でも、君の方があの様なちっぽけな花なんかよりもずっと綺麗だと思うぞ。君の美貌と比べたら、あんなものはただの雑草だ」


「まあ、お世辞を言っても何も出ませんよ?」


「世辞などではない。ただ事実を述べたまでの事。花の香りに誘われる蝶の様に、私も君に夢中だよ」


「兄上ったらあ!」


 嗚呼、もう既に後悔してきた。

 何故夫婦ごっこなんてしてるのだろう。


 予想以上に恥ずかしい。

 周りの視線が痛い。

 恥ずか死にそう。


 ソフィア医師からは生温かい目で見つめられ、エレーナ副メイド長からは物凄く睨まれている。

 これでは拷問と大して変わらん。


 ナーシャは予想通り、夫婦なのだから夫の仕事を手伝うのは当たり前、と言い張り、執務室に居座っている。

 それも、ソフィア医師の様に隅の方で座っていてくれれば良いのだが、有ろう事か私の膝の上に陣取り、役人にチラ見されながらもイチャイチャする事を強要してくるというのは如何なものか。


 更に、膝の上であっても大人しくしていればまだ許せるのだが、彼女に限ってそんなはずもなく…

 …私に抱きつくと衆目に晒されているのに長々とキスを披露する始末。


 最早、仕事どころではなくなってきた。


「ナーシャ、手伝いになってないぞ!逆に効率の低下を…んんんっ!」


 はい、ずっとこんな感じなのです。


「何故ですか?兄上も気持ち良い事をするのはお好きでしょう?」


 それは否定しない。

 正直、気持ち良い事は好きだ。大好きだ。

 ただし公衆の面前でしようとは思わないし、出来れば妹以外としたい。


 そういう意味ではソフィア医師が最適…なのだが、ピュアな彼女を性的欲求を満たすためだけに利用するのは気が引ける。


 だから、今こそ婚約者が必要なのだ…!

 心置きなくイチャイチャ出来る女性が…!

 反乱分子も捕らえ、政治的安定を得た今こそ最大のチャンスなのだから。


 プラトークでは、明文化こそされていないものの、皇帝になるには妻の存在が大前提。

 暗黙の了解として皇帝は既婚者である事が求められるのである。

 歴代皇帝は皆既婚の状態で即位しており、一人の例外もいない。

 これは後継者とかその辺りの問題が発生する事を防ぐためのものらしい。


 故に、妻を迎える事は私のためのみならず私の皇帝即位による安定をもたらし、ひいては帝国のためでもあるのだ。


 妹から逃れるためにも…嫁探しがこれからの最重要課題だ。


 さて、それは兎も角。

 何とか日中の業務は終了し…


「兄上…」


「ナーシャ…」


「兄上…」


「ナーシャ…」


「兄上…」


「ナーシャ…」


「兄う──」


「ねえ、そろそろ良い加減にしてくれない?目の前で弟と妹が抱き合って互いに名前を囁き合う光景とか見たくないのだけど?」


 夜会にて、遂に姉がブチ切れる。


 途中、反乱が起こったりして色々あったものの、当初の目的を果たした彼女は明日の朝帰宅するらしい。

 それ故のお別れパーティーなのだが、以前も述べた様に夜会に於ける我々兄妹の守らねばならない規則はまるで夫婦の様な事をさせるものばかり。


 それだけでも酷いのに、そこに夫婦ごっこが追加されると…

 素晴らしい…否、香ばしいテイストになる事はもう言うまでもないだろう。


「公の場では勘違いを招く様な発言をしない(ただし、勘違いを招く様な行動はアリ)」という約束のお陰で多少はマシだが、それでも姉が苛立つくらいにはイチャイチャ全開。


 そんな事言われても、と泣きたくなってくる。


 そして最大の山場は就寝時。

 ソフィア医師が羨ましそうにこちらを見つめている中、私と妹は互いに甘い言葉を囁き合いながらベッドの中でもずっとキス。


 多分、今日一日だけで優に百回を超えるくらいキスをしている。

 この百回、というのは、百回口付けをした、という意味ではなく百度キスをした、という意味。

 もう、今日だけでとんでもなく大量にキスをしたのである。


 明日はソフィア医師にも何かするように求められる可能性もあるし…

 夫婦ごっこなんて糞食らえだ…


「嗚呼…本当の夫婦ならば、この後兄上と夜の営みを楽しめるのに…」


「あれ程キスしたのに…?」


「だからこそです。もう、したくてしたくて堪りません…」


「駄目だぞ。絶対に駄目だから!」

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