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XVI.「弱くても勝てます」プラトーク帝国軍のセオリー。

※注釈

・ヒト科ヒト属ヒト

学名だと、ホモ・サピエンス。

要するに、人間の事。

人間を生物学的に言えばこうなります。

まあ、本当はもっともっと長いのですが。


・ダーマ神殿

職業を変えるならココ!

盗賊から戦士まで、何にでもなれます。

ただし、勇者は職業選択の自由が無い模様。

憲法違反ですよね…?

(日本国憲法第22条を守ろう!)


・二・二六

二・二六事件の事。

首謀者や参加した兵士の大半は投降、一部は自害しました。

若気の至り、としか言い様の無い事件。


・アレクセイ・ペトロヴィーチ・ボラトゥージェフ=フリューミン

第一話に登場したご老人。

隠居する、とあの頃の彼は言っておりました。

しかしそれも今は昔の話…(遠い目)

「赤だ!赤が上がったぞ!」


「攻撃開始!」


 狼煙を確認するや否や、騎兵と翼騎兵が下馬し、起爆装置を起動する。


 それらは一定時間後に起爆するように設定されていた。


 一斉に馬とワイバーンが敵に向かって駆け出す。

 一万の馬が地上から、五千のワイバーンが空から、敵に襲い掛かる。


「退避ぃぃ!退避っ!」


 そして騎兵と翼騎兵は敵に背中を見せて一目散に逃げ出す。


 それを受けての敵の反応は、困惑、ただそれのみだった。


 当初、狼煙が上がったのに反応し即座に臨戦体制に入った彼等だったが、帝国軍騎兵、翼騎兵の行動が突撃ではなく下馬だった事に驚きを隠せなかった。

 突撃してくるかとばかり思って身構えていたのに、敵が突如下馬し始めたのだから。

 騎兵と翼騎兵が馬やワイバーンから降りるなど、攻撃前にあり得る事ではない。


 何か策があるのか?

 それとも、ただ負けを悟って逃げ出しただけか?

 彼等の脳内ではその様な二択がぐるぐると目まぐるしく行ったり来たりを繰り返していた。


 しかしその思考の結果、彼等のうちの大半…否、全員が同一の答えに辿り着く。

 すなわち、敵は戦う前に諦めて逃げたのだ、と。


 彼等は赤い狼煙の意味を、攻撃ではなく、降伏か退却か何かだと思ってしまっていたのだ。


 兵達の緊張が緩んだ瞬間、突如ワイバーンが羽ばたき、上昇。

 馬は嘶きながら自分達の方へと駆けて来る。

 そして敵兵は無様に逃げて行く。


 何が起こったのか、彼等にはさっぱり分からなかった。

 人間の乗っていないあの獣の群れは何だ、と。

 人間の乗らない馬やワイバーンの突撃に如何程の価値があるのか、と。


 ほんの数秒の間に為された考察による彼等の中での最有力の結論は、帝国軍は馬やワイバーンを自分達に(けしか)けて囮にし、その隙に逃げるつもりなのだ、というものだった。


 彼等はこの時点では爆薬の存在に気付いていなかった。

 それらが巧妙に布で隠され、更にそれが不自然でなかったのも原因の一つだが、最大の理由は、暗過ぎて高速で動く生物の細部までよく見るなんて事は誰にも出来なかったからだった。


 少なくとも、迫り来る馬とワイバーンの群れが敵側の攻撃の秘策だとは誰一人として気付かなかった。

 故に彼等が自分達に迫る危機を自覚するのは非常に遅かった。


 取り敢えず馬を食い止めようと、彼等はのろのろと射撃を開始。

 人間の乗らない馬であろうとも、重量は十分ある。

 高速でそれらが衝突してくれば怪我人が出る。


 しかし、暗くて狙いもあやふやで、ただ闇雲に一群に向かって発砲するだけであった。

 彼等とて狙えるならば狙って撃ちたかったが、夜闇はそれを許さない。


 銃弾の殆どは大きく馬やワイバーンを逸れて当たらないが、馬の数が多いので、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる。

 幾らかは命中し、微々たるものだが頭数を減らしていく。


 被弾した馬は悲鳴の様な声を上げ、地面にくるんと転がり込むかの様に倒れる。


 外周部分の兵達は馬に発砲していたが、内側の兵達はFF(フレンドリーファイア)の可能性を考慮して上空に銃口を向け、ワイバーンに鉛玉を飛ばす。


 しかし、ワイバーンは小口径の銃弾一発の被弾如きでは馬の様にはならない。

 数発食らって、やっと地面へと真っ逆さまに墜ちていく。


「敵は逃げるつもりか?」


「ワイバーンは牙を持っている。人間が乗らずとも囮ぐらいにはなると思ったのだろうな」


「馬もそれなりに危険だ。あの質量が高速で突っ込んで来るんだ、油断するなよ」


「まあ、逆に言えばそれだけだ。骨折して病院送りが関の山だよ」


「おいおい、数ヶ月間も松葉杖生活はごめんだぜ?全て撃ち殺してくれよ?」


 彼等は完全に油断していた。


「市街地に潜んでいた連中も敵を取り囲む様に移動中だ。完全に包囲しているそうだ。俺達には急いで加勢する必要性も無い。ゆっくり動物達と銃弾で戯れようではないか」


「それは良い。動物園のふれあいコーナーは大好きですよ!」


「それは良かった。心ゆくまで触れ合ってな」


「張り切り過ぎるなよ。これが終わったらまた別の動物と遊ぶ事になるんだからな」


「別の動物?ははっ、“ヒト科ヒト属ヒト”ってか!」


 冗談を交わし、ただひたすら闇雲に銃弾をばら撒く。

 そして射程距離の半分にまで馬とワイバーンが迫っていた頃に、彼等はやっと自分達の愚かさに気付いた。


 ──最初の爆発が起こったのだ。


 ある銃弾が馬に括りつけられていた爆薬に命中し、爆発。

 その馬は半径数メートルの馬を巻き込み、連鎖反応の様に爆発が立て続けに起こる。


「…何故爆発した…?」


「おい、まさか…!?」


 それ以上の言葉はいらなかった。


 彼等はやっと理解した。

 彼等に迫って来ているのは、ただの馬やワイバーンではない。

 ()()()()()()()()馬やワイバーンだと。


 彼等の間を恐怖が支配する。


「退がれ!出来る限り距離をとれ!」


「落ち着け、射撃と次弾装填を最優先にしろ!後退するのは二の次だ!おい、そこ、待て!」


 半ば逃げる様にして後退しながら必死に銃弾を装填、そして発砲。

 しかし、その程度では焼け石に水。

 何せ相対速度が半端ではない。

 人間がゆっくりじわじわと後ろに退いたところで、時速数十キロで駆ける馬やワイバーンからすれば誤差程度でしかない。


 その時点で彼等が既に撃ち殺していた馬は二千匹程度。

 ワイバーンに至っては千を超えない程度だった。

 残りの一万以上はもう直ぐそこにまで迫っていた。


「ああああああああ!!」


 悲鳴を上げて、彼等は止む事のない波に向かって銃弾を撃ち込み続ける。

 無駄だと知りつつ、奇跡を信じ、もしくは思考停止し、ただ、がむしゃらに。


 しかし運命は残酷である。

 爆薬を背負った馬は、倒しても倒してもその死体を踏み越えて近付いて来る。

 ワイバーンとて同じ事。


 この様な事が可能であるのは(ひとえ)にその馬やワイバーン達を今まで育ててきた馬舎(うまや)の者達の努力のおかげである。

 普通ならば、上で御す人間がいなければ周りの仲間が次々と倒れていく中、こうも真っ直ぐ目標に向かって前進させる事は出来ない。

 当然ながら、馬とて生物である。

 本能として死を恐怖する。


 しかし、長年に(わた)る調教師達の努力は、遂にその生物の理すらをも超越した。


 今、この生物達は傍にも目をくれず、ただひたすらに前へ前へと駆けていた。

 生物でありながら、敵に向かう砲弾として。


「奴等、狂ってやがる!」


「助けて!死んじまう…!」


 終いには隊列などかけらも残っていなかった。


 目の前にまで馬が迫り、頭上にワイバーンが飛び込んで来ると、彼等は恐怖のあまり銃すらも放り、宮殿の方へと逃げ始める。


 最早、四方を囲まれ四面楚歌。

 彼等に残された手段は、死を覚悟で最後までそこに留まって銃を撃ち続けるか、どうせ死ぬと知りつつ一縷の望みに賭けて銃を棄てて逃げるか、であった。


 しかしそれを追い、ワイバーンが滑空。

 馬は逃げ惑う人間を蹴飛ばし、間を縫い、兵達の中へ中へと浸透していく。


 この時、彼等の中の一人は、布の下に隠蔽された爆薬を見つけた。


 彼はもう逃げる事を諦め、馬が自分を気にもせずに逃げていった味方を追い掛けて行く中、戦友の一人と共にそこに残っていた。


「この馬の死体を見てみろ。布の裏だ。こんな所に隠してやがった」


 彼が布をめくると、びっしりと爆薬が括り付けられていた。


「クソっ!もっと早く気付いていれば…!」


「この戦いが終わったら結婚する予定だったんだがなぁ」


「フラグだな」


 もう何もかもがどうでも良くなって、彼等は何がおかしいのか半分泣きながら笑い合う。


「おい、待て。これ何だ?」


「あ、これ…タイマーじゃないか?起爆時間は…」


 彼は爆薬の中にカチカチと規則正しく時を刻む起爆装置を発見する。

 しかし、そこで彼は黙る。


「起爆時間は…?」


「…今だ」


 刹那、彼等は爆炎の中に姿を消した。



 ✳︎



「やった!成功しました!敵兵多数を巻き込んでの爆発を確認!」


 双眼鏡を覗いていた士官の一人が年甲斐も無くはしゃぎ始める。

 今にもハイタッチでもしそうな勢いで、嬉々として報告してくる。


 そんな事、言われなくともこの爆発音と、ここまで伝わって来る爆風、それに乗って運ばれて来る熱気によって分かる。

 多くの敵兵を巻き込んだだろう。


 予想以上の大爆発。

 宮殿にも多少被害が及んでしまったかもしれない。


「騎兵と翼騎兵は?離脱出来たか?」


「既に合流済みです」


 騎兵と翼騎兵も無事ジョブチェンジ完了。

 ダーマ神殿やら何やらに頼らずとも、馬とワイバーンから降りるだけで歩兵に転職だ。


 これで我が軍は七万五千の歩兵集団となった。


「敵もこれは予想外だったはずだ。今のうちに退くぞ。もしかしたら、私が囮にならずとも敵の戦意はズタボロで追って来ないかもしれんからな」


「そう上手くいけば良いのですがね」


「逆に(かたき)討ちだ、としつこく追い掛けられる可能性も否定出来んがな」


「戦果報告!敵兵死傷者多数!最低でも敵の八割は継戦不能状態に陥っていると思われます!」


 駆け込んで来る伝令兵の顔も、興奮して、紅潮している。


「これはもしかすると…総司令官には悪いですが、砲艦無しでも片が付くかもしれませんな」


「まだ敵の主戦力を葬っただけだ。油断するなよ」


「ははは、流石に敵も諦めるのでは?あれだけの兵を失えば、奴等も…」


 彼は言葉をそこで失う。

 立ち竦み、表情は急に強張る。


「どうした?」


「陛下…周りをご覧下さい…」


 恐る恐る辺りを見渡すと、自分達の周囲を無数の松明の火が埋め尽くしていた。

 正確な数は分からないが、最低でもこちらと同数はいる。


「敵に囲まれたか…想定の範囲内ではあるが、素直に諦めてもらいたかったな」


「ええ。同感です」


 まさか伏兵がこれ程の数とは思わなかった。

 敵の主戦力を消し炭にしたのに、それでもこちらと同数かそれ以上とは。


 まともに戦っていたら数でも質でも敵側の有利で、ちっとも敵わなかっただろうな、と思う。

 だって、今の状況でも敵いそうにない。


 当初の作戦通り私の存在を敵に知らせる以外に有効な手が思い付かない。


「諸君、まだ攻撃するな。私の存在を知らせる機会が無くなるのは避けたい」


「はい…」


 一度戦闘が始まれば誰も悠長に私の演説を聞く余裕など無い。

 それだけは不味い。

 まともに戦って勝てる相手ではないのだから。


 一定の距離をとって敵は周囲を取り囲んでいる。

 こちらからは攻撃出来ないが、おそらくこちらは敵の射程内だろう。


 敵が未だに攻撃してこないのは、まだ平和主義を引きずっているからだろうか。

 仲間を何万と殺されて、それでも平和主義を貫くとは…呆れを通り越して賞賛に値する。


 そんな皮肉めいた事を思っていると、拡声器によって敵側からの降伏勧告が響く。


 《帝国軍兵士に告ぐ!君達は完全に包囲されている!大人しく武器を棄て、投降せよ!》


 おいおい、武器を捨てろ、だと?

 そもそもサーベルしか持っていないのだが。


 《命の保証はする!武器を棄て、投降しなさい!》


 兵の間に動揺が走るが、これも想定済み。

 敵が言葉で攻めてくるのならば、こちらも言葉で反攻だ。


 私はふうっと息を吐くと、拡声器に向けて声を発する。


 既に自軍の外周上にスピーカーを設置してあり、そこから敵に大音量を流せる。

 スピーカーを用意する余裕があるならその前に無線機を各隊に配れ!と言いたいな。


 《賊軍に告ぐ!私は現皇太子にして次期皇帝、ニコライ・アレクサンドロヴィーチ・ロマナフである!君達がしているのは立派な反逆行為だ!賊に落ちぶれたなどと知れたら親兄弟が悲しむぞ!》


 私のその言葉と同時に、敵の松明の火がそこかしこで揺れる。


 敵に動揺を与えるのには成功したと言えるだろう。

 このまま敵兵が二・二六の様に大人しく従ってくれれば良いが…


 《私に向かって投降しろ、だと?恥を知れ!今直ぐに包囲を解き、解散せよ!もう一度言うぞ?お前達が攻撃しようと銃を向けているのは、皇太子…次期皇帝だ、馬鹿者め!》


 これくらい脅せば十分だろう。

 皇帝の威光は凄まじい効果を発揮する。


 首謀者の意向に関わらず、敵兵は戦意を大幅に低下させる。

 代わりに自軍は私に呼応して士気を高めていく。


 勝てば官軍、負ければ賊軍とは言うが、今回の場合は完全にこちらが官軍だ。


 私が不在の宮殿を攻撃する事すら躊躇う連中に、私ごと攻撃など出来るものか。

 そういう理由でのこのスピーチだったが、予想以上に敵に効いた。

 遠くからでもはっきりと分かるぐらいに動揺している。


 権威の力って凄いなあ、と感嘆する。

 敵さんには申し訳ないが、世襲君主の力、とくと見よ。


 鼻高々とそんな事を考えていると、敵に動きがある。


 敵からの呼び掛けの声の主が変わる。


 《殿下、この様な無礼をお許しを。これも帝国の未来を想っての行動なのです》


 この声は…アレクセイ・ペトロヴィーチ・ボラトゥージェフ=フリューミン…!


 成る程、我が威光をものともしないその様子…流石ではある。


 《ほう、やはり卿の仕業か。戦争に反対するあまり、この様な事を仕出かすとはな》


 《申し訳ありません。しかし、これしか方法は無かったのです》


 《この前は隠居すると言っておったのに、随分と元気ではないか。兵を率いて遠足か?老人の遊びに付き合わされるのも堪ったものではないな》


 やはり大人しくはしていてくれなかったか…

 元気過ぎるじじいも困ったものだな。


 《殿下にはしてやられましたな。まさかこれ程までに策を講じられるとは思いもしませんでした》


 《当然だ。勝てる戦しかするつもりはない。策も無しに負けに行く馬鹿が何処にいる?》


 《でも、殿下がしようとしている戦争こそが、その負け戦なのですよ》


 と、負け犬がほざいております。


 《何を言うか。私にしてやられたくせに、未だに自分の方が賢いとでも思っておるのか?馬鹿か!そういう事は勝ってから言え!》


 《しかし、今のところは殿下が不利ですよ?包囲しているのはこちらの方です》


 《数と質で力押しした結果だがな。脳筋は黙っておれ》


 むっとして言い返すと、そこにまた別の声が割り込んでくる。


 《陛下、それぐらいにしておきましょう。公衆の面前で喧嘩などいけませんよ》


 まさか…ヴィートゲンシュテインか…?


 《何故卿がここに?!砲艦はどうしたのだ!?》


 《ご安心下さい。一日、とは言いましたが、運良く半日で運べてしまいました》


 半日で?

 本当に、半日で?

 この男、流石だと言わざるを得ない。


 《フリューミン殿、聴きましたか?今、八門の12センチ砲がそちらを狙っています。もう勝ち目はありませんよ?》


 《12センチ砲…?まさか、もう軍艦をここまで運んで来たのか?!この短時間で!?》


 《はい。実は陛下はただの時間稼ぎ役でしかありません。大本命は砲艦の主砲です》


 《諦めろ、もう詰みだ。投降すれば、お前は兎も角、兵の命は助けてやろう》


 《ふふふ…ここまでとは…もしかしたら、殿下ならば…戦争に勝てるのかもしれませぬなあ…》


 《当たり前だ、馬鹿者め》


 数時間後、彼は自害して果てた。

 関わっていた他の連中も拘束し、兵は釈放。


 彼の最期の言葉は、帝国の未来を頼みます、というものだった。


 言われずとも分かっておるわ、と言ってやりたいが、それを言う前に彼は死んでしまった。


 もうとっくに日付けは変わり、夜が明けようとしていた。


 この時判明した衝撃の事実としては、砲艦などそこには無かったという事だ。

 ヴィートゲンシュテインは最寄りの軍港に向かったものの、運悪く小型艦は他の港に集まっていて、大型艦しか存在しなかったのだとか。

 仕方無く、うなだれてトボトボと帰って来たところ、丁度私がフリューミンと口喧嘩の真っ最中だったらしい。

 それで、その口喧嘩に参戦し、砲艦のハッタリをかけたとの事。

 すると敵はまんまと騙され、砲艦の存在を信じてしまったという訳。


 しかしこれだけならばただ運が良かった、というだけで済むが、ここからがヴィートゲンシュテインの才能の本領発揮である。

 彼は予め、敵のスパイの存在を前提としていた。


 敵は十分に準備し、この機を待ち望んでいた連中である。

 当然ながらスパイや、それに限らずとも何らかのこちらの動きを探る手段を用意しているに違いない。

 故に、彼は敢えて砲艦を輸送中、という事実と正反対の偽情報を流した。


 もし仮に砲艦を実際に運べたならば、“砲艦の輸送はやはり無理だった”、運べなければ“砲艦を現在輸送中”と逆の情報をわざと流してやろう、と彼は最初から企んでいた。


 そしてその企みは見事に功を奏した。

 フリューミンとて何も無しにハッタリに引っ掛かった訳ではない。

 この偽情報を仕入れていたが故に、彼はハッタリに気付けなかったのである。


 しかし…ハッタリで勝利とは…複雑な心境だ。


 後始末も済み、後は宮殿に帰るだけ。

 さあ、怒り狂った妹の待つ我が家に向かおうではないか。

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