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XI.メイドさんがこんなに怖いとか聞いてない!

※注釈

・諸国民の春

春は春でも、季節ではなく、「アラブの春」とかと同じ意味での春。

19世紀、ウィーン体制が崩れ、「ヒャッホーウ!俺達も独立しようぜ!」となった事。

ウィーン体制とは、かの有名なナポレオンがひと暴れした後、「フランス革命怖いわあ。ルイ君も殺されちゃったし、野蛮だわあ」という事で、各国で協力し合い、革命とか自由主義とか独立とか言い出した奴を片っ端からブチ殺していった平和な時代。

フランス民衆にとっては堪ったもんじゃなかったが、一応戦争も無く、マジで平和な時代でした。

しかし、遂にそれも崩壊し、諸国民の春になりましたとさ。


・ヴ=ナロード

キリル文字だと、Хождение в народ って書くそうです。

意味は、「人民の中へ」。

ロシアにて農奴解放後に行われた、ナロードニキ運動のスローガンです。

ナロードニキ運動とは、「ツァーリが如何にクソで、打倒しなければならない存在かを農民達に説き、みんなでツァーリを倒そう!」というもの。

しかし、当時のロシア皇帝は宗教と強く結び付いており、農民はマジでツァーリを神みたいに崇めていたらしく、「ツァーリってクソだよね!」→「失礼な!ツァーリに謝れ!」となり、失敗した。

でも、この運動が間接的に後のロシア革命にも繋がるので、意味が無かった訳ではない。

 〜父殺害後十一日目〜


「今直ぐ離れよ!不敬であるぞ!」


「別にこれくらい良いではありませんか!」


「駄目だ!これだけは絶対に譲れぬ!」


「昨夜も私の目の前で十分陛下とイチャイチャしていたではありませんか!私は遠くから見ているだけでしたのに…!」


「当たり前よ、私と兄上は結ばれる運命なのだから。お前の様な赤の他人が入れる隙間など、まーったく無いわ!!」


  朝目覚めると、私の上に乗っかって妹とソフィア医師が仁義なき戦いを繰り広げていた。


 どうせまた些細な事で喧嘩しているのだろうが。


 取り敢えず、喧嘩するならもっと適切な場所を選んで頂きたいものだ。

 少なくとも、寝ている私の上でされては困る。


 先程から暴れられる度に私の身体がぐわんぐわんと揺れるのだ。

 これで私が起きないと思っているなら笑えるな。


「二人共、喧嘩するなら他所でやってくれ給え。上に乗られては起き上がれない」


 私の声に直ぐに反応した妹は、兄上っ!と短く叫ぶと私に向かって飛び込んできて、朝からがっつりディープキスをお見舞いしてくる。


 ソフィア医師はそれを見て、あーーーっ!と悲鳴に似た叫びを上げ、後ろからおろおろとこちらを見ている。


 ひとしきり済ますとナーシャは満足気に頷き、今更ながらお早うございます、と丁寧に挨拶する。


 …残念ながら、キスの後に挨拶されても複雑なだけだ。


「ナーシャ、いきなり襲ってくるのは止めてはくれんか?」


「それは却下です」


 にこり、と素敵な笑顔と共にそんな返事が返って来る。


 嗚呼、素敵な笑顔だ。

 ただし、表情と台詞が噛み合っていない気がするのは私だけだろうか?


「まあそれは兎も角、何故喧嘩していた?理由があるのだろう?」


「ええ!その事なんですが、聞いて下さいな!あの女、おはようのキスをする権利を私から奪おうとしたのです!」


 うん、心底どうでも良いな。

 そもそもおはようのキスの権利など誰にも与えた記憶は無いぞ。


「おはようのキスとは…もしや、さっきのアレか…?」


「ええ。私と寝れば毎朝キスが出来るなんてお得でしょう?」


 ちなみに、世間一般でのおはようのキスは多分もっと軽いものだと思うのだが。

 少なくとも、あれ程ねっとりディープなおはようのキスを朝からするのは辛い。


「明日からは止めろ」


「残念ながら、却下です!」


 はあ…昨夜はぐっすり眠れて、案外悪くないかなぁ、なんて思ってたのに…

 朝っぱらからこれでは…


 しかし朝のこれは兎も角、昨夜の経験から正直な感想を言うと、妹と寝るのも悪くないな、とつい思ってしまった。


 妹の身体は…というか女の子の身体は、胸は勿論の事、全体的に柔らかいのだ。


 人肌は温かいものだから、ほかほかの柔らかいクッションを抱いて寝る様なものなので、妹であろうと無かろうと女の子を抱いて寝るのは気持ちが良い。

 妹と寝るのは望んでの事ではないが、そんなに悪い気はしないのだ。


 しかし、こんな事が言えるのも妹だからこそだ。

 妹の華奢な身体ならばまだ“柔らかい”で済むのだから。


 これがむちむちソフィア医師ならば柔らかいを容易く通り越してしまい、安眠どころの話ではない。


 女の子って柔らかいね!などと可愛らしい事が言えるのもナーシャまで。

 ソフィア医師だと、多分人類の言語では表せない。


 そういう観点からも、ソフィア医師にあまりくっつかれるのは困る。

 まあ、妹にくっつかれるのも同様に、違う意味で困るのだが。



 ✳︎



 嗚呼、素晴らしい…!


 実に素晴らしい…!

 平和とは()くも素晴らしいものだったのか!


 今日の午前中は、普段私を守っている貴族連中も休みで来ておらず妹から私を守る者はソフィア医師だけ、という状況なのだが、妹は姉一家への対応に駆り出され、こちらには手を出せない。


 そして私は今、こうして悠々と入浴しているのだ。


 今までもソフィア医師が瀬戸際防衛作戦を展開し、妹をすんでの所で食い止めていたが、それでも防ぎ切れない事も多く、ナーシャ対策は完璧という訳ではなかった。


 それ故に、私も風呂で心からゆっくりと楽しむ事が出来なかったのだ。


 しかし、今は違う。

 妹が姉一家(特にあの、話が長いトルストイ伯)に拘束されている現状では、彼女がここに侵入して来る事は無いのだから。


 心の底から安心出来る事の素晴らしさよ!


 そのため、私は久し振りに頭を空っぽにしてぼんやりと湯を楽しむのだった。


 案の定「殿下の湯」から「陛下の湯」へと呼び名が変貌しつつある、ここ第十三浴場は、久々に普段の喧騒から隔離され、本来の雰囲気に包まれている。


 季節は春。

 普通ならもう暖かくなってくる頃。


 しかし、前提条件を忘れてはならない。

 ()()()()という前置きを。


 残念ながら我が麗しのプラトーク帝国は普通ではない。


 もう諸国では春が訪れ、“諸国民の春”も訪れているというのに、我が帝国にはそれはまだ先の話だ。

 他国に於ける初夏になって、やっとプラトークにも春が訪れるのだ。


 仕方が無い。だってウチ、北にあるんだもの。


 ちなみに、もう一方の春の方も未だ訪れる兆しは無し。


 ちょっと社会主義者があちこちにいて、ヴ=ナロード!とか言ってるけど、逆に言えばその程度。

 まだまだ我が帝国は安泰デス。


 それに、民は飢えているが、(予定では)半年後から始まる戦争によって我が帝国は豊かになる。

 それまでの辛抱だ。


 故に、国政に関しては大丈夫。


 問題は、自分自身。

 もうそろそろ結婚しないといけないと言うのに未だに婚約どころか…言ってて悲しくなってきた…


 嫁探しだ…嫁探しをしなければ!


 本来は父がどこぞから嫁を探し出してくれるはずだったのに殺しちゃったから、自分で探さねば。


 ただし、妹は論外。


 ソフィア医師は…血縁関係にはない…だが、家柄的に不味いだろう。

 彼女では、なれたとしても愛人ぐらい。

 正妻になるからには相応の身分が求められるのだから。


 それが、私が彼女に好かれても困る理由だ。

 申し訳ないが、彼女と結婚する事は出来ぬのだ。


 私とて「彼女を愛人としてキープ、イエーイ!」とか考えない訳ではない。

 しかしその様な彼女に失礼な事はしたくないし、何よりそれでは私も彼女も不幸になるだけだろう。


 兎も角、妹でもソフィア医師でもない身分の高い誰かを探さねば。


 思考はそこで、誰かの気配によって妨げられる。


 誰だ?妹ではないし…

 もしや、ソフィア医師か?


「先生か?」


 振り向くと、侍女が立っていた。

 ヤケに冷たい眼差しでこちらを見据えている。


 何だ、違ったか。


 しかしこの侍女、見かけない顔だな。


 大半の使用人には昨日の重労働を慮って今日は休暇を与えている。

 故に彼女はどこか別の管轄なのだろうが、今は私に付いているのかもしれない。


「どうかしたか?」


「どうもしませんが?」


 全くの無表情で彼女はそう答える。


「では、何故入って来たのだ?」


「それが何か問題でも?」


 そうか…もしや、彼女は私が普段浴室に侍女が入らぬようにさせている事を知らないのか!


 普通ならば侍女も浴室に入って来るのが当たり前。

 彼女にとって、これは当たり前の行為でしかないのだ。


 ならば、私流を教えてやらねば。

 ザ・ウェイ・オブ・ニコライを!


「私は普段、浴室では一人になるのだ。すまぬが、出て行ってはくれぬか?」


「それは知りませんでした」


 彼女はやはり無表情で答える。


 うん、分かれば良いのだ、分かれば。


 …


 …ん?


 しかし、彼女は動こうとしない。


 何故だ?

 先程、ちゃんと私の言った事を理解していたよな?


「どうした?行かぬのか…?」


 風呂場から出て行って欲しいのだが?

 一人でゆっくりしたいのだが?

 私は何か間違った事でも言ったか?


 彼女はいっそう冷たい目で私をじーっと見つめる。


 怖い…目が怖い…!


 これが次期皇帝に対しての目つきとは思えない。


 だが対妹警戒態勢を解除しているため、普段ならば外で待機しているソフィア医師も今はいない。

 この侍女を退かすには、自分で説得するしかないのだ。


 如何に怖かろうと、侍女如きに怯えている様では話にならぬ。


「命令だ。ここから出て行ってくれ給え。今日一日だけだろうと私に仕える以上、私の流儀に従ってもらう」


 言っちゃった!

 偉い人っぽく強気で言っちゃった!


 だがこの侍女は、そんな私の言葉にも無表情を貫く。


 そして、チッと舌打ちを一つ。


 え?今、舌打ちした?


 皇太子に向かって舌打ちって…もう、これ完全に不敬罪だよな?

 何故そんな態度がとれるのだ?!

 ただ私は浴室から出て欲しいだけなのに!


 更に、彼女はぼそっと呟く。


「面倒臭い奴だな…」


 何故だ…?何故そんな事が言えるのだ?

 皇太子に対しての敬意とか無いのか?


「命令と言ったはずだが?聴こえなかったか?」


 取り敢えずこちらも張り合って、出来る限り威厳たっぷりにそう言う。

 ついでに眉間にシワを寄せてみたり。


 彼女はそれで、やっと表情を変える。


 ただし、私への敬意に満ち溢れた表情…ではなく、心底面倒そうな表情に。


「陛下に私に対する命令権限はございません。私の行動は私が決めます」


 待て待て待て!


 そんな訳が無いだろう?!

 侍女でしょ!?侍女なんだろ?!


 胸中の驚きを何とか押さえ込み、私は尋ねる。


「そんなはずはない。何故その様な事を言う?」


 …


 沈黙。


 彼女は私の質問に答えず、またもや無表情に戻り、私を冷たい目で見つめる。


 聞こえなかったのかな?

 うん、そうに違いない。


「そんなはずはない。何故その様な事を言う?」


 故に、私はもう一度同じ発言をする。


 すると、彼女はうんざりした様な表情になり、


「何度も同じ事を言わずとも聞こえています。無視しただけです」


 はい?


「はあ…それ程気になるならばお答えしましょう。陛下は、まだ正式に皇帝に即位してはおられませんね?」


「ああ…」


「だからです。アナスタシア殿下と同等の権限しかお持ちでないあなたでは、私に命令出来ません。現状、皇太子だろうが何だろうが権限的にはあなた方は変わりないので」


 ん?待てよ?

 今、アナスタシア、と言ったか?


「もしや、お前は…ナーシャの下からここに送られて来たのか?」


「ええ。陛下は先程、“今日一日だけ”と仰られましたが、正確には“今日からずっと”です。殿下から、陛下の監視役として送られてきました。故に、陛下に私に命令する権限など存在しません。最優先は陛下の監視ですから、ここから出て行く事も拒否します。ご理解頂けましたか?」


 そうか…彼女が例の監視役か!


 色々とごたごたしたせいで忘れていたが、ソフィア医師と私の間に何も無い事を証明するために監視役を受け入れる、という話だったな。


 最早ソフィア医師が私に好意を寄せている事は妹にバレバレなので、ほぼ意味は無いのだが…

 その話だけはいつの間にやら進んでいたらしい。


 そして送られてきたのが彼女、と。


 ある程度予測してはいたものの、案の定曲者を送り込んできたなあ…

 私に反抗する者など今となっては殆どいないと言うのに、これ程までに堂々と私に対峙してくる侍女を寄越すとは。


 ただ、少なくとも火を吹いたりとか空を飛んだりとかはしない普通の人間っぽいので、まだ良かった。


「分かった…そういう事ならば諦めるしかないな…」


 嗚呼、何とまあ…



 ✳︎



 執務室に入ると、ソフィア医師は普段通り隅にちょこんと座っていた。

 手には小さな本が。


 私が来るまで読書中だったらしい。


 本とは、勿論純文学の事である。

 読者諸君がいつも読んでいる様な、いかがわしい内容の異世界転生モノとは程遠い代物だ。

 無論、ヤンデレ妹もツンデレ幼なじみも登場しない。


 私が入って来ると、一緒に部屋にいた役人達がびくっと反応し、私の方を向いてお辞儀する。


 彼等の元々向いていた方向からして、多分…いや、確実にソフィア医師に見惚れていたのだろう。

 だって、美少女が読書中なのだ。普通の男ならついつい見てしまうに違いない。


 見惚れるのは良いが仕事も疎かにせぬ様にな、と彼等のうちの一人に小声で囁くと、彼は私の方を窺う様に見る。何でバレてるの、と。


 ええ、バレバレですとも。


「陛下、如何なさいました?まだ貴族の方々はいらしておりませんが?」


 彼女は本を閉じると、ふわりと長い髪を揺らしながら笑顔で駆け寄って来る。


 うん、これは見惚れるのも仕方が無いな。


 白衣のせいで分からぬが、走る度に巨乳もゆっさゆっさと揺れているに違いない。

 実にけしからんな。


 後で彼女の白衣着用禁止を検討せねばなるまい。


「相談したい事があってな。今はどこかに行ってしまってここにはおらぬが、監視の侍女が来たぞ」


「ああ、その件ですか。取り敢えずあの件は無事成功したのです。後でご報告しようと思っていたのですが、そうですか…もう監視役が送られてきたのですね」


「それだけ確認出来れば良いのだ。邪魔したな」


 私が去ろうとするとソフィア医師が思い出した様に、あっちょっとお待ち下さい、と呼び止める。


「陛下、昨日私が“まだ怒っている”と言ったのを覚えておられますか?」


 ああ、その件か。


「勿論だ」


「では、二人だけで話し合いたいのですが…?」


「なら、今は侍女もおらぬし私の部屋に行くか」


 最早、妹にはソフィア医師と二人切きりになろうとも何も言われぬだろう。

 監視役を受け入れたのだから、これくらいは許容してもらわねば。



 ✳︎



「何故私がまだ怒っているか、お分かりですか?」


「先生の目の前でナーシャとキスをしたから…であろう?」


「違います。キスの事はもう良いのです。あの時、陛下が…私ではなく殿下を選んだ事に怒っているのです」


「すまなかった…妹を見捨てられなかったのだ…」


「陛下…私では駄目なのですか?そんなに私には魅力が無いのですか?」


「それは違う、君は十分魅力的だ。…だからその、こんな事は止めないか…?つまり、服を着てくれないか?」


 彼女はベッドの上に、半裸で寝転んでいた。

 長い髪は乱れ、ドレスは脱いで下着姿。


 昨夜の彼女を思い出してしまう。


「嫌です。本当に私が魅力的だと仰るならば私にも同じ事が出来るはずです」


「しかし、妹にするのと血の繋がっていないソフィア先生にするのでは訳が違うのだ」


「だからこそ、です。だからこそ私にもして頂きたいのです」


 彼女は先程から頑なにそう主張して、こちらの説得もまるで効果が無い。


「それに何故服を脱ぐ?ナーシャはそんな事はしなかったぞ?」


「これは…その…別にキスだけでなく、その先もして頂いて結構だからです」


 そう言いつつ恥ずかしがる彼女。


 自分で恥ずかしい事をしといて、それを勝手に恥ずかしがられても…


「分かった、キスだけだぞ。ただし、ナーシャには内緒だ」


「勿論です!」


 期待に目を輝かせる彼女の上に覆い被さり、彼女の頰を触る。


 火照った頬。


 瑞々しい肌。


 誘う潤った唇。


 …どれも美しい。


「魅力的でない訳がない…こんなに綺麗なのに…」


「では、何故私を愛しては頂けないのですか…?」


「だからこそだよ。怖いのだ、君を好きになってしまいそうで」


 その言葉に彼女が反応する前に、そおっと彼女の首元に撫でる様に手を回し、静かに口付けをする。


 そうか、彼女は初めてなのか。

 彼女の舌遣いは思ったより拙い。


 私とて初心者だが、ナーシャと何回かした分まだ経験者なのだ。

 妹の舌の動きを思い出しつつ、あまり驚かせないようにゆっくりと舌を絡ませる。


 ゆっくりとしている分、一回一回が重い。


 ねっとりと、じっくりと舐る。


 彼女の息は次第に乱れていき、彼女も私の腰に手を回してくる。


「…陛下、お上手ですね…そんなにいっぱい殿下とキスしたのですか…?」


「ほんの数回だ…」


「なら、その分私にもして下さい…」


 彼女の哀しげな表情に、私もついつい応えてしまう。


 そのまま、飽きもせずにキスをし続ける。

 そのとろける様なキスを。



 ✳︎



「陛下、ソフィア先生と二人切りで何をしてらっしゃったので?」


 相変わらず、監視の侍女は蔑む様な目で私を見ながらそう尋ねる。


「別にやましい事をしていた訳では…断じて、ない…」


「では、陛下の目は節穴か何かなのでしょうね。ソフィア先生は服を脱いでおられますが?」


「寝るのに邪魔だったのだろう」


「では、あの乱れた髪は?」


「寝相が悪いのだろう」


 私の苦しい言い訳に、彼女はふんっと鼻で笑う。


 しまった…辛うじてキスの最中には見つからなかったものの、済んだ後に発覚するとは…

 ついソフィア医師とイチャイチャしてしまったのが不味かった…


 キスの後、調子に乗って彼女の頭を撫でたり、だとかそういう無駄な事をしていたのが間違いだった。

 直ぐにでも彼女に服を着させるべきだったのだ。


 監視役の事をすっかり忘れていた。


「少し目を離した隙にこれでは…余計に私が常に張り付いていなければならないではありませんか」


「でも、寝てただけだから!」


「分かりました。では、殿下には『陛下と雌豚が長時間二人だけで昼寝をしていた。雌豚の髪が乱れていたが、それは寝相が悪いせいであり、雌豚が半裸だったのも眠るのにドレスが邪魔だっただけで、私が部屋に入った時には一人と一匹で何やら親しげにイチャイチャしていたが、それでも昼寝していただけだ』と報告しておきます」


「うわっ!待って!それではまるで…!」


「あ、そうだ。私とした事が…申し遅れましたが、オリガ様が陛下をお呼びですよ。後でご用件はご自分で伺って下さい。あと、私は副メイド長のエレーナと申します。どうぞこれから宜しくお願いしますね」


 彼女は凶悪な笑みを浮かべ、去って行った。


 宜しくお願いします、だと?

 全く宜しくしたくない…!

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