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CII.今日のお二人。

※注釈

・トーガ

ローマ人とか阿部寛が着ているアレ。「トガ」とも。

一枚布なので、シーツを羽織っている様な、そんな感じのイメージです。

ちゃんと下にはトゥニカという服を着ていました。

何故かトーガの下は全裸というイメージが…気のせいかな?

いや、でも気のせいでもなかった様な…

まあ下に何も着ない事も勿論あったのでしょうが。


・サリー

インド文化圏の民族衣装。

トーガが布をぐにょーんと垂れ下げているイメージであるのに対し、サリーは長い布をぐるぐると巻いています。

勿論それだけでは露出狂になってしまうので、下にもちゃんと服を着ていますよ、残念でした。

チョリという服で上半身をカバー(ただし、服と言うよりはブラトップに近いです。お腹丸見え、背中丸見えです、やったね!)、そして下半身はペチコート(要するにスカート)を履きます。

この様に、実は結構露出度が高いのです。

日本に於ける浴衣や着物といった、特別な時にだけ着るものなのかと思いきや…実際にインドに行ってみると、サリーを着た女性がそこら中にいっぱいいました。

普段着として民族衣装が廃れていないというのは良い事ですね。

ただ、綺麗なお嬢さんであれば良かったのですが…肥満体のおばちゃん(お腹と背中丸見え)ばかりというのは…

何故若いお嬢さんよりもおばちゃんの方がサリー率が高いんだっ!!

…と思い、調べてみたところ、インドでもは若者のサリー離れが問題になっている様です。

インドは丁度経済発展の真っ最中ですから、仕方ないのかもしれませんが。

上述の通り、若いお嬢さんが着ればサリーは最高(笑)な服装ですので、廃れて欲しくないですね。


・ドレーパリー

アヤフヤな記憶を頼りに書きます。間違ってるかもしれません。

「巻き布式」とも。

世界には様々な民族衣装が存在していますが、服なんてパリコレの様な余程奇抜なものでもない限り一定のジャンルに分類する事が出来ます。(否、パリコレでさえちゃんと分類出来ますからね)

記憶が確かなら…主に「巻き布式」(以下、ドレーパリー)と「ズボン式」、「ふんどし式」の三つ(だった様な気がします)。

ドレーパリーは上述の様にトーガやサリー、日本だと浴衣や着物に当たるもの。今挙げたものもイタリア、インド、日本と、どれも温かい気候の国の衣装ですね。

ズボン式はもうそのままです。ヨーロッパなど寒冷な気候の場所でよく見られます。

ふんどし式はその名の通りふんどしの様なものを指します。要は、男性なら“大事な所”だけを隠すタイプの服です。

いや、服と呼んでいいのかな…?

例を挙げるとアフリカの部族とか…まあ、暑い暑い地域で見られます。

この様にいくつかの種類に分けられる訳ですが、作中の「ディリ」とはこのうちのドレーパリーに属する服装です。勿論架空の服装ですよ。

ただ、ヴァルトは現実に於けるイタリアや日本よりかは比較的涼しい国ですので、元々の露出は少ないという設定です。


・ティベリウス

ティベリウス・ユリウス・カエサル。

ローマ帝国二代目皇帝にして、その途中で何かしら色々と社会が嫌になって南の島(ロードス島)に引き篭もった人。

皇帝なのに引き篭もり、という筆者的には逆に関心してしまう人物。

しかし案の定周りはそんな事許してはくれず、最終的に汚れきったローマに連れ戻されちゃいましたとさ。皇帝も楽じゃないんです。

 〜時は少し遡って〜


「行ってしまったな」


「行ってしまいましたね」


 私は埠頭の先端に立ち、じっとただ一点を見つめていた。

 横には妹のナーシャが寄り添う様にして立っている。


 二人とも所謂“余所行き”の格好ではあったが、私も妹もいつもの式典用の服装とは違う。

 プラトークで使用していた服はどれも分厚く、温暖なヴァルトでは流石に暑過ぎる。

 そのため、ヴァルトに用意してもらったもので代用していた。

 私とナーシャは薄手のディリ──トーガやサリーの様なドレーパーリーの一種。ヴァルトの伝統衣装である──を巻いていた。


 ただ、特筆すべきはナーシャがディリという服を()()()()()()着用している事だ。

 分かりやすく例えるならば…そうだな…浴衣がはだける様を想像して欲しい。

 元々は露出の少ない衣装なのに無理矢理着崩してちらりちらりと見えそうで見えないギリギリを攻めてきてやがる。


 しかし、私が何も無い海の向こうを見つめていたのはその様なしょうもない事が理由ではない。

 …という事だけは誤解を招かぬように予め言っておこう。


 水平線の向こうに微かに見えていた船影も終ぞや消え、もう何も見えない。

 いつでも“送る側”というのは虚しいもので、何処かから大気を震わせる様に聴こえてくる汽笛や海鳥の鳴き声がまたえも言われぬ哀愁を誘う。


 送る側の人間は待つ事しか出来ない。

 それがどうしても遣る瀬無いのである、


 私は数日前にフルシチョフから我々の秘策──すなわちノーガード戦法──について聞かされていた。

 どう考えても無茶なその作戦に最初こそ私とて抵抗したが、フルシチョフの熱心な主張の前に、直ぐに言いくるめられてしまった。

 曰く「他に手段はありません、これこそが最善策です」と。

 結局その選択がどう転ぶかなど後になってみないと分からぬのだが、それでも何か心残りの様な…

 魚の小骨が喉に刺さったかの様な何とも言えぬ違和感があった。


 無論危険過ぎるので実際には出来はしないが、私も一緒に出撃したかったぐらいである。

 まあ流石に皇太子という自分の立場を考えれば断念せざるを得なかった。

 一国の上に立つ者にとって危険に身を置く事は避けねばならないし、それは常識である。

 余程の阿呆か子供でもない限りは理解出来るレベルの。


 まさかその様な阿呆は存在しないと思いたいが、もし存在するならそれは相当な阿呆である。

 信じられぬ程の馬鹿だ。

 その人物が失われる事で生じる副次的な損害を考慮すれば、とてもではないがその様な軽率な行為には至らないだろう。…と私は思うのだ。


 無論、世の中には敢えて最前線に立とうとするリーダーも存在するが、彼らはまた別だ。

 彼らは決して無謀な訳ではなく、しっかりとコスパを考えた上でそうしているのだから。

 例えば、かの有名なジャンヌダルクは自ら前に立つ事で将兵を鼓舞した。(ただし彼女の場合はかなり無謀寄りだ)

 嘘か真か、ナポレオンも味方が怖気付く中自ら突撃したとかしなかったとか。


 他にもいくらでも例は挙げられるが、その裏には同じ事を実行してうっかり戦死してしまう人も多かった。

 否、そちらの方が大半だ。

 多くの失敗の中、数少ない成功例が認知されているに過ぎないのである。

 ジャンヌダルクの真似事などしていたら、命がいくらあっても足りない。

 実際、ナポレオンとて後に銃弾を受けてしまっている。


 それに、よく考えたら私はつい最近命懸けの真剣勝負を潜り抜けてきたばかりだった。

 私自身は幸運にも無傷で済んだものの、ナーシャは…そう────いや、やめよう。


 見た目上は何の変化も無いものの、ナーシャはもう他家に嫁ぐ事は叶わぬ身体となっていた。

 本人は、元からその様なつもりは無かったからかえって都合が良い、などと半ば本気で言っているが、ある程度強がりも混ざっている気がする。

 今こうしている間にも隣で妹は当たり前の様に誘惑してきている訳だが、それを私が拒まずに容認しているのにはそういったものに対する同情心や哀れみも理由の一つとしてあった。


 勿論妹とてその事を理解していて、こちらが下手に出ているのを良い事にずっとこの調子である。

 何とまあ厄介な人物に弱みを握られてしまったものだ。


「──兄上、何か悩んでおられる様ですね。やはり心配ですか?」


 どうやら彼女にはお見通しらしい。

 もう隠し事なんて出来やしないのではなかろうか。


「水臭いです、兄上。何でも相談して下されば良いのに」


 “相談しても良いのよ”などと言いつつ、これは要は“白状しろ”と暗に言っているのである。

 拒否権は無い。


 ナーシャはフルシチョフ考案のノーガード戦法について知らないのだ。

 まあ、教えたからといって今更どうこう出来るものでもないので問題あるまい。

 …と、コンマ数秒で判断し、仕方ないなぁ…と勿体ぶってそれについて簡単に説明する。


 …


「…と、まあ…かくかくしかじかでそういう訳だ。心配にならぬはずがないだろう?」


 喩えるなら、息子が真冬にティーシャツ一枚ではじめてのおつかいに行ったら誰だって心配になるだろう。

 それと同じだ。


 私の説明を聞いたナーシャの方は、ちょっと不機嫌そうだ。


「兄上、そういう大事な事は私にも報せて下さいませんかね?いくら何でも、それを知るのが出発後になってからというのはちょっと…」


 ムムム…と彼女は少し眉をひそめる。


「申し訳ない。そうだな、ナーシャには報せておくべきだったな。ナーシャは軍事関係には疎いから必要無いかと勝手に判断してしまった。次からは気を付けよう」


「頼みますよ?何事も()()()協力して対処せねば。夫婦ですから。ねえ?」


「夫婦ではないが?」


「もう夫婦みたいなものでしょう」


「そうか?」


「そうですよ」


 …だ、そうだ。

 彼女はわざとらしく首を傾げ…

 何を当たり前な事を言いてらっしゃるのそもそも私達は元からそういう関係ですよ当然でしょうだってずっと前から私と兄上は両思いで互いに愛し合っていたのですからそれにやっと兄上と結婚する事もほぼ確実に決まりましたしもうこれは夫婦だと言って良いでしょう世の中には互いに忌み嫌い合う仲の男女が夫婦を名乗る事さえあるのですからましてや私と兄上なんて夫婦以外の何物でもないですよこれが夫婦でないなら何だと言うのですかでもそうですね確かに夫婦ではないのかもしれません私達の愛は夫婦などというありふれた関係とは異なりますものね世間一般の夫婦なぞとは比べられたくないですよねそんじょそこらの男女の薄ら寒い恋愛と私と兄上の真の愛を比べられては困ります根本的に異なるものですからね比べようがないですよ私は現世でも来世でもその先でも兄上と結ばれたいぐらいです兄上に死ねと言われれば喜んで首を吊りましょうその覚悟が無いそこらのカップルと比べられるのもシャクですねああそう言えばあの女そうですルイーゼあの女にそういった覚悟はあるのでしょうかきっと無いですよねあの女に私と同じだけの覚悟があるはずがありませんものだって愛が足りませんからね愛が足りないからそういう覚悟も足りないんですエトセトラ

 …と主張してくる。怖い怖い。


 何だか途中から違う話題になっているし…

 怖いという感想しか出てこない。


「あー…ナーシャは私の事をそこまで愛してくれているのだなぁ〜、嬉しいが少し私の身に余るな。私にはそれと同じだけの愛情を君に与えてやれる自信が無い。だからナーシャもそう気負わずに。な?もっと楽〜にしておこう。ね?お願いだから」


「“楽に”とは?」


「ほら、もっと広い視野を持ってだな…私だけでなく色々なものに目を向けてみてはどうかな?」


「広い視野?兄上さえ見えるのならそれで十分なのですが」


 そんな御無体な…


「それではいかんな。若いうちは様々なものを見て、色々経験しないと。若い頃の経験ってのは大人になってから大事なのだからな」


 何だか年寄りの説教じみてきたが、本当に妹にはそういうところを改めてもらいたい。

 兄として彼女が心配である。


「経験したい事なら沢山ありますよ。例えば、兄上と誰もいない世界で二人きりで暮らしてみるとか」


「ほう」


「私と兄上以外だーれもいない世界で静かに暮らせたらなぁ。今は邪魔な奴が多過ぎるので。取り敢えず理想に向けて何人か消しちゃいましょうか」


 物凄く物騒な事言っている様な気がするけど気のせいかな…うん、気のせいだろうな。きっと。


 だが、静かな所で暮らすという部分に関しては悪くはないな…とも思う。

 今は無理でも、老後はひっそり静かに隠居するのも良いかもしれない。

 二人暮らしするなら出来れば妹とではなくルイーゼ辺りと二人が良いが。


 離島に篭るのなんてどうだろうか。

 いや、それだと島流しみたいだな。

 ティベリウスでもあるまいし。

 まあその様な事、今はまだ考えるには早過ぎるな。


 だが色々とひと段落ついたら別荘に遊びに行くのも良いかもな。

 うん、考えておこう。


「冗談きついぞ、ナーシャ。冗談でもそういう事を言うのはやめなさいといつも言っているだろう?」


「冗談ではないのですが」


「そうか…まあ、どちらにせよやめておきなさい」


「兄上がそう仰るのなら」


 良かった…一応妹はある程度こちらの言う事を聞いてくれるから多少救いようがある。

 これで反抗期みたいに抵抗されたら大変だ。

 素直な良い子(?)で本当に良かった。


 いや、でも一応年齢的には反抗期真っ盛りなのだろうか?

 普段ソフィア医師やその他大勢相手にギャンギャン吠えまくっているが、それも反抗期が過ぎれば治まるのだろうか?

 …多分無理だろうなぁ。


「はーい、失礼しますよお二人さん。よろしくやってるところちょっと悪いけど」


「チッ…邪魔者がしゃしゃり出て来ましたね…」


 振り向くと、ルイーゼであった。

 彼女もフォーアツァイトの皇族として出席していた。


 ナーシャと同じくディリを着ているが、ナーシャと違ってわざと気崩していたりはしない。

 それなのにこうも色気が感じられるのは何故だろう。

 不思議とナーシャとは違う色気が感じられるのだ。


「挨拶回りはもう終わったのか?」


 彼女は今までフランツと共にヴァルトの要人と握手したりおべっかを言ったり聴かされたり…と一苦労だったのである。

 私も本来はそういった面倒事をする必要があったのだが、全部外交官連中に丸投げしてきた。


「ええ。フランツはもうヘトヘトになってあっちで倒れてます。さあ、いつまでもここにいる訳にもいかないし、行きましょう」


「分かった。行こう」


 置いてくぞ、と渋る妹を急かし、私はそこを去るのだった。

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