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XCVIII.電探って大事だなぁ…って思いました。

※注釈

・レーダー

この世界にだって勿論レーダーはあります。

ただし航空機がまだまだ発展途上なため対空レーダーも同じく発展途上。水上レーダーも言うまでもなく。

(例の如く)現実世界のものとは少し違い、色々とご都合主義な仕様となっております。

基本的には現実世界のものとほぼ同じ仕組みで動いておりますが魔法的な何かによって微妙に違いが生じております。

しかしその違いを説明するにはそもそも根本的なレーダーについて語らねばなりません。

現実世界に於けるレーダーは、実は案外簡単な仕組みです。

電波発信機をクルクル回して全方向にマイクロ波を飛ばし、それが何かにぶつかって跳ね返ってきた反射波を受信機でキャッチ。ただそれだけの事。

本当にそれだけの簡単なものです。

波が跳ね返ってきた方向から当然目標物のある方向も分かりますし、波の速さをc、目標物との距離をd、反射波が戻って来るまでにかかった時間をtとすればd=ct/2となりおおよその距離も求められます。

更に反射波の量から大体の大きさや形、材質が分かったりする事もあったり無かったり。

しかしマイクロ波などと一概に言っても振動数・波長等様々ですから、遠くまで届く代わりに精度が低いものや有効範囲が狭い代わりに精度が高いものなど、現実世界では用途に応じて使い分けねばならないのです。

しかし本作の世界ではこのマイクロ波に代わって何かしら魔法的なものを飛ばしております。

この“魔法的な何か”はマイクロ波よりも波長が小さく、それでいて遠くまで飛んで行きます。

これにより何とまあ都合の良い事に、距離に関係無く一種類のレーダーだけで事足りてしまう…という設定です。

ちなみにメーヴェの軍艦に載っている対空レーダーの性能は目視とどっこいどっこい。まあ曇りの日とかだと重宝するかなぁ…程度のものです。


・ドレッドノート以後

海軍に於ける褒め言葉。

「いやぁ凄いね!まさにドレッドノート以後って感じだよね!」といった使い方をします。

日常会話で稀に使う「弩級」あるいは「ド級」の「弩」or「ド」も「ドレッドノート」の「ド」ですからねっ!多分!

作中の“ドレッドノート以後の砲配置”とは、要は「ドカドカ汚く仰山大砲を載っけるんやなくて綺麗に並べて置いてはりますねえ、素敵どすえ〜」という事。(何故か舞妓さん風)

流石イギリス!

やっぱ凄いなぁイギリスは!

ポンポン砲のおかげで対空防御も万全(意味深)だし!

(プリンスオブウェールズなんて無かった。てか、エアカバー無しじゃ沈んだって仕方ないですよね?!大和が沈むならプリンスオブウェールズだって沈むんです!だってエアカバーが無いんだもの!←結局それが全て。最新鋭戦艦だろうが何だろうが直掩機も無しに雷撃・爆撃されまくって片舷に魚雷集中されたら沈んじゃうよ!大和だって左舷に魚雷集中攻撃されて沈んだんですから!)

戦後に戦艦造っちゃうし!

デファイアン──おほんっ…スピットファイアもあるし!

ドイツ軍の爆撃を利用して玄関を拡張するし!

ウーボートなぞ使い捨て艦載機で木っ端微塵だし!

ドーヴァー海峡こそがマジノ線をも超える最強の防衛線だし!

えーっとつまり…大英帝国万歳っ!!

「レーダーに感あり!十時の方向です!」


 ブラウン管チックなちょっと懐かしい感じのレーダーの画面を暇そうに眺めていたウィルソン氏──この船の乗組員の一人である──が急に立ち上がったかと思うと普段とは打って変わって急に真面目な表情になり、そう告げてきた。


 しかし彼の様子とは裏腹にその報告を受けても私は全く焦らなかった。

 そりゃ当然だ、何故ならこれから我々は()()()()する予定なのだからその方向から何かが近付いてきたところで何とも思わない。

 どうせメーヴェの同盟国の皆々様方であろう。


「おぉ、やっとお出ましか。さっさと合流してしまうぞ」


「いえ、しかし…対空レーダーですよ?!」


「へ?」


 対空…レーダー…?


「対空レーダーです。距離感的に、最低でも高度数百。水上目標ではありません。水上艦ではなく何らかの飛行物体です」


 レーダーに感あり!…だなんて言うものだからてっきり例のお客さんかと思ったらそうではなかったらしい。

 ()()()()だそうだ。


 観測機の類であろうか…などと呑気に考えようとしてはたと気付く。


 いやいや待てよ…

 観測機…?


 よーく思い出してみる。

 ヴァルトの戦艦、ヴァルトの巡洋艦…メーヴェの戦艦、メーヴェの巡洋艦…


 そうだ、そうだった…

 ここは異世界、元の世界での常識は通じない。

 似ている様で何処か違うのだ。


 元の世界ではある程度の大きさの軍艦には観測・偵察用の水上機を搭載するのが普通であった。

 ミサイルなぞが登場した事により今でこそお役御免だが火砲でボコスカ撃ち合っていた様な時代──そう、WWIIの頃まで──は必要不可欠だった。


 海上での砲撃戦は異様な程に敵に弾を命中させるのが難しい。

 広い海の上で十数キロ先の敵艦に向けてたった数発の弾を低い発射レートで撃つのである。そりゃ当たらん。

 遠くの敵艦など豆粒程度にしか見えないし、自艦も敵艦も共に動いているから相対速度やら偏差やら考えて撃たねばならないし、そもそも船だから揺れて狙いが定まらない。

 同じ砲撃は砲撃でも大地が揺れず、砲撃目標がほぼ動かない陸とはえらい違いである。


 そんな事情もあって、砲撃観測とそれを行う観測機は非常に重要だ。

 艦橋から見るのよりも遥かに高い精度での観測射撃が行えるのだから。

 当たっているのか当たっていないのかも分からず、惜しいのかどうかも分からず…という状況よりは「惜しい!もう少し右ダヨ!」と教えてもらえた方が良いのは自明の理。


 大型の軍艦になる程砲もそれに比例して大きくなり、それに応じて交戦距離も伸びる。

 故に大型の軍艦に水上機がセットで付いていたのは当然だったと言える。


 また、勿論戦闘時にしか役に立たない訳ではなく接敵前にも付近の哨戒だ何だで色々と便利使い出来てしまう。

 大事な攻撃手段である砲をほんの少し減らしてでも水上機を載せたいと思うのは仕方のない事であった。


 さてさて…前置きが長くなってしまったが、結局私が何を言いたいかというと、だ…

 その便利な便利な水上機がこの世界の軍艦には載っていない、という事である。

 …無い。本当に無い。

 正直何故なのかさっぱりだが、無い。


 ヴァルト王国海軍も、メーヴェ王立海軍も、どこも同じく水上機を載せていない。

 まるで日露戦争の頃の様な有り様で、水上艦など影も形もない。

 幸い、砲配置の方はドレッドノート以後のものなのだが。


 不思議な事に、水上機を載せようという発想が全く無いのだ、この世界の人間には。

 航空機の技術が未発達とはいえ、もう複葉機とおさらば出来るぐらい──つまり、現実世界の1930年代頃──には進歩している。

 技術的には何も難しい事など無く、十分可能であるはずだ。

 いや、水上機自体は存在すると耳にしたから間違い無く可能である。


 だが、誰もやらない。

 私が提案しても一笑に付される。


 故に、この世界に於いて水上機を載せる軍艦は存在しない…はずだ。


 ならば今、対空レーダーに引っ掛かった謎の飛行物体は何だろうか?

 U・F・O…?

 Unknown Flying Objectだとでも?


 まあUFOなら問題無い(?)のだが…多分違うだろう。

 こんな海のど真ん中で陸から飛んで来た飛行機と遭遇するのも可笑しな話だ。無論可能性はゼロではないが。

 考えられるのは味方の水上機か例の空飛ぶ敵か、だ。


 前者なら良し。ただし私はこの世界で水上機を搭載している軍艦を目にした事がないのでどうだか怪しい。

 後者なら…死を覚悟すべきだろう。ただしメーヴェの誇る情報網によればこの辺りに敵はいなかったはずだ。

 ボギーでない事を祈るばかり。


「どうしましょう…艦長、戦闘態勢に入りますか?!逃げますか?!」


 私と違って“水上機かもしれない”という発想が無く、前者の可能性しか考えられないローザは戦うものとばかり思っている。

 生憎の天気で空は厚い雲に覆われており、無論私とて確認の仕様が無いのだが…それでも私はメーヴェの情報部を信じる事にした。


「問題無い、このまま進む。ただし対空要員は配置につかせろ。あと、攻撃許可があるまで絶対に撃たないように徹底させろ。良いな?」


「は、はい…!」


 私の命令の意図が分からずに不思議そうな顔をしつつも、彼女は命令を伝えるべく駆けて行く。

 レーダーやら何やらはハイテクなくせに艦内の命令伝達に関してだけは何故かローテクで、口頭でのリレー方式で伝えねばならないのである。

 例えば艦橋から機関室まで命令を伝えようと思えばラッパの様な管を通して計六名もの人間を経由しなければならない。

 伝言ゲームの要領で上手く伝えられれば良いのだが…途中で聴き間違えたりしてそうで正直不安だ。


 命令が正しく伝わっているかどうかさえ怪しいとは全く…

 しかしそこは流石プロというやつで、今のところ伝達ミスが問題になった事はない。

 単純にミスに気付いていないだけ、という可能性とて無い訳ではないが。


「おい、オガナ君。何が起こっているのか私にも分かるように説明しろ」


 …と、危機感がある様な無い様な何とも言えぬ口調で女王様が仰る。

 さっきからの私の会話からもう少し察して頂きたいものである。


「対空レーダーに反応がありました。何らかの飛行物体です。女王陛下のお友達の飛行機か空飛ぶ円盤か()()()でしょう」


 “コナー”とは、例の空飛ぶ謎の敵の呼び名である。

 皆が皆好き勝手に“鳥人間”とか“空飛ぶスパゲッティー何ちゃら”とか呼んでいたのを何とかすべく、メーヴェ王立海軍のお偉いさんが名付けたのだとか。

 何でも、そのお偉いさんの大事な大事な一人娘(18)が最近どこの馬の骨とも知れぬ男とイチャイチャラブラブ状態らしく、彼のその私怨が「娘の恋人の名前を敵の呼び名とする」などというとんでもない行為に至らしめたらしい。

 しかしそのバックストーリーの面白可笑しさ故にか別にそう呼べと強制された訳でもないのにその名は即座に広まり、今では誰もが例の敵を“哀れなコナー君”などと呼んでいる。


 空飛ぶ円盤に関しては…この世界の人間にも通じるのだろうか、このネタ。


「飛行機、と言ったか?この様な所を飛ぶ飛行機があるものか。先程のそなたの命令を聴く分には、まるで敵ではない可能性を考慮しているかの様だったが…まさか、本当にお空を飛行機がブンブン意味も無く飛んで来たとでも思っているのか?」


 この世界に於いてまだ航空機の民間での利用は珍しい。

 無論、旅客機が無い訳ではなくそれなりに広まりつつあるのだが、やはり元の世界に比べればその規模の差は比べるべくもない。

 予め決められている航路でも何でもなければ陸地に近い訳でもないこの場所で民間の飛行機に遭遇する事など可能性としてはほぼほぼゼロに近いのである。

 そういう意味では彼女の主張は尤もであるとも言える。


 しかし残念ながら彼女とて所詮はこの世界の住人。

 私が考えている()()()という可能性が彼女の頭の中にはこれっぽっちも存在していないのである。


「可能性としてはあり得ぬとも言い切れませんから。念のためですよ、念のため。もしかしたら民間の飛行機がここまでたまたま飛んで来る事があるかもしれませんし、あるいはパスタかオデッサ、カスティーリャの連中が船に水上機を載せてきて飛ばしているのかもしれません。もしもコナー君がここまでお迎えに来てくれたのなら今更どう足掻いたって無駄ですし、まあ間違った判断ではないと思いますがね?」


「ったく…何を言い出すかと思えば水上機を船に載せる、だと?!私はその様な奇行を仕出かす様な連中とは付き合わんように普段から心掛けておるぞ?幸い、未だかつて船に水上機を載せようなどという馬鹿げた事を思いついた人間もそれをさもあり得るかの様に口にする人間も私はそなた以外に知らぬがのぉ。空母だ何だとよく分からんまな板みたいな船を提唱する航空主兵論者なる人種も広い世界には存在する様だが、流石に奴等も軍艦に水上機を載せようとは言わぬぞ?ヴァルト王立海軍にはその様な危険思想が蔓延っておるのか?」


「ご安心を、陛下。水上機を載せるというのは私の個人的な主張ですので。ただ、私と同じ発想に至ってそれを実行に移す国が無いとも限らないので。特にパスタ共和国なんてのはメーヴェともヴァルトとも国交が然程ありませんからね、そういう突飛な発想が案外芽生えていたっておかしくはないでしょう?私如きに思いつく事など高が知れておりますから、誰だって同じ事を考えられるでしょうよ」


「やはりそなた、変わっておるな…よく言えば天才、悪く言えば変人だ」


 おそらく後者だと言いたいのだろう。

 彼女は皮肉る様な意地悪な笑みを浮かべる。


「計り知れぬものを感じた時、人間というものは異質なものとして抵抗感を覚えるものなのですよ。陛下も私には及ばぬという事です」


「──ぬかしおるわ」


 クックック…と悪役の様に彼女は笑う。

 笑う度にその巨大な胸がプルプルと小刻みに揺れ、目の遣り場に困る。

 さながら悪の女幹部といった様子だ。


「で、状況はご理解頂けましたか?」


「ああ」


「まあご安心下さい、陛下。どうせ死ぬ時は死ぬし、生き延びる時は生き延びるのです。あなたが何をしようがそれだけは変わりませんよ。死ぬ時は共に地獄行きですから宜しくお願いします」


「とんだ気休めがあったものだ…死んでもそなたの顔を見なければならぬと思うとうんざりだがな」


「私もうんざりですよ。何故死ぬ時に隣にいる女性がローザ(ゴリラ)女王陛下(ババア)なのか──ぎゃふっ…」


 女王陛下のヒールがグリグリグリグリと私の足の上にスクリューの如く高速で捩じ込まれる。

 当然ながら、クソ痛い。

 痛い痛い痛い。


「誰がババアだって?」


 グリグリ。


「いえ、陛下は美しく高潔で更にお若いレディーであります!お嬢さんであります!幼気な少女であります!てかロリータであります!未だ二十代!四捨五入すると三十だけど二十代!アラサーだけど二十代!二十九なんてほぼほぼ三十みたいなものだけど二十代っ!!」


 グリグリグリ。


「余計な言葉が多い気がするが?」


「すいません!陛下の御御足(おみあし)を頂戴出来た事に感動してつい無駄口を叩いてしまいました!僭越ながら私、欲情して参りました!このままだと陛下を襲ってしまいそうなのでその御御足を退けやがって下さいませ!」


 こうなりゃ強行突破だ。

 女王を突き放そうとおりゃーっと襲いかかる。


「今戻りまし──た…」


 しかしそこにタイミング悪くローザが戻って来る。


「えっと…えー…」


 彼女からすればまるで私が女王に良からぬ事をしようとしていたかの様な構図に見えたに違いない。


「ああ、安心せよ。オガナ君は私に踏まれてちょっと欲情してしまってな、うん、まあ…そういう訳だ」


 面白がって女王がその様な事を言い、それを聞いてこちらをゴミでも見る様な目で睨むローザ。


「艦長、知ってます?今一応緊急事態ですよ?」


「うん、知ってる」


「ニャンニャンするのは構いませんが、後にして下さい」


「あ、うん」


 後なら良いんだ…


 イマイチ緊張感に欠けるが、そういえば一応今はお仕事中。

 目の前に敵か味方が迫って来ているのだ。


「陛下、後でローザの誤解を解いておいて下さいね?あいつ、下手したら上にチクリかねないので」


 女王にそっと耳打ちする。


「それはそれで楽しそうだがな。責任とって結婚しろ!…とか笑える展開になるかもな」


 笑えねえ…


「笑える展開とか求めてないので。ほんと頼みますよ…!」


「仕方ないな、貸し一つだぞ?」


 何やかんやでこの女王はこの様にして上手い具合にこの船での立場を確固たるものとしていったのであった。

 オガナがその事に気付いた時にはもう後の祭りだったのはまた別のお話である。

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