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第二話。ヨロズヤとタナボタと温泉回。 その1

温泉回です。ちょいっとエロいところがあります。ご注意ください。

「きて」

「ん?」

 声が……ぼんやりと。

「おきて」

 

「んー?」

 うっすら目を開ける。

 

 

「おきなさいよっ!」

 

 

 俺の目に映ったのは、今まさにブランケットをひっぺがした、

 黒髪黒猫耳で黄金の目をした、革鎧ぽい物を装備している、

 

 その状態でも胸部のでっぱりがわかる少女、

 カグヤ・ツクヨミ。

 

「ん、あ、あー。おはよう」

 ぼんやりした頭で、ぼんやりした声を出す。

「いつまで寝てるつもりよニャんたは」

 いきなり溜息をつかれた。

 

「ほんとは起こしに来るのなんていやだったんだからね」

 朝市でツンデレ台詞を聞くことができるとは、

 俺はきっと運がいいんだろうな。

 

「ぼんやりしてんじゃないっ」

「いででで! こめかみグリグリすんなっ!」

 

「まったく。やっと起きたわね。

グーテンハヨー、アクト」

 

「ぐ、え。なに?」

 いきなりわけのわからないことを言われて、

 黒猫耳ことカグヤの顔を見上げる。

 

 

「この世界での朝の挨拶よ。とにかく、体起こしなさい。

魔法で眠らされたみたいに爆睡しといて、まだ寝る気なの?」

「はいはい、起きますよって」

 半身を起こして言葉を続ける。

 

「けどさ。なんでお前が来るんだ?

サラちゃん辺り起こしに来そうなもんだけど」

「それは、そのぉ……いいじゃないそんなこと。

とにかく起きなさい」

 

 なにかをごまかしている。いらだった声色で促されるのは、

 どうにもいい気分じゃあないけどしかたないか。

 

 

「ところでカグヤ」

「なによ?」

「その恰好。なんだ?」

 

「これはニャたしたちのヨロズヤの装備よ」

「万屋?」

 ベッドから降りながら尋ねる。

 

「そ。ギルドから依頼を受注して、

それをこなして報酬をもらう人たちのこと」

 

「へー、なるほどな」

 昨日サラちゃんに運ばれた一番右端の部屋から、

 ドアを出て下に降りる階段へ向かう。

 

 どうやらこの剣塚亭つるぎつかていという店は、

 おかみさんたちも含めて全員住み込みらしい。

 のわりには二階に人の気配がない。みんな起きてるんだろうか?

 

 

「なにニヤけてんのよ気持ち悪い」

 ヨロズヤって奴は、どうやらWeb小説のあるあるとしては、

 いわゆる冒険者ってのと同じようなもんらしい。

 

「いや、あまりにも王道なガジェットの配置で

嬉しくなっちまったんだよ」

 ニヤけちまった理由はそういうわけである。

 

「なによ、それ?」

 きょとんと言うカグヤである。昨日から今までで、初めて見た顔だな、

 こいつのこんなマヌケ面。

 

 俺の言うことがわかってないみたいだな。

 似たような、ラノベ的なもんがあるっぽいけど、

 ガジェットって言う言葉がわからないのか?

 

 

「んで、なんでそんな恰好してるんだ?」

「今日でかけるじゃない。だから、ついでにね」

「でかける直前に着替えればいいじゃないか」

「いいじゃない、いつ着替えたって」

 

「まあ、そう言われればそうだけどさ。なんかさ、

慌ただしくないか、それだと」

「ニャたしは別に思わないけど?」

「そうか」

 

 これ以上食いついても、話が堂々巡りになるな。

 切り上げよう。

 

 

「二人ともグーテンハヨー。よく寝たみたいね~」

「ぐ……ぐうてんはよお」

 もごもご言っている。

 

「おはよう」

 エルフ娘のアルフィーナに右手上げて挨拶を返す。

 

 そして、

「なるほどカグヤ」

 ニヤリと不敵な笑みを向けて言う。

 

「な……なによ?」

 目を合わせない。これは確実だな。

 

 

「お前も寝すぎたな」

 

 

「う……うっさい」

「っ! いってぇなぁ。いきなり左脇腹に裏拳くれんな」

 

「朝から元気だよねーカグヤちゃん。

グーテンハヨーアクっち」

 

「あ、あくっち? そ、それはともかくおはよう犬娘」

「ガルミンです」

 星印が語尾に付いてそうだな。

 

「昨日夜ご飯の時に名前教えたじゃない。もう忘れちゃったの?」

 下から見上げるようにして言うその表情は、

 明らかにこちらをからかっている。

 

 

 そうなのである。

 昨日の夕飯の時、全員の名前を教えてもらったのだ。

 

 サラちゃん カグヤ アイシアだけ知られているのは不公平だ、

 とアルフィーナとガルミンがごねたことも理由だったけど、

 俺としても名前は知っておきたかった。

 

 一日過ごすだけになるかもしれないけど、

 泊まらせてもらうばかりか、風呂飯までいただける。

 

 この恩人たちの名前を知らないのは、

 なんだか申し訳なかったからだ。

 

 

「いや、そういうわけじゃないけどさ」

 こいつ、案外めんどくさい絡み方をして来ることが

 判明しました、たった今。

 

 

「グーテンハヨーです、二人とも」

「おう、おはようサラちゃん」

「グーテンハヨー、サラ」

 

「カグヤ、せっかち」

 おそらくはユニフォーム? 姿であることを、

 アイシアは突っ込んでるんだろうと思う。

 

「いいじゃないの別に。グーテンハヨー、アイシア」

「うん」

「おはよう」

 

「……」

 頷いてはくれるんだな。間があったから、

 てっきりスルーされんだと思ったぜ。

 

 

「お、二人も起きたようだね。さ、食事にしようか」

「もしかして待っててくれたのか?」

 

「そうさ。やっぱりみんなで食事した方がいいだろ?

雰囲気もそうだし、片付けも一回で済むしね」

 

「ああ、そういうことも理由なのか」

 そんなこんな、俺は朝起きて早々に飯を食うことになった。

 

「いただきます。って……」

 飯を食うことになったわけなのだが……。

 

「ま た お 前 か」

 

 俺の飲み物は、またしても青汁もどきだった。

 

 

「寝覚めをよくするためと、アクトの場合は

魔力を取り込ませるためさ」

「魔力を取り込ませる。またなんで、そんなことを?」

 言ってから、焼き立てでもないのに

 ふんわりと柔らかいパンをちぎって頬張る。

 

 なにこれ、あめー うめー……!

 

「アオイとかって娘を助けに行くんだろ?

女神様直々の頼みだってのに、

戦力にならないってんじゃ、男としては

立つ瀬がないじゃないか」

 

「おっしゃるとおりで」

 おかみさん鋭いなぁ。

 

「だろ? だから、付け焼刃でもないよりましってことさ。

ありがたく飲んどきな」

 つまり魔力を体に取り込むことで、

 身体能力が向上するってことなんだな。

 

「ありがとうございます。それでは、良薬は口に苦し括弧物理。

まいります……!」

「おおげさだねぇ」

 ケラケラと俺の覚悟を楽し気に笑っているおかみさん。

 

 だが、俺は知っている。

 あぐにゃんが作ったアレより、更に匂いが濃いことを。

 

「んぐっ……!」

 あ、あ゛ぶね゛ぇぇぇ! またむせるとこだった!

 

「うっわなんだこれ、喉に味がひっかかってやがるっ。

ちくしょうみんなして笑いやがって! きついんだぞこれ!」

 ただ、飲み込んだ後の体の中を駆け巡る涼しげな感覚は、

 今回が一番強く、

 

 涼しいって言うか冷たいの領域だった。

 

 

「アクトさん、そればっかりですね 飲み物」

 サラちゃんすらクスクス笑ってる。

 なんか俺……下に見られっぱなしじゃね?

 

「サラちゃんはいいよなぁ。昨日一回飲んだだけなんだから」

 うまい料理とまずいジュース、この味のコントラストの

 悪いこと悪いこと。

 

 ツレーワーマジツレーワー括弧マジレス。

 でかける前に腹壊すんじゃないのかこれ?

 

 

***

 

 

「ご、ごじぞうざばでじだ……」

 食卓につっぷして言う俺。完食はした。したのだが……

 腹が悲鳴を上げている。

 

「ク、ククク。だいじょうぶ、クククク」

「おまえ。こころにもないこといってるだろ……!」

 カグヤが笑いをこらえず、心配するふりをしている。

 

「え、えっと、あの。大丈夫です??」

 一方サラちゃんは、目を回すんじゃないかと言う勢いで、

 つっぷしている俺をおろおろ見ている。

 

 声しか聞こえないけど、声の調子と覚束ない足音で、

 その心情は容易に推し量れた。

 

 

「ううむ。ちょいと濃くしすぎたみたいだねぇ」

 おかみさん。わざとやったんじゃ?

 

「もうジョージのオッサン来るまで花摘んでなさいよニャんた」

 テーブルをバシバシ叩きながら大爆笑である。

 この猫耳娘めが!

 

 って言うか、トイレ行くことをお花摘みって、

 この世界でも言うのか。

 

 

「カグヤさん。笑いすぎです」

 サラちゃん、怒ってる。この子だけだ、

 純粋にプラスな感情向けてくれるの。

 

「だ、だって。まさかリカミナスタ草のジュースで、

お腹壊すなんて思わなかったんだもん」

 バシ、っと机を一つ叩いて、笑いをかみ殺してる

 ……と思われる。

 

 クウウウウって、まるで警戒する猫みたいな声出してるから。

 

「魔力の流入量も関係あるんじゃないかな?

アクトくんの世界に魔法がないなら、

 

完全にこの世界の魔力は異物なわけだし。

しかもあの匂いだと、けっこう濃いと思うしね。

 

お腹壊すだけで済んだのは、もしかしたら運が良かったのかも」

 エルフは博識だってのは、往々にしてある設定ではある。

 

 このアルフィーナって娘は、ほんわかしてて

 知識人って感じがなかったから、

 この分析は予想外のインテリだ。

 

 

「昨日、晩御飯以外リカミナスタ草使った物しか

飲んでなかったって言ってたし、

ちょっとは耐性ついてたんじゃない?」

 ガルミンは俺をつっつきながらそんなことを言った。

 

「いずれにせよ、オッサン来るまで安静だなこりゃ」

 はたしてトイレに向かった物かベッドに向かった物か。

「はぁ。まったくもって前途多難だぜ」

 まだなにもしてないのにグッタリしながら、俺はひとりごちた。

 

 

***

 

 

「グーテンハヨー。って、どうしたんだ少年?」

 暫くしてジョージのオッサンが来店した。

「あ、ああ、実は。朝飯に特濃の栄養ドリンクを飲む羽目になりまして」

 大分収まったものの、俺は未だに腹痛に悩まされていた。

 

「おいおい、しっかりしてくれよ」

 陽気に苦笑するオッサンである。

 この人が堅物じゃなくてよかったと思うわ。

 

「そんな状態で出発できるのか?」

「作戦確認と準備に

時間をある程度とっていただけるのであれば、あるいは」

 もうなんか、自分でなにいってんだか半分ぐらいわかんない。

 

「ま、まあ。がんばってくれ」

「で、オッサン。その大量の袋はなによ?」

 カグヤの言葉で、しっかりとオッサンに視線を向けると。

 たしかに、なんだか袋をいくつも背負ったり抱えたりしている。

 

 これか? って言いながら、それらをテーブルに並べるオッサン。

 おいおい、いったい中身はなんだよ?

 一つ置くたんびに、ドンって言ってるぞ?

 

 

「これは、お前らのお小遣いと奴隷商として

違和感のない衣服……この場合は衣装か」

「お小遣いって、いいのか?」

 

「金がないのにセリに参加するバカはいねえからな。

言ったろ? 財布は痛むがな、って」

 ふむ、奴隷はオークション形式で売られてるのか。

 それもまた、さもありなんだな。

 

「オッサンっ! アンタどんだけお人よしなんだよっ!」

 申し訳のなさと感謝で涙が出た。

 

「お? どうした? 胃からこみ上げる物でもあったか?」

 俺の涙目を見てニヤニヤと楽しそうだ。

 自腹を切ってることなんて、微塵も気にしてないようなそぶり。

 

「ただしっ」

 ピシャリと言われて、俺の涙が驚きに引っ込んだ。

 

「この金はあくまでも奴隷商としてふるまうための物だ。

個人的になにかしたけりゃ自分で工面するんだぞ」

 

「え、あ。はい」

 くっ。俺が文無しなのを知っててこのオッサンは!

 

「後少年。お前の袋には身分証を入れてある」

「身分証? 言葉だけで大丈夫なんじゃなかったのか?」

 

「ああ、悪い。町に入る時は防犯面で入る人間が

どんな奴なのか、示す必要があるんだ。

 

嘘を表情一つ変えずにつくようなのもいるから、

言葉だけじゃ駄目なんだよ」

 

「なるほど。流石にそうか」

 俺の世界ほど防犯面が厳しくないだろうとはいえ、

 町が道と仕切られてるんだったら、それぐらいのことは必要か。

 

 

「本人証明で、身分証には魔力を通しておく必要があるが、

少年の魔力は微弱すぎて、ただの門番じゃ

感知できないだろうからバレないだろう」

 

「それは……喜んでいいのか?」

「この状況じゃあ大喜びだぞ少年」

 

 気にするなのかわりだろうか、右肩に手をバシっと叩きつけて来た。

 予想外の威力にうぐっとうめいた俺を見て、

 ハッハッハとまた豪快に笑うオッサンである。

 

 

 

 マジでいてぇってのに、このオッサンは……!

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