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第一話。優しい世界と悲壮な女神。だけど薬草汁は勘弁な。 その3

「ただいまです~」「ただいまー」

「遅い」「遅かったじゃない」「「おかえりー」」

 すっかり日が暮れての帰宅。女子たちに各々出迎えをいただいた。

 って言っても俺の場合、帰宅って言っていいのかわからないけど。

 

 静かなんで軽く店内に目を走らせると、お客はもういない様子だ。

 

 

「お疲れさま。ずいぶん時間かかったのね」

 エルフ娘からの笑顔のねぎらいの言葉に、

 俺は苦笑いを返すことしかできない。

 

 ひとえにこんな時間になってしまったのは、俺の身体能力のせいだからな。

 

 

「気にしないで、ですアクトさん」

 サラちゃん、左腕を軽くぽむぽむと叩いて、

 ドンマイしてくれている。

 

「サンキューサラちゃん。あの……なんですかお二方、

その……不審者を見るような眼は……」

 

「名前、アクトって言うんだ」

「そうです。っ? ど、どうしたですかぐやさん?」

 サラちゃんが、ビクッと体を硬直させた。

 

「っ」

 カグヤが、細められた目全てを鈍い黄金に塗りつぶしたような

 不気味な瞳で見て来る。

 

 鳥肌がっ、体中の毛が逆立ってるっ!

 その色合い……すげーホラーなんだけど! マジこえーんだけどっ!

 

 

「時間。かかりすぎ」

「アイシアさんもどうしたですっ?」

 サラちゃん、二歩ほど後ずさる。

 

 こっちを見る銀髪の紅の瞳が、

 血濡れて見えるほどの威圧を放っているっ!

 

 

「お、おい。なんだよお前ら?」

 背中がゾワリとしたっ。なんだよ、

 なんでこんなことになってんだよ?

 

 せめて。せめてもう一人味方はいないかっ。犬耳娘に視線をやると?

「いやー、大変ですなー」

「ニヤニヤしながら我関せずかよっ!」

 

「アッハッハッハッハ! いや~愉快愉快」

「オッサン、爆笑してないで助け船出してくれ!」

 

「助け船か? うーん、そうだな」

 事情をある程度読んでるこのオッサンなら、

 きっとこの殺気の霧散に一役買っt

 

 

「どうだった? あぐにゃんとのオハナシアイは?」

「ニヤニヤすんなっ!」

 

「あぐ」

 ジロリ、

「にゃん?」

 ギロリ。

 

「サラほっといて、なにアソンデ来てんのよ」

「……え?」

 拳が、カグヤの拳が引き絞られてるっ?!

 

「ちょっ? なんでだっ?」

「ケダモノ……しすべし」

 

「……は?」

 なんか空気が渦巻いたような物が見えたと思ったら

 銀髪の手に青白い剣が現れたっ?!

 

 

「まっまてまてっ! なにがどうしてどうなってんだっ?!」

 カグヤと銀髪えええっとアイシアとか言ったっけ?

 二人になんか果てしない誤解呼んでるっ!

 

 間違いない。犯人はーー!

 

「オッサアアアン!! 火に油注いでどうすんだーっ!

爆笑してんな助けろっ!」

 真下プレッシャーを、どうにか叫びで相殺する。

 

 勘違い娘どもがっ!

 ……心の中で毒づくことしかできませんけどね、ええ。

 

 

「あっあのっおちついてくださいですっ!」

 サラちゃんが俺の前に飛び出して来たっ、店内が騒然となる。

 

「えっ?」

 カグヤが構えを解いた?

「サラ?」

 青白い剣が……消えた?

 

「た……たすかった~」

 膝から崩れ肩で息をしてる俺。

 サラちゃん、マジサンキュー!

 

「はい、お疲れさん」

 肩にバシッと大きな手を置くオッサン。

「煽った張本人がよく言うぜ」

 力なく笑うしかない。

 

 

「で? どうだったんだ、

女神さまにゃ聞くこと聞けたのか?」

「最初からそう聞いてくれ……」

 

「すまんすまん。カグヤちゃんとアイシアちゃんが面白かったんでな」

「まったくなぁ」

 半笑いしか出てこなかった。

 

 

「そういえばニャんた、運命の大車輪に行くとか言ってたんだっけ」

 疲れたような声色のカグヤ。疲れてんのはこっちだ。

「忘れてんなよ……」

 

「しょうがないじゃない。ニャたしたち往復するんでも、

ここまで時間かかんないんだから」

 ちょっとむっとしている。うっすら頬が赤いってことは、

 やっちまったとは思ってるんだな。

 

「遅すぎて、サラが心配だった」

 あ、まともに喋った。サラちゃんを、

 その細い指で指差している。

 

 それは……強調しておられるのか?

 

「俺のことはどうでもいいのか?」

「ええ。名前も知らない、おかしなことばっかり言うニャんたのことなんて

どぉーっでもいいわよ」

 

「な……なにも強調することないだろ、

しかも即答だし……」

 けど、こいつの言うことはその通りだな。俺も見ず知らずの奴のことより、

 見知った人間の方を心配する。

 

 だからってこんなにはっきり態度に出さなくてもいいと思います、はい。

 

 

「で? 少年。お前さんは何用で、

女神さまにお喚びいただいたんだ?」

 

「え? ちょっと、なによそれ?」

「呼ばれた?」

 

「ああ、そうなんだよ」

 そうして俺は店員たちに素性を話すことになった。

 まあ、きっと電波成分九割程度って

 聞き流してるだろうけど俺の話。

 

 

「なるほどね。頼りないのはそういうことか」

「あれ、意外と真剣に聞いてたんだな。

って、それどういう意味だよ?」

 

「アクトさんもカグヤさんも喧嘩駄目です」

 サラちゃんが、俺とカグヤの間に腕を出して、

 踏切の遮断機のようにしている。その表情は険しい。

 

「はいはい、わかったわよ。で? ニャんたのことはいいとして、よ。

女神さまに喚ばれたってのはどういうわけなの?」

 

「これから話そうとしてたんだ、それについて。

あぐにゃん曰く、俺の知り合いを一人の男の願いのために

喚んじまったんだと。

 

でもそれは、あぐにゃんの自己防衛のためだったらしいんだ。

本人ものすごい後悔してた」

 

「オッサンも言ってたわよね。そのあぐにゃんってなによ?」

「女神さまのことです。アグニャマラテスがうまく呼べないから、

そう呼んでるんだそうです」

 

「ふぅん。で? ニャんたとその知り合いと、

どう関係あるの?」

 くいついてるな。なんでだ?

 

「どうやら俺は、その知り合いからのご指名なんだそうだ。

で、自分勝手な理由で知り合いを召喚しちまったおわびに、

俺がここに喚ばれたってことらしい。

 

自分で喚んどいて、そいつを手助けするわけにはいかないから、

かわりに俺にそいつを助け出してやってほしい、ってさ」

 

「ふぅん、なるほど。災難ねぇ」

 クツクツと、笑いを含みながら言うカグヤ。

 

「なにがおかしいんだよ?」

「だって、ニャんた。ようするに

女神さまの尻拭いするために喚ばれたんじゃない。

 

世界を救う勇者としてでもなく、次代の英雄候補でもなく。

ただの尻拭いだなんて。

 

災難な上になさけないじゃない。あははっ」

 

 ああ、この世界にも異世界召喚物の物語ってあるんだ。

 それはそれとして。今の物言いは聞き捨てならない……!

 

 

「笑うなよ」

「な、なによ? すごんだってぜんぜん怖くなんてないわよ」

 

「あぐにゃんの、後悔と後悔と後悔を知らずに笑うな」

 ギリッ。自分で拳が音を立てたのがわかった。

 

「わ……わかったわよ。わるかったわよ……」

 カグヤはもごもごそう言って、俺から視線を外した。

 

 

「んで少年。助けに行くのはいいが、場所はわかってるのか?」

 オッサン、話の入り方が絶妙だな。

「ああ。聞いて来た」

 言って、俺は左ポケットに突っ込んでおいた、メモ用紙を取り出す。

 

「ここだってさ」

 

「ほぉ。マリスガルズか。まためんどうなところに」

 どうやら読めるらしい。走り書きだけど大丈夫だったようだ。

 

 今ちらっと見たら、文字がちょっと崩れてて、書いた本人が

 パッと見なに書いてあるんだかわかんなかったのに、

 よく読めたもんだ。オッサンすげーな。

 

 そもそも日本語の書き文字が、こっち世界で通用するんだろうか?

 ひょっとして、これも女神の加護なのか?

 そうだとすれば、やっぱ女神の加護の力は偉大だ。

 

 

「知ってるのかオッサン?」

「うむ。ここは歓楽街であるのと同時に

奴隷のセリが行われる市場でもある」

 

「な、なんだって?」

 サラちゃんみたいな子供がいる場で、話していいのかよそんなこと?

 

「その中央住まい。ってこた、そのベクターって野郎は奴隷商だな。

しかも腕利きだ」

 苦々しい顔で、オッサンはそう言う。

 

「あ、あの。サラちゃんいるんだけど、いいのか?

そんなこと話して?」

 

魔斗神剣まとうしんけんの道場主の娘だ。そういう物があることぐらいは、

小耳に挟んでるだろうさ」

 

「あ、はい。どういうことをするお仕事なのかは、よくわからないです。

でも、自慢できるお仕事じゃないって、お父さん言ってましたです」

 

 なるほど。

 奴隷商、つまり人身売買が、仕事としては

 違法じゃないって世界なのか。

 

 ファンタジー世界じゃさもありなんとはいえ、

 なんだかもやもやするな。

 

 

「元締めの実入りはかなりいいらしいんだがな。そこだけは羨ましい」

 オッサン、なぜか左手でひげを弄っている。

 え、今の苦々しい顔ってそういうこと?

 

「なあ。まとうしんけんって、なんだ?

道場って言うぐらいだから武術なのか?」

 

「はいです。魔力を用いて戦う剣術で、理念は生き残り生き残すこと。

殺めず諭す活陣剣です」

 

 元がいいせいかその性格キャラのせいか、ドヤ顔なのにイラッと来ない。

 むしろかわいい。

 

 

「それ……どっかから引っ張って来た文章だな?」

「はいです、道場の門とか指南書とか、

いろんなところにありますです」

 

「なるほどな。

しっかし、めんどうだな。

ただでさえ救出劇なんてのはめんどうだって言うのに」

 勿論これは、俺が今までに物語を見て出来上がったイメージだ。

 

 

「成金街のマリスガルズの、それも中心にいる。

ってことはベクターって奴は業界内じゃ

名前は知れてるだろうな。

 

で、そんな奴が念願のお目当てさんを手に入れた。

知り合いってのがいる場所の警備は厳重だろうから、

簡単にことは運ばないと見ていい」

 

「ずいぶんそういう奴の心理に明るいんだな」

「なぁに、仕事がら貴重品を扱うこともあってな。

そういうのの持ち主の心理と照らし合わせただけだ」

 

「仕事?」

「そう、鍛冶師をやってるんだ。用心棒こっちは副業なんだよ。

ただ働きだがな」

 言ってオッサンは笑う。

 

「そうなのか」

 鍛冶師。そんな職業を平然と言うとは、

 流石はドラゴンがバイク替わりに使われてる世界だ。

 

 

「ああ、おかみたちとは昔馴染みでな」

 本業の方にリアクションしたつもりだったんだけどな。

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