エピローグ。リバース・アンド・コネクト ~ 日常(いつも)さん新境地(ニューステージ) ~。 その2
「神尾くーん!」
最寄駅の西口を出て間もなく。そんな声がしたので、
そっちに目を向けたら。
「恥ずかしいから腕振んなー!」
待ち合わせ人が腕を、ワイパーみたいな振り幅でブンブン振っていた。
「いやー眼福眼福~」
普通に歩いてるふりして、やめろを無視して
ワイパー腕振りを続ける稲妻さんの、
とっても素晴らしく跳ねまわってる、彼女のモチモノをガン見している
今の現状でございます。
メイド服でもすごかったけど、セーラー服でもすげーな。
紺地の胸に白リボンのワンポイントが、なかなかかわいらしい。
「いつまで振ってんだよ」
到着しても、まだ振り続けるアオイちゃんに、
軽く拳骨を落とす。
「あいた。なんか、腕がワイパーみたいになってるのが面白くって」
というはにかみ笑いからのグーテンハヨー。
「グーテン ハヨー、稲妻。お前よく違和感なく言えるな?」
「なんかこう、するっと言えましたね 今」
お互いの胸に視線を向けて、門が描かれた銀の竜を確認し
お互い頷く。
「じゃ、いきましょっか」
「だな」
俺の言葉に答えるように稲妻が歩き出したのでそれに続く。
「なあ稲妻。あっちだと聞く機会がなかったんだけどさ」
「なんですか?」
「なんで俺にはタメグチしてくれないんだ?」
「え? どういうことですか、それ?」
「だってお前、一人でいる時タメグチじゃないか」
「えっ、なんで独り言のこと知ってるんですかっ??」
困惑動揺、足が止まった。なにをあわあわしてるんだ?
「だってお前言ってただろ。あの時の声、
気のせいじゃなかったですーって」
「あの時の声? ……ああ、あの時ですか」
ふぅと一息吐いてまた歩き出した。
なんであわあわしたんだろ?
「うむ、あの時だ。で、俺にはそうやってですます調だろ?
それって素じゃないんじゃないかって思ってさ。
それで、これ買ったんだけどな」
言って銀の竜を一なで。
「大丈夫ですよ。異例なのは独り言の方ですから」
なんか稲妻、歩き方カクカクしてるな。
そんなに入学式、緊張するもんかなぁ?
「なぁんだそっか。これ、買う必要なかったんだな」
もう一度銀の竜をなでる。
「そんなことないですよ。だって、これがなかったら行き来できないですし、
なにより神 尾 君……とおそ……なん……こ……りませ……し」
「俺となんだって? 途中からボリューム下げんなよ。気になるだろ?」
「な、なんでもないですっ」
「あわあわしたり真っ赤になったり。朝から忙しい奴だなぁ」
*****
「神尾君」
「おう、どうした稲妻?」
放課後である。
睡眠導入式やらなんやらかんやらを終え、
まだ午前中だが放課後である。
幸い俺達は同じクラスだった。
以前からの友人がいるのは、始まったばっかの高校生活では心強い。
そこだけに固まる可能性もあるけどな。特に俺と稲妻は
異世界を行ったり来たりできるって言う、とんでもない秘密の共有者だ。
余計固まりそうだぜ。
「あの、なんか。わたしたち、注目されてませんか?」
そう。こいつは人見知りである。
注目されたりってことには慣れてないし、好きではないらしい。
俺も好きとは言えない性質だけど。
だからだろうか、サクサクと教室を出ようとしてるので慌てて後を追う。
「俺達? 稲妻ならわかるけど、俺もか?」
「はい。ひそひそ声が、わたしと神尾君セットで語ってるんですよ」
人見知りってのは、人の目を気にするからなのか、
そういうことには敏感らしい。
「気のせいじゃないのか?」
「いえ。
『さっきの会話聞いてたんだけどさ。あの二人、
神尾明斗と稲妻碧だよな?』
って聞えました」
今の似せる気のない誰かのものまねはいったいなんだよ?
「サラちゃん並みに耳いいな。ひそひそ話だろ、それ?」
昇降口に付いた。配置があいうえお順らしくて、
俺と稲妻の靴箱の位置が近い。
「はい、ちょっと大きめだったので聞こえただけですよ」
「そういうもんかな? しっかしセットねぇ。
俺、そんな注目されるようなことやったことないぞ、
中学時代含めても」
昇降口を出ながら言う。
「いえ、神尾君かっこいいですから
注目されてもおかしくn ってなにいってるんだろわたしっ」
いきなり真っ赤になってあわあわし出した。あっちじゃ鳴りを潜めてたけど、
こいつこうやってよく赤くなるんだった。なんか
俺と話してる時限定らしいんだよな。なんでだろ?
ちょうど校門を出たところで。
俺達は奇妙な物を目撃することになった。
「なんだ、あいつら? こっち向いて、ずらーっと横に並んでるぞ?」
「明らかにこっち見てますっ」
「俺の後ろは避難所じゃねえんだけどな……」
苦笑するしかない。
「あいつだ! リア充の上に異世界でハーレム築いた男の敵!」
誰かが叫んだ。
「視線がバッチリ俺に向いてるんだけど。って言うか異世界ハーレムだと?!
そもそも、なんで俺が異世界に行ってたこと知ってんだ?」
「もしかして。神尾君の様子。動画で流れてたんじゃ?」
「んなバカな? いくらきっかけが動画だったからって……?」
「このハーレム野郎がサラたんにお兄ちゃんって呼ばれる権くれ!」
別の誰かがいきり立っている。
「言ってる事がわけわからん」
「アイシアたんにさげすまれたいので銀の竜ください!」
「絶対にやらん。って言うかんな理由であっち行ったら
お前ら間違いなく死ぬぞ」
「猫様に蹴られたいので銀色の竜を!」
「絶対にあげませんっ!」
なんだこいつら、アホと変態の集まりか!?
「アオイたんペロペロさせてください!」
「ひいぃっっ!」
稲妻のこのしがみつき方。
これ、ベクターへのガチ恐怖と同じだぞおい……。
「お前らあんまふざけてると押し通るぞ」
すごんでみたら。
『異世界ボケしやがって! 異世界の身体能力のままなわけねえだろ!
押し通るのはこっちだ!』
これである。
「同時に言う台詞の長さじゃねえだろ!」
『ウオオオオ!』
「って突っ込んでくんな変態ども!
稲妻、掴まってられるか。つっきるぞ!」
「は、はいっ!」
返事を確認して、俺は駆け抜けた。
『ウワアアア!』
一人弾き飛ばせれば充分。俺達の勝利だ!
『バカな! あの野郎、化け物かっ!』
ってことだ。こいつらの予測は見事に大外れだったわけだ。
「だから同時に言う台詞じゃねえだろって!」
連中に突っ込みを入れながらそのまま走る。
あれこそまさにケダモノだろうな、と思うよ うん。
「神尾君、どこまでいくんですかっ、
けっこうついていくの大変なんですけどっ」
ガッチリとしがみついたままでそういう稲妻。
「おっと、そうだな」
速度を落としながら続きを伝える。
「今朝の公園までとりあえず行く。おk?」
「あ、はい。おkです」
そのままジョギング気分で目的地まで走った。
***
「ふぅ。飛ばされそうでしたよ~」
到着、ベンチにストンと腰掛けて稲妻の第一声だ。
「いやーわりい。つい俺の感覚で走っちゃったぜ。
連中があんまりにも気持ち悪かったんでさ」
俺は大きくのびをしながら。
「わかります、その気持ち」
うんうん何度も頷きながらだ。大変だ、って言ったわりに
息は上がってないな。異世界飯だけでも、けっこうな強化になるのか。
なるほど、草強化の効率ってものすごい高かったんだな。
ないよりまし、とか言ってたおかみさんの感覚が、おかしかっただけか。
カグヤがびっくりしてたのに納得したわ。
「それで、これからどうするんですか? とりあえず、
って言ってましたけど」
「連中が俺たちの事情を知ってることをあぐにゃんに問いただす」
「あぐにゃんさんに、ですか?」
不思議そうな顔なので、俺なりの推測をご披露することにした。
「そうだ。俺達はあぐにゃん視点を映した動画で
あっちの世界に行くことになった。ならおのずと
犯人はあぐにゃんってことになるだろ?」
「おお、言われてみればそうですね。神尾君すごいですっ」
パンっと手を打ち合わせてにこっと笑顔。
「稲妻って、二次元関連の話はすぐ変換できるけど、
そうじゃないこと 弱いよな」
つっついてみた。そしたら、
「そっ、そんなことないですもん。だいじょうぶdeathもんっ」
とのお返事が。ああ、これはだめですね。
「んで、どうする? すぐ行くか?」
「そうですね。ちょっと休憩したかっただけですし」
「よっしゃ。じゃ、初転移。いっちょやってみっか」
「はい」
立ち上がりながら言う稲妻に一つ頷いて。
「魔法名、覚えてるか?」
「はい、大丈夫です。それじゃ」
両手をこっちに差し出して来る稲妻。
「よし」
俺も両手を差し出して、それを握る。
意識を集中。二人の銀色の竜が青白く輝き始めた。
二人同時に深く息を吸って。そして。
「「双竜開門」」
同時に発した声は静かで。
薄くエコーのかかった、その声の広がりに合わせるように、
双竜から青白い光が広がった。
*****
「あら、おかえりなさい。ずいぶん早かったですね」
ガコン、ガコンと気が付けば聞こえていた。
そして、そんな音を押しのけて聞こえたその声は、
上品な女性の物で。
「新婚さんみたいですよ、あぐにゃんさん」
返したのは、なぜだかむっとしたような稲妻で。
「どうやら。うまくいったな」
目をゆっくりと開けながら、そう言う俺の目が捉えた風景は、
一番最初にここを訪れた時の、あの小さい客間。
正面ににこやかに立っているのは、女神 あぐにゃんだった。
「ずいぶん装いが違いますね。
アオイさんは、おちついた雰囲気ながらもかわいらしくて、
アクトさんは紳士のようです」
珍しそうにファッションチェックなどしたあぐにゃんに、
そうですか? っとてれくさそうな稲妻と、そうかなぁと
首をかしげる俺。
「それで? なにかご用ですか? 試し転移でも?」
こんなに速攻で戻って来るとは思わなかったんだろう、不思議そうな顔だ。
「ま、それもある。けど、一つ こっちで奇妙なことが起きてな。
それを聞きたいんだ」
「奇妙なこと、ですか? なにはともあれ、一先ず座りましょうか。
立ち話は気ぜわしいでしょう?」
「そうだな「そうですね」」
勧められるまま、俺達はまたあのもふもふのソファに腰を沈めた。
「それで、奇妙なこと というのは?」
テーブルを挟んだ椅子に座ったあぐにゃんが、改めて聞いてきた。
「それがな。俺と稲妻がこの世界に召喚されたことと、
俺が女子に囲まれてたことを知られてたんだ」
「ああ」
そんなことか、と言うような感じであぐにゃんはそう相槌する。
訝しむ俺の表情を見てとったか、あぐにゃんは
早速カラクリを話してくれた。
「あれはしかたないことだったんです」
「っつうと?」
「あなたたちの世界とこの世界を繋ぐ手段として、
わたしは自分の視点を送りました。その結果はお二人もご存じのとおり、
動画という形でした。
動画というのはすごいものですね、
一箇所から視点を送っただけだと言うのに、
そちらの神から干渉の許可がいただけました」
「どういうことですか?」
「はい。わたしの視点は、一度送ったことによって
世界中に広がったことになったようで。それによって、
そちらの神が緊急事態と判断してくれたようで、
アオイさん アクトさんの召喚を許してくれたんですよ」
「へぇ、そんな事情があったのか。で、その動画を見た奴らが
俺達を見て理解した、と こういうことだな?」
「でも。それだと、わたしたちの名前を知ってたのが変じゃないですか?
だって、初めだけを見てたんだったら、
わたしたちはこっちには存在してないじゃないですか」
「あ、そっか。それに、サラちゃんたちの存在は知られようがないよな?」
「それもまた、しかたないことです。行きがそうなら帰りも同じ。
貴方たちが元の世界に戻る時も、またわたしの視点を送りました。
そちらの神は、わたしが視点を送って来るということで
なにか変化があったと判断して、また干渉の許可をくれました。
だから、その人たちはサラさんたちのことを知っていたし
あなたたちの名前も理解していたんでしょうね」
「なるほどな。ありがとよ、スッキリしたぜ」
「動画の力ってすげー、ですね」
にこにこ言ってるけど、すげーはやめろ すげーは。
「うふふ。さて、そろそろお昼です。紅茶でもいかがですか?」
「そうですね、また あれもらえますか?」
「だな。頼むぜ」
「はい」
にっこりと笑みで答えると、あぐにゃんは楽しそうな歩調で客間を出て行った。
「なあ、稲妻」
「なんですか?」
「前途多難な高校生活になりそうだな」
「そうですね」
そういう俺達は、でも。
笑っていた。
THE END
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
これがクライマックスブーストって奴か、と実感した怒涛の三和分でした。
初のなろう完結作品が、初のなろう投稿作品。順番として順当ではありつつ、まさか執筆にブーストがかかるなんて思わなかったので早さにびっくりしております。
完結設定してることで、今このあとがき ぶっ倒れそうなぐらい緊張しながら書いておりますが。あんまりグダグダ書いててもしかたないので、改めまして。
こんな1エピソードのなっがーい作品にお付き合いくださり、真にありがとうございました。




