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エピローグ。リバース・アンド・コネクト ~ 日常(いつも)さん新境地(ニューステージ) ~。 その1

「それで、なんだけど。さ」

 みんなが紅茶を飲み終えて一息ついたところで。

 俺は、いよいよ切り出さなきゃいけないと思って。

 覚悟を決めて声を出した。

 

「なんですか? そんな改まって?」

「え、あ、いや。その。な」

 言えよ。言うって今さっき決めたばっかだろ!

「ほら、俺と稲妻いねつまって、さ。

この世界の、人じゃ、ない、からさ。その……」

 

「帰らないと、いけない、ですよ、ね?」

 稲妻も聞く覚悟をしたのか?

「そう、ですね」

 あぐにゃんも、なんだか寂しそうな声色だ。

 

「それで、さ。その、なんとか、ならねえ、かな?」

 努めて冗談めかす。笑って言ってるのに、

 なんかぎこちない。

「なんとか、ですか?」

 

 

「ああ、その、なんだ。この世界と俺達の世界を。その……」

「自由に行き来できたりしないかなー。なんて。アハハ」

 苦笑のように寂し気に、わらった振りだ。稲妻も同じく。

「なるほど。そうですね。おそらくは、可能です」

 

 

「そうだよな。できるわけ……え? 今、なんて?」

「あぐにゃんさん、それ。できるって。ほんとですかっ?」

 にわかにざわつく部屋の中。マジかよ? いったいどうやって?

 

「はい。夢での滞在と違って、貴方たちは

しっかりとこの世界に、肉体を持って存在しています。

 

現在、通常の手段を用いては元の世界には戻れません。

つまりそれは、貴方たちの運命の歯車が

この世界に生まれたことを意味しています。

 

今貴方たちはこの世界の住民なのです」

 わかる部分だけを頷いて、続きを促す。

 

 稲妻はうううと唸っている、どうやら全部自分の中に

 落とし込もうとしてるらしい。

「できないことやろうとすんなって」

「……はぃ、わかることだけわかっておきます」

 

 

「それで、ですね。通常の手段では、と言ったとおり。

わたしが貴方たちを送還するという形を取れば

 

また、貴方たちは元の世界の住民になります。

そうなると、二つの運命の歯車を持つ、

つまり二つの世界の住民である、という状態になるわけです」

 

 なんかあぐにゃん、すんげー活き活き語ってるんだけど。

 口挟んじゃ駄目だろうなぁこれ。

 

「そこで必要になるのが、二つの世界を繋ぐ物です」

 そう言って、あぐにゃんは俺と稲妻を指さした。

 それはもうビシーっと。

 

「双つの、銀竜か?」

 

 

「はい、そのとおりです。この世界の物であればなんでもいいのですが、

思い出の品の方がいいじゃないですか。忘れないでしょうし」

「なるほど」

 

「それで、その胸飾りにわたしが術を施して

転移アイテムに昇華します。それを用いて

こちらとあちらを行き来するのです」

「そういうことか」

 はぁ、ようやく終わったか。

 

 俺は銀竜どころか、お土産を入れてた袋ごとあぐにゃんに渡した。

「ほへー……」

 うわぁ、稲妻がヘロヘロになってるよ。

 しかたない、稲妻のも渡しとくか。

 

 あぐにゃん、なんか冷や汗かいてるけど大丈夫だよな、

 全部に術施すの。神様だし。

「あぐにゃん。それ。確実?」

 アイシアが食いついたぞ?

 

「はい。確実に転移可能にします。お詫びと、

貴方たちの思いに賭けて」

 こいつ。責任感強いな。それに意外に熱いとこあるんだな。

「おねがいしますです」

「頼むわよ、女神さま」

 

「おねがいします」

「頼むぜあぐにゃん」

「あぐにゃん……!」

 こんだけ神頼みすりゃ、なんとかなるだろ。

 

「はい。場所を変えましょう」

 言うと部屋を出て行く。

「いよいよ。帰るんだな」

 言葉が、重たい。

 

「でも、行き来できるじゃないですか。

そんな深刻に考えなくても」

「そうだな。そう……だよな」

「みにいこう」

「そうだな」

 

 が。

 

『見られてると緊張しちゃうので、終わるまで待っててください』

 ドアが閉まってるこないだの客間の中から、

 そんな声がしてしまった。

「まじニャ?「マジかよ!」」

 ニャって……。

 

「あぐにゃんさん、緊張しいなんですね」

「あぐにゃん、かわいい」

「だから、みんなに慕われるです、きっと」

 大事なところを見せないとは、

 そうするとみたくなるのは人間のさがだと言うのに。

 

 だが……我慢するしか。我慢するしかないっ!

 

「ふぅ。終わりました」

「早っ!」

 全員でハモった。ドアを開けて出て来たあぐにゃんは、充足感を顔いっぱいに笑んだ。

 汗かいてるよ。よっぽど魔力が必要だったんだろうな、たぶん。

 

「こうなりましたよ」

 言って、お土産袋の中から赤い竜を取り出した。

 たぶん、表に最初から出てた銀を見せないのは、

 中の物にも、きちんと術が効力を発揮してることを

 証明するためだろう。

 

「体に扉。こんなのなかったよな?」

「はい。これが転移アイテムの証拠ですから」

 自慢げな笑みになるあぐにゃん。

 

「これで。寂しくない、ですね」

「ああ」

 赤いのをしまってもらって、俺達は銀の竜を胸に付け直した。

 

 

「どうすればいいんだ?」

「送還についてはわたしがやります。

こちらへの転移のやり方は、

お二人の袋の中にメモを入れておきましたから、

確認してください」

 

 言われて二人ともお土産袋を漁り、メモ帳を発見

 中身を確認した。

「なるほど」

「わかりました」

 言って袋にメモ帳を戻した。

 

 

「それじゃあ。よろしいですか?」

「えっ、ちょっとまってです。せめて。

せめてまたねさせてくださいです」

「だな」

 

「そうですね。早く試したくてしかたなくて」

 そう言って苦笑するあぐにゃんに、みんなで苦笑い。

 

「よし。じゃあ。サラちゃん」

「はいです」

「最初から最後まで、ありがとな」

「あ、い、いえいえ。です」

 サラちゃん、また涙腺が緩み始めてるぞ。

 

 やめてくだしあ、こっちに伝染するからそれっ。

 

「カグヤ」

「なに、改まって」

「改まらないでどうすんだよここで? ともかく。

お前との殴り合い、悪くなかったぜ」

 

「んなことやってないでしょ。ニャたしは一方的に蹴ってたとは思うけど」

「うん、今さっきもな。で、アイシア」

「なに?」

 

「改めて言うけど、稲妻救出作戦。

月が眠るまでの全力戦闘。お疲れさん」

「自分で、言ったこと。だから、当然のこと」

 でも目と顔そらしてる。てれてんな、こいつ。

 

「よし。んじゃ、稲妻」

「あ、はい。それじゃ」

 一つ軽い咳払いをして、稲妻は声を出した。

 

 

「あぐにゃんさんのためだったかもしれませんけど。

それでも、見ず知らずのわたしのために、力を尽くしてくれて。

本当に、ありがとうございました」

 そう言って、深々と頭を下げた。

 

「えと。わたし、ほんの二日ぐらいしか皆さんとお話ししてませんけど。

絆はこれからも途切れないで済むってことなので。神尾かみお君共々、

これからも よろしくおねがいします」

 そうして、また頭を下げた。

 

「アクトさん、アオイさん。お二人と知り合えて、わたしたち

ほんとによかったです」

 頷いて後始まったサラちゃんの別れの言b んぐ。

 涙腺を、抑え込むんだよ、俺!

 

「エレナさんとノーザさんって。新しい仲間も。

増えました、です、し。うぅ。アイシアさんも、うぅぅ。

なんだか、柔らがぐ。なっだ、気が、ずるでず」

 ちょ、やめて! サラちゃんスンスンし始めちゃったよっ!

 来るんだってそれこっちにもっ。

 

「ニャんたたちがいなかったら。ニャたしは『発作』のたんびに、

死と、隣り合わせの。くっ。睡眠を、んくっ、とらなきゃ。

いけなかった、けどっ」

 ちょ、カグヤまでかっ。拳握って抑え込んでるけど、

 長くはもたないだろそれ?

 

「アイシアが、一晩中相手 してくれたおかげ、ずるっ、で。

『発作』の日でも、ぐっすり寝られたわ感謝してるっ」

 むりやりやり切ったな。って、お?

 これはもしかしなくてもじゃないかっ。

 

「うおお! ついにデレた! ツンデレ黒猫がデレたぞー!」

「おかしなごどばで、ざわぐんじゃないわよっ」

「ぐはっ! 鳩尾は……やめろ。それにお前のねこぱんちは

洒落にならない」

 涙のねこぱんち。なんか、アニソンにありそうだな、そんなタイトルの歌。

 

「アクト。アオイ。友達」

 目パチパチしながら言った。まさか、

 アイシアの目にも涙か? 涙だったのか?

 しかし、腕輪の力で変身しそうだな、今の言い方。

 

「って、俺の扱い ケダモノから進化してるっ?!」

「よかったわねー。正直、ニャたしも驚いてるけど」

 カグヤ、もう平常運転に戻ったのか。

 案外ドライ? いや、んなことないな。

 

 ゆっくりテンポで瞬き何度かしてるから。

 これ、涙おいやってるんだろ、きっと。

 

 

「です」

「神尾君。ケダモノ扱いされてたって。

いったいなにしたんですか……」

「じとめで見るな、なんもしてねえ。してねえよ!」

 あぐにゃんも含めて、女子らが楽しそうだ。ひでーなー。

 

 

「それじゃ。せーので言うです」

「ええ「うん」」

「それじゃ。せーの」

「またねです「またね「またきて」」」

 

「おう」

「勿論ですよ」

 笑顔で頷く俺達に、みんな微笑で返してくれた。

 なんとか涙は収まったらしいな。俺もなんとかだ。

 

 

「さて。それじゃ。いきますよ」

「ああ」

「おねがいします」

 名残惜しさは尽きないけど、それを言ってちゃ動けない。

 

「それでは。いきます」

 言うと俺と稲妻の銀色の竜が、淡く青白く光り始めた。

双竜開門ヴェーリドーリベリ

 柔らかな声の後、竜の光は一瞬にして広がって。

 

 俺の視界を青白く染め上げた。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

「う。くぅ……」

 無意識的に目をつぶってたらしい。ゆっくりと目を開く。

「ここ……は。あれ。どこだっけ?」

 どこかの部屋だと言うことはわかった。が、どうにもどこだか思い出せない。

 

 それに。なんだか空気が重い。まずい、って表現してもいい。

 

 

「……この箱。目に痛い箱の光。これは……パソコンか?」

 記憶と情景が、すごい勢いで繋がって行く。

「どうやら。帰って来た。らしいな。自室に」

 腕に感じる重み。思わず顔の高さまで持ちあげれば、

 それはついさっき俺が手首にひっかけていたお土産袋だった。

 

「成功したぜ。あぐにゃん」

 呟いていた。そして一つ、息を吐いてもいた。

 

 すると。

「うわっ? あ、なんだよケータイか脅かしやがって」

 バイブの音だった、メールの着信だ。

 差出人を見て見れば、それは稲妻碧いねつまあおいと表示されていて。

 

「そういやあいつ。召喚された時も、俺より先っぽかったな。

帰って来るのも先だったのか」

 メールを見て見た。そしたら。

 

 

『件名:神尾君っ! 神尾君っ! 返事をしてくださいっ!』

『本文:なーんて。どっちが先に帰って来たんでしょうか?

わたしだったりして。

今はどうも入学式の朝みたいですよ。もしいやじゃなかったら、

いっしょに行きませんか?』

 

 そういやこいつ、メールだとけっこうはっちゃけるんだった。

 たしか文字弁慶だ、とか言ってたっけ。

 

 あっちじゃけっこうよく喋ってたけど、戻って来たら

 どうなることやら、だな。

 んじゃメール返しつつ支度すっかね。

 

 

『件名:なんで俺命の危機みたいな扱いなんだよw』

『本文:そのとおり。召喚された時と同じで、

お前が先だったみたいだぜ。

 

いいぜ入学式、いっしょに行くか。

待ち合わせは西口の公園でいいだろ。

あっち側過疎ってるから

キョロキョロしなくていいからなw

 

一つだけ条件。銀竜つけて来てくれ。

俺もそうする。なんとなくさ、

あっちにいたもの同士ってこと

確認したいんだよな。

 

つことで、よろしく!』

 

 よし、送信完了。服装はあっち側そのまんまか。

 んじゃま、とりあえず着替えますか。

 

 

***

 

 

「なんか、窮屈だなぁ。サイズは合ってるんだけど なーんか窮屈なんだよな、これ」

 別にあっちの服がゆるいってわけじゃないんだけど。なんでだろ?

 一階に降りてリビングに顔を出す。

 

「母さん、おはよ って寝てるのか。

なんだこの短冊みたいの。なになに?

明斗が神隠しから帰って来ますように?

なるほど。俺、あっち行ってる間消えてたのか。

 

って、うわ。この紙束全部に書いてんのかもしかして?

すげー量だな、数えるのもアホらしくなるぐらいだ」

 お、ちょうどいい。

 まっさらな奴が残ってるから、書いておこう。

 

『グーテンハヨー母さん。息子は無事神隠しから帰ってきました。

これから入学式に行ってきます。

 

後、自由に神隠れることができるようになったので、

不意にいなくなったら神隠れたんだと思って

気にしないでください。

 

PS:心配してくれて、ありがとう』

 

 書いてて手がムズムズしたっ! 特に最後っ!

 

 

「うし。いくか」

 グーテンハヨー、文字にしてみたらけっこう

 サラサラっと書けたな。口に出すのは、まだ違和感あるけど。

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