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第八話。新たな仲間と女神の種明かし。 その2

「お世話になりました」

 翌日の昼間。全員で前にあるイオハ商隊の馬車に礼をしたところだ。

剣塚亭つるぎつかていでの仕事、しっかりやれよ。そうでないと

わたしの評判にも傷がついてしまうからな」

 

「はい、わかっています」

「任せてください、サラたんのいるここですから

いくらでも頑張れますっ!」

 ロリコンレズ ノーザさんの言葉に苦笑を返し、

 イオハ商隊はオハヨーの万屋ギルドへ向かって行った。

 

 新たな護衛役探しだそうだ。

 

 

「大変だなぁ、あんだけの馬車で移動ってのも」

 馬車を見送りながらしみじみ言うと、

 そうですねって稲妻いねつまが頷いた。

「それで、この後ろにあるお店が剣塚亭ですか?」

 続けての稲妻の問いに頷く。

 

「アクトさん」

「ん? どうしたサラちゃん?」

「実は、アクトさんを見つけたの。ちょうど、今ぐらいの時間だったですよ」

「へぇ、そうなのか。面白いな、それ」

 

「はいです」

 にっこりのサラちゃんに、「はぁー」とうっとりした息を漏らすノーザさん。

「いいですよね、神尾かみお君は。最初っから自由に動けてて」

 不満そうに溜息交じりで言うのには、「ま、まあ……な」と

 お茶を濁すことしかできない。

 

 しょうがないだろ、そういう立ち位置だったんだからっ。

 っと、なんでか小声で思う俺。

 

「入りましょ。店の前で立ち尽くしてるわけにもいかないし」

 のびをしながらのカグヤの言葉にみんなで頷いて、

 さて ドアを開けるのは誰だ?

「じゃ、ここはリーダーのわたしが」

 そう言って一歩前へ。そして、ガチャリ。

 

 

「ただいまですー」

 おかえりなさいと店中から返事が返って来た。

 エレナ ノーザさん そして稲妻がそれにびっくりしている。

 

「よう、帰って来たかー。俺の作戦、役に立ったか?」

 ニコニコってよりニヤニヤのジョージ。

 立たんわけがない、って雰囲気だな、これは。

「おう。アンタの予算は、役に立ったぜ」

 予算を強調しつつ、袋から例の物を取り出し 渡す。

 

 次々とサン・イラーヌも俺に続いた。

 

 

「おいおい。こういうのは、オッサンに渡してもしょうがねえだろう」

 とか言いながら嬉しそうである。

「あー! それ双竜装の奴でしょっ、

ねえ あたしたちにはないのっ?」

 この食いつき様は、犬娘ガルミン。

 

「ないのないの? ねえねえ?」

 こんな砕けた口調になるんだな、アルフィーナ。意外だぜ。

「慌てんなって。みんなの分、みんなで買って来たから」

「アルフィーナ。変」

 

「ああ、いつもと違うんだ、やっぱし」

「アハハ。ついガルミンちゃんに乗せられちゃって」

 苦笑してるよ。

 

「なんであたしが悪いことになってるのよぅ?

アルフィーナが勝手に乗って来たのにぃ~」

 右拳の第二関節でテーブルをコツンコツンやりながら

 犬っ娘がワンワン騒いでおりますが、俺も含めて皆さん

 ほっこり笑いでございます。

 

「な、なぁ? み、みんなって。まさかそれ、

俺の予算からじゃないよな?」

 なぜか絶望的な顔で尋ねて来ているジョージ。声が上ずってるぞ?

「わたしたちを買ってもらったのも、その予算からだそうです」

 エレナの発言で、にわかに店内がどよめき出した。

 

 エレナもロリコンレズのノーザさんも稲妻も、首輪なしではあるものの黒メイド服だからな。

 

 

「ってことは、もうお小遣い……残ってないんじゃないのか?」

 表情の固まったジョージが、俺達をぐるっと見回しながら聞いて来た。

 ので、新顔の自己紹介と簡単な稲妻の紹介。

 それと竜ブローチ配りを兼ねて、人数が増えてる理由と、

 

 この後あぐにゃんとここと、運命の大車輪に、

 異界組とサン・イラーヌで向かうことを話した。

 

 

「無事に女神様からのお願い事は、達成できたんだね。

おめでとう、アクト」

「どうも」

 正面切って言われると、けっこうてれる。しかもおかみさんからだから、

 なんだか余計にてれくさい。

 

「そっかぁ。ちぇ、残ってるようなら返してもらうつもりだったのになぁ」

 頭を抱えたジョージに、俺達はつい笑ってしまった。

 笑いごとじゃね~んだってほんとに、とまた上ずった声で

 悲鳴のように返して来たジョージ。それで店内が

 フレンドリーな笑いに包まれた。

 

 

「おかみさん。ニャたしたちにお昼。余裕ある?」

「そうだねぇ。簡単なのなら時間も材料も賄えるよ」

「充分よ。道中馬車ん中で軽く食べて来たから」

 ということで、一息って言うか一食いただくことになった。

 剣塚亭の飯食うのも久しぶりだなぁ。

 

 

***

 

 

「いってきますです~」「いってきま~す」「いってくる」

「「お邪魔しました」」

 三人が店内に声をかけるのに習って、俺達はペコリと頭を下げてそう言った。

 

「どうしてそんな他人行儀なのよ?」

 歩き始めてすぐ。剣塚亭メイド服姿のカグヤに聞かれて、

 俺は一つ頷いて返す。

「これで俺達は帰ることになるかもしれないからな」

 なにげなく言った言葉に、全員の足が同時に止まった。

 

「……そっか。そうだよな。帰る。か」

 自分で言った言葉なのに、そのフレーズが心を圧迫してくる。

「いやです」

 一番に俺の呟きに反応したのはサラちゃんだ。

 

「アクトさんたちがいなくなるなんて。わたし、いやですっ」

 後ろを歩く俺達に向いたその綺麗な水色の瞳は、既に潤んでいた。

 

 ーーやめろよ。こういうの!

 

「でも、サラ。アクトたちは、この世界の人間じゃ……

ない。の、よ。だから……」

 諭そうとしたカグヤの声は、どんどんと力が入らなくなって。

 た、たのむから、これ以上。

 涙腺に打撃をねじこむのは……!

 

「凍らせて。しまい。たい」

 両手をググググと力込めて握るアイシアに。

「しかた、ねえ。だろ……!」

 俺の拳は握られて。声は歪んでしまって。

 そこから四人でスンスンと涙を耐えることになってしまった。

 

 

「あの、そのっ。も、もしかしたら、その

女神様? が、なんとかして、くれるかも、

しれないじゃないですか。だから、ね?

とりあえず。その。女神様のところまで、

いきましょう」

 

 少しの間スンスンやってたら、稲妻いねつま

 少し声を張ってそんなことを言った。

 稲妻が、こんなこんな力強い声を?

 ……声、ちょっと歪んでる、か。

 

「そ……そうよね。ニャんたたちを召喚したんだし。

うん、きっと、なんとか、するわよ」

 ズルっと鼻水すすってから、涙を押し殺すように頷くカグヤ。

 

「おねがいします。女神様。アグニャマラテス様っ」

 小さく祈るように言うサラちゃん、その手は胸の前で組み合わされている。

「あぐにゃん……」

 そう言って、アイシアもサラちゃんと同じポーズを取った。

 

 全員、俺も含めて涙を 涙腺をどうにか平常運転に戻すことができた。

 ……稲妻。フォロー力、こんな、高かったっけ? タドタドしてたけど。

 稲妻のひとことで涙が止まるなんて……驚いた。

 

 

「って、お前もそう呼ぶのかアイシア」

 思わずクスリと含み笑いが。

「かわいい」

 と言う短い感想で。その表情は、微妙に緩んでいた。

 

「ん? あっ」

 俺達がなんとか持ち直したところで、

 唐突にサラちゃんが声を上げた。

「どしたサラちゃん空なんて見上げて?」

 

「お疲れさまで~す!」

 その言葉でみんなが空を仰いだ。すると、いつぞやのように

 赤い服を着て小さな緑のドラゴンに乗った配達員が、

 上空を通り過ぎて行くところだった。

 それに全員お疲れさまですと声をかけて。

 

「アクトさん」

「ああ。いっしょだな」

 サラちゃんと顔を見合わせて笑った。

 

 

 

 他三人から怪訝な顔をされたのは、言うまでもない。

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