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第七話。凡人ファイトは彼女のために。 その4

「なにっ、殴って来るんじゃないのかっ?!」

 左手でベクターの左の脇腹をガッチリと掴んだ。

 魔力の壁、プラ板程度の厚みなら、もろとも掴めるらしいな。

 ついでに動きを封じるために、右足で足思いっきし踏んでやるぜっ!

 

「んぐっ。姑息なっ!」

「なんとでも言うがいいさ」

 歯噛みして睨んで来てるよ、自分の言い回し

 まねされただけだってのになー。

 

「次の一撃が通る保証はない。だから打てる手を打ってるだけだ、

なにが悪い」

 通ればそのままぶん殴る。通らなきゃ一つ覚えに

 反動パンチ連打に移行するだけだ。結局そのままぶん殴る!

 右の拳を握り込む。それを見て、ベクターは鼻で笑った。

 

「驚かせてくれる。結局はただの鉄拳じゃないか」

「ふぅぅぅ」

 静かに呼吸する。俺は自分の握った拳を見つめる。

 

 ーー塊が。移動している。全部。右の拳に。

 一回り拳がでかくなったような感じだ。

 イメージは、バトルマンガの気の収束。

 まさか、一発出たとこ勝負でいけるとはな。

 

 

「っく?」

 呻くベクター。左手を離すまいと親指を曲げて、

 奴の腹にめり込ませたから、痛かったんだろう。

「それはどうかなっ!」

 狙うは。こいつの。鳩尾一択っ!

 

「なにっ! ぼくの障壁を中和しているっ?」

 どうやら壁を分厚くしたらしい。

「お し き る うううう!!」

「調子に乗るなっ!」

 更に反発が強まった。

 

 が、関係ねえっ!

 

「調子以外に」

 肘から拳にかけて重圧がっ。重みが押し返して来るけど、

 ひたすら突き進めるっ!

「くっ、左手を離せっ!」

 

「乗れるもんなんてっ!」

「ぐ、押し込まれているっ!」

「あると思ってんのかっ!」

 

 ゴズッ!

 

「ぐうっ!」

「入った!」

 追加で肩までの重い手ごたえっ!

 

「さあ。地獄の始まりだっ!」

 左手で全力で奴を捕縛したまま。俺は右の拳を、

 集まって来る奴の固まり 障壁に包まれ始めたのを感じながら、

 それでもそのまま細かく拳を突き込む。

 

「ちいっ、うっとおしいっ!」

 密着しすぎてて反撃できねえようだ。口だけで騒いだところで

 俺は止まらねえぞっ!

 

 実際に肌に接触する必要はもうない。僅かにでも鳩尾に衝撃が行けば、

 おそらく痛みは継続するはずだ。

「オラ! オラ! オラ! オラ! オラ! オラ! オラーッ!!」

 こ……これが。これが世に言うオラオララッシュかっ!

 

 まさか。自分の拳でやれる日が来るとは思わなかったぜっ!

 遅いラッシュだけどなっ。

 

「ぐっ、左手。邪魔だ!」

「離す ものかよっ!」

 密着した状態での鳩尾へのジャブの連打。

 はたから見ればすっさまじーく地味ーな乱打。

 けど、こちとら必死だ。

 

 なんせ体じゃなく、すごい反発の空気の壁を

 ひたすら殴り続けるんだからなっ!

 しかも全力でっ!

 

 

「ううむ。魔力の壁……魔力を武器に込めるやり方は教わったです。

でも……斬り方は教わってないんです」

「魔力? あるんですか?」

「当然です。あ、そうです。アクトさんの世界にはないんです」

「はい、そうです。それで……その魔力って。切れるんですか?」

 

「もしかしたらわたしでも、です」

「そうなんですか? でも、あなたがもってるの。

練習用の剣に見えるんですけど?」

 くそ、女子ども。まったりと喋りやがってっ!

 

 こ、こっちは。息上げながら、額に汗して

 ひたすらジャブ打ち続けてるってのにっ!

 

 

「ぐ、うぐ。なん、だ。なんだこの。

腹にしみ込んで来るような、鈍痛はっ!」

「じ、じごくの、はじまりだって。いった、だろ」

 く、きつい。両肘から先が腕からすっぽ抜けるんじゃないかってぐらい。

 最早人を掴みパンチを打つだけのマシーンと化してるぞ、俺の両腕。

 

 体が勝手に動いてやがる。

 

「ぐううっ。くそ、こんなふざけた戦いなんてっ!」

 疲れが本格的に体全体にのしかかって来た。

 思わず体重が足に乗っかった。

 が、それが効果ありだったようだ。

 

「俺は凡人なんでな。派手な戦いなんてできるような

スキルもテクニックも持っちゃねえんだ。

思いついたことを、ただやってるだけなんだよ」

 くっ。そろそろ反動だけでジャブを打つの、きつくなってきたっ。

 

「ちいいっ。凡人にぼくは、こんないいようにされているのかっ」

 表情を歪めてるな、うし かなり効いてる!

 あれ? そういや拳が反発受けてない。塊が……ないのか?

 

 ーーあれ? ってことはもしかして?

 

稲妻いねつまっ!」

 拳を突き込む力みを利用して、背後のダチに叫ぶ。

「えっ? あ、はいっ?」

「部屋から出て見るんだっ。もしかして今なら

いけるかもしれねえっ」

 

「あ、はい。わかりましたっ!」

「させるかっ!」

「こっちがなっ!」

 めいっぱい引いてから、ラッシュのとどめと全体重をのっけた右の拳を、

 なおも鳩尾へとねじりこんだ。

 

「がはっ!」

 ベクターが、天井に赤を吐きかけながら吹っ飛んだ。

 またドンっと言う派手な音で奴は倒れた。

 

「はぁ……はぁ……くそ。肘が大爆笑だぜ」

「神尾君っ! やりましたねっ!」

「喜ぶのは、まだ早いぞ、稲妻」

 息も絶え絶えに忠告。

 

「えっ?」

「とにかく、ここから、出るんだ」

「え、で、でも。もう大丈夫なんじゃ?」

「さっきの、壁の、タイミングを、考えろ。サラちゃんっ」

 

「はいです?」

「稲妻を、引っ張り出せっ。そのまま。下りろ!」

「あ、はいですっ!」

「え?」

「いきますですアオイさんっ」

 

「え、あれ? 手が届いて? わっ、ちょ ちょっと

神尾君っ? どうしてっ?」

「先に、いけ。おっつくからっ。お前が。こっから、出るのが。

一番の、目的だ!」

「う、うう」

 

 これやると、なんか。死亡フラグみたいだけど。渡しとこう。

 

「稲妻」

 銀の双竜のうち、左側を外す。

「もっとけ。待たせたおわびだ」

 めんどいけど彼女らの方向いて投げ渡す。

 

「っと。なんですかこれ。銀色の……竜?」

「胸飾りです、アクトさんも同じのつけてるです」

「えっ、ほんとですかっ?」

「おう。ほら」

 右手で銀色の竜を指さして示す。

 

「わぁ、ほんとですっ。お揃いなんですねっ」

 目をキラッキラさせて大喜びだ。こいつがこんなに

 自分の感情出してんの、初めてみるな。

「そういうこと。じゃ。決着つけっから。先下りててくれ」

 

「え、でも?」

 いきなり不安な顔になった。こんなに忙しく

 表情変える奴だったのか、稲妻碧いねつまあおいは。知らなかったぞ。

「アクトさん。サン・イラーヌの方針は?」

 

「わかってる。殺さず、だろ? 心配しなくっても、

そんな体力残ってねえよ」

 そう言って笑いかける。疲労困憊でヘラヘラにしか笑えないけどな。

 

「わかりましたです。まってるですっ」

「えっ? ちょ、いやですっ! 神尾君! 神尾君っ!」

 悲痛な声で何度も稲妻が呼ぶけど、ヘラヘラ笑顔で見送るだけだ。

 せめて見えなくなるまで見ててやろう。

 

 よし。部屋の中に体の向きを戻そう。

 サラちゃんは、俺の無謀な提案を飲んでくれた。

 なら、勝たなきゃな。

 

 

「寝たふりすんなよな」

「気付いていたか。目が覚めていること」

 ズルリと体を起こすベクター。お目当ての稲妻を失ったからなのか、

 その瞳が元の青黒に戻っている。

「殺気飛ばしといてよく言うぜ。追わねえのか?」

 

「貴様に集中力も気力も、体力も奪われているこの状況で

できると思っているのか?」

「なるほど。そっちも満身創痍ってわけか。

余裕ねえ顔してると思ったぜ」

 

「なら、決着と行こうか。散々虚仮にされたんだ。

とどめはしっかりと刺させてもらう」

「そのまま返すぜ。動けなくなってもらうぞ」

 二人の間に一陣の風。それはどちらの空気なのか。

 それともどちらもの空気なのか。

 

 

「はあぁーっ!!」

「おりゃああーっ!!」

 交差する拳と蹴りが見えた。

 

「ぐ……」

「……っづ」

 お互いに膝を折っているらしい。ズサって音がしたからな。

 ぐ、胸にもらったか。

 

「ごふっ」

 吐血、か。こういう状況で吐血って、かっこいいな。

 とか考えられる俺の、どこに余裕があるんだか。

 自分でわからない。

 

「鳩尾、に。こだわり、すぎだぞ。人 間」

 後ろからそう聞えた直後、ドサっと音がした。

 

「どうやら。俺の。勝ち。だな」

 四つん這いでそう言った俺だけど、力が入らず

 そのままうつぶせになった。左の手首で口元をぬぐったら、

 赤いのがくっついた。やっぱ、鉄臭えな。

 

「アクトさんっ!」

「その声。エレナか」

「動くのを迷った末でしたのでこんな時間に

って、大丈夫ですかっ?!」

 

「そう、見えるなら。お前の、目は。節穴だ」

 そうですね、ってクスっと微笑したらしい。

 笑いごとじゃねえって言うのにな。

 

「皆さんのところに、運んでいきますね」

 そう言って、エレナは俺を担いだ。

「平然と、よく、やる、ぜ」

 終わった。担がれて、そう理解して、気が、抜けた。

 

 

 

 あれ。急に……眠気が……。

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