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第七話。凡人ファイトは彼女のために。 その1

「わたしの私室に上がって来る人間がいるとは。

四階の奴らはなにをしているんだ」

 この声。聞き覚え、あるぞ。ってちょっとまてよ、

 今なんつった?

 

「私室? このフロア全部がか??」

 困惑する俺に相手は、軽い調子でこの階全てがそうだと頷いた。

「これだから金持ちは」

 呆れた溜息が出る。

 

 って言うか普通に上って来られるのに、入られるのがいやなのかよ?

 セキュリティざるすぎだろ?

 それともあの四階の連中の実力が、それだけ高いってことなのか?

 

 わりとあっさり、サラちゃんに対応されてたと思うんだけどな、

 聞く限り?

 

 ……ん? 金持ち?

 

 マリスガルズの中心に住む金持ちの、

 聞き覚えのある声の男……。

 

 

「なるほど。そうか」

 こいつが。そうか。

 

「若いな。どこかの賊の新入りか?」

「まあ、な。アンタがベクターか?」

「そうとも。わたしがベクター・オ・ロックだ。

ようこそ。侵入者」

 ビュンっとなにかが動いた音がした。

 

「ぐぁぁっ」

 と、思ったら。俺は左腕に、なにかが刺さった、

 ような痛みを、感じた。

「なにを、した?」

 左腕を抑えながら尋ねる。

 

「風の魔力を圧縮して針のようにして飛ばしただけさ。

名前のない魔力弾の一種だ」

 青黒い瞳の男は、そう涼しい顔で答えた。

「く。解説どうも。ずいぶんと余裕だな」

 

「アクト、と言うのかな? ずいぶんと好かれてるようじゃないか。

こんな大がかりなことをやるほどには」

 下でズーンだかドーンだか、派手な音が聞こえる。

 おそらくこれは、サラちゃんとあの連中が

 ウオーウワーやってる音だろう。

 

 サラちゃんの実力がどんなもんなのかは未知数だけど、

 あの言葉に偽りはなさそうだ。

 

 

「な、なんで俺の名前を?」

 腕から手を離す。まだちょっとジーンって痛いけどな。

「使いにくい代物ではあるが、遠距離の音声を拾うことのできる

装置があるんだよ。その使い難さゆえに広くは普及してないがね」

「あの盗聴器、ここにもあったのか」

 

「知っているのか、意外だな。それでアクト君。

ここになにをしに来たのかな?」

 奴の視線は俺の顔から少し下に向いた。

 この角度は、銀の竜ブローチの辺りか。

 

 

「察しはついてるようじゃないか」

 ニヤリと、かっこつけたリアクションをしてみた。

 たぶん銀が光を反射したかなんかで、気になっただけなんだろうけどな。

 

「そうか。そういうことか」

「っ」

 目付きが、かわった。空気が、変化した。気配が、凍った。

 やべーなーこれ地雷踏み抜いたぞ。

 

「わたしの『彼女』を奪いに来たと、そういうことだな」

「ぅ……!」

 奴の纏ってる空気が、ねっとりと湿り気を帯びた。気色悪い。

 背中から寒気さむけが、頭のてっぺんまでダッシュで駆け上って行った。

 

 

「奪わせはしない」

 この目は。この血走った目は、あの時の。

 全ての始まりの……あの動画の時の目!

 

「幻のように現れ消えた『彼女』。

もう……手放すものか……!」

 ベクターの、気配が。いっきに膨らんだ。

 

 

「なにをする、つもりだ」

 口の中だけで転がす。

 異世界じゃなくっても、喧嘩なんぞまともに

 り合ったことなんてない俺に、この先の行動を。

 まして異世界人の、魔法が絡むであろう行動なんて読めようがない。

 

 だから、身構える。

 

 ……気のせいか?

 身構えた直後から、なんだか空気の固まりを

 着こんでるような圧力を感じる。

 

 

「へぇ。賊のわりに息を殺すすべを知らないくせして、

魔力で防護壁を作り出すことはできるのか。

それもそこそこの強度がありそうだ」

 なんだ? 雰囲気が急に幼くなったぞ?

 

 ……そういえば、あの動画の時もヒートアップしたら、

 こいつは一人称が「ぼく」になってたな。

 って言うか、防護壁? しかも魔力の。

 それを俺が作り出したって?

 なに言ってんだこいつは?

 

「自分でやったことに驚くのかい? 変な奴だな」

 顔に出てたらしい。

「くっ、バカにしやがって……」

 

「まあ関係ない。その程度なら」

 ニヤリと口の端だけを歪めたいやな笑みでそう言うと、

 ベクターはなにか、ぶつぶつと音を発し始めた。

 

 

「ケサリキオキテ、テツナトバイヤキマカサキマズウ」

 奴の正面の気配に重なるように空気が渦を巻き始めてる。

 感じとしては冷気がアイシアから吹き出した時と似てるけど、

 なんだか 違う。

 突き刺さるような冷たさって言うのか。

 

 アイシアの場合は表面的に冷たいって感じだったけど、

 こいつの空気の渦は体にしみ込んで来る寒さ。

 容赦がない、そんな感じだ。

 それに、詠唱も違う。まったく理解できない言葉だ。

 

 ベクターこいつは……いったい?

 

 

「なにが……起こるんだ?」

 余計に力が入って体が緊張に固まる。

 それに呼応するように、俺にくっついてる空気の固まりが

 重量を増したような気がする。

 

「レタキヨゼカ……!」

 声に力が入った。

「来る……!」

 

 

「ツユジノチタイマカ!!」

 

 

 奴の正面の渦が急速に集まって、俺にも見えるほど分厚い

 横向きの刃みたいになった。

 ビシュッ!

 そんな音で、その気配がこっちに飛んで来る雰囲気がした。

 

「なん、だ?」

 俺の目の前でジリジリと火花が散り始めた。徐々にノコギリの刃みたいな形の物が、

 こっちに押し込まれて来ている って!

 

「やばいっ!」

 重圧がかかる体をむりに押し出すように転がった。

 右後ろに尻餅をつくような反発を伴って、ゴロリと倒れる。

 

 そしたら、まるで猛スピードで通りすぎるバイクみたいな、

 ギューンって音が俺がいた場所を通過して、後ろの方ーで

 なにかが砕ける音になった。

 

 

「あぶねぇぇ……」

「驚いたな。まさか魔力の拮抗から

強引に抜け出すなんて思わなかったよ」

 

「必死になりゃ、こんぐらいのことはできるらしいな、どうやら俺は」

 軽く息を弾ませながら起き上がりがけに、そう答えてやる。

 くそ、たったあれだけのことで、息が上がるなんて思わなかったぞ。

 

 

 スタラチャージ、案外しょぼかったのか?

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