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第六話。大暴れ! 先に行け! 俺、今、主人公じゃね!? その4

「上がるぞ」

「はいですっ」

 新たな宮を目指す青銅の正座戦士たちのように、

 俺とサラちゃんは階段を駆け上がる。

 

「うわぁ」

「これは……」

 二階は、思った以上の参上だった。

  

 

アイシアがやったんだろう、壁際にずらっと並んだ横たわる多数の警備員たち。

 所々の壁がはがれ あるいは砕けて、部屋の中が少し見えたり

 ドアがない部屋もある。

 

「シャァァッ!」

「っ!」

 声がするけど、目の届く範囲にはいない。

「ニャ゛! ニャ゛! ニャ゛アアッ!」

 当たってないのか、その声にはいら立ちが混ざっている。

 

「アクトさん。これだけの人がいるです。

きっと上は無人か、それに近いと思うです」

 二階をザザザっと見回りながら、俺達は話をしている。

 ザザザっと言っても単純な速度の話で、流れ作業をしているわけではない。

 

「おっと、そうだった。早いとこ上にいかないとだな」

「はいです」

 アイシアとカグヤの戦い、見たい 聴きたいけど しかたない。

 俺の目的は、二人の超絶バトルを観戦することじゃないんだからな。

 名残惜しいけど、進まなきゃだ。

 

「アイシアさん。カグヤさん。どうか無事で……!」

 悲壮な色をくっきりと浮かべた祈るような声でそう言うと、

 サラちゃんは階段へ向かった。

「味方同士なんだけどな」

 苦笑してそれに続く。

 

 

 三階。巡回中の人はいたが戦意はなかったし、

 警備担当じゃなかった。このフロアの警備担当は、

 狙い道理なことになったらしい。

 

 俺が宝物庫みたいな場所はないかって聞いたら、

 それについては担当階じゃないからわからないけど、

 最上階の一番眺めのいい部屋に、最近なにか新しい品を

 ベクターが持ち込んだらしいって噂で聞いた、

 ってことだった。

 

 

「おそらく稲妻いねつまが捕まってるのは」

「最上階の一番眺めのいいお部屋、です」

 確認し、顔を見合わせて、俺達は軽く右拳同士を合わせるのと同時に、

 微笑で頷いた。

 

「うっし、ガンガン行くぞ!」

「はいです!」

 時々下から激しい音がしてどうにも心臓に悪いから、

 音の出所でどころから少しでも離れたいって気持ちもあるんだけどさ。

 

 

***

 

 

「アクトさんっ! 飛ぶですっ!」

 四階に到着したのと同時に、サラちゃんが慌てたように叫んで、右に飛んだ。

「え?」

 なにを言ってるんだろうと思った時、なにかが通り過ぎたように見えた。

 

「ぐっ」

 変な位置に拳大の痛みが走る。

 慌てて痛みに視線を落とせば、俺はどうやら左腕を上げていたらしく、

 左前腕の手首に近い辺りの肌が、拳大に露出していた。

 

 俺は、殴られた……のか? いや、そのわりに視線を上げても

 拳が届くような場所に人間は立っていない。

 そもそも、服が拳の威力だけで破れたなら、

 俺はもっと強い痛みを感じてるはずだ。

 

「……どういうことだ?」

 状況に頭が付いて行かない。

「アクトさん、今のは魔力の弾丸です。

ここの人たち、三階の人たちより きっと実力、上です」

 サラちゃんが真剣に告げて来る。そこで、俺達以外の声がした。

 

「どうやら、そっちのお嬢ちゃんは少しはできるみたいだな。でもなぁ」

 ニヤニヤと、挑発するように俺を見て来ている複数の男たち。

「なんで相方にわざわざ素人連れて来るかね?

そっちの少年を殺したいのかな?」

 

 口閉じたまま笑うんじゃねえ!

 ……と、言いたいんだが、頭がまだ現実についてってないらしく、

 脳と体が食い違ってて、うまく言葉が出てこないっ。

 

「なるほどその口ぶり。下の騒ぎはお前らが仕組んだことか。

困るなぁ、この居塔であんな派手に暴れられちゃぁ。

 

修繕代だってただじゃあねえし、なによりなぁ。

俺達の給料からもってかれっちまうんだわ、

勘弁してくれってぇ話だろ?」

 

 こいつら。目が……ギラついていやがる。

 昼間の万屋よろずやたちを、より獰猛にしたような印象の連中だ。

 

 

 ひとことで言うとーーヤバイ!

 

 

「なら、その精裁はお前らでしても、なんらおかしかねえだろう?」

「なんで、騒ぎの現況を叩きに行こうと思わないんだよ?」

 やっと脳と体が普段通りに繋がってくれたか。

 

「ハッハッハ。これだから素人は困るぜ」

「なんだよそれ?」

「下手しなくても、ここまで音が響いて来るような、

ド派手なドンパチやってる中に行けるか。

バカかてめえは」

 

 ギロっと睨んで来た。まずい、こいつら相当、沸点低いぞ。

 しかもこの、獰猛な獣みたいに鋭い視線がめっちゃ怖い……。

 

 あの猫、普段よっぽど柔らかい表情だったんだな。

 リアルビースト化してるってのに、ここまでの

 ーー震えが来るような感覚には襲われなかった。

 

 たとえるなら家猫と野生の虎ぐらいの違いだ。

 比較対象が猫じゃないのはしかたないんだ。

 それぐらいのインパクトの違いなんだからっ。

 

 

「ごふぁっ?!」

 突然真右から横っ腹を殴られて、俺は左にパタンと倒される。

 男たちがにわかにざわつく。

 

「アクトさん、わたしがこの人たちを相手しますから

アクトさんは上に行ってください!」

 また「です」が消えた。

 

「サラちゃん、いくらなんでも」

 起き上がりながらサラちゃんを見る俺の表情が、

 心配に染まってるのが自分でわかる。く、体がちょっと冷たい。

 血の気が軽く引いてるらしい。

 

「いってください。大丈夫です。抜剣しなくても余裕です」

 にっこり。ぐ……ここまでされちゃ!

 ーーくそっ。俺に構わず先に行けの精神ダメージが

 これほどだったとはっ!

 

 

「このガキ……! どうやらおしおきがいるみたいだなぁ。え?」

「アクトさん。魔斗神剣まとうしんけん、信じてくださいです」

 言ってまた俺を殴る。今度は軽い腹パン。

 

「いっづ」

 体が、ちょっと軽くなった感じが……体に熱が戻って来た感じもする。

 ーーそうか。緊張を、体の硬直を解こうとしてるのか、この打撃。

 

「なめやがって、このクソガキャ!」

「早くっ!」

 聞いたことのない、サラちゃんの必死な叫び。

 

 

「……わるい、頼む!」

 後ろ髪どころか全髪の毛抜けるんじゃないかってぐらい

 後ろ髪引っ張られる思いだけど、歯噛み一つで

 敵とサラちゃんに背を向け駆け出す。

 

「まてこのっ!」

「いかせませんっ!」

「ぐぅっ、このガキ。本気で抜かねぇ気かっ!

なめやがってっ!」

 そんなやりとりが耳を打つ。

 

 

 立ち止まってしまう。振り返ってしまう。でも……!

「……くっっ!」

 ここで止まれば、下で仲間同士で全力のガチバトルしてる

 アイシアとカグヤも、今そこで戦ってるサラちゃんも……

 裏切ることになる。

 

 サラちゃんの、これまで聞いたことのない叫びが、

 脳内を粉砕せんばかりにリフレインした。

 

「そうだ。そうだ……よな」

 みんな俺のために。

 それこそ、異世界召喚されたけど平凡以下、な俺なんかのために、

 全力を尽くしてくれている。

 

 胸のブローチに視線を落とす。銀の双竜が語り掛けてる気がした。

 ーーとまるな。とまるんじゃねえぞ!

 

 

「……いくぞっ!」

 拳を握りしめてむりやりに階段を上る。

 これなんて主人公? そんな考えが脳内で喜びのダンスを披露している。

 いつ背中から打たれるかわからねえこの状況でも、

 オタク脳って奴は、元気いっぱいだなこんちくしょう!

 

 

「うわっっ?」

 自分の体の軽さにバランスを崩しそうになった。

 

「っと、あっぶねぇ……って、あれ? 今階段つっかかったら、

五段ぐらいいっきに上った気がするんだけど?

これが……スタラチャージの威力か?」

 まずいぞ。自分の体が軽すぎて風船みたいだ。

 

 こんな状態でもしバトルに突入なんかしたら、

 大パンチ じゃない、大ピンチじゃねえか。

 ……ボケが出て来る辺り、案外と心に余裕はあるらしいな、俺は。

 

 ……自覚ない余裕とか、ただの隙間じゃねえかなと

 思わなくもないけど。

 

 

「……ここか」

 階段を上り切った。ラストダンジョンの最終フロア。

 それが、ここだ。

「一番景色がいい部屋ってどこだ?」

 探索しながらひとりごちる。

 

 部屋の作りは他とかわらないように見えるけどなぁ。

「夜だから外の様子もよくわかんねえしなぁ」

 ついさっきまで、悲壮な決意で階段をダッシュしてたのは

 なんだったんだ、と自分で突っ込みたくなるほど

 

 まったりしてる自分に驚く。……でも、心と違って

 まったりしちゃ、いられないらしい。

 足音が逆側から小さく聞こえる。

 

 けど、ここは廊下だ。部屋に入るにしてもちょうど悪いことに、

 近所にドアがない。おまけに全部閉じられてて、

 今逃げ込むにはあからさますぎる。

 

 そもそもここ……正面から来る足音以外、人の気配がまったくしない。

 元々スタッフがいないのか、それとも二階の騒ぎに出張ってるのか。

 どれにしろいずれにせよ。

 

 

 

 ーー覚悟、決めるか。

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